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第55話 銀のすすき原(3)
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俺がすがると暁の君様は穏やかに抱き寄せてくれた。
自分が想像しそうになった未来は恐ろしすぎる。
そして、なんて温かい腕。
俺は安心感に浸る。
「キヨノさんっ」
そのまま見たくない外界から逃げたくなって、暁の君様の胸に顔を埋めようとしたときに、名前を呼ばれた。
自分の肩越しに見ると、そこにはなりあきさまがいらした。
「私を見て、キヨノさん」
なりあきさまは必死に俺に叫ぶ。
「私は私たちが生きる世界で、共に生きるつもりです。
もし、このまま貴方にふれることが叶わないとしても」
なりあきさま
「スメラギ様に捕らわれることになったとしても、私は貴方をここに置いていくことはできない。
同じ世界で、生きたい。
貴方と共に生きていきたいっ」
俺はぼんやりとなりあきさまを見ている。
「帰りましょう、キヨノさん。私たちの生きる世界へ。
貴方のいない世界なんて私には意味がない」
なりあきさまの眉が八の字になる。
「一緒に帰れば、貴方にまたつらい思いをさせるでしょう。
寂しい思いも悲しい思いもさせます。
それでもっ、それでもなお、私は貴方と共にいることを選びます。
キヨノさんは私と一緒に生きるのです」
凛と響く声でなりあきさまはそう言うと、こちらに腕を伸ばし、広げた。
俺はなりあきさまの手を見た。
あの手、だったなぁ。
手荒れのない、白くて長い指の、なりあきさまの手。
最初に田村様のお屋敷周りを掃除していたら、突然この手を引かれて使用人の俺が玄関から中に入る、なんてことをさせられて。
革の手袋をわざわざ外して、俺の手を握ってくださったなぁ。
赤ん坊のように俺を抱っこしてなでるのも、あの手だなぁ。
少し骨ばっていて、舶来のペンで書き物をなさるから右の中指にタコがあって、そこはいつもインクでちょっと黒くなっている。
水仕事も雑用もなさったことのない、すべすべした手をしていらっしゃるのに俺のがさがさの手を「尊い手です」と言って、軟膏をすりこんでくれたなぁ。
川崎さんの蒸しパンにかぶりついたら「ついてますよ」とパンくずをほっぺたから取ってくれたのも、腹が減ってあっと言う間に食べきってしまった俺に「はい」となりあきさまの蒸しパンをちぎって口に入れてくれたのも、あの手だったなぁ。
夜にぎゅっとしてくれたり。
お仕事の革の鞄を持ったり。
優雅な所作で紅茶椀を持ち上げたり。
はじまりはあの手、だったなぁ。
急に、今俺を抱きしめている手が、それでないことに改めて気づいた。
この手も心地いいけれど、俺がいいのはなりあきさまの手だ。
「なり、あき、さま」
そうだ、なりあきさまのところに行かなくては。
この手ではない。
俺が好きなのは、この手ではない。
なりあきさまが伸ばした手を取りたいと身を乗り出そうとしたが、俺は身動きが取れなかった。
これまで安心できていた暁の君様の腕が檻のように思えた。
途端に俺は自分がいかに危険な状況であるのかを悟った。
なりあきさまでない人に身を任せ、なにも考えられなくなっていた。
ぞっとした。
あれだけいい匂いだと思っていた白檀も、今はただきつく不快なだけになってしまった。
「離してください、暁の君様。俺はなりあきさまのところに行くのです」
暁の君様の腕の隙間から俺はなりあきさまに向かって手を伸ばした。
それを見たなりあきさまの目が青く揺らいだ。
そして嬉しそうににっこりと笑って「キヨノさん」と俺の名前を呼んだ。
「なりあきさま。俺も一緒にっ。なりあきさまと一緒にっ」
暁の君様が俺を離さない。
「離してください」
暁の君様を見ると目が赤く揺らぐ。
「あれも私も同じ狐じゃ。私で構うまい。成明がスメラギに捕らわれてもいいと申すか」
「そ、んなことになったら、つらいですが。寂しいもつらいもたくさんだと思いますがっ」
自分のどこにこんな強い思いがあったのだろう。
「俺はなりあきさまの妻です。なりあきさまと一緒に生きます」
だから
「離してください」
いやだ、また涙が出てくる。本当に泣き虫になってしまった。
泣きじゃくりながら俺は精一杯、暁の君様の腕の中で暴れてみせた。
「なりあぎざまぁっ、なりあぎざまぁっ」
俺が落ちないように暁の君様は俺を抱えてくださる。
それでも俺は暴れる。
「暴れるでない、キヨノ」
「でば、おばなじぐだざ…うっうっ」
「泣くでない、キヨノ」
「なりあぎざまぁ」
「やれやれ、赤子だと思っていたがこれでは本当に赤子のようだ。
泣くな泣くな、キヨノ」
「ばなじでぇ」
「聞かん気の強いところも主様そっくりじゃ」
暁の君様は呆れた声を出した。
「成明がよいのか」
「ぶぁい」
「私より、成明がよいのか」
「はいっ」
俺はやけくそになって怒鳴りあげた。
瞬間、暁の君様は心底悲しそうな赤い目をしたような気がした。
もう一度確かめようとしたがその間もなく、俺は暁の君様の腕から放り出され尻から地に落ちた。
「ってぇ」
思わずつむってしまった目を開けると、そこには信じられない姿があった。
暁の君様が動いた跡はくっきりとすすきが左右になぎ倒されていた。
そして向かった先は腕を伸ばしていたなりあきさま。
暁の君様はなりあきさまの手首をつかむと、ぐいっとご自分のほうに引き寄せた。
なりあきさまは驚いて動けずにいる。
君様はもう一方の手でなりあきさまの頭の後ろの髪の毛をむんずとつかみ、そしてそのままご自分の顔をそこに近づけた。
ふぁっ
ききききききす
暁の君様となりあきさまが口吸いをなさっていた。
棒のように立っているなりあきさまを暁の君様は面白そうに見ている。
あ、今、べろを入れた。
暁の君様の口の動きでそれがわかった自分に呆れるやら照れるやらしながら、人様の接吻場面を見ているのもあいまって、自分の顔があっつあつになったのがわかった。
目が離せない。
暁の君様から赤い炎が広がる。それはすぐに赤い霧に変わり、辺りを包んでいく。
赤い霧に包まれたなりあきさまの頭にぴょこんと三角の耳が二つ飛び出た。すぐに太い尻尾も尻から出てきた。
あ、今、「子狐が」って暁の君様が目で言った。
あ、なりあきさまが怒った。
なりあきさまからは青い炎が広がり、同じように青い霧へと変わっていった。
暁の君様は喉の奥で笑うと、眉根を寄せ切なそうな赤い目を閉じた。
ほんの短い間のことなのに、俺にはひどくゆっくりで長い時間に思えた。
青い炎の勢いが増した。炎は青い霧となり赤い霧と混じる。
辺りは赤みをおびた紫の霧に覆われる。
俺は霧に飲まれないようにようやく立ち上がる。
あっ
赤い霧が噴出すると同じだけ、暁の君様のお姿がさらさらと砂が落ちるように薄く崩れていく。
「うわっ」
今度は赤い霧だけではなく風が暁の君様の足元から湧いて出る。
紫の霧は風の輪郭をつくる。
渦を巻いているのがよくわかる。
暁の君様のお姿はどんどんどんどん消えていく。
「わあああっ」
ごおごおと音を立てるほどの強風になり、俺は慌ててなりあきさまのほうに走る。
「キヨノさんっ」
霞んでいく暁の君様との口づけを振りほどき、なりあきさまが俺の名前を叫ぶ。
「なりあきさまぁっ」
風が、つよ、い。
吹き飛ばされそう。
俺は懸命に駆けていく。手を伸ばす。
なりあきさまも駆け出し、腕を伸ばす。
そんな俺たちの行く手を阻むような向かい風が、もう少しで届きそうななりあきさまの指先にさえふれることを拒む。
いやだ、このまま飛んでいきたくない。
「なり、あきさ、まっ」
「キヨノさーーーんっ」
ぶわりとなりあきさまの身体から出る炎の勢いが一瞬強くなった。風が弱まった。
俺の身体はすでに宙に巻き上げられていたが、なりあきさまが俺の手首をつかんだ。
な、なりあきさまぁぁっ
俺もなりあきさまにちょっとでも近づこうと泳ぐように手足をばたつかせる。
ぐいっとなりあきさまが俺の身体を引き寄せる。
俺はなりあきさまの首にもう片方の手を巻きつける。
なりあきさまは俺の身体を抱き留める。
なりあきさまだ!
そこには紫の目をしたなりあきさまがいた。
「うあああああああっ」
「ぐぅっうっ」
竜巻は俺たち二人を巻き上げた。
なりあきさまと俺は離れないように、お互いに必死で抱き合っていた。
もう目を開けていられない。
目をつぶり、歯を食いしばり、風に腕をほどかれないように力を込める。
ごうごうと風の音がする。
身体がばらばらになりそうだ。
竜巻に飲み込まれたまま、俺たちは天高く飛ばされた。
自分が想像しそうになった未来は恐ろしすぎる。
そして、なんて温かい腕。
俺は安心感に浸る。
「キヨノさんっ」
そのまま見たくない外界から逃げたくなって、暁の君様の胸に顔を埋めようとしたときに、名前を呼ばれた。
自分の肩越しに見ると、そこにはなりあきさまがいらした。
「私を見て、キヨノさん」
なりあきさまは必死に俺に叫ぶ。
「私は私たちが生きる世界で、共に生きるつもりです。
もし、このまま貴方にふれることが叶わないとしても」
なりあきさま
「スメラギ様に捕らわれることになったとしても、私は貴方をここに置いていくことはできない。
同じ世界で、生きたい。
貴方と共に生きていきたいっ」
俺はぼんやりとなりあきさまを見ている。
「帰りましょう、キヨノさん。私たちの生きる世界へ。
貴方のいない世界なんて私には意味がない」
なりあきさまの眉が八の字になる。
「一緒に帰れば、貴方にまたつらい思いをさせるでしょう。
寂しい思いも悲しい思いもさせます。
それでもっ、それでもなお、私は貴方と共にいることを選びます。
キヨノさんは私と一緒に生きるのです」
凛と響く声でなりあきさまはそう言うと、こちらに腕を伸ばし、広げた。
俺はなりあきさまの手を見た。
あの手、だったなぁ。
手荒れのない、白くて長い指の、なりあきさまの手。
最初に田村様のお屋敷周りを掃除していたら、突然この手を引かれて使用人の俺が玄関から中に入る、なんてことをさせられて。
革の手袋をわざわざ外して、俺の手を握ってくださったなぁ。
赤ん坊のように俺を抱っこしてなでるのも、あの手だなぁ。
少し骨ばっていて、舶来のペンで書き物をなさるから右の中指にタコがあって、そこはいつもインクでちょっと黒くなっている。
水仕事も雑用もなさったことのない、すべすべした手をしていらっしゃるのに俺のがさがさの手を「尊い手です」と言って、軟膏をすりこんでくれたなぁ。
川崎さんの蒸しパンにかぶりついたら「ついてますよ」とパンくずをほっぺたから取ってくれたのも、腹が減ってあっと言う間に食べきってしまった俺に「はい」となりあきさまの蒸しパンをちぎって口に入れてくれたのも、あの手だったなぁ。
夜にぎゅっとしてくれたり。
お仕事の革の鞄を持ったり。
優雅な所作で紅茶椀を持ち上げたり。
はじまりはあの手、だったなぁ。
急に、今俺を抱きしめている手が、それでないことに改めて気づいた。
この手も心地いいけれど、俺がいいのはなりあきさまの手だ。
「なり、あき、さま」
そうだ、なりあきさまのところに行かなくては。
この手ではない。
俺が好きなのは、この手ではない。
なりあきさまが伸ばした手を取りたいと身を乗り出そうとしたが、俺は身動きが取れなかった。
これまで安心できていた暁の君様の腕が檻のように思えた。
途端に俺は自分がいかに危険な状況であるのかを悟った。
なりあきさまでない人に身を任せ、なにも考えられなくなっていた。
ぞっとした。
あれだけいい匂いだと思っていた白檀も、今はただきつく不快なだけになってしまった。
「離してください、暁の君様。俺はなりあきさまのところに行くのです」
暁の君様の腕の隙間から俺はなりあきさまに向かって手を伸ばした。
それを見たなりあきさまの目が青く揺らいだ。
そして嬉しそうににっこりと笑って「キヨノさん」と俺の名前を呼んだ。
「なりあきさま。俺も一緒にっ。なりあきさまと一緒にっ」
暁の君様が俺を離さない。
「離してください」
暁の君様を見ると目が赤く揺らぐ。
「あれも私も同じ狐じゃ。私で構うまい。成明がスメラギに捕らわれてもいいと申すか」
「そ、んなことになったら、つらいですが。寂しいもつらいもたくさんだと思いますがっ」
自分のどこにこんな強い思いがあったのだろう。
「俺はなりあきさまの妻です。なりあきさまと一緒に生きます」
だから
「離してください」
いやだ、また涙が出てくる。本当に泣き虫になってしまった。
泣きじゃくりながら俺は精一杯、暁の君様の腕の中で暴れてみせた。
「なりあぎざまぁっ、なりあぎざまぁっ」
俺が落ちないように暁の君様は俺を抱えてくださる。
それでも俺は暴れる。
「暴れるでない、キヨノ」
「でば、おばなじぐだざ…うっうっ」
「泣くでない、キヨノ」
「なりあぎざまぁ」
「やれやれ、赤子だと思っていたがこれでは本当に赤子のようだ。
泣くな泣くな、キヨノ」
「ばなじでぇ」
「聞かん気の強いところも主様そっくりじゃ」
暁の君様は呆れた声を出した。
「成明がよいのか」
「ぶぁい」
「私より、成明がよいのか」
「はいっ」
俺はやけくそになって怒鳴りあげた。
瞬間、暁の君様は心底悲しそうな赤い目をしたような気がした。
もう一度確かめようとしたがその間もなく、俺は暁の君様の腕から放り出され尻から地に落ちた。
「ってぇ」
思わずつむってしまった目を開けると、そこには信じられない姿があった。
暁の君様が動いた跡はくっきりとすすきが左右になぎ倒されていた。
そして向かった先は腕を伸ばしていたなりあきさま。
暁の君様はなりあきさまの手首をつかむと、ぐいっとご自分のほうに引き寄せた。
なりあきさまは驚いて動けずにいる。
君様はもう一方の手でなりあきさまの頭の後ろの髪の毛をむんずとつかみ、そしてそのままご自分の顔をそこに近づけた。
ふぁっ
ききききききす
暁の君様となりあきさまが口吸いをなさっていた。
棒のように立っているなりあきさまを暁の君様は面白そうに見ている。
あ、今、べろを入れた。
暁の君様の口の動きでそれがわかった自分に呆れるやら照れるやらしながら、人様の接吻場面を見ているのもあいまって、自分の顔があっつあつになったのがわかった。
目が離せない。
暁の君様から赤い炎が広がる。それはすぐに赤い霧に変わり、辺りを包んでいく。
赤い霧に包まれたなりあきさまの頭にぴょこんと三角の耳が二つ飛び出た。すぐに太い尻尾も尻から出てきた。
あ、今、「子狐が」って暁の君様が目で言った。
あ、なりあきさまが怒った。
なりあきさまからは青い炎が広がり、同じように青い霧へと変わっていった。
暁の君様は喉の奥で笑うと、眉根を寄せ切なそうな赤い目を閉じた。
ほんの短い間のことなのに、俺にはひどくゆっくりで長い時間に思えた。
青い炎の勢いが増した。炎は青い霧となり赤い霧と混じる。
辺りは赤みをおびた紫の霧に覆われる。
俺は霧に飲まれないようにようやく立ち上がる。
あっ
赤い霧が噴出すると同じだけ、暁の君様のお姿がさらさらと砂が落ちるように薄く崩れていく。
「うわっ」
今度は赤い霧だけではなく風が暁の君様の足元から湧いて出る。
紫の霧は風の輪郭をつくる。
渦を巻いているのがよくわかる。
暁の君様のお姿はどんどんどんどん消えていく。
「わあああっ」
ごおごおと音を立てるほどの強風になり、俺は慌ててなりあきさまのほうに走る。
「キヨノさんっ」
霞んでいく暁の君様との口づけを振りほどき、なりあきさまが俺の名前を叫ぶ。
「なりあきさまぁっ」
風が、つよ、い。
吹き飛ばされそう。
俺は懸命に駆けていく。手を伸ばす。
なりあきさまも駆け出し、腕を伸ばす。
そんな俺たちの行く手を阻むような向かい風が、もう少しで届きそうななりあきさまの指先にさえふれることを拒む。
いやだ、このまま飛んでいきたくない。
「なり、あきさ、まっ」
「キヨノさーーーんっ」
ぶわりとなりあきさまの身体から出る炎の勢いが一瞬強くなった。風が弱まった。
俺の身体はすでに宙に巻き上げられていたが、なりあきさまが俺の手首をつかんだ。
な、なりあきさまぁぁっ
俺もなりあきさまにちょっとでも近づこうと泳ぐように手足をばたつかせる。
ぐいっとなりあきさまが俺の身体を引き寄せる。
俺はなりあきさまの首にもう片方の手を巻きつける。
なりあきさまは俺の身体を抱き留める。
なりあきさまだ!
そこには紫の目をしたなりあきさまがいた。
「うあああああああっ」
「ぐぅっうっ」
竜巻は俺たち二人を巻き上げた。
なりあきさまと俺は離れないように、お互いに必死で抱き合っていた。
もう目を開けていられない。
目をつぶり、歯を食いしばり、風に腕をほどかれないように力を込める。
ごうごうと風の音がする。
身体がばらばらになりそうだ。
竜巻に飲み込まれたまま、俺たちは天高く飛ばされた。
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