転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

文字の大きさ
255 / 324
第6巻第2章 竜騎士闘技会

四皇ファズ

しおりを挟む
「なんでステラさんがドラゴンライダーとして戦っているの?」

 マヤは相手選手を次々と倒していくステラを見ながら大きく口を開けていた。

 魔王の中では弱いとはいえ、ステラも魔王の端くれ、そこらの龍の民に遅れを取るほど弱いわけもなく、その戦いぶりは圧倒的の一言だった。

「事情はわかりませんが、とにかくステラさんが無事で良かったですね」

「うん、まあそれはそうなんだろうけど……」

 マヤ達の目的はそもそも行方不明のステラを探すことだったので、ステラの無事が確認できた時点で、目的は達成されたと言ってもいい。

 もちろん聖剣を手に入れることがマヤ達のもう一つの目的なので、どちらにせよこの竜騎士闘技会が終わるまで帰ったりはできないのだが。

「それにしてもすごい戦いぶりだね。ステラさんって戦闘向きじゃないって話じゃなかったっけ?」

「そのはずですよ。だから私たちもわざわざ助けに来たわけですし」

「おそらくですが、ステラ様とこの竜騎士闘技との相性が良いのではないでしょうか」

「相性がいい? どういうこと?」

 実はステラがどのようにして戦うのかまったく知らないマヤは、相性がいいというエスメラルダの言葉の意味がよく分からなかった。

「ステラ様を魔王たらしめている魔法は老化エイジングというもので、相手を老化させ無力化してから倒すという恐ろしいものなのですが、決してそれだけがかの魔王の力ではございません」

「ちょっと待って、なんか今さり気なくエグい魔法が出てきた気がするんだけど、それについてはスルーする感じ?」

 相手を老化させて無力化など、決まってしまえば取り返しが付かない上に、誰しも年老いれば力が落ちるのは避けられないので、その効果は計り知れない。

「そうですね、今回は関係ないので」

「さいですか…………」

「話を戻しますが、ステラ様は戦いにおいて基本的にサポーターなのです。味方の傷を癒やしたらり、相手の動きを鈍らせたりといった魔法を得意としています」

「その反面、攻撃は強くない?」

「そういうことです。しかし、この竜騎士闘技では攻撃は基本的にドラゴンが行う。であれば、ステラ様は魔王クラスの補助魔法に専念できる。結果としてあれほど一方的な試合展開になっているのでしょう」

「なるほどね。言われてみればステラさんが乗ってるドラゴンの傷はすぐに癒えてるし、相手のドラゴンの動きはなんだか鈍い気がするね」

 単純にドラゴン同士の能力に差があるのかと思っていたが、エスメラルダの話を聞いた後だと、ステラの魔法の効果だとはっきりわかる。
 
「勝負あったみたいですね」

「みたいだね」

 ステラの騎乗するドラゴンが相手の最後のドラゴン使いへと爪を突き立てる。

『勝者、ファズ村代表団!!』

 ステラが所属する四皇ファズが治めるファズ村の勝利を実況が宣言し、ステラの試合は幕を閉じたのだった。

***

「ステラさーん!」

 マヤは試合を終えたステラが観客席に姿を見せるなり、ステラへと駆け寄った。

「マヤさん……どうしてここに」

 マヤに気がついたオスカーは、なんとも言えない表情でマヤの方を見る。

「2人を助けに来たんだよ」

 マヤはステラの城の門兵がステラを探しに来たこと、突如現れたエスメラルダからステラの行き先を聞いたこと、ステラが危険だと思い助けに来たことなどを説明した。

「――ってわけなんだよ。で、なんでステラさんはさっきから黙りっぱなしなの?」

「それは……」

「吾輩がそいつの精神を支配しているからだ」

 言い淀むオスカーの後ろから現れたのは、ひょろりと背が高い偉そうな態度の男性だった。

 ステラに近寄るなり、その肩にそっと手を置く。

 仕草の一つ一つがねちっこく、マヤは生理的嫌悪を覚えた。

「ファズ様、ステラ様には触らない約束ですよ?」

 オスカーはステラの肩に置かれたファズの手を跳ね上げると、ステラの身体を抱き寄せる。

 実は恥ずかしがり屋なところがある普段のステラであれば、オスカーの行動に頬を染めてうつむいてしまうところだが、今のステラは眉一つ動かさなかった。

「おお、怖い怖い。妻に守られた分際で今更夫面とは、恥ずかしくないのかね?」

「なんとでも言ってください。約束は守ってもらいますよ」

「当然だ。龍帝様から生み出されし四皇の1人である私が、龍の民でもない人間ごときと交わした約束の1つも守れないとあって恥だからな」

 ファズはそれだけ言うと踵を返して去っていった。

「悪いね、魔王マヤ。見ての通り、少々厄介なことになっている。ステラ様は今、あなたと話せる状態じゃない。それから、あなた達と表立って協力することも難しい。助けに来てもらったのにすまない」

 オスカーはマヤたちにだけ聞こえる声量で、早口で要件を伝えると、ステラの手を引いてファズが去っていった方へと歩いて行ってしまう。

「何だったんでしょうね、ステラ様のあれ……」

「うん、なんだが、心、ここに、あらず、みたい、な、感じ? だった、よね?」

「そうだな。ファズとか言う男は精神を支配している、とか言っていたが、そんなことが可能なのか? 仮にも魔王なんだろう、ステラ様だって」

「そうですね……四皇であればあるいは、といったところでしょうか?」

「エスメラルダさんはなにか知ってるの?」

「知っている、というほどのものでもありません。ただ四皇は魔王クラスの実力者だと言われています。ですから、魔王であるステラ様の精神を支配できたとしてもおかしくはないだろう、ということです」

「魔王クラス、ね。オリガ、ステラさんの状態は分析してみた?」

「ええ、もちろん。ですが……」

 魔法の分析にかけてはときに魔王をも凌駕するオリガにしては珍しく、自信なさげに言葉に詰まる。

「どうしたの? オリガでもわからない何かがあったの?」

「はい。どうやらドラゴンの魔法はエリフの魔法とも人間の魔法とも大きく違うようで、なんとなく何が起きているかはわかったのですが、元に戻す方法とかはさっぱりわかりませんでした」

 オリガには、魔法については詳しいという自負があったのだろう。

 ドラゴンの魔法がわからないと語るオリガの表情は悔しそうに歪んでいた。

「でも、なんとなくはわかるなんて流石だね。それで、なんとなくわかった情報だとどんな感じ?」

「はい、どうやら今ステラさんの意識はあのファズという男によって別の場所に移されているようです」

「別の場所って言うと、例えば水晶玉の中とか?」

 マヤは過去の世界で魔力を集めるための器として使われていた水晶玉をなんとなく思い浮かべた。

「そういうことでしょう。ですから今のステラさんは抜け殻です。おそらくですが、一緒に騎乗していたオスカーさんが使う魔法を指示して、ステラさんは言われるままに魔法を使ってただけなのでしょう」

「なるほど……そうなると、あのファズって人を動かす倒すしかないってことかな?」

 マヤはファズが去っていった方に鋭い視線を向けた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢
ファンタジー
 何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。  そう言われて、異世界に転生することになった。  でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。  どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。  だからわたしは旅に出た。  これは一人の幼女と小さな幻獣の、  世界なんて救わないつもりの放浪記。 〜〜〜  ご訪問ありがとうございます。    可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。    ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。  お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします! 23/01/08 表紙画像を変更しました

【完結】スキルを作って習得!僕の趣味になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》 どんなスキル持ちかによって、人生が決まる。生まれ持ったスキルは、12歳過ぎから鑑定で見えるようになる。ロマドは、4度目の15歳の歳の鑑定で、『スキル錬金』という優秀なスキルだと鑑定され……たと思ったが、錬金とつくが熟練度が上がらない!結局、使えないスキルとして一般スキル扱いとなってしまった。  どうやったら熟練度が上がるんだと思っていたところで、熟練度の上げ方を発見!  スキルの扱いを錬金にしてもらおうとするも却下された為、仕方なくあきらめた。だが、ふと「作成条件」という文字が目の前に見えて、その条件を達してみると、新しいスキルをゲットした!  天然ロマドと、タメで先輩のユイジュの突っ込みと、チェトの可愛さ(ロマドの主観)で織りなす、スキルと笑いのアドベンチャー。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

処理中です...