怠惰な悪役貴族は変わらず怠惰に過ごしたい。死亡フラグを回避する為に【闇魔法】を極めてたら正ヒロインに好意を持たれたのだが。

つくも/九十九弐式

文字の大きさ
1 / 39

第1話 怠惰な悪役貴族に転生

しおりを挟む
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ」

俺は目を覚ます。俺の名前は佐藤哲郎(さとうてつろう)。30代のブラック企業で働くしがないサラリーマンだ。俺は日夜のブラック労働のストレス発散の為、徹夜でゲームをする事を日課にしていた。その事は覚えている。

いつも通り俺はゲームをプレイして夜を過ごした。このまま朝が来なければいいのに。そう思いながら。そして記憶はそこで途切れていた。

目を覚ました俺はベッドから降りた。辺りを見渡す。俺の部屋ではなかった。だが、どこか見覚えがある部屋。まるで中世の世界にワープしたかのような印象を受けた。
大きな掛け時計を見る。どうやら昼の12時を過ぎていた。会社なら始業時間は過ぎていて、昼休みになっている事だろう。俺の会社では昼休みなどろくに与えられずに、業務に追われる事など珍しくもなんともなかったが。だが、今はもう会社どころではない。

俺は鏡を見た。大きな鏡だった。俺の姿が映し出される。

「こ……これが……俺か?」

俺は驚いた。
そこにいたのは黒髪と白い肌をした10歳くらいの美少年だ。外国人のような見た目をしている。白い肌と整った顔立ち。しかし、その冷徹な眼からはどこか傲慢さが滲み出ていた。間違いない。

これは俺がプレイしていた大作RPG『エレメントサーガ』に登場する悪役貴族アーサー・フィン・オルレアンの姿だ。ただ、俺が知っている姿よりかは少々幼い。主人公(プレイヤー)がアーサーと対峙するのは魔法学園に入学してからの事。その時はもっと大人らしい顔つきと身体つきをしていた。そしてもっと傲慢でイヤみたらしい眼光をしていたのだ。だからこの姿はゲームが始まるよりも何年か前の姿なのだろう。

その時。コンコンとノックの音がした。

「誰? 入っていいよ」

重そうなドアが開かれ、メイド服を着た女性が部屋を訪れた。

「ねぇ。どうして僕はこんな時間に起きているの?」

「も、申し訳ありません。アーサー様。午前中には剣術の稽古と魔法の座学がありましたが、アーサー様がだるいから決して起こさないようにとご命令を」

「……そうか。僕が命令したのか」

「しょ、食事をお持ちしますがいかがいたしましょうか?」

「食事? 僕、今日寝てただけでしょ。何もしていないのに、ご飯を食べていいの?」

「そ、それはもう。アーサー様はそれが可能なお立場ですから」

メイドは苦笑する。『働かざる者食うべからず』なんて言葉はこの世界にはないようであった。俺は内心、ガッツポーズをする。
                ◇
俺の部屋にはとても昼食とは思えない豪華な食事が運ばれてきた。七面鳥の丸焼きにローストビーフ。ライスからパン、それからサラダ。さらにはデザートまで豊富にある。まるでバイキング会場に来ているかのようだ。
働いてもいないのにこんな食事に在りつけていいのかと疑いたくなる。

ガツガツガツガツガツガツガツ。

「げっぷ! ふぅ……食った、食った!」

俺は異様な程の食欲でその料理を食い尽くした。横で控えていたメイドが目を丸くしていた。前世の世界ではろくに食事もとれず、カップラーメンとコンビニおにぎりが主だったからなー。それだけ、まともな食事に飢えていたのだ。それは俺にとっては久々に食べるまともな食事、って奴だった。

俺が食事を終えると控えていたメイドがそそくさと食器を片付け始めた。なんて最高なんだ。飯を食った後に片付けなくていい。これがどれほど幸せな事か。

一人暮らしの独身中年だと、食器洗うの面倒くさくて料理しなくなるんだよなぁ。一人暮らしの独身中年ではあるあるだと思うんだよな。

片付けが終わった後、またメイドがやってきた。

「あ、アーサー様。午後の魔法の実践授業はいかがいたしましょうか? 屋敷まで講師の方をお招きしているのですが」

「あー。だるいなー。そんな授業受けるわけないじゃん。だってだるいもん。僕程の才能があれば、努力しなくたっていいんだよ。努力なんていうのは、才能のない凡人のする事さ。僕には不必要な事なんだよ。と、いうわけで講師の人には悪いけど帰って貰っていいよ」

「はぁ……そうですか。で、ではそのように致します」

俺にはこのゲームの世界の知識がある。このアーサーの父と母は息子にゲロ甘だもので、どんなに鍛錬や勉学をサボって怠惰に過ごしたところで決して厳しく叱責をしてはこないのだ。

「僕、これからゴロ寝するから夕食の時まで起こさなくていいよ」

「は、はぁ。さ、左様でありますか。でしたらそのように致します」

メイドが俺の部屋から出て行った瞬間、ふかふかのベッドにダイブする。

さ、最高だ。最高すぎる。この環境は俺が夢にまで見ていた環境だ。働かなくてもおいしい御飯の食べられる環境。いつまでもゴロゴロと寝ていてもいい環境。

俺は怠惰な悪役貴族アーサー・フィン・オルレアンに生まれかわったのだ。せっかくこうして生まれ変わったのだから、俺は徹底的に怠惰にダラダラとこの人生を過ごしてやろうと思った。この世界を怠惰に満喫してやろうと思ったのだ。

だが、その時の俺は忘れていた。悪役貴族アーサーがその怠惰さと傲慢さ故に、数多のルートで必ず凄惨な死亡エンドを迎えているという事に。
ある時は主人公との決闘で敗れ死亡。ある時は魔族に仲間を売り渡して自分だけ助かろうと命乞いをしたのに処刑され、またある時は敵の力を舐め腐って爆散する。
そんな怠惰と傲慢さのツケを数年後に払わされるにも関わらず。

俺はそんな事は何も考えずに呑気に眠りについたのであった。
               






               
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

『悪役』のイメージが違うことで起きた悲しい事故

ラララキヲ
ファンタジー
 ある男爵が手を出していたメイドが密かに娘を産んでいた。それを知った男爵は平民として生きていた娘を探し出して養子とした。  娘の名前はルーニー。  とても可愛い外見をしていた。  彼女は人を惹き付ける特別な外見をしていたが、特別なのはそれだけではなかった。  彼女は前世の記憶を持っていたのだ。  そして彼女はこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームが舞台なのだと気付く。  格好良い攻略対象たちに意地悪な悪役令嬢。  しかしその悪役令嬢がどうもおかしい。何もしてこないどころか性格さえも設定と違うようだ。  乙女ゲームのヒロインであるルーニーは腹を立てた。  “悪役令嬢が悪役をちゃんとしないからゲームのストーリーが進まないじゃない!”と。  怒ったルーニーは悪役令嬢を責める。  そして物語は動き出した…………── ※!!※細かい描写などはありませんが女性が酷い目に遭った展開となるので嫌な方はお気をつけ下さい。 ※!!※『子供が絵本のシンデレラ読んでと頼んだらヤバイ方のシンデレラを読まれた』みたいな話です。 ◇テンプレ乙女ゲームの世界。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げる予定です。

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

転生者だからって無条件に幸せになれると思うな。巻き込まれるこっちは迷惑なんだ、他所でやれ!!

ファンタジー
「ソフィア・グラビーナ!」 卒業パーティの最中、突如響き渡る声に周りは騒めいた。 よくある断罪劇が始まる……筈が。 ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しております。

「俺が勇者一行に?嫌です」

東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。 物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。 は?無理

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...