さらば、元婚約者殿!

Kyrie

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第1話 アルフォードの婚約者

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ばかばか、そんなのできるか。
そんな気持ちを無理矢理押し込めて、奴の両親ににっこり笑いかける。

「こちらが僕の婚約者のザジです」

視線が痛い。
そりゃそうだ。
かわいいかわいい末っ子の息子が婚約者として、俺みたいながさつないかつい男を連れて帰ったら、そりゃあ。
おまえ、結構な親不孝なことしてんじゃねぇの?
隣りで俺と同じようににっこり笑っているアルフォードをちらりと盗み見る。

『余計なことはしゃべるなよ』

うひょう!
恐ろしい視線で俺を睨みつけた目がそう語っていた。

はいはいはいはい!
わかりました!
ひとまず、これ以上なにも言わずにごりごりと音がしそうなほど不自然な笑顔を死守するから!


アルフォードの2人いる兄は美人系とかわいい系の、育ちのよさそうな女性を伴っている。
おお、全然違う態度!
俺はあいつの親がにこやかに4人に話しかけているのを見ている。

ですよねぇ。
だよねぇ。
そうだよねぇ。

どう考えても人選間違ってるぞ、アルフォード。
が、アルフォードは表情一つ変えず、サラサラの肩ぱっつんプラチナブロンドを揺らし、緑の瞳で4人を見ている。
あー、俺じゃあ役に立てそうにないよ、アルフォードぉぉぉ。






アルフォードはターナー王国の地方豪族エイガー家の三男だ。
とは聞いていたが、実際に領地ウォールクに来てみて驚いた。
ウォールクは広大で肥沃な土地で清潔でそこそこ治安もよく、住みやすそうだ。
それもこれも父親のバルク・エイガー氏の手腕が優れているからだろう。
来る途中にちょっと覗いた市場は、王都の市場のようにぎらぎらしたものや異国のものはないが、食料も商品もどれも上質だった。

そんな坊ちゃんのアルフォードが、生まれは王都だが態度も素行も悪い俺を伴って実家に帰ってきているのは、後継者選びのためだ。

大体、こういうときは長兄が後を継ぐものだと決まっているが、バルク氏は3人の息子に婚約者を連れて帰るように言った。

長男のセシルはどこにも行かずにウォールクに留まり、バルク氏の手伝いをしている。婚約者のキャサリンはぽっちゃりして目がくりくりしてかわいい系だ。

次男のデギスはウォールクの隣領に住んでいる。婚約者のメアリーはゴージャスな巻き毛の美人系だ。

で、三男のアルフォードは、俺を伴っている。
って、これ勝ち目なくないか?

2人のお嬢さんたちは礼儀正しく両親に挨拶をし、和やかに会話を進めている。
出しゃばりもせず、かといって引っ込み思案すぎることもなく、とても感じがいい。

いいっ。

いいぞ!

かわいいなぁ。

バルク氏の思惑がどこにあるのかわからないが、今からでも遅くないから別の人のほうがいいんじゃないのか、アルフォードぉ。


俺たち2人とはほとんど言葉を交わさなかったエイガー夫妻だが、兄2人が連れてきた女性たちには好感を持ったらしい。
俺とは一言も話をしなかったが、あちらの6人はながながと会話を続けていた。


やっと客間での初対面の挨拶が終わり、用意されていた「俺たちの部屋」に戻った。
次は夕食のときに会うらしい。




部屋に入ると俺は気疲れしてベッドに倒れ込んだ。
慣れない服を着て、慣れない言葉遣いをして、慣れない人と会って。
王都はウォールクから一番遠いから、屋敷に到着したのさっきだぞ。
旅装を解く時間もほとんどないままの挨拶、ってどうよ。
あー、くたびれた。

「ザジ、婚約しよう」

「は?」

疲れてんのに、そんなあほなこと言わないでくれる?

「兄さんたちは『婚約の証』の書類と指輪を見せていた」

あー、そうだったな。
遠くからも宝石がキラキラしてた。

「あのさー、アルフォード。悪いことは言わない。今からでも遅くないから、他の奴にしろよ。おまえならいい女、たくさん知ってるんだろ?
王都なら何人か紹介できたのに」

「今更逃げる気か?」

「いや滅相もない」

「女にだらしないことで修羅場になったんだろう、ザジ」

うっ

「二股どころか4人の女性と同時に関わるだなんて、体力と性欲がよく持つよね。
挙げ句の果てには5人目の女に騙されて多額の借金を抱えて、修羅場になって、それでまた借金が膨らんで」

はうううううっ、もうそれ以上は言わないでっ。

「それを肩代わりしたのは?」

「………アルフォード」

「そう、僕だ。僕に協力をする、という条件で、だ。
今更これを反故にするつもりなら、利息をつけて僕が支払った額の倍を君に請求するよ」

ひょええええええ。

「払えるわけないじゃん」

「なら、僕の指示に従うんだ」

「でもなんで俺なんだよ。
ニセモノでも女のほうがいいじゃん」

「前にも言ったろ。もしその女性が本気になったらどうする?」

アルフォードも俺を避けてベッドに腰掛ける。
部屋にはでっかいベッドがひとつだけ。

「ザジも見ただろう、ウォールクの土地を」

ああ、うん。
想像以上だった。
アルフォードが想像以上に裕福な家の坊ちゃんで、次期領主になれば一生安泰で贅沢に暮らせそうだよなぁ。
おまけにアルフォードの美しさは王都でも有名だもんなぁ。

「それに。
女狂いのザジが男にその気になることはない」

「あ。うん」

「僕も恋愛対象は女性だ。君とどうこうなる気はない」

「だからって俺じゃなくても」

「借金倍額」

「へいへい」

「僕がいいというまで、僕のために働いてくれ」

「へーい」

「それで婚約のことだが」

「ちょ、待て。それは考え直せ、アルフォード!」



本気の正式の婚約をしてしまったら、この件が終了したあともややこしく面倒になってしまう!となんとか説き伏せたときには、すでに夕食時間が迫っていた。
全然休めなかった。




***
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