王子様、お守りいたします~悪役令嬢は暗部に入ることにした

猫田あや

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5.出会いはまずまず

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一方その頃。

件の第3王子ミシェルは王宮の裏門の前で大きく伸びをしていた。今の彼は王族と言えど、市井の人間として生活している。また今回の訪問は非公式だったため、使用人用の門からの出入りになるのだ。

(いや、まさかあんなに怒られるとはな…)

久しぶりの父・マルセル国王への謁見は雷に始まり、雷に終わった。

何でも、彼が昨日宿屋付近の外出禁止令を破ったことで、違法組織の摘発に失敗したらしい。何十人も犠牲者が出ているので、今回でなんとか根こそぎ捕まえてしまいたかったそうな。

(なんてことを言われてたら、俺だって飲みに行ってなかったってーの。)
ということを至極丁寧に王族風に言ったがさらに怒られる羽目になった。

曰く、「市民の中で生きることを選んだのはお前だ、ミシェル。ならばそういった命令は勝手に判断せずに聞くべきだ。お前の存在で秩序を乱すな!」
ダンっとテーブルを叩いて怒る父。いつもそんなふうに行動しているのか?と聞かれれば、「いや、今回はたまたま…」とごにょごにょ言い訳するしかなかった。彼自身に王族だから、という驕りがあったことは否めない。

(この先、どうするかな。)

今は王族としての身分を持ったまま歌劇団の団員として生活している。猶予期間モラトリアムは後1年といったところか。平民になってこの仕事を続けるのか、臣籍降下し、劇団の海外公演で培った人脈を生かして外交部で働くのか。ミシェルはまだ決めかねていた。

(まあ、悩んでもしょうがない、か。)
生まれ持った身分による大らかさか元々の性格か、彼はあまり深刻に悩まない性質だ。そこがまた父王マルセルの心配のタネでもあるのだが。

とりあえず辻馬車を拾って次の公演の劇場へと急ぐ。今日は稽古の前に劇場主スポンサーの侯爵家の娘が視察にやってくるという。あまり貴族のご令嬢が得意でない彼だが、ベルナー家はそこかしこに劇場を持っており、また芸術の庇護に力を入れている家でもある。しっかりと接待したいと、劇団の発起人マルコリーニが言っていた。

「まあ、俺を襲ってくるような馬鹿はいないだろうが、仕事を増やしてしまってすまないな。」とミシェルは向かいに座る護衛カインに謝罪した。カインはミシェルが歌劇団入りした時に、近衛騎士団からの出向という形で専属の護衛となったのだ。

「いえ、昨晩私が付いていれば…家族の問題で、あなたから離れたことが悔やまれます。精一杯お守りしますので、ご安心ください。」と頭を下げるカイン。ミルクティベージュの髪が馬車に合わせて揺れる。
確かに、カインがいれば宿屋でおとなしくパンでも齧っていたところだろう。ただ、カインの体の弱い妹が体調を崩しているというので、早めに帰したのだった。

(子供が攫われて何十人も死んでるなんて…知らなかったとはいえ言い訳なんてしてる場合じゃなかったな。)
ドナドナとゆれる馬車。劇場に着けば、またいつもの爽やか王子様になればいい。今だけは…昨日の失敗を後悔しよう。彼は深く悩みはしないが、反省や後悔はする。静かになった車内に、悪路でギシギシと揺れる音だけが響くのだった。




あんまり軽薄そうなヤツだったら、一発顔面を殴ってやろうと思っていた。

目の前のご令嬢がそんな物騒なことを考えていたとも知らずに、歌劇団の団員たち4人と発起人の男性が稽古場に勢ぞろいしている。

ここはベルナー家が持っている劇場の1つ、ミラベル大劇場内にある稽古場だ。劇団のファンに扮したカレンがユリウスを従えて挨拶する。
「初めましてぇ。カレン・ベルナーと申します。私ぃ~みなさんの大ファンでぇ、クラインお兄様にお願いして会いに来ちゃいました☆一応この先、劇場の運営に関わる予定なのでお勉強させていただきますぅ。お邪魔はしないので、2週間よろしくお願いしま~す。」と物騒な感情を押し殺してカレンが言う。

ちなみに後ろに控えているユリウスは、相変わらず開いてない目元に涼し気な表情をしている。だがその腹筋は侍従服の中でブルブル震えていた。普段とのキャラの違いが面白すぎる。こんな令嬢が実在したら、彼は間違いなくイライラして一刀両断してしまうだろうと思った。(隣国にいるっちゃいるのだが)

「ええと、この子たちのファンということは自己紹介はいらないかもしれないけれど、一応名乗るだけ名乗っていきましょう!」と発起人のマルコリーニが手を叩いた。薄いパープルの髪はボブスタイルに切りそろえられ、薄くメイクした顔につやつやの唇が印象的な、オネエさんだ。

「では一番人気のミシェルから!」とご指名を受けた護衛対象例のアレが一歩前に出る。
「俺はミシェル・アーベンシュタイン。家名でお察しの通りこの国の王族だけれど、今はこの劇団に所属して市井で普通に生活しているから、そのつもりで接しててほしいな。」とミシェル殿下。サラサラのブロンドヘアーに吸い込まれそうな青い瞳。だけど心なしか元気が無いようにも見える。気のせい?

「僕はウィリアム・ディウスキー。素敵なお嬢さんに出会えてうれしいよ。」とずいっと前に出てきて私の手の甲にキスをする彼。燃えるような赤い髪は男性としては長めで、いたずらっぽく輝く緑の瞳に少しドギマギしてしまった。しっかりしろ、私。

「…アーサーだ。」黒髪の青年がぶっきらぼうに言う。カラスの濡れ羽のような髪に、抜けるように白い肌。整った顔立ちだが目が少し離れており、怪しい美しさをかもしだしている。ちょっと怖い。

「俺はトーマス。貴族でも何でもないド庶民だから、失礼もあるかもしれないがよろしく!」と朗らかに茶色い短髪の青年が握手を求めてくる。他の3人に比べて背が高く、王子の後ろに控えている護衛騎士と同じくらいはある。鍛えているのかかなりがっちりした体型だ。

「もう一人いるのだけれど、今はちょっと体調を崩していて、宿で休んでいるの…また後で紹介するわ。そして私がこの青薔薇歌劇団の発起人兼プロデューサーのマルコリーニよ。マルコって呼んでね!」パチッとウィンクするマルコさん。初めて出会うタイプだから、早く慣れなければ。

とりあえず、「すごぉ~いみなさんかっこよくて、びっくりしちゃいましたぁ!」とうるうるとした上目遣いを演出して一応褒めておく。実際、人気の歌劇団だけあってみなさん見目麗しい。
今日は一旦稽古場に集まりはしたが、衣装合わせのために御用達のオートクチュール店に行くらしい。もちろん同行させていただくことにした。

(何事もないほうが良いけれど、手がかりも欲しいし、複雑だわ……)
そう思いつつ、私は彼らの集団に上手く紛れ込みながら稽古場を出た。歩きながら、物思いにふけるようなミシェル殿下の様子は気にはなったが、護衛対象に踏み込むようなことはしない。適度に距離を取りつつ、お守りいたす所存だ。
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