王子様、お守りいたします~悪役令嬢は暗部に入ることにした

猫田あや

文字の大きさ
7 / 13

7.危険なお稽古見学

しおりを挟む
「いい、もう一度いくわよ!アン・ドゥ・トロワ、ハイそこでターン」とマルコさんの声が響く。
護衛2日目、私とユリウスさんはミラベル大劇場の稽古場にいた。部屋の一面は全て鏡張りになっており、その前にマルコさんが立って劇団員達のお芝居を監督している。そして簡素なシャツとズボン姿のミシェル殿下と、同じような動きやすいシャツと長いフレアスカートをはいたウィリアムさんがリズムにあわせて舞う。2人とも真剣そのものだ。

次のお芝居は双子の貴族の令息が、いたずらで入れ替わっている間に、出会ったご令嬢に恋してしまうドタバタラブコメディ。明るく人気者でいたずら好きの兄と、物静かで知的な弟をミシェル殿下が1人2役で、兄の婚約者で活発なご令嬢をウィリアムさんが、そして弟の研究仲間のご令嬢をアーサーさんが演じている。そう、この劇団は5人だけで公演をやっている。そのため男性が女性役をすることがほとんどなのだ。なんでも、昔有名な女優さんを客演で読んだ時、国内外で批判と嫉妬の嵐で大変だったらしい。女性役を演じるのは今回のご令嬢役の2人と、宿でお休みしている人がほとんどで、ミシェル殿下とガタイのいいトーマスさんが女装するのはお笑い要員だとか。ちょっと見てみたい。

「2人共さすが、よく覚えているわね。悪いけど、そのままミシェルはアーサーとのダンスシーンをお願い。」今回のお芝居は他国でやった公演の再演だそうだ。ただ、アーサーさん演じる研究か縁談かで悩んでいる優秀なご令嬢は、お休みしている人が担当していたのでアーサーさんは大変らしい。

そんな彼らの斜め前にあるお稽古場の出窓に、片足をたてて気だるげに座っていたアーサーさんが立ち上がり、大きなスカイブルーのタオルで汗を拭いたミシェル殿下と組む。先ほどまでは、物憂げな様子の弟だった殿下は踊り出した途端、今度は恋の情熱をあらわにした兄に変わった。そしてアーサーさんも、戸惑いつつそんな彼に恋する乙女として踊っている。

いっちゃあなんだが私自身も公爵令嬢として長い間生きてきた。また王妃教育ではそれこそ足の先からつま先まで完璧な淑女としての振る舞いを叩きこまれる。その私から見ても、彼の所作は女性らしく、美しい。

「私の見込んだ通り、アーサーあなた覚えがとても早いわ!フェルが体調を崩した時は少し不安だったけど、無事公演を迎えられそうね。」とマルコさん。フェルとはお休みしている人の事だろう。
「ただ、ご令嬢はこの後の告白シーンで自分自身の恋心を自覚する、という風にしたいからもう少しここでは恋心の演技は抑えめにしてほしくてね…」とさらに役の解釈や心の動きについて指導する。

このダンスシーンの後はいよいよクライマックスのそれぞれの告白シーンなのだ。入れ替わっていたことを告げ、2者2様に愛の言葉を紡ぐ。お芝居なんて興味が無かったけれど、正直言って私はとても魅了されている。本当にファンになってしまいそうだ。

マルコさんの指示に対して、アーサーさんは時に自分の役に対する考えも述べつつ話を聞いている。2人共真剣そのものだ。その傍らで自分も耳を傾けているミシェル殿下。

ふと出窓の方を見ると、2羽ムクドリが仲良く羽ばたいていた。何とはなしに、それを見ていたのだが、キラッとまぶしい光を感じた。チラチラとしている光に私は総毛立つ。
(スコープの反射だ!)
この世界には火薬式の銃は無い。ただ、風魔法で銃型の筒から針を打ち出して、相手に危害を加える武器はある。それには照準を合わせるためのスコープが付いているのだ。

私はなりふり構わず殿下の前に飛び出した。と同時に出窓のガラスが割れる音がして、さっと開いた私の扇子に衝撃を感じる。
「ふせろ!!」ミシェル殿下の護衛カインさんの声が響く。気づいていたけれど、位置的に間に合わなかったのだろう。全員が身を小さくし、私は殿下に覆いかぶさるように伏せた。

2発目が来なかった時点でユリウスさんがそっと稽古場を出ていった。方角はわかっているから、昨日の件から増やしている周辺の"影"の誰かに向かわせるはずだ。
私の下になっている殿下の荒い息がその恐怖を物語っている。じりじりと伏せたまま待っていると、警備隊の面々が飛び込んできた。どうやら、もう危険はないらしい。

残念ながら取り逃がしたが、風魔法の残滓があったそうだ。あの武器から正確に望んだところへ打ち出すには相当の魔力コントロールが必要だし、私がいなければ1発で殿下に命中していたことだろう。昨日のヤツラとはスタイルが違うし凄腕だ。悪徳貴族が雇ったやつなのかな?

ただ、けが人がいなくて幸いだった。そのまま警備隊の伍長に事情を聞かれたので「…すっごく綺麗な極楽鳥が見えたからぁ、ついつい窓の方につられちゃってこけちゃいましたぁ。」とのんびり私が話すと、みんながかわいそうな子を見る目でこちらを見てきた。視線は痛いが仕方がない。バレなきゃ何でもいいのよ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

ヒロインだと言われましたが、人違いです!

みおな
恋愛
 目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でした。  って、ベタすぎなので勘弁してください。  しかも悪役令嬢にざまあされる運命のヒロインとかって、冗談じゃありません。  私はヒロインでも悪役令嬢でもありません。ですから、関わらないで下さい。

目覚めたら大好きなアニメの悪役令嬢でしたが、嫌われないようにしただけなのに全員から溺愛されています

月影みるく
恋愛
目を覚ましたら、大好きだったアニメの世界。 しかも私は、未来で断罪される運命の悪役令嬢になっていた。 破滅を回避するために決めたことはただ一つ―― 嫌われないように生きること。 原作知識を頼りに穏やかに過ごしていたはずなのに、 なぜか王族や騎士、同年代の男女から次々と好意を向けられ、 気づけば全員から溺愛される状況に……? 世界に一人しかいない光属性を持つ悪役令嬢が、 無自覚のまま運命と恋を変えていく、 溺愛必至の異世界転生ラブファンタジー。

処理中です...