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初めて恋した君に。(璃端視点です)

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要に出会ったのは、俗に言う集まりの中。
ヘッドフォンを聴きながら
みんなの輪の中には入っていない
浮いてるタイプの子が居るって思った。

こんな夜の集まりに、あまり似つかない
目立つ白いシャツに、ぴったりとした
ボトムを履いていて
誰かのバイクの座席でただ、
楽しそうに音楽を聴いている。

異質な存在感。

夜の公園で、僕はまだ思春期の延長線上
を歩いていた頃。
急な落雷に撃たれる事になろうとは
思いもしなかった。

歌ってるみたいだった。
それ程に没頭しながら
音楽を楽しむ姿を間近で見せられて
むしろ興味さえ湧いてくる。

小雨が降り出す。
彼は気付いてるのに、それでも
僕を睨む様に見つめて。

頭イカれてんのかと思う。
誰だよ、こんなヤベーの連れてきた奴。
ツカツカとすぐ近くまで言って
僕は彼のヘッドフォンを奪い取った。

『返せよ、クソ野郎…』
思わずゾクっとしそうな態度に、僕も
ひるまずに
「場違いなんだよ、帰りなよ坊や。」
こう返した。

とんでもない音量の音楽が
ヘッドフォンから漏れてくる。
『坊やじゃないし、お前より歳上だから。』
「こんな音量で聴いてたら、耳悪くする…何の音楽だよ。」

『…もう、とーっくの昔に解散したバンド。』
「へぇ…良いの?」
『あったりまえだろ?死ぬ程カッコ良くって今でもファン。聴いてみる?』

ニコッと笑った顔が、あどけなくて
僕は一瞬心がドキドキした。

彼からヘッドフォンを借りて、
その間に音量を調整して貰って
流れる音楽に耳を傾ける。

彼は、何とも言えない表情で僕を見つめて
くるものだから、
僕も彼の心を察したくて
より深く音源の世界観に没頭する。

初対面なのに、おかしな話だけど
彼がこの音楽を愛する意味が何となく
理解できた気がした。

心にはただ、切なさが漠然と
残ったのだった。
「……僕、このアーティスト好きです。」
『伝わった?…ホント?』

小雨が降る中、
彼は柔らかな笑みで頷いた。

しばらく話をしてる内に、友人が戻って来たらしく
彼はそのまま一緒に帰って行ってしまった。



「それが、僕の心を奪っていった天使のお話です。」
『…めっちゃ俺の事だし。ヤメロよ、そんな懐かしい話。』
「止められないよ。僕の大切な思い出だから。」

要とは紆余曲折があって、最近になって
やっとスキンシップをできるくらいまでに
なれたものの。

それ以上先はと言うと、要の身体が
心配で行き止まり。
キスで少しずつ目覚めては来てる、
だから僕が要の身体を慣らして
あげようとしてるトコで。

『そんなの…恥ずかしくて死んじゃう。』
一緒にお風呂に入った時に、試してみようとしたら今にも泣きそうな要にストップを
かけられてしまった。

「でも、初めてじゃないなら…なんとか」

『~……っ、』

あ、しまった。これはまずい。
一瞬にして、要の顔は赤みが差して
目を見開いて僕を見つめている。
『…璃端でも、そんな意地悪言うんだな。』

と言われて、思い切り顔を背けられた。
僕がいけなかった。
要は気にかけている事なのに、無神経に
言ってしまった。

要が後悔してる事を、薄々気付いていながら
嫌な言い方をしてしまった。

「~そう言う、嫌味で言ったんじゃなくて…。ごめんなさい。要…」

僕は要を抱きすくめた。湯船の中で
要の華奢な身体が、殊更愛おしくて
離したくなかった。

『俺が悪いの…ごめん、璃端。』
要は、僕の身体の上にのしかかる様に
密着させて来る。
肌と肌との重なりが心地いい。

「要は悪くないよ、僕が要とちゃんと向き合えなかったのがいけない。でも、また戻って来てくれて…本当に嬉しい。」
何度も抱きすくめては、その感触を確かめる。
『もし、俺が璃端と一つになんかなっちゃったら、って考えるだけで…無理だもん。』

要はギャップの塊みたいな人。
照れ隠しにすぐ、悪びれてしまうけれど
心はとても純粋なのをよく知っている。

傷付きやすくて、壊れそうな危うさが見えたり
かと思えば案外精神的に強い一面もある。
多くの顔を僕にいつだって、無遠慮に見せて
くれる。

「一つに…なりたいけど、要が壊れてしまうんじゃ無いかって不安。」
『…昔の、あの集まりに来てた頃の璃端だったら無理矢理にでもしてたんじゃないかって思う。』

僕も思春期は色々なしがらみが嫌で
あまり良いとは思えないグループに出入りしてた
時期が確かにあった。
でも、あの日の要はに出会ってから
僕の心の中は大きく変わったんだ。

音楽を通じて、次第に家で昔の曲を聴いたり
物思いに耽ったり、詞の世界を深く知りたくて
考えこんだりする様になって
集まりには行かなくなっていたんだ。

何より、要の連絡先を聞き出せた時には
嬉しくて嬉しくて、携帯に電話を掛けて
音楽の話を長時間話してる内に
いつも、最後は要に会いたくて
たまらなくなって。

切なさに胸が締め付けられそうだった。
恋を自覚する瞬間は、ほろ苦い。
焼け焦げた風味にも似てる。

楽しそうにヘッドフォンをして
音楽に酔いしれている要を思い出す。

ハッキリ言うと、悔しかった。
自分の容姿には自信もあったし
惹きつけるものは持っていると
心のどこかで自覚していただけに。

「いつになったら、本当に僕の要になってくれるの?」
『…俺は誰のものでも無いから、何とも言えない。』
思い通りにならない要が、それでも好きで
たまらない。

「好きだよ、要…」
今度こそは、要を不安にさせない。
要の頭をそっと指で梳きながら
濡れた髪を耳にかけてあげた。

『ん…俺だって、嫌いになった訳じゃ無かった。』
困ると弱々しい瞳がキョロキョロと
僕を見て、黙り込む。

誰より素直で分かりやすい。
案外やきもち焼きで、可愛いなぁと思う。
「不安だよ、また…どこかに行くんじゃ無いかって。」

キスをすると、たどたどしく応えてくれる
姿がグッと来る。
この前教えてあげた、とびきり
気持ち良くなる所も撫でてあげたら
要は身体をびくびく震わせて、
ギュッと目をつむっていた。

トロトロの唾液が絡む度に、要の瞳は
次第に濡れていく。
もう、キスは快楽でしか無い事を
かなり教え込めたと思う。

要も、気づき始めているからか
気まずそうに腰をよじって僕の腕から
逃れようとする。

度を超えた気持ちよさに、要は本能的に
恐怖を覚える頃かな?
もしかしたら、泣かせる事に
なるかもしれないけれど。

さっきから僕のと要のが、触れ合ってる。
本来ならこの意識だけで
果ててしまいそうな程なんだけど、
必死に平静を装わなきゃいけない。

『…やっぱり大きい、怖い…』
とろ、と要は唾液の糸を切り離しながら
腰をずらす。
「大丈夫だよ、そんな無理はさせないから。」
『口の中でもキツイのに…ココは、流石に』

細い要の腰を両手で掴むと
『ぅひゃっ…?!』
飛び上がる。

クラクラしそうな効果だった。
要のあられも無い姿に、細い腰の感触。
こんな目の前の据え膳を食わないなんて
僕は大き過ぎるチャンスを逃す事に
なる気がして。
要のひくつく腰つきを見てると
頭が真っ白になるんじゃ無いかと思う。

もう、我慢も限界だと悟った。
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