Salt

Kyrie

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001. Salt

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接待の飲みの後、俺は強引にあの人をホテルに連れ込んだ。
と言ってもラブホじゃない。
そんなところに連れていったら、不機嫌極まりなく、そして次がなくなるかもしれない。
自分は決して泊まることをしないくせに。
たった数時間。
そのために俺は眺めのいい部屋を取る。


部屋に入るとすぐにスーツの上着とワイシャツを脱がせた。
しわにするとまたうるさいのでハンガーにかける。
今日は上半身脱がせただけでたまらなくなって後ろから抱きしめ、その首筋に顔を埋める。
接待中についた煙草と女の匂いは不快だが、その奥にあるあの人の匂いを吸い込む。

「離せよ。
シャワーくらい浴びさせろ」

「離しませんよ。
今日だってあのセクハラ親父に触らせてたくせに」

「部長だろ」

接待相手に見せつけるように、うちの部長がスラックス越しにこの人の太腿をなでていた。
俺の上司であるこの人がすましたまま好きにさせているので、声を荒げるわけにもいかず、俺はただ奥歯を噛みしめてそれを見ていた。
何事もないように、涼しい顔をしているのにもムカついた。

「俺に言わせればお前も同じだよ」

「俺は違う」

俺はすぐに否定する。

「そう思ってるのはお前だけだよ」

違うっ。
あんなと一緒にしないでほしい。
腹が立って首元に噛みつく。

「いてっ。
噛むな。
痕がつく」

痕をつけられるのも非常に嫌がる。
じゃあ、どうすればいい?
放っておけばどんな男と寝るかわからないし、俺のものだとも言えない。
かと言って、強く拒むわけでもない。
今だってそう、俺の腕から逃げようともしない。
仕方なく抱きしめる力を強め、今度は優しく首筋に唇を滑らせる。
ふっと漏れる熱い息。
思わず腕の力を緩めると、するりとそこから抜け出して「シャワーを浴びてくる」とそのままシャワールームに消えていった。





セクハラ親父に好きにさせていたイライラをそのままぶつけ、激しく抱いた。
多少、手荒なことをしてしまったが、知らない。
俺がどれだけ怒っても、この人は知らぬ顔だ。

3回イって、2人でベッドに倒れ込む。
まだ息が荒く、あの人は目元を赤くして色っぽい視線で俺を見る。
なのに。
むくりと起き上がると、無言でシャワールームに向かう。
そして5分で戻ってくると、脱いだ服を身に着け、一糸乱れぬスーツ姿になると鞄に手をかけた。

あのまま。
ベッドに倒れ込んだまま、一緒に抱き合って朝を迎える、とまではいかないが、少しは余韻に浸ることは考えてもらえないのだろうか。

「じゃ、明日遅れるなよ」

別れにキスをするでもハグをするでもなく、ドアを開け、出て行った。


一人取り残される俺。

あまりごねると、関係を断ち切ろうとする。
まぁ、そんなことさせないから。
俺も仕方なくベッドから起き上がり、上着から煙草を取り出し火をつける。
思い切り煙を吸い、吐き出すときにぴりっと引きつる痛みを感じ、笑いが漏れる。

必死になって感じているとき、俺の背中につけたあの人の爪の痕。

俺と初めて関係したとき、俺の背中は傷だらけになった。
それ以来、常に爪は丸くやすりがかけられ、あんなに酷い傷にはならなくなった。

かわいいとこ、あるじゃん。

俺はまた煙草を吸い、大きく煙を吐いた。





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