地味子が悪役令嬢を破滅させる逆転物語

日本のスターリン

文字の大きさ
20 / 36

20章 夏休みの海水浴

しおりを挟む
関都と慈美子は学校の廊下の隅で楽しく談笑していた。夏休みの計画について話していたのである。そこに城之内と三バカトリオがやってきた。

「ほほほ!ごきげんようですわ!」
「ご、ごきげんよう…」
「夏休みはわたくしのプライベートビーチに行きません?」
「プライベートビーチですって!?」
「行く行く行く!」
「プライベートビーチですから、わたくしたち以外他の誰も居ません事よ!」

 行くと連呼する関都は子どものようにはしゃいだ。慈美子も心躍っている。しかし、城之内は困ったような表情をする。

「悪いけれど、このビーチ5人用ですの!」
「そゆこと!」
「悪いけれど地味子さんは」
「お留守番よ!」

 それを聞いた関都はむっとした表情になった。まるで殺人犯を睨みつける被害者遺族のようである。

「慈美子を仲間外れにするんだったら僕も行かない!」
「!…。ほほほほほ!冗談ですわ!今回は特別に6人に拡張致しますわ!じ、地味子さんもどうぞ!」
「やったわ!!!愉しみね!関都くん!」
「うん!」

 こうして5人は城之内のプライベートビーチに招待された。

 そして夏休みの某日。ついに約束の日がやってきた。そこは6人しかいない完全なプライベートビーチだった。

「ほほほほほ!」

 城之内は大きい胸を見せつけるような派手な切り込みが入ったデザインの真っ赤なビキニを着ていた。勿論、今回はパッドなど入れていなかった。
 一方で慈美子も真っ赤なビキニで大きな胸を揺らしていた。城之内は皆を取り仕切ろうとする。

「ささ!皆様楽しく泳ぎましょう!」
「よ~し!泳ぐわよ~!」

 そう宣言する慈美子も城之内も大きな浮き輪を付けていた。2人ともカナヅチではないが、プールと違い波ある海ではこれが無いと上手く泳げず不安なのである。
 そんな2人に関都は注意する。

「ははは!はしゃぐなよ!まずは準備運動だろ!」
「ふふふ!そうだったわ!」
「わたくしったらうっかり!」

 こうして6人は準備運動し、海へ入った。海に入った6人はビニールプールに入った子どものように大はしゃぎした。誰も居ないから気を遣う必要が全くないのである。
 6人は水を掛け合ったり、鬼ごっこをしたりととにかく楽しんだ。皆童心に帰るようであった。

「んー!大分疲れたな~」

 関都を始め、遊び疲れた5人は浜辺のパラソルの下で一休みしていた。そこに城之内がゴムボートを持ってやってきた。

「泳ぎつかれたのならこれに乗りません?悪いけどこれは本当に5人乗りなの…ですから地味子さんは悪いけれど…」
「いいや!ここは公平にジャンケンにすべきだ!ゴムボートの持ち主である城之内を除いた5人でジャンケンして負けた人が乗れない事にしよう」
「うぅ…分かりましたわ…」
「それじゃあ!最初はグー!」
「じゃん・けん!」
「ポン!!!」

 負けたのは慈美子と関都だった。慈美子の勝利など誰も望んではいなかった。そんな張り詰める空気の中、慈美子はジャンケンに臨んだ。

「最初はグー!」
「じゃん・けん!ポン!」
「あいこで…」
「しょ!」
「ポン!」

 勝ったのは慈美子であった。城之内達はあからさまにがっかりしたような表情になる。まるで受験で落第した浪人生の様である。

「ははは、言い出しっぺの僕が負けかー。僕ジャンケンには自信がないからなぁ。サイコロにでもすればよかったよ!」

 こうして関都を残して5人はゴムボートで沖に出た。漕がされているのは勿論、慈美子である。
 そんな慈美子を城之内はコキ使う。

「ちょっともう少しスピード出ませんの?」
「精一杯やってるわよ!」

 慈美子はタービンのようにひたすらゴムボートを漕ぎ続けた。しかし、さすがに疲れが出てきた。
 慈美子はため息交じりに、漕ぐ手を休めた。

「もう疲れたわぁ」
「もう!早すぎますわぁ!」
「役に立たないわね!」
「できそこない!」
「うすのろ!」

 城之内に加勢するように三バカトリオが罵詈罵声を慈美子に浴びせた。慈美子は疲れ顔ながらも反論する。

「ちょっと!そこまで言わなくてもいいでしょ~!ちょっと一休みするだけよ!」

 一方、関都は飲み物を取りのビーチから席を外した。それを城之内は見逃さなかった。この時を待っていたのである。株を守ってウサギを待っていた農民のように虎視眈々とこの時を狙っていたのである。

「漕げないんでしたら、降りて貰いますわ!」
「な!?なにするのよ!」

 ドボーン!!!

 慈美子は城之内に突き落とされてしまった。慈美子は必死に犬かきで泳ぐ。その姿はまさに野良犬の様であった。

「ささ!はやくお漕ぎなさい!」

 城之内は三バカトリオに指示を出し、三バカトリオはボートを漕いで、慈美子からぐんぐんと離れていった。
 慈美子は必死に体制を立て直し、平泳ぎで岸を目指した。しかし、波が邪魔をし、中々前に進めない。慈美子はカナヅチではなかったが、泳ぎが下手で、海では全く歯が立たないのであった。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 慈美子の体力はどんどん奪われていく。そして、ついに疲れ始めた。もはや泳ぐ体力も残っていない。慈美子は溺れかけてしまった。

バシャバシャバシャ!バシャバシャ!!!

 慈美子はついに完全に溺れてしまった。もはやパニック状態である!慈美子は意識がどんどん薄れていった。まるでフランダースの犬の最終回のネロのように…。
しかし、関都はそれを見逃さなかった!飲み物を取って戻ってきた関都は、飲み物を投げ出し、急いで海に飛び込んだ!

「慈美子~!慈美子!!」
「あぷ…あぷ…!関…都く…ん…!」

 慈美子の元に関都が泳ぎつけると、慈美子は意識を失った—―。



スゥ~!
ハァ~!ハァ~!



 慈美子は目を覚ました。すると目に入ってきたのは関都の顔である。
 なんと関都は慈美子に人工呼吸していたのだ!

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 慈美子は荒々しいながらも呼吸を取り戻した。フルマラソンで走り終わったランナーのように呼吸が乱れていた。

「おう慈美子!意識が戻ったのか!?」
「え、ええ!」

 人工呼吸はキスではない。人工呼吸は飽くまでも救命行為であって接吻ではないのだ。しかし、慈美子はまるでキスでもされたかのように頬が真っ赤になったのだ。

「顔が少し赤いぞ?大丈夫か」
「ええ…大丈夫よ…」

 人工呼吸はキスではない。それは頭では分かっていた。しかし、キスをされたのと気持ち的には変わらなかったのだ。あまりの嬉しさに動悸が激しくなった。

「息も荒いし、脈も速いな…これは今日は泳ぐのを止めた方が良さそうだ…」

 関都は慈美子にドクターストップを出した。
 それを悔しそうに見ていたのは他ならぬ城之内であった。城之内は裁判で負けた原告のように悔しがった。

(い~!関都さんに人工呼吸をしてもらうなんてズルイですわ!)

「それにしても、ボートから落ちるなんてドジだなぁ!」
「え?ええ…。てへへ」
「放っておけないから暫く慈美子の看病を続けるよ。4人で楽しんでくれ」
「え?!ええ…。分かりましたわ」

 城之内は悔しそうにその場を後にした。関都は看取るような目で慈美子を看病した。慈美子はまだ興奮が収まらなかった。そんな慈美子に追い打ちをかけるような事を関都は言う。

「念のため心臓マッサージもしたんだぜ!」
「え!?」

 慈美子は顔がコカ・コーラのように真っ赤になった。人工呼吸は飽くまでも救命行為で性的な物ではない。頭では分かっている。しかし、心臓マッサージをされたという事は胸を触られたという事である。関都には他意はなかったが、その言葉に、慈美子は嬉し、恥ずかしかった。
 そんな慈美子を関都は心配そうに見つめる…。

「ん?顔は赤いし、脈も速いし呼吸もまだ粗いな…一応病院に行った方が良いか?」
「いいえ!大丈夫よ!」

 原因は分かっていた。動機も激しい呼吸も溺れたせいではない。すべて関都への慕情からくるものが原因である。完全に元気を取り戻した慈美子は気丈に振舞った。

「もう大丈夫だから!関都くんも遊んできて!」
「え~?ちっとも大丈夫そうに見えないぞ~?」
「いーから!さぁ!私は大丈夫よ!休んでるから!」

 関都にいつまでもそばに居られると恥ずかしくて呼吸も動機も収まらない。少し1人で頭を冷やしたくなったのだ。関都はリュックから何かを取り出し、慈美子に差し出した。

「じゃあ、ここに防犯ブザーを置いておくから、何かあったらすぐ鳴らしてくれ!急いで飛んでいくから!」
「ええ!ありがとう!」

 慈美子は関都を戦争に送り出す母親のように見送った。慈美子は気分が大変高揚していた。すっかり全能感に満ち溢れていた。

「今日は人生最高の日だったわ!夏休み早々幸先が良いわ!」

 慈美子はすっかりファーストキスした気になって浮かれていた。しかし、本当のファーストキスをするのはもう少し先の事である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...