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第4話 姉、アリシアとの手合わせをする
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「はぁっ!」
掛け声と共に、俺は木剣を振るった。その木剣はエドガーの木剣とぶつかり合い、甲高い音を立てた。
「ほぉ……」
エドガーは感心した様子でそう声を漏らす。俺の繰り出す剣は、初めて剣を手にしたにしては鋭かった。そして剣を繰り出し続けるスタミナもあった。さらにはその剣は人体の急所を目掛けて、的確に振るわれる。
勿論、かつてはАランク冒険者パーティーで前衛を務めていたエドガー程の手練れならば防ぐ事は容易な事ではあった。
それでも俺の剣の才を瞬時に見抜いたエドガーは表情を緩ませる。
「なかなかに筋が良いじゃないか。これは随分と見込みがありそうだ」
流石は悪役貴族アーサー・フィン・オルレアンの少年期の身体だ。まだ肉体も成長しきっていないとはいえ、流石の天賦の才能であると言えた。こいつ(俺)の問題点はその怠惰で傲慢な性格にあるのだ。それ以外の才能と言う意味ではこいつはピカイチだった。恐らくは数多のチート能力を持つ主人公であるリオン・リアネスティールにも決して負けてはいない。
俺は必死だった。残念ながら怠惰な日々はしばらく送れそうにもない。数年後にやってくるであろう死亡ENDを回避する為にはそれなりの努力をしなければならない。
怠惰な日々を過ごせるのは全ての死亡フラグを回避し、安心できる環境を作ってからだ。その為にはしばらく力をつけなければならない。その為にはこうして剣や魔法の鍛錬にもそれなりに精を出さなければならないだろう。
こうして俺はその日の午前中、剣の稽古に勤しんだ。
◇
それからの数日。俺と姉——アリシアはエドガーから剣を学んだ。それからしばらくしての事だった。
「よし。だったらアーサー。今日はお姉さんのアリシアと打ち合いをしてみようか」
エドガーはそんな事を提案してきた。
「私がこの愚弟と?」
アリシアは訝しんだ。
最近は真面目に剣の稽古をしているというのに相変わらず『愚弟』呼ばわりとは酷いではないか。我が姉、アリシアよ。
「アリシアの剣の才能は見事なものだ。だが、アーサーの剣の才能も見事なものだ。この数日の稽古でアーサーとアリシアの二人の実力は案外、近づいていて、良い勝負をするんじゃないかって、俺は思っているんだ」
「ふん。私には到底そうは思いませんが。この愚弟がこの私と良い勝負をするなど。ありえない事です」
アリシアはそう言い切った。
「まあ、そう言わずに。やってみればわかる事さ」
「それもそうですね」
アリシアは木剣を構えた。
「来なさい。愚弟。力の差というものを知らしめてあげるわ」
アリシアは微笑を浮かべた。
「行きます。お姉様」
なんでこんな傲慢な女を姉だからって敬わなければならないんだ。だがいい。このアリシアも俺と同じように、数年後に苦労をするんだ。人生そういうものだ。だから、この場では溜飲を下げておこう。
二人は剣を構え、睨み合う。静寂がその場を支配した。独特な緊張感がその場を支配する。間合いに入ったら一瞬で鋭い剣が放たれ、木剣とはいえ下手したら致命傷を負いかねないという事がわかっているからだ。
「どうしたの? 愚弟? 怖気づいちゃった? こないならこっちから行くわよ!」
痺れを切らしたアリシアが自分から打って出てきた。
「くっ!」
鋭い斬撃。俺は恵まれた動体視力と反射神経で何とかそれを木剣で受け止める。
木剣だとわかっていても怯んでしまう。というか、木剣だって普通に痛いだろう。鋼鉄製の剣なら当たり所悪ければ死ぬってだけで。木剣も相当な勢いで打ち込まれたら頭かち割られそうなものであった。
「やるじゃないっ! 愚弟! まだまだいくわよっ!」
アリシアは続け様に剣を振るう。こいつ、完全に自分の剣の才能に酔っている。間違いなく、アリシアには剣の才能があるし、それをこいつは自覚していた。そうであるがこいつは傲慢になる。他者を見下す。その傲慢さがこいつの弱点だ。勿論、俺の弱点でもある。兄姉だからよく似ているのだ。根っこの部分は同じだ。
自分がそうだから、姉の気持ちが痛い程よくわかった。
「くっ! うっ!」
防戦一方だ。俺は何とか、姉の剣を弾くのが精一杯だ。だが、そのうちに剣筋を観察していった。剣のパターン。癖を見抜いていく。
「ほらっ! どうしたのっ! いつまでも守ってばかりで! そんなんじゃいつまで経ってもこの私には勝てないわよっ!」
アリシアは調子に乗って剣を振り回す。その剣は相変わらず鋭く、威力も高いものであった。だが、大振りにもなってくるし、単調にもなってくる。ワンパターンなのだ。相手を舐めているのだから、当然だ。そして舐めているが故に当然のように隙くらい生まれてくる。
「ははっ! はははっ! 気持ちいいわっ! まるで亀を虐めているみたいでっ!」
調子に乗りすぎたアリシアは雑な剣を振るう。剣を高く振り上げ、振り下ろす。乱暴で乱雑で単調な一撃。剣を学んで数日しか経っていない俺でも対処できる程に単調な攻撃であった。
弧を描くような大雑把な一撃よりも俺の狙いすました最短距離の剣の方が先に届くのは自明の理だ。
俺の剣とアリシアの剣が交錯する。
木剣が舞った。弧を描いて、遥か彼方の地面に突き刺さる。弾き飛ばされたのはアリシアの木剣だ。
「えっ!? ……」
木剣を弾き飛ばされたアリシアは茫然としていた。何が起きたのかをすぐには理解できていない様子だった。ただ、手の痛みと痺れ、自分が持っていたはずの木剣を失った事から、何が起きたのかを次第に理解せざるをえなかった。
理解せざるを得なかったが、アリシアは今、現に起きた事実を理解する事を拒んだ。『愚弟と蔑んでいた弟に剣で負けた』という事実は彼女にとってはとても受け入れがたいものだったからだ。
「う、嘘よ。わ、私が負けるわけないじゃない。わ、私がこんな愚弟に負けるわけがない。あ、ありえないわ」
ショックのあまり、アリシアは表情を引きつらせて、身体を震わせていた。
「どうやら、勝負あったようだな」
エドガーはそう宣言した。俺とアリシアの手合わせは終了したのだ。
「負けてない。私が負けるはずがない。こんな奴に。私が負けるはずがない。こ、こんなの嘘よ。夢に決まっているわ」
アリシアは独り言のようにぶつくさと呟き続けていた。こういう、プライドの高いタイプに限って負けるとそれを受け入れられないんだよな。メンタルが弱くて面倒くさいんだよ、こういうタイプ。まあ、俺の言えた事ではない。やはり姉弟なので俺達は似ているんだ。
「往生際が悪いぞ。アリシア。剣の練度で言えば、君の方が高かっただろう。しかし、君の敗因はその傲慢さにある。他者を見下すその性格が剣を雑にし、それをアーサーに見抜かれたんだ。それが今回の君の敗因だよ。負けを受け入れて、よく反省するように」
「ふ、ふん。た、たまたまよ。い、今のは手を抜いていただけなんだから。ほ、本気でやったら絶対、私が勝っていた。弟に華を持たせてやるなんて。なんて出来た姉なのかしら。おーっほっほっほ!」
こいつ。言い訳を始めやがった。絶対に反省していない。負けたという事実を受け止め切れずにわざと負けただの、手を抜いただの見苦しい言い訳を並べやがった。それに『おーっほっほっほっ!」という笑い方、実に悪役令嬢っぽくて様になっていた。
ちなみにこいつは5年後に魔法学園で行われる魔法闘技大会(武器と魔法なんでもありのトーナメント大会だ)で庶民出身の作中の正ヒロインにフィオナ・オラトリアを相手に、フィオナが庶民出身という事で舐め腐って余裕を見せつけた後、見事に敗北する事になる。
反省していないようだし、恐らくはこのまま同じ結末になるだろう。やれやれ、だ。
こうして俺は姉——アリシアとの手合わせを終え、その日を終える事となる。
掛け声と共に、俺は木剣を振るった。その木剣はエドガーの木剣とぶつかり合い、甲高い音を立てた。
「ほぉ……」
エドガーは感心した様子でそう声を漏らす。俺の繰り出す剣は、初めて剣を手にしたにしては鋭かった。そして剣を繰り出し続けるスタミナもあった。さらにはその剣は人体の急所を目掛けて、的確に振るわれる。
勿論、かつてはАランク冒険者パーティーで前衛を務めていたエドガー程の手練れならば防ぐ事は容易な事ではあった。
それでも俺の剣の才を瞬時に見抜いたエドガーは表情を緩ませる。
「なかなかに筋が良いじゃないか。これは随分と見込みがありそうだ」
流石は悪役貴族アーサー・フィン・オルレアンの少年期の身体だ。まだ肉体も成長しきっていないとはいえ、流石の天賦の才能であると言えた。こいつ(俺)の問題点はその怠惰で傲慢な性格にあるのだ。それ以外の才能と言う意味ではこいつはピカイチだった。恐らくは数多のチート能力を持つ主人公であるリオン・リアネスティールにも決して負けてはいない。
俺は必死だった。残念ながら怠惰な日々はしばらく送れそうにもない。数年後にやってくるであろう死亡ENDを回避する為にはそれなりの努力をしなければならない。
怠惰な日々を過ごせるのは全ての死亡フラグを回避し、安心できる環境を作ってからだ。その為にはしばらく力をつけなければならない。その為にはこうして剣や魔法の鍛錬にもそれなりに精を出さなければならないだろう。
こうして俺はその日の午前中、剣の稽古に勤しんだ。
◇
それからの数日。俺と姉——アリシアはエドガーから剣を学んだ。それからしばらくしての事だった。
「よし。だったらアーサー。今日はお姉さんのアリシアと打ち合いをしてみようか」
エドガーはそんな事を提案してきた。
「私がこの愚弟と?」
アリシアは訝しんだ。
最近は真面目に剣の稽古をしているというのに相変わらず『愚弟』呼ばわりとは酷いではないか。我が姉、アリシアよ。
「アリシアの剣の才能は見事なものだ。だが、アーサーの剣の才能も見事なものだ。この数日の稽古でアーサーとアリシアの二人の実力は案外、近づいていて、良い勝負をするんじゃないかって、俺は思っているんだ」
「ふん。私には到底そうは思いませんが。この愚弟がこの私と良い勝負をするなど。ありえない事です」
アリシアはそう言い切った。
「まあ、そう言わずに。やってみればわかる事さ」
「それもそうですね」
アリシアは木剣を構えた。
「来なさい。愚弟。力の差というものを知らしめてあげるわ」
アリシアは微笑を浮かべた。
「行きます。お姉様」
なんでこんな傲慢な女を姉だからって敬わなければならないんだ。だがいい。このアリシアも俺と同じように、数年後に苦労をするんだ。人生そういうものだ。だから、この場では溜飲を下げておこう。
二人は剣を構え、睨み合う。静寂がその場を支配した。独特な緊張感がその場を支配する。間合いに入ったら一瞬で鋭い剣が放たれ、木剣とはいえ下手したら致命傷を負いかねないという事がわかっているからだ。
「どうしたの? 愚弟? 怖気づいちゃった? こないならこっちから行くわよ!」
痺れを切らしたアリシアが自分から打って出てきた。
「くっ!」
鋭い斬撃。俺は恵まれた動体視力と反射神経で何とかそれを木剣で受け止める。
木剣だとわかっていても怯んでしまう。というか、木剣だって普通に痛いだろう。鋼鉄製の剣なら当たり所悪ければ死ぬってだけで。木剣も相当な勢いで打ち込まれたら頭かち割られそうなものであった。
「やるじゃないっ! 愚弟! まだまだいくわよっ!」
アリシアは続け様に剣を振るう。こいつ、完全に自分の剣の才能に酔っている。間違いなく、アリシアには剣の才能があるし、それをこいつは自覚していた。そうであるがこいつは傲慢になる。他者を見下す。その傲慢さがこいつの弱点だ。勿論、俺の弱点でもある。兄姉だからよく似ているのだ。根っこの部分は同じだ。
自分がそうだから、姉の気持ちが痛い程よくわかった。
「くっ! うっ!」
防戦一方だ。俺は何とか、姉の剣を弾くのが精一杯だ。だが、そのうちに剣筋を観察していった。剣のパターン。癖を見抜いていく。
「ほらっ! どうしたのっ! いつまでも守ってばかりで! そんなんじゃいつまで経ってもこの私には勝てないわよっ!」
アリシアは調子に乗って剣を振り回す。その剣は相変わらず鋭く、威力も高いものであった。だが、大振りにもなってくるし、単調にもなってくる。ワンパターンなのだ。相手を舐めているのだから、当然だ。そして舐めているが故に当然のように隙くらい生まれてくる。
「ははっ! はははっ! 気持ちいいわっ! まるで亀を虐めているみたいでっ!」
調子に乗りすぎたアリシアは雑な剣を振るう。剣を高く振り上げ、振り下ろす。乱暴で乱雑で単調な一撃。剣を学んで数日しか経っていない俺でも対処できる程に単調な攻撃であった。
弧を描くような大雑把な一撃よりも俺の狙いすました最短距離の剣の方が先に届くのは自明の理だ。
俺の剣とアリシアの剣が交錯する。
木剣が舞った。弧を描いて、遥か彼方の地面に突き刺さる。弾き飛ばされたのはアリシアの木剣だ。
「えっ!? ……」
木剣を弾き飛ばされたアリシアは茫然としていた。何が起きたのかをすぐには理解できていない様子だった。ただ、手の痛みと痺れ、自分が持っていたはずの木剣を失った事から、何が起きたのかを次第に理解せざるをえなかった。
理解せざるを得なかったが、アリシアは今、現に起きた事実を理解する事を拒んだ。『愚弟と蔑んでいた弟に剣で負けた』という事実は彼女にとってはとても受け入れがたいものだったからだ。
「う、嘘よ。わ、私が負けるわけないじゃない。わ、私がこんな愚弟に負けるわけがない。あ、ありえないわ」
ショックのあまり、アリシアは表情を引きつらせて、身体を震わせていた。
「どうやら、勝負あったようだな」
エドガーはそう宣言した。俺とアリシアの手合わせは終了したのだ。
「負けてない。私が負けるはずがない。こんな奴に。私が負けるはずがない。こ、こんなの嘘よ。夢に決まっているわ」
アリシアは独り言のようにぶつくさと呟き続けていた。こういう、プライドの高いタイプに限って負けるとそれを受け入れられないんだよな。メンタルが弱くて面倒くさいんだよ、こういうタイプ。まあ、俺の言えた事ではない。やはり姉弟なので俺達は似ているんだ。
「往生際が悪いぞ。アリシア。剣の練度で言えば、君の方が高かっただろう。しかし、君の敗因はその傲慢さにある。他者を見下すその性格が剣を雑にし、それをアーサーに見抜かれたんだ。それが今回の君の敗因だよ。負けを受け入れて、よく反省するように」
「ふ、ふん。た、たまたまよ。い、今のは手を抜いていただけなんだから。ほ、本気でやったら絶対、私が勝っていた。弟に華を持たせてやるなんて。なんて出来た姉なのかしら。おーっほっほっほ!」
こいつ。言い訳を始めやがった。絶対に反省していない。負けたという事実を受け止め切れずにわざと負けただの、手を抜いただの見苦しい言い訳を並べやがった。それに『おーっほっほっほっ!」という笑い方、実に悪役令嬢っぽくて様になっていた。
ちなみにこいつは5年後に魔法学園で行われる魔法闘技大会(武器と魔法なんでもありのトーナメント大会だ)で庶民出身の作中の正ヒロインにフィオナ・オラトリアを相手に、フィオナが庶民出身という事で舐め腐って余裕を見せつけた後、見事に敗北する事になる。
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