8 / 13
8.可哀そうな友人ときなくささと(sideユリウス)
しおりを挟む
暗殺未遂で稽古が中止となったため、カレン嬢はそのまま早退させ、私は報告と情報共有で一旦暗部に戻っていた。
今、目の前にいるのは上司兼友人のクラインである。
「厄介なことになった…。」執務室で文字通り頭を抱えている私の苦労人。今日の事件で回収された針はただの針ではなく、先に人を殺せるほどの猛毒が塗ってあったらしい。
「あれはヴェリウス帝国に固有の植物から採取されるもので、あの国の人間にしか扱えない。やっとあの国も落ち着いたと思ったら、さっそくちょっかいを出してきたようだ。」ヴェリウス帝国はこのマーサ王国とカレン嬢の出身・聖トロジーナ王国と隣接している大国だが、皇位継承をめぐる派閥争いで内戦が起き、荒れに荒れて国力が低下している。最近やっと決着がつき、第2皇子が皇帝として即位した。
「ということは、あの人身売買組織にはヴェリウス帝国が絡んでいると?」この2年の調査でまったくそんな線は無かったが、そうなると確かにそれはややこしい事態になるだろう。国内の犯罪者と貴族の膿を一掃というだけではなくなるからだ。
「まだわからない。メインの黒幕ではないだろうが、何か一枚噛んでいるのは確かだ。」そうなると暗部と警備隊だけでなく、外交部などとの連携も必要だ。失敗すると戦争も避けられない。
「殿下の警備も厳重になる予定だ。ただ今の護衛もできるだけ続けてくれ。」いざという時、護衛だとバレていない人間が近くにいることはアドバンテージになるからな、とクライン。少し不安そうなのは、おそらくカレン嬢が原因だろう。
「……もうあなたもいい歳ですし、カレン嬢にでも求婚してみては?」私は面白半分で聞いてみた。
わが友クラインは、侯爵家の当主ながら独身で婚約者もいない。代々暗部を率いているというベルナー家の役割を知らないものからすると、クラインは国史編纂部の部長という、うだつの上がらない人物だし、暗部の存在を知っているものからすると、そんな危ない家に娘は嫁がせたくはない、というわけだ。
(こんなに美青年で有能で性格も悪くないのに、不憫だ。)私はおくびにも出さずに彼を見る。
「いや、それはっ、だな…彼女は公爵家のご令嬢だ。同等の家かより高位の家に嫁ぐのが幸せというものだろう……。」それに対して顔を赤くしてどもりながら答える。クライン自身も好意があるのだろう。ちなみに彼はあまり女性経験がない。
「カレン嬢は祖国に何もかも捨ててきた、と前言っていたよ?」さらに畳みかけてみる。
「向こうはそうは思っていないようだぞ。」クラインが机の上にあった共通の友人からの手紙を投げてよこした。「ハイドリヒが抑えてくれているが、ギュスターブ家がしびれを切らして、一人こちらにメイドを寄こすそうだ。しっかり自立しているカレン嬢には必要なさそうだがな。」活き活きと仕事をするカレン嬢を思い浮かべたのだろう、クラインのほおが緩む。
「話をそらさないでください。まあカレン嬢自身、惚れた腫れたに興味は無さそうですし、あの変装に態度だから、劇団の連中と恋愛関係になるとは思えませんが、手に入れたいなら早めがいいと思いますよ?もしかすると任務中に私と親しくなったりして。」と冗談めかして言う。
私が今はもうない国の王子だという噂が流れているのは知っている。それは半分は嘘で半分は本当で、こことは別の大陸にある国の王弟だ。王太子である甥に子供ができるまで、結婚はできないことになっている。それはこの友人もしっかりと知っているのだが。
「に、任務中の恋愛はご法度だからな!とにかくっ、安全に護衛を終えてくれればそれでいい。明日からも頼む。」耳まで真っ赤になりながらクラインが言う。いつも冷静なのに、カレン嬢が絡むと揶揄いがいがあって面白い。
「はいはい。まあこの件が片付けば彼女も公爵令嬢に戻る可能性も高いことですし、いつまでもウジウジしないでくださいね。」私はひらひらと手を振りながら、執務室を後にした。
どうなることやら。
今、目の前にいるのは上司兼友人のクラインである。
「厄介なことになった…。」執務室で文字通り頭を抱えている私の苦労人。今日の事件で回収された針はただの針ではなく、先に人を殺せるほどの猛毒が塗ってあったらしい。
「あれはヴェリウス帝国に固有の植物から採取されるもので、あの国の人間にしか扱えない。やっとあの国も落ち着いたと思ったら、さっそくちょっかいを出してきたようだ。」ヴェリウス帝国はこのマーサ王国とカレン嬢の出身・聖トロジーナ王国と隣接している大国だが、皇位継承をめぐる派閥争いで内戦が起き、荒れに荒れて国力が低下している。最近やっと決着がつき、第2皇子が皇帝として即位した。
「ということは、あの人身売買組織にはヴェリウス帝国が絡んでいると?」この2年の調査でまったくそんな線は無かったが、そうなると確かにそれはややこしい事態になるだろう。国内の犯罪者と貴族の膿を一掃というだけではなくなるからだ。
「まだわからない。メインの黒幕ではないだろうが、何か一枚噛んでいるのは確かだ。」そうなると暗部と警備隊だけでなく、外交部などとの連携も必要だ。失敗すると戦争も避けられない。
「殿下の警備も厳重になる予定だ。ただ今の護衛もできるだけ続けてくれ。」いざという時、護衛だとバレていない人間が近くにいることはアドバンテージになるからな、とクライン。少し不安そうなのは、おそらくカレン嬢が原因だろう。
「……もうあなたもいい歳ですし、カレン嬢にでも求婚してみては?」私は面白半分で聞いてみた。
わが友クラインは、侯爵家の当主ながら独身で婚約者もいない。代々暗部を率いているというベルナー家の役割を知らないものからすると、クラインは国史編纂部の部長という、うだつの上がらない人物だし、暗部の存在を知っているものからすると、そんな危ない家に娘は嫁がせたくはない、というわけだ。
(こんなに美青年で有能で性格も悪くないのに、不憫だ。)私はおくびにも出さずに彼を見る。
「いや、それはっ、だな…彼女は公爵家のご令嬢だ。同等の家かより高位の家に嫁ぐのが幸せというものだろう……。」それに対して顔を赤くしてどもりながら答える。クライン自身も好意があるのだろう。ちなみに彼はあまり女性経験がない。
「カレン嬢は祖国に何もかも捨ててきた、と前言っていたよ?」さらに畳みかけてみる。
「向こうはそうは思っていないようだぞ。」クラインが机の上にあった共通の友人からの手紙を投げてよこした。「ハイドリヒが抑えてくれているが、ギュスターブ家がしびれを切らして、一人こちらにメイドを寄こすそうだ。しっかり自立しているカレン嬢には必要なさそうだがな。」活き活きと仕事をするカレン嬢を思い浮かべたのだろう、クラインのほおが緩む。
「話をそらさないでください。まあカレン嬢自身、惚れた腫れたに興味は無さそうですし、あの変装に態度だから、劇団の連中と恋愛関係になるとは思えませんが、手に入れたいなら早めがいいと思いますよ?もしかすると任務中に私と親しくなったりして。」と冗談めかして言う。
私が今はもうない国の王子だという噂が流れているのは知っている。それは半分は嘘で半分は本当で、こことは別の大陸にある国の王弟だ。王太子である甥に子供ができるまで、結婚はできないことになっている。それはこの友人もしっかりと知っているのだが。
「に、任務中の恋愛はご法度だからな!とにかくっ、安全に護衛を終えてくれればそれでいい。明日からも頼む。」耳まで真っ赤になりながらクラインが言う。いつも冷静なのに、カレン嬢が絡むと揶揄いがいがあって面白い。
「はいはい。まあこの件が片付けば彼女も公爵令嬢に戻る可能性も高いことですし、いつまでもウジウジしないでくださいね。」私はひらひらと手を振りながら、執務室を後にした。
どうなることやら。
0
あなたにおすすめの小説
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
ヒロインだと言われましたが、人違いです!
みおな
恋愛
目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でした。
って、ベタすぎなので勘弁してください。
しかも悪役令嬢にざまあされる運命のヒロインとかって、冗談じゃありません。
私はヒロインでも悪役令嬢でもありません。ですから、関わらないで下さい。
目覚めたら大好きなアニメの悪役令嬢でしたが、嫌われないようにしただけなのに全員から溺愛されています
月影みるく
恋愛
目を覚ましたら、大好きだったアニメの世界。
しかも私は、未来で断罪される運命の悪役令嬢になっていた。
破滅を回避するために決めたことはただ一つ――
嫌われないように生きること。
原作知識を頼りに穏やかに過ごしていたはずなのに、
なぜか王族や騎士、同年代の男女から次々と好意を向けられ、
気づけば全員から溺愛される状況に……?
世界に一人しかいない光属性を持つ悪役令嬢が、
無自覚のまま運命と恋を変えていく、
溺愛必至の異世界転生ラブファンタジー。
【完結】ゲーム序盤に殺されるモブに転生したのに、黒幕と契約結婚することになりました〜ここまで愛が重いのは聞いていない〜
紅城えりす☆VTuber
恋愛
激甘、重すぎる溺愛ストーリー!
主人公は推理ゲームの序盤に殺される悪徳令嬢シータに転生してしまうが――。
「黒幕の侯爵は悪徳貴族しか狙わないじゃない。つまり、清く正しく生きていれば殺されないでしょ!」
本人は全く気にしていなかった。
そのままシータは、前世知識を駆使しながら令嬢ライフをエンジョイすることを決意。
しかし、主人公を待っていたのは、シータを政略結婚の道具としか考えていない両親と暮らす地獄と呼ぶべき生活だった。
ある日シータは舞踏会にて、黒幕であるセシル侯爵と遭遇。
「一つゲームをしましょう。もし、貴方が勝てばご褒美をあげます」
さらに、その『ご褒美』とは彼と『契約結婚』をすることで――。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
もし「続きが読みたい!」「スカッとした」「面白い!」と思って頂けたエピソードがありましたら、♥コメントで反応していただけると嬉しいです。
読者様から頂いた反応は、今後の執筆活動にて参考にさせていただきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる