王子様、お守りいたします~悪役令嬢は暗部に入ることにした

猫田あや

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8.可哀そうな友人ときなくささと(sideユリウス)

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暗殺未遂で稽古が中止となったため、カレン嬢はそのまま早退させ、私は報告と情報共有で一旦暗部に戻っていた。
今、目の前にいるのは上司兼友人のクラインである。

「厄介なことになった…。」執務室で文字通り頭を抱えている私の苦労人とも。今日の事件で回収された針はただの針ではなく、先に人を殺せるほどの猛毒が塗ってあったらしい。

「あれはヴェリウス帝国に固有の植物から採取されるもので、あの国の人間にしか扱えない。やっとあの国も落ち着いたと思ったら、さっそくちょっかいを出してきたようだ。」ヴェリウス帝国はこのマーサ王国とカレン嬢の出身・聖トロジーナ王国と隣接している大国だが、皇位継承をめぐる派閥争いで内戦が起き、荒れに荒れて国力が低下している。最近やっと決着がつき、第2皇子が皇帝として即位した。

「ということは、あの人身売買組織にはヴェリウス帝国が絡んでいると?」この2年の調査でまったくそんな線は無かったが、そうなると確かにそれはややこしい事態になるだろう。国内の犯罪者と貴族の膿を一掃というだけではなくなるからだ。

「まだわからない。メインの黒幕ではないだろうが、何か一枚噛んでいるのは確かだ。」そうなると暗部と警備隊だけでなく、外交部などとの連携も必要だ。失敗すると戦争も避けられない。
「殿下の警備も厳重になる予定だ。ただ今の護衛もできるだけ続けてくれ。」いざという時、護衛だとバレていない人間が近くにいることはアドバンテージになるからな、とクライン。少し不安そうなのは、おそらくカレン嬢が原因だろう。

「……もうあなたもいい歳ですし、カレン嬢にでも求婚してみては?」私は面白半分で聞いてみた。
わが友クラインは、侯爵家の当主ながら独身で婚約者もいない。代々暗部を率いているというベルナー家の役割を知らないものからすると、クラインは国史編纂部の部長という、うだつの上がらない人物だし、暗部の存在を知っているものからすると、そんな危ない家に娘は嫁がせたくはない、というわけだ。

(こんなに美青年で有能で性格も悪くないのに、不憫だ。)私はおくびにも出さずに彼を見る。
「いや、それはっ、だな…彼女は公爵家のご令嬢だ。同等の家かより高位の家に嫁ぐのが幸せというものだろう……。」それに対して顔を赤くしてどもりながら答える。クライン自身も好意があるのだろう。ちなみに彼はあまり女性経験がない。

「カレン嬢は祖国に何もかも捨ててきた、と前言っていたよ?」さらに畳みかけてみる。

「向こうはそうは思っていないようだぞ。」クラインが机の上にあった共通の友人からの手紙を投げてよこした。「ハイドリヒが抑えてくれているが、ギュスターブ家がしびれを切らして、一人こちらにメイドを寄こすそうだ。しっかり自立しているカレン嬢には必要なさそうだがな。」活き活きと仕事をするカレン嬢を思い浮かべたのだろう、クラインのほおが緩む。

「話をそらさないでください。まあカレン嬢自身、惚れた腫れたに興味は無さそうですし、あの変装に態度だから、劇団の連中と恋愛関係になるとは思えませんが、手に入れたいなら早めがいいと思いますよ?もしかすると任務中に私と親しくなったりして。」と冗談めかして言う。

私が今はもうない国の王子だという噂が流れているのは知っている。それは半分は嘘で半分は本当で、こことは別の大陸にある国の王弟だ。王太子である甥に子供ができるまで、結婚はできないことになっている。それはこの友人もしっかりと知っているのだが。

「に、任務中の恋愛はご法度だからな!とにかくっ、安全に護衛を終えてくれればそれでいい。明日からも頼む。」耳まで真っ赤になりながらクラインが言う。いつも冷静なのに、カレン嬢が絡むと揶揄いがいがあって面白い。

「はいはい。まあこの件が片付けば彼女も公爵令嬢に戻る可能性も高いことですし、いつまでもウジウジしないでくださいね。」私はひらひらと手を振りながら、執務室を後にした。

どうなることやら。
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