王子様、お守りいたします~悪役令嬢は暗部に入ることにした

猫田あや

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6.アクシデント(リプライズ)

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オートチュールまでは歩いて15分程らしい。このキラキラしい集団が街を歩くとすぐにファンに囲まれてしまうのでは?と思ったが、公式のファンクラブがあってかなり統制が取れており、そんな不埒なことをする輩はほとんどいないそうだ。

(早速お出ましのようね。)

彼らが次の作品について議論しているのを静かに聞きつつ、周囲に警戒していると、8時の方向に怪しい男の2人組がこっそり後を付けてきているのに気が付いた。
サッとユリウスさんを見るとかすかにうなずいている。仕草や尾行の仕方が洗練されていないので、おそらくは人身売買組織の雇ったゴロツキだろう。

(なんとか他の劇団員を巻き込まずに、そしてヤツらも殺さずに回収したい。)

そう思った私は、大変申し訳ないのだがミシェル殿下に囮になってもらうことにした。
「あのぉ~、おひとりお休みされているんですよね?わたしぃ、お見舞いに薬草ドロップを贈りたいですぅ~。あ、あとそこの店には、ミシェル殿下におすすめの喉にとっても良いハチミツキャンディも売ってるんですよ~。」一緒に行きませんか?と提案する。薬草ドロップとはこの国の名物で、風邪などに効く民間療法用の薬草の練りこまれた飴のことだ。症状によってさまざまな種類の飴があるのだが、前世の市販薬くらいは効果があるのだ。しかも美味しい。

ミシェル殿下はのどの調子を整えるために、好んでハチミツ製品をとっているというのを事前調査のファイルで読んだのでそれを利用することにした。上手くいくと良いのだけど。
悩む素振りのミシェル殿下だったが、マルコさんの「まだ時間があるから、いってらっしゃいよ。きっとあの子も喜ぶわよ~。」という言葉に押されて私たちは薬草店に向かうことにした。




(瓶詰のドロップってなんでこんなにワクワクするんだろう…)私はつい嬉しくなって店内を見回す。
ここは暗部御用達の薬草店。薬草ドロップをメインに販売しているけど、もちろん暗殺や自白など、表には出せないような薬草も多数扱っている店だ。宿屋で休んでいる人はどうやら発熱しているようなので、私はお見舞い用に解熱効果のあるドロップを買うことにした。レモン味に薬草のすーっとした風味が心地よい一品。もちろん経費。ここの薬草ドロップは質が良く、その分高価だから、私のお給料ではそうやたら買えるものではないのだ。

ミシェル殿下は初めて来るようで、興味深そうに店内のキャンディたちを見回っている。様子を気にしつつ私も薬草の入っていない普通のキャンディを試食させてもらう。果汁のジューシーなドロップもいいけれど、糸のようなキャンディが幾層にもかさなっているものは、口に含んだ瞬間ミントのさわやかさと上品な甘みと共にすっと口の中で溶ける。何これスゴイ。

思わず頬を押さえ、感動でプルプルしていると思ったよりもたくさんのキャンディの包みを抱えたミシェル殿下がやってきた。

「良い店を教えてくれてありがとう…ふふっ、君は宝石店にいるみたいに目を輝かせるんだな。」青い瞳を細めながら、おかしそうに彼が言う。

「宝石なんて、いざという時にはぶん投げるくらいしかできません。薬草ドロップは綺麗でしかも体を治してくれるからずっと素敵ですよ!」と少しふくれっ面になりながら私は答えた。

実はこれは実話だったりする。私はこの国に入るために山越えしている時に体調を崩した。薬があれば…と休んでいるところに山賊の襲撃に遭って、体も辛いし腹も立って、持ってきていた宝石に魔力をこめてぶん投げたことがあるのだ。闇魔法だったので、山賊たちは全員その場で酷く精神を病んで、転げまわった。その後どうなったかは知らない。

「君、変わっているね…でもここに案内してくれたおかげで元気が出たよ。気を遣ってくれたんだろう?ありがとう。」とニコニコしながら言うミシェル殿下。

まさかあなたを囮にするためです、とも言えず私はあいまいにほほ笑むことにした。
見つめあってほほ笑む私たちに「殿下、お嬢様、そろそろ…」とユリウスさんが促すので、そのまま店内を出た。護衛騎士の人はニコリともせず、ずっと扉の前にいたけれど、キャンディ見なくて良かったのかな?


店を出た私たちだったが、どんどんヤツら近づいてくる気配がする。私たちの横あたりまで移動したのを見て、私は覚悟を決めた。

(そろそろね。)

「あ~れ~。」と私は転んだふりをしてドンっと思いっきり殿下を突き飛ばした。もちろん着地地点に小麦粉袋クッションがあることを見越してだ。

後ろでユリウスさんがサッと動いて護衛騎士さんの首筋に針を刺す。私が床に転がったフリをしていると、目を付けていた2人が小麦粉にまみれた殿下に忍び寄っていくのが見えた。1人はでかい体つきに不似合いな小さな注射器を手にしている。

私はサッと起き上がって、注射器を持っていない方の男に後ろから跳びかかって右腕を回し、左手とクロスして首を締めあげた。頸動脈をしっかりと抑えるのがポイント。あっという間に落ちた男がドサリ、と倒れる音に注射器男が振り返ると、こちらを見て驚愕したように目を見開いた。そりゃあこんなフリフリなご令嬢が仲間を気絶させて落としているんだもん、びっくりするよね。

ゴロツキは自分を取り戻したようで、こちらにむかって来ようとする。
(させない!)
私はフリルのポケットに両手を突っ込むとそのままの勢いでトランプを投げた。スナップをきかせて投げられたトランプが男の腕と額に刺さる。このトランプは普通よりも強化されたもので、しかも強力な睡眠薬が塗ってあるのだ。

薬が効いて倒れこむ男。ユリウスさんは素早く殿下たちに見えないところにヤツらを回収していく。すると「うーん」とミシェル殿下、護衛騎士さん2人同時に声を上げた。仲良しか。

頭がはっきりしてきたようなので、私は慌てて木の空き箱の山にうつぶせにべちゃっと寝転ぶ。ちなみにこの転び方はあのクソヒロインへのオマージュだ。あの子は本当によく転んでいたから。

間一髪ユリウスさんも戻ってきた。転んだふりを続けているとミシェル殿下が助け起こしてくれた。案外優しい。
振り返ると護衛騎士さんには、ハチが飛んでいて刺されていたとユリウスさんが説明している。「もしかして刺されるのは2回目ですか?一度病院にいかれたほうが良いかもしれませんね。」と飄々と語っていて、ちょっと可笑しい。

何やらブツブツ言いながら、パンパンっと小麦粉を払っている殿下。恨みがこもってちょっと勢いが強かったみたい。作戦失敗の落胆がしっかりと私にもあったようだ。ごめんなさい、私怨はこれが最後にします。

とりあえず目的を果たした私たち一行はマルコさんたちと合流した。まだらに白くなった殿下がみんなに揶揄われていたたまれなかったけれど、オートクチュールでの衣装合わせもとどこおりなくすんだ。今日は宿屋に夜間監視の要員がいるらしいので、宿屋まで彼らを送っていって私たちは変えることにした。

私の護衛任務第1日目は無事終了。
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