38 / 78
ガートルード、死中に活。黒き魔力の鎧を纏い、絶望を力に変える。
しおりを挟む
ガートルードは荒い息を吐きながら、必死に震える手を伸ばしてエルゼの肩を掴んだ。その指先は氷のように冷たく、それでいて守ろうとする意志だけが異常な熱を帯びている。
「だ、大丈夫……エルゼちゃん? 怪我はない?」
「ガートルード伯母様! 私をかばって……!」
「よかった……。嫁入り前の大事な体に、傷一つでもついたら大変だもの。あんたたちの美貌は、魔族の……わたしの……宝なんだから……」
リリスが悲鳴を上げて駆け寄ろうとしたその時、ガートルードの顔に異変が起きた。陶器のように透き通るほど美しかった肌の上に、血管が浮き出るようにドス黒い影が広がり始める。それはまるで、生き生きとした大樹を内側から腐らせていく猛毒のつたのようだった。
「伯母様……!」
「大丈夫よ、大丈夫……。私は、あんたたちのお父さんの十倍は強いんだから……ぐうっ、がはっ……!」
ガートルードが激しく吐血し、その場に崩れ落ちた。あふれ出た血はもはや鮮血ではなく、どす黒く濁り、地面に触れた瞬間にジュウと不気味な音を立てて石畳を腐食させる。黒い影は今や首元まで侵食し、不気味な脈動を繰り返していた。その惨状を目の当たりにして、エルゼは顔を真っ青に染め、震える指先を口元に当てた。
「これは、まさか……」
「何なの、エルゼ! 分かるの!?」
「闇の秘法ですわ。高位の魔導士にのみ扱える『死の呪術』……。お父様の書斎の奥、鍵のかかった禁書で読んだことがあります。術者の命を削って放つ、必滅の呪い……。一度でも触れれば、解呪は不可能……」
「くくく、あーはっはっはっは! さすがは魔王の娘、よくご存じだ!」
爆炎の向こうから、エリアスが狂ったような笑い声を上げて姿を現した。いつもの優雅な身のこなしは消え、その瞳は血走り、端正だった顔は狂気に歪んでいる。
「その通りですよ! 私が長年、こういうような日のために研究し続けてきた秘伝の呪法だ。苦しめ、ガートルード! 臓物を灼かれ、魂を削られながら絶望の中で死に至るがいい。その娘が言う通り、解呪の方法など、この世のどこにも存在しないのだからな!」
「ちょっと! 卑怯だよ!」
ミーナが涙目で叫ぶ。
「普通に戦ったら伯母様に勝てないからって、私たちを狙って……こんなの最低だよ!」
エリアスは、ふんと鼻を鳴らした。
「卑怯? 試合でもしているつもりか? 手段など関係ない! 私はあの子の足の小指を骨折させた落とし前をつけさせると言ったはずだ。私のかわいい部下……ニナの尊い体は、世界の何物にも優先する! 老いさらばえた年増の命など、その代償には安すぎるくらいだ!」
「ああ……うるさい」
低く、地響きのような声が響いた。ガートルードは、震える手で地面を突き、ゆっくりと、だが確実に立ち上がった。全身から立ち上る魔力が、呪いのドス黒い影を無理やり押さえ込むように凝縮され、漆黒のアーマーとなって彼女の体を包み込んでいく。それは、生への執着を捨てた者だけが纏える、死の装束だった。
「解呪の方法は無いって?」
「そうだ! しばらくすれば、貴様は確実に、惨めな死に至る!」
ガートルードはドス黒い影に侵食された顔で、ゾッとするような、しかし、どこか慈愛に満ちた微笑を浮かべた。
「だったら、やることは決まっているわね」
「笑わせるわ。やれることなど何もない。死ね、ガートルード!」
「黙りなさい、このガキが!」
次の瞬間、ガートルードの姿が視界から消えた。 エリアスが反応する間もなく、彼女は至近距離――鼻先が触れ合うほどの位置に出現していた。空間転移ですらない、純粋な身体能力による超高速移動。
「あ……」
エリアスの思考が止まる。ガートルードの渾身の拳が、エリアスのみぞおちへと深々と沈み込んだ。
「ごふっ……あ、が……っ!?」
肺から空気がすべて引きずり出され、エリアスは声を上げることもできずにその場に膝をついた。しかし、ガートルードの猛攻は止まらない。彼女は膝をついたエリアスの顎を蹴り上げると、空中に浮いた彼の背後へ一瞬で回り込んだ。
「逃がさないわよ」
ガートルードの回し蹴りがエリアスの脇腹を捉え、彼は砲弾のような速さで吹き飛んだ。
エリアスの体は大岩に向かって飛んでいくが、彼は激突の寸前で岩を蹴り、反動を利用して空中で姿勢を立て直した。
「おのれ……死に損ないがっ!」
エリアスが空中で魔法陣を展開し、無数の次元の刃を三姉妹に向けて放つ。消耗戦を避けるために再びエルゼたちを狙った一撃。
だが、ガートルードはもはやそれを許さない。彼女は腕を一振りした。それだけで、周囲の大気が凍りつき、飛来する刃のすべてを迎撃し、粉々に相殺した。呪いに侵食されているはずの彼女の魔力は、死を目前にしたことでむしろ研ぎ澄まされ、限界を超えた出力を叩き出している。
「どうせ死ぬなら、残りの時間で、あんたの命ももらうわ。私の尊い命とあんたの薄汚いそれとじゃ吊りあわないけれど……まあ、まけておいてあげるわ」
ガートルードは、激痛に顔を歪めながらも、地獄の底から響くような声を上げた。漆黒の鎧の隙間から、ドス黒い瘴気があふれ出す。それは第七軍団長が咲かせる、最期にして最大の「死に花」だった。
エリアスは初めて、自分の計算が完全に狂ったことを悟り、震える手で次の魔法を編み始めようとした。しかし、その目の前にはすでに、悪魔のような笑みを浮かべたガートルードが立っていた。
「だ、大丈夫……エルゼちゃん? 怪我はない?」
「ガートルード伯母様! 私をかばって……!」
「よかった……。嫁入り前の大事な体に、傷一つでもついたら大変だもの。あんたたちの美貌は、魔族の……わたしの……宝なんだから……」
リリスが悲鳴を上げて駆け寄ろうとしたその時、ガートルードの顔に異変が起きた。陶器のように透き通るほど美しかった肌の上に、血管が浮き出るようにドス黒い影が広がり始める。それはまるで、生き生きとした大樹を内側から腐らせていく猛毒のつたのようだった。
「伯母様……!」
「大丈夫よ、大丈夫……。私は、あんたたちのお父さんの十倍は強いんだから……ぐうっ、がはっ……!」
ガートルードが激しく吐血し、その場に崩れ落ちた。あふれ出た血はもはや鮮血ではなく、どす黒く濁り、地面に触れた瞬間にジュウと不気味な音を立てて石畳を腐食させる。黒い影は今や首元まで侵食し、不気味な脈動を繰り返していた。その惨状を目の当たりにして、エルゼは顔を真っ青に染め、震える指先を口元に当てた。
「これは、まさか……」
「何なの、エルゼ! 分かるの!?」
「闇の秘法ですわ。高位の魔導士にのみ扱える『死の呪術』……。お父様の書斎の奥、鍵のかかった禁書で読んだことがあります。術者の命を削って放つ、必滅の呪い……。一度でも触れれば、解呪は不可能……」
「くくく、あーはっはっはっは! さすがは魔王の娘、よくご存じだ!」
爆炎の向こうから、エリアスが狂ったような笑い声を上げて姿を現した。いつもの優雅な身のこなしは消え、その瞳は血走り、端正だった顔は狂気に歪んでいる。
「その通りですよ! 私が長年、こういうような日のために研究し続けてきた秘伝の呪法だ。苦しめ、ガートルード! 臓物を灼かれ、魂を削られながら絶望の中で死に至るがいい。その娘が言う通り、解呪の方法など、この世のどこにも存在しないのだからな!」
「ちょっと! 卑怯だよ!」
ミーナが涙目で叫ぶ。
「普通に戦ったら伯母様に勝てないからって、私たちを狙って……こんなの最低だよ!」
エリアスは、ふんと鼻を鳴らした。
「卑怯? 試合でもしているつもりか? 手段など関係ない! 私はあの子の足の小指を骨折させた落とし前をつけさせると言ったはずだ。私のかわいい部下……ニナの尊い体は、世界の何物にも優先する! 老いさらばえた年増の命など、その代償には安すぎるくらいだ!」
「ああ……うるさい」
低く、地響きのような声が響いた。ガートルードは、震える手で地面を突き、ゆっくりと、だが確実に立ち上がった。全身から立ち上る魔力が、呪いのドス黒い影を無理やり押さえ込むように凝縮され、漆黒のアーマーとなって彼女の体を包み込んでいく。それは、生への執着を捨てた者だけが纏える、死の装束だった。
「解呪の方法は無いって?」
「そうだ! しばらくすれば、貴様は確実に、惨めな死に至る!」
ガートルードはドス黒い影に侵食された顔で、ゾッとするような、しかし、どこか慈愛に満ちた微笑を浮かべた。
「だったら、やることは決まっているわね」
「笑わせるわ。やれることなど何もない。死ね、ガートルード!」
「黙りなさい、このガキが!」
次の瞬間、ガートルードの姿が視界から消えた。 エリアスが反応する間もなく、彼女は至近距離――鼻先が触れ合うほどの位置に出現していた。空間転移ですらない、純粋な身体能力による超高速移動。
「あ……」
エリアスの思考が止まる。ガートルードの渾身の拳が、エリアスのみぞおちへと深々と沈み込んだ。
「ごふっ……あ、が……っ!?」
肺から空気がすべて引きずり出され、エリアスは声を上げることもできずにその場に膝をついた。しかし、ガートルードの猛攻は止まらない。彼女は膝をついたエリアスの顎を蹴り上げると、空中に浮いた彼の背後へ一瞬で回り込んだ。
「逃がさないわよ」
ガートルードの回し蹴りがエリアスの脇腹を捉え、彼は砲弾のような速さで吹き飛んだ。
エリアスの体は大岩に向かって飛んでいくが、彼は激突の寸前で岩を蹴り、反動を利用して空中で姿勢を立て直した。
「おのれ……死に損ないがっ!」
エリアスが空中で魔法陣を展開し、無数の次元の刃を三姉妹に向けて放つ。消耗戦を避けるために再びエルゼたちを狙った一撃。
だが、ガートルードはもはやそれを許さない。彼女は腕を一振りした。それだけで、周囲の大気が凍りつき、飛来する刃のすべてを迎撃し、粉々に相殺した。呪いに侵食されているはずの彼女の魔力は、死を目前にしたことでむしろ研ぎ澄まされ、限界を超えた出力を叩き出している。
「どうせ死ぬなら、残りの時間で、あんたの命ももらうわ。私の尊い命とあんたの薄汚いそれとじゃ吊りあわないけれど……まあ、まけておいてあげるわ」
ガートルードは、激痛に顔を歪めながらも、地獄の底から響くような声を上げた。漆黒の鎧の隙間から、ドス黒い瘴気があふれ出す。それは第七軍団長が咲かせる、最期にして最大の「死に花」だった。
エリアスは初めて、自分の計算が完全に狂ったことを悟り、震える手で次の魔法を編み始めようとした。しかし、その目の前にはすでに、悪魔のような笑みを浮かべたガートルードが立っていた。
0
あなたにおすすめの小説
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。
國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。
声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。
愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。
古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。
よくある感じのざまぁ物語です。
ふんわり設定。ゆるーくお読みください。
「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」
イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。
ある日、夢をみた。
この国の未来を。
それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。
彼は言う。
愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?
悪役令嬢と弟が相思相愛だったのでお邪魔虫は退場します!どうか末永くお幸せに!
ユウ
ファンタジー
乙女ゲームの王子に転生してしまったが断罪イベント三秒前。
婚約者を蔑ろにして酷い仕打ちをした最低王子に転生したと気づいたのですべての罪を被る事を決意したフィルベルトは公の前で。
「本日を持って私は廃嫡する!王座は弟に譲り、婚約者のマリアンナとは婚約解消とする!」
「「「は?」」」
「これまでの不始末の全ては私にある。責任を取って罪を償う…全て悪いのはこの私だ」
前代未聞の出来事。
王太子殿下自ら廃嫡を宣言し婚約者への謝罪をした後にフィルベルトは廃嫡となった。
これでハッピーエンド。
一代限りの辺境伯爵の地位を許され、二人の幸福を願ったのだった。
その潔さにフィルベルトはたちまち平民の心を掴んでしまった。
対する悪役令嬢と第二王子には不測の事態が起きてしまい、外交問題を起こしてしまうのだったが…。
タイトル変更しました。
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」
チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。
だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。
魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。
だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。
追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。
訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。
そして助けた少女は、実は王国の姫!?
「もう面倒ごとはごめんだ」
そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。
学生時代、私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私が実は本物の聖女で、いじめていた女は災厄を呼ぶ魔女でした。
さら
恋愛
いじめていた女と一緒に異世界召喚された私。
聖女として選ばれたのは彼女で、私は無能扱いされ追放された。
だが、辺境の村で暮らす中で気づく。
私の力は奇跡を起こすものではなく、
壊れた世界を“元に戻す”本物の聖女の力だった。
一方、聖女として祭り上げられた彼女は、
人々の期待に応え続けるうち、
世界を歪め、災厄を呼ぶ魔女へと変わっていく――。
【完結】婚約者?勘違いも程々にして下さいませ
リリス
恋愛
公爵令嬢ヤスミーンには侯爵家三男のエグモントと言う婚約者がいた。
先日不慮の事故によりヤスミーンの両親が他界し女公爵として相続を前にエグモントと結婚式を三ヶ月後に控え前倒しで共に住む事となる。
エグモントが公爵家へ引越しした当日何故か彼の隣で、彼の腕に絡みつく様に引っ付いている女が一匹?
「僕の幼馴染で従妹なんだ。身体も弱くて余り外にも出られないんだ。今度僕が公爵になるって言えばね、是が非とも住んでいる所を見てみたいって言うから連れてきたんだよ。いいよねヤスミーンは僕の妻で公爵夫人なのだもん。公爵夫人ともなれば心は海の様に広い人でなければいけないよ」
はて、そこでヤスミーンは思案する。
何時から私が公爵夫人でエグモンドが公爵なのだろうかと。
また病気がちと言う従妹はヤスミーンの許可も取らず堂々と公爵邸で好き勝手に暮らし始める。
最初の間ヤスミーンは静かにその様子を見守っていた。
するとある変化が……。
ゆるふわ設定ざまああり?です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる