1 / 13
小夜曲ユキ
しおりを挟む
それは春休みに入りたての頃のこと。
僕は、お気に入りの場所でくつろいでいた。
そのお気に入りの場所というのが、満開の桜の木の下。
僕はこの場所が何よりもお気に入りだった。
この満開の桜の周りには桜を囲うように池があった。
「ふぅ……」
僕は桜の木に寄っかかりながらそう息を漏らす。
今、中学校の卒業式が終了した。友達や恋人のいなかった僕は卒業パーティーとか言うぼっちが笑われる行事には行かず、ただ一人、静かに佇んでいた。
ざぁっと。春風が吹く。
それは冬のような冷たい風ではなく、春の訪れを知らせてくれる温かい風であった。
そして。
その風に乗って届く声があった。
「綺麗な場所だねぇ~」
その声は僕の後ろから聞こえた。女の子の声だった。
多分、声の主もまた僕のように桜の木に寄っかかりながらくつろいでいるんだろう。
「……そうだね」
僕は適当に相槌を返した。
「どうして平日の真昼間にこんなところに? もしかしてサボり?」
「……単に卒業式なだけだよ。昼間に終わったからここにきてるだけ。そういう君こそこんな平日の昼間にどうしてここにいるんだ?」
「んー、気づいたらここにいたって感じかなぁ」
「なんだそりゃ」
適当に歩いてたらここに辿り着いたんだろうか。
「どうだったの? 学校生活は」
「別になんてことはないよ。授業受けて、そして帰るだけ。そんな変わり映えのしない無限ループの生活だよ」
「寂しい学校生活だね」
くすりと笑う声がした。
「ほっといてくれ」
顔を逸らしながら僕はそう言った。
「就職? それとも進学?」
「……進学だよ、僕はまだ中学生だ」
「中学生終わってるけどね」
「卒業式が終わっただけで卒業はまだしてないよ。三月の三十一日までは僕は中学生だ」
「揚げ足を取らないでよ」
「取ってるのは君だ」
「ふふっ……」
なにが面白いのか、女はくすくすと笑っている。
「中学生なのに随分と大人ぶるんだね。私が年上だったらどうするの?」
「すぐに敬語にする」
「残念、同年代だよ」
「なにが言いたいんだ……」
なんだか話していると頭が痛くなってくる。
「さて、それじゃあ私はそろそろ」
「あぁ、さよなら。もう会うことはないだろうけど」
「さぁ、どうだろうね。あと、貴方の名前を教えてもらってもいい?」
言うかどうか迷ったが、別に言っても言わなくても変わらないだろうと考えた僕は自分の名前を口にする。
「……奈羅誠(ならまこと)」
「ふふっ、変な名前」
「う、うるさい! 僕だってこの名前にコンプレックスを持ってるんだ!」
声を荒げたあと、僕は問う。
「そういう君はどんな名前なんだ」
「小夜曲ユキ(さよきょくゆき)」
そうして遠ざかっていく足音。
「変な女だったなぁ……」
……と、残された僕はそう呟いたのだった。
僕は、お気に入りの場所でくつろいでいた。
そのお気に入りの場所というのが、満開の桜の木の下。
僕はこの場所が何よりもお気に入りだった。
この満開の桜の周りには桜を囲うように池があった。
「ふぅ……」
僕は桜の木に寄っかかりながらそう息を漏らす。
今、中学校の卒業式が終了した。友達や恋人のいなかった僕は卒業パーティーとか言うぼっちが笑われる行事には行かず、ただ一人、静かに佇んでいた。
ざぁっと。春風が吹く。
それは冬のような冷たい風ではなく、春の訪れを知らせてくれる温かい風であった。
そして。
その風に乗って届く声があった。
「綺麗な場所だねぇ~」
その声は僕の後ろから聞こえた。女の子の声だった。
多分、声の主もまた僕のように桜の木に寄っかかりながらくつろいでいるんだろう。
「……そうだね」
僕は適当に相槌を返した。
「どうして平日の真昼間にこんなところに? もしかしてサボり?」
「……単に卒業式なだけだよ。昼間に終わったからここにきてるだけ。そういう君こそこんな平日の昼間にどうしてここにいるんだ?」
「んー、気づいたらここにいたって感じかなぁ」
「なんだそりゃ」
適当に歩いてたらここに辿り着いたんだろうか。
「どうだったの? 学校生活は」
「別になんてことはないよ。授業受けて、そして帰るだけ。そんな変わり映えのしない無限ループの生活だよ」
「寂しい学校生活だね」
くすりと笑う声がした。
「ほっといてくれ」
顔を逸らしながら僕はそう言った。
「就職? それとも進学?」
「……進学だよ、僕はまだ中学生だ」
「中学生終わってるけどね」
「卒業式が終わっただけで卒業はまだしてないよ。三月の三十一日までは僕は中学生だ」
「揚げ足を取らないでよ」
「取ってるのは君だ」
「ふふっ……」
なにが面白いのか、女はくすくすと笑っている。
「中学生なのに随分と大人ぶるんだね。私が年上だったらどうするの?」
「すぐに敬語にする」
「残念、同年代だよ」
「なにが言いたいんだ……」
なんだか話していると頭が痛くなってくる。
「さて、それじゃあ私はそろそろ」
「あぁ、さよなら。もう会うことはないだろうけど」
「さぁ、どうだろうね。あと、貴方の名前を教えてもらってもいい?」
言うかどうか迷ったが、別に言っても言わなくても変わらないだろうと考えた僕は自分の名前を口にする。
「……奈羅誠(ならまこと)」
「ふふっ、変な名前」
「う、うるさい! 僕だってこの名前にコンプレックスを持ってるんだ!」
声を荒げたあと、僕は問う。
「そういう君はどんな名前なんだ」
「小夜曲ユキ(さよきょくゆき)」
そうして遠ざかっていく足音。
「変な女だったなぁ……」
……と、残された僕はそう呟いたのだった。
46
あなたにおすすめの小説
春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる
釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。
他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。
そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。
三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。
新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。
高校生なのに娘ができちゃった!?
まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!?
そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。
昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件
マサタカ
青春
俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。
あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。
そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。
「久しぶりですね、兄さん」
義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。
ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。
「矯正します」
「それがなにか関係あります? 今のあなたと」
冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。
今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人?
ノベルアッププラスでも公開。
付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話
頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。
綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。
だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。
中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。
とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。
高嶺の花。
そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。
だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。
しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。
それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。
他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。
存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。
両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。
拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。
そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。
それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。
イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。
付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件
暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる