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第6巻第2章 竜騎士闘技会
四皇ファズ
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「なんでステラさんがドラゴンライダーとして戦っているの?」
マヤは相手選手を次々と倒していくステラを見ながら大きく口を開けていた。
魔王の中では弱いとはいえ、ステラも魔王の端くれ、そこらの龍の民に遅れを取るほど弱いわけもなく、その戦いぶりは圧倒的の一言だった。
「事情はわかりませんが、とにかくステラさんが無事で良かったですね」
「うん、まあそれはそうなんだろうけど……」
マヤ達の目的はそもそも行方不明のステラを探すことだったので、ステラの無事が確認できた時点で、目的は達成されたと言ってもいい。
もちろん聖剣を手に入れることがマヤ達のもう一つの目的なので、どちらにせよこの竜騎士闘技会が終わるまで帰ったりはできないのだが。
「それにしてもすごい戦いぶりだね。ステラさんって戦闘向きじゃないって話じゃなかったっけ?」
「そのはずですよ。だから私たちもわざわざ助けに来たわけですし」
「おそらくですが、ステラ様とこの竜騎士闘技との相性が良いのではないでしょうか」
「相性がいい? どういうこと?」
実はステラがどのようにして戦うのかまったく知らないマヤは、相性がいいというエスメラルダの言葉の意味がよく分からなかった。
「ステラ様を魔王たらしめている魔法は老化というもので、相手を老化させ無力化してから倒すという恐ろしいものなのですが、決してそれだけがかの魔王の力ではございません」
「ちょっと待って、なんか今さり気なくエグい魔法が出てきた気がするんだけど、それについてはスルーする感じ?」
相手を老化させて無力化など、決まってしまえば取り返しが付かない上に、誰しも年老いれば力が落ちるのは避けられないので、その効果は計り知れない。
「そうですね、今回は関係ないので」
「さいですか…………」
「話を戻しますが、ステラ様は戦いにおいて基本的にサポーターなのです。味方の傷を癒やしたらり、相手の動きを鈍らせたりといった魔法を得意としています」
「その反面、攻撃は強くない?」
「そういうことです。しかし、この竜騎士闘技では攻撃は基本的にドラゴンが行う。であれば、ステラ様は魔王クラスの補助魔法に専念できる。結果としてあれほど一方的な試合展開になっているのでしょう」
「なるほどね。言われてみればステラさんが乗ってるドラゴンの傷はすぐに癒えてるし、相手のドラゴンの動きはなんだか鈍い気がするね」
単純にドラゴン同士の能力に差があるのかと思っていたが、エスメラルダの話を聞いた後だと、ステラの魔法の効果だとはっきりわかる。
「勝負あったみたいですね」
「みたいだね」
ステラの騎乗するドラゴンが相手の最後のドラゴン使いへと爪を突き立てる。
『勝者、ファズ村代表団!!』
ステラが所属する四皇ファズが治めるファズ村の勝利を実況が宣言し、ステラの試合は幕を閉じたのだった。
***
「ステラさーん!」
マヤは試合を終えたステラが観客席に姿を見せるなり、ステラへと駆け寄った。
「マヤさん……どうしてここに」
マヤに気がついたオスカーは、なんとも言えない表情でマヤの方を見る。
「2人を助けに来たんだよ」
マヤはステラの城の門兵がステラを探しに来たこと、突如現れたエスメラルダからステラの行き先を聞いたこと、ステラが危険だと思い助けに来たことなどを説明した。
「――ってわけなんだよ。で、なんでステラさんはさっきから黙りっぱなしなの?」
「それは……」
「吾輩がそいつの精神を支配しているからだ」
言い淀むオスカーの後ろから現れたのは、ひょろりと背が高い偉そうな態度の男性だった。
ステラに近寄るなり、その肩にそっと手を置く。
仕草の一つ一つがねちっこく、マヤは生理的嫌悪を覚えた。
「ファズ様、ステラ様には触らない約束ですよ?」
オスカーはステラの肩に置かれたファズの手を跳ね上げると、ステラの身体を抱き寄せる。
実は恥ずかしがり屋なところがある普段のステラであれば、オスカーの行動に頬を染めてうつむいてしまうところだが、今のステラは眉一つ動かさなかった。
「おお、怖い怖い。妻に守られた分際で今更夫面とは、恥ずかしくないのかね?」
「なんとでも言ってください。約束は守ってもらいますよ」
「当然だ。龍帝様から生み出されし四皇の1人である私が、龍の民でもない人間ごときと交わした約束の1つも守れないとあって恥だからな」
ファズはそれだけ言うと踵を返して去っていった。
「悪いね、魔王マヤ。見ての通り、少々厄介なことになっている。ステラ様は今、あなたと話せる状態じゃない。それから、あなた達と表立って協力することも難しい。助けに来てもらったのにすまない」
オスカーはマヤたちにだけ聞こえる声量で、早口で要件を伝えると、ステラの手を引いてファズが去っていった方へと歩いて行ってしまう。
「何だったんでしょうね、ステラ様のあれ……」
「うん、なんだが、心、ここに、あらず、みたい、な、感じ? だった、よね?」
「そうだな。ファズとか言う男は精神を支配している、とか言っていたが、そんなことが可能なのか? 仮にも魔王なんだろう、ステラ様だって」
「そうですね……四皇であればあるいは、といったところでしょうか?」
「エスメラルダさんはなにか知ってるの?」
「知っている、というほどのものでもありません。ただ四皇は魔王クラスの実力者だと言われています。ですから、魔王であるステラ様の精神を支配できたとしてもおかしくはないだろう、ということです」
「魔王クラス、ね。オリガ、ステラさんの状態は分析してみた?」
「ええ、もちろん。ですが……」
魔法の分析にかけてはときに魔王をも凌駕するオリガにしては珍しく、自信なさげに言葉に詰まる。
「どうしたの? オリガでもわからない何かがあったの?」
「はい。どうやらドラゴンの魔法はエリフの魔法とも人間の魔法とも大きく違うようで、なんとなく何が起きているかはわかったのですが、元に戻す方法とかはさっぱりわかりませんでした」
オリガには、魔法については詳しいという自負があったのだろう。
ドラゴンの魔法がわからないと語るオリガの表情は悔しそうに歪んでいた。
「でも、なんとなくはわかるなんて流石だね。それで、なんとなくわかった情報だとどんな感じ?」
「はい、どうやら今ステラさんの意識はあのファズという男によって別の場所に移されているようです」
「別の場所って言うと、例えば水晶玉の中とか?」
マヤは過去の世界で魔力を集めるための器として使われていた水晶玉をなんとなく思い浮かべた。
「そういうことでしょう。ですから今のステラさんは抜け殻です。おそらくですが、一緒に騎乗していたオスカーさんが使う魔法を指示して、ステラさんは言われるままに魔法を使ってただけなのでしょう」
「なるほど……そうなると、あのファズって人を動かす倒すしかないってことかな?」
マヤはファズが去っていった方に鋭い視線を向けた。
マヤは相手選手を次々と倒していくステラを見ながら大きく口を開けていた。
魔王の中では弱いとはいえ、ステラも魔王の端くれ、そこらの龍の民に遅れを取るほど弱いわけもなく、その戦いぶりは圧倒的の一言だった。
「事情はわかりませんが、とにかくステラさんが無事で良かったですね」
「うん、まあそれはそうなんだろうけど……」
マヤ達の目的はそもそも行方不明のステラを探すことだったので、ステラの無事が確認できた時点で、目的は達成されたと言ってもいい。
もちろん聖剣を手に入れることがマヤ達のもう一つの目的なので、どちらにせよこの竜騎士闘技会が終わるまで帰ったりはできないのだが。
「それにしてもすごい戦いぶりだね。ステラさんって戦闘向きじゃないって話じゃなかったっけ?」
「そのはずですよ。だから私たちもわざわざ助けに来たわけですし」
「おそらくですが、ステラ様とこの竜騎士闘技との相性が良いのではないでしょうか」
「相性がいい? どういうこと?」
実はステラがどのようにして戦うのかまったく知らないマヤは、相性がいいというエスメラルダの言葉の意味がよく分からなかった。
「ステラ様を魔王たらしめている魔法は老化というもので、相手を老化させ無力化してから倒すという恐ろしいものなのですが、決してそれだけがかの魔王の力ではございません」
「ちょっと待って、なんか今さり気なくエグい魔法が出てきた気がするんだけど、それについてはスルーする感じ?」
相手を老化させて無力化など、決まってしまえば取り返しが付かない上に、誰しも年老いれば力が落ちるのは避けられないので、その効果は計り知れない。
「そうですね、今回は関係ないので」
「さいですか…………」
「話を戻しますが、ステラ様は戦いにおいて基本的にサポーターなのです。味方の傷を癒やしたらり、相手の動きを鈍らせたりといった魔法を得意としています」
「その反面、攻撃は強くない?」
「そういうことです。しかし、この竜騎士闘技では攻撃は基本的にドラゴンが行う。であれば、ステラ様は魔王クラスの補助魔法に専念できる。結果としてあれほど一方的な試合展開になっているのでしょう」
「なるほどね。言われてみればステラさんが乗ってるドラゴンの傷はすぐに癒えてるし、相手のドラゴンの動きはなんだか鈍い気がするね」
単純にドラゴン同士の能力に差があるのかと思っていたが、エスメラルダの話を聞いた後だと、ステラの魔法の効果だとはっきりわかる。
「勝負あったみたいですね」
「みたいだね」
ステラの騎乗するドラゴンが相手の最後のドラゴン使いへと爪を突き立てる。
『勝者、ファズ村代表団!!』
ステラが所属する四皇ファズが治めるファズ村の勝利を実況が宣言し、ステラの試合は幕を閉じたのだった。
***
「ステラさーん!」
マヤは試合を終えたステラが観客席に姿を見せるなり、ステラへと駆け寄った。
「マヤさん……どうしてここに」
マヤに気がついたオスカーは、なんとも言えない表情でマヤの方を見る。
「2人を助けに来たんだよ」
マヤはステラの城の門兵がステラを探しに来たこと、突如現れたエスメラルダからステラの行き先を聞いたこと、ステラが危険だと思い助けに来たことなどを説明した。
「――ってわけなんだよ。で、なんでステラさんはさっきから黙りっぱなしなの?」
「それは……」
「吾輩がそいつの精神を支配しているからだ」
言い淀むオスカーの後ろから現れたのは、ひょろりと背が高い偉そうな態度の男性だった。
ステラに近寄るなり、その肩にそっと手を置く。
仕草の一つ一つがねちっこく、マヤは生理的嫌悪を覚えた。
「ファズ様、ステラ様には触らない約束ですよ?」
オスカーはステラの肩に置かれたファズの手を跳ね上げると、ステラの身体を抱き寄せる。
実は恥ずかしがり屋なところがある普段のステラであれば、オスカーの行動に頬を染めてうつむいてしまうところだが、今のステラは眉一つ動かさなかった。
「おお、怖い怖い。妻に守られた分際で今更夫面とは、恥ずかしくないのかね?」
「なんとでも言ってください。約束は守ってもらいますよ」
「当然だ。龍帝様から生み出されし四皇の1人である私が、龍の民でもない人間ごときと交わした約束の1つも守れないとあって恥だからな」
ファズはそれだけ言うと踵を返して去っていった。
「悪いね、魔王マヤ。見ての通り、少々厄介なことになっている。ステラ様は今、あなたと話せる状態じゃない。それから、あなた達と表立って協力することも難しい。助けに来てもらったのにすまない」
オスカーはマヤたちにだけ聞こえる声量で、早口で要件を伝えると、ステラの手を引いてファズが去っていった方へと歩いて行ってしまう。
「何だったんでしょうね、ステラ様のあれ……」
「うん、なんだが、心、ここに、あらず、みたい、な、感じ? だった、よね?」
「そうだな。ファズとか言う男は精神を支配している、とか言っていたが、そんなことが可能なのか? 仮にも魔王なんだろう、ステラ様だって」
「そうですね……四皇であればあるいは、といったところでしょうか?」
「エスメラルダさんはなにか知ってるの?」
「知っている、というほどのものでもありません。ただ四皇は魔王クラスの実力者だと言われています。ですから、魔王であるステラ様の精神を支配できたとしてもおかしくはないだろう、ということです」
「魔王クラス、ね。オリガ、ステラさんの状態は分析してみた?」
「ええ、もちろん。ですが……」
魔法の分析にかけてはときに魔王をも凌駕するオリガにしては珍しく、自信なさげに言葉に詰まる。
「どうしたの? オリガでもわからない何かがあったの?」
「はい。どうやらドラゴンの魔法はエリフの魔法とも人間の魔法とも大きく違うようで、なんとなく何が起きているかはわかったのですが、元に戻す方法とかはさっぱりわかりませんでした」
オリガには、魔法については詳しいという自負があったのだろう。
ドラゴンの魔法がわからないと語るオリガの表情は悔しそうに歪んでいた。
「でも、なんとなくはわかるなんて流石だね。それで、なんとなくわかった情報だとどんな感じ?」
「はい、どうやら今ステラさんの意識はあのファズという男によって別の場所に移されているようです」
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