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第1話 怠惰な悪役貴族に転生
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「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ」
俺は目を覚ます。俺の名前は佐藤哲郎(さとうてつろう)。30代のブラック企業で働くしがないサラリーマンだ。俺は日夜のブラック労働のストレス発散の為、徹夜でゲームをする事を日課にしていた。その事は覚えている。
いつも通り俺はゲームをプレイして夜を過ごした。このまま朝が来なければいいのに。そう思いながら。そして記憶はそこで途切れていた。
目を覚ました俺はベッドから降りた。辺りを見渡す。俺の部屋ではなかった。だが、どこか見覚えがある部屋。まるで中世の世界にワープしたかのような印象を受けた。
大きな掛け時計を見る。どうやら昼の12時を過ぎていた。会社なら始業時間は過ぎていて、昼休みになっている事だろう。俺の会社では昼休みなどろくに与えられずに、業務に追われる事など珍しくもなんともなかったが。だが、今はもう会社どころではない。
俺は鏡を見た。大きな鏡だった。俺の姿が映し出される。
「こ……これが……俺か?」
俺は驚いた。
そこにいたのは黒髪と白い肌をした10歳くらいの美少年だ。外国人のような見た目をしている。白い肌と整った顔立ち。しかし、その冷徹な眼からはどこか傲慢さが滲み出ていた。間違いない。
これは俺がプレイしていた大作RPG『エレメントサーガ』に登場する悪役貴族アーサー・フィン・オルレアンの姿だ。ただ、俺が知っている姿よりかは少々幼い。主人公(プレイヤー)がアーサーと対峙するのは魔法学園に入学してからの事。その時はもっと大人らしい顔つきと身体つきをしていた。そしてもっと傲慢でイヤみたらしい眼光をしていたのだ。だからこの姿はゲームが始まるよりも何年か前の姿なのだろう。
その時。コンコンとノックの音がした。
「誰? 入っていいよ」
重そうなドアが開かれ、メイド服を着た女性が部屋を訪れた。
「ねぇ。どうして僕はこんな時間に起きているの?」
「も、申し訳ありません。アーサー様。午前中には剣術の稽古と魔法の座学がありましたが、アーサー様がだるいから決して起こさないようにとご命令を」
「……そうか。僕が命令したのか」
「しょ、食事をお持ちしますがいかがいたしましょうか?」
「食事? 僕、今日寝てただけでしょ。何もしていないのに、ご飯を食べていいの?」
「そ、それはもう。アーサー様はそれが可能なお立場ですから」
メイドは苦笑する。『働かざる者食うべからず』なんて言葉はこの世界にはないようであった。俺は内心、ガッツポーズをする。
◇
俺の部屋にはとても昼食とは思えない豪華な食事が運ばれてきた。七面鳥の丸焼きにローストビーフ。ライスからパン、それからサラダ。さらにはデザートまで豊富にある。まるでバイキング会場に来ているかのようだ。
働いてもいないのにこんな食事に在りつけていいのかと疑いたくなる。
ガツガツガツガツガツガツガツ。
「げっぷ! ふぅ……食った、食った!」
俺は異様な程の食欲でその料理を食い尽くした。横で控えていたメイドが目を丸くしていた。前世の世界ではろくに食事もとれず、カップラーメンとコンビニおにぎりが主だったからなー。それだけ、まともな食事に飢えていたのだ。それは俺にとっては久々に食べるまともな食事、って奴だった。
俺が食事を終えると控えていたメイドがそそくさと食器を片付け始めた。なんて最高なんだ。飯を食った後に片付けなくていい。これがどれほど幸せな事か。
一人暮らしの独身中年だと、食器洗うの面倒くさくて料理しなくなるんだよなぁ。一人暮らしの独身中年ではあるあるだと思うんだよな。
片付けが終わった後、またメイドがやってきた。
「あ、アーサー様。午後の魔法の実践授業はいかがいたしましょうか? 屋敷まで講師の方をお招きしているのですが」
「あー。だるいなー。そんな授業受けるわけないじゃん。だってだるいもん。僕程の才能があれば、努力しなくたっていいんだよ。努力なんていうのは、才能のない凡人のする事さ。僕には不必要な事なんだよ。と、いうわけで講師の人には悪いけど帰って貰っていいよ」
「はぁ……そうですか。で、ではそのように致します」
俺にはこのゲームの世界の知識がある。このアーサーの父と母は息子にゲロ甘だもので、どんなに鍛錬や勉学をサボって怠惰に過ごしたところで決して厳しく叱責をしてはこないのだ。
「僕、これからゴロ寝するから夕食の時まで起こさなくていいよ」
「は、はぁ。さ、左様でありますか。でしたらそのように致します」
メイドが俺の部屋から出て行った瞬間、ふかふかのベッドにダイブする。
さ、最高だ。最高すぎる。この環境は俺が夢にまで見ていた環境だ。働かなくてもおいしい御飯の食べられる環境。いつまでもゴロゴロと寝ていてもいい環境。
俺は怠惰な悪役貴族アーサー・フィン・オルレアンに生まれかわったのだ。せっかくこうして生まれ変わったのだから、俺は徹底的に怠惰にダラダラとこの人生を過ごしてやろうと思った。この世界を怠惰に満喫してやろうと思ったのだ。
だが、その時の俺は忘れていた。悪役貴族アーサーがその怠惰さと傲慢さ故に、数多のルートで必ず凄惨な死亡エンドを迎えているという事に。
ある時は主人公との決闘で敗れ死亡。ある時は魔族に仲間を売り渡して自分だけ助かろうと命乞いをしたのに処刑され、またある時は敵の力を舐め腐って爆散する。
そんな怠惰と傲慢さのツケを数年後に払わされるにも関わらず。
俺はそんな事は何も考えずに呑気に眠りについたのであった。
俺は目を覚ます。俺の名前は佐藤哲郎(さとうてつろう)。30代のブラック企業で働くしがないサラリーマンだ。俺は日夜のブラック労働のストレス発散の為、徹夜でゲームをする事を日課にしていた。その事は覚えている。
いつも通り俺はゲームをプレイして夜を過ごした。このまま朝が来なければいいのに。そう思いながら。そして記憶はそこで途切れていた。
目を覚ました俺はベッドから降りた。辺りを見渡す。俺の部屋ではなかった。だが、どこか見覚えがある部屋。まるで中世の世界にワープしたかのような印象を受けた。
大きな掛け時計を見る。どうやら昼の12時を過ぎていた。会社なら始業時間は過ぎていて、昼休みになっている事だろう。俺の会社では昼休みなどろくに与えられずに、業務に追われる事など珍しくもなんともなかったが。だが、今はもう会社どころではない。
俺は鏡を見た。大きな鏡だった。俺の姿が映し出される。
「こ……これが……俺か?」
俺は驚いた。
そこにいたのは黒髪と白い肌をした10歳くらいの美少年だ。外国人のような見た目をしている。白い肌と整った顔立ち。しかし、その冷徹な眼からはどこか傲慢さが滲み出ていた。間違いない。
これは俺がプレイしていた大作RPG『エレメントサーガ』に登場する悪役貴族アーサー・フィン・オルレアンの姿だ。ただ、俺が知っている姿よりかは少々幼い。主人公(プレイヤー)がアーサーと対峙するのは魔法学園に入学してからの事。その時はもっと大人らしい顔つきと身体つきをしていた。そしてもっと傲慢でイヤみたらしい眼光をしていたのだ。だからこの姿はゲームが始まるよりも何年か前の姿なのだろう。
その時。コンコンとノックの音がした。
「誰? 入っていいよ」
重そうなドアが開かれ、メイド服を着た女性が部屋を訪れた。
「ねぇ。どうして僕はこんな時間に起きているの?」
「も、申し訳ありません。アーサー様。午前中には剣術の稽古と魔法の座学がありましたが、アーサー様がだるいから決して起こさないようにとご命令を」
「……そうか。僕が命令したのか」
「しょ、食事をお持ちしますがいかがいたしましょうか?」
「食事? 僕、今日寝てただけでしょ。何もしていないのに、ご飯を食べていいの?」
「そ、それはもう。アーサー様はそれが可能なお立場ですから」
メイドは苦笑する。『働かざる者食うべからず』なんて言葉はこの世界にはないようであった。俺は内心、ガッツポーズをする。
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俺の部屋にはとても昼食とは思えない豪華な食事が運ばれてきた。七面鳥の丸焼きにローストビーフ。ライスからパン、それからサラダ。さらにはデザートまで豊富にある。まるでバイキング会場に来ているかのようだ。
働いてもいないのにこんな食事に在りつけていいのかと疑いたくなる。
ガツガツガツガツガツガツガツ。
「げっぷ! ふぅ……食った、食った!」
俺は異様な程の食欲でその料理を食い尽くした。横で控えていたメイドが目を丸くしていた。前世の世界ではろくに食事もとれず、カップラーメンとコンビニおにぎりが主だったからなー。それだけ、まともな食事に飢えていたのだ。それは俺にとっては久々に食べるまともな食事、って奴だった。
俺が食事を終えると控えていたメイドがそそくさと食器を片付け始めた。なんて最高なんだ。飯を食った後に片付けなくていい。これがどれほど幸せな事か。
一人暮らしの独身中年だと、食器洗うの面倒くさくて料理しなくなるんだよなぁ。一人暮らしの独身中年ではあるあるだと思うんだよな。
片付けが終わった後、またメイドがやってきた。
「あ、アーサー様。午後の魔法の実践授業はいかがいたしましょうか? 屋敷まで講師の方をお招きしているのですが」
「あー。だるいなー。そんな授業受けるわけないじゃん。だってだるいもん。僕程の才能があれば、努力しなくたっていいんだよ。努力なんていうのは、才能のない凡人のする事さ。僕には不必要な事なんだよ。と、いうわけで講師の人には悪いけど帰って貰っていいよ」
「はぁ……そうですか。で、ではそのように致します」
俺にはこのゲームの世界の知識がある。このアーサーの父と母は息子にゲロ甘だもので、どんなに鍛錬や勉学をサボって怠惰に過ごしたところで決して厳しく叱責をしてはこないのだ。
「僕、これからゴロ寝するから夕食の時まで起こさなくていいよ」
「は、はぁ。さ、左様でありますか。でしたらそのように致します」
メイドが俺の部屋から出て行った瞬間、ふかふかのベッドにダイブする。
さ、最高だ。最高すぎる。この環境は俺が夢にまで見ていた環境だ。働かなくてもおいしい御飯の食べられる環境。いつまでもゴロゴロと寝ていてもいい環境。
俺は怠惰な悪役貴族アーサー・フィン・オルレアンに生まれかわったのだ。せっかくこうして生まれ変わったのだから、俺は徹底的に怠惰にダラダラとこの人生を過ごしてやろうと思った。この世界を怠惰に満喫してやろうと思ったのだ。
だが、その時の俺は忘れていた。悪役貴族アーサーがその怠惰さと傲慢さ故に、数多のルートで必ず凄惨な死亡エンドを迎えているという事に。
ある時は主人公との決闘で敗れ死亡。ある時は魔族に仲間を売り渡して自分だけ助かろうと命乞いをしたのに処刑され、またある時は敵の力を舐め腐って爆散する。
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