怠惰な悪役貴族は変わらず怠惰に過ごしたい。死亡フラグを回避する為に【闇魔法】を極めてたら正ヒロインに好意を持たれたのだが。

つくも/九十九弐式

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第18話  またまた正ヒロインを助けてしまう、続き

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  このままアリシアと闘うのは双方にとって被害が大きい。とても得策だとは思えない。そこで俺はある妙案を思いついたのだ。

「アリシア。ひとつ、提案があるのだが……」

「提案? 命乞いの間違いではなくて? 後、偉大なるお姉様であるこの私を呼び捨てなんて、なんて口の利き方かしら? 随分と痛めつけられたいみたいね」

 舐めるなよ。俺が自らの怠惰さを犠牲にし、この数年間どれほどの鍛錬を積んで来たと思っている。今の俺ならば例え相手があの……この場にはいない、将来の花嫁になるはずの少女をほっぽり出して、どこかで油を売っている。

 あのイケメンチート主人公相手でも、瞬殺はされないだけの自信はある。

 俺は距離を詰める。俺に敵意がない事を察したのか、アリシアは魔法で迎撃してこなかった。俺は耳元で囁く。アリシアだけに聞こえるように。

「これ以上続けるようなら秘密をバラす」

「秘密って、何の秘密かしら?」

「今だにクマのぬいぐるみを抱っこしないと眠れない事」

「なっ!? どうしてその事を」

「俺達は姉弟だぞ。そのくらいの情報、普通に生きていたら自然と知れる事さ。それにそれだけじゃない。その年齢になっても子供のような可愛いクマさん柄のパンツをはいている事を」

「なっ!? な、なんですってっ!? あなた、どうしてそんな事まで知っているの!?」

「だから言っただろ。俺達は姉弟だって。他にも、他人に言えないような情報を俺はゴロゴロ知っているんだぞ。これ以上、無駄な抗争を続けるようならそれらの情報を学園の生徒達にバラす。噂は瞬く間に広がっていき、あんたの評判は悪化する事だろう」

「くっ! な、なんと、ひ、卑怯な真似をっ!」

 どっちが卑怯か。平民というだけで威圧した挙句、命令に従わなかったら武力行使に出る行為のどこに正当性があると言うのか。そんなものはあまりに理不尽であるし、乱暴な行いでしかない。

「弟であるあなたが姉である私を脅そうというのですか!」

「あなたの行動はどう考えても倫理を逸脱しすぎている。いくら弟でも見過ごせるものではない」

「くっ……ううっ」
 
 アリシアは悔しそうに顔を顰めた。そして、アリシアは気を取り直した様子で優雅に踵を返す。

「良いでしょう。この場は見逃してあげます。しかし、フィオナ・オラトリア。私は庶民であるあなたがこの学園に在籍している事を認めたわけではありません。ゆめゆめ、その事を忘れないように。行きますわよ」

「「はい。お姉様」」

 取り巻きの女子生徒達も引き連れ、彼女達は去って行った。アリシアの操り人形のような少女達だ。そこに意思らしい意思は存在しない。アリシアがフィオナに対する攻撃を辞めて、去る事を選んだのならそれに従うべきだ。

 彼女達にそれ程フィオナを加害する意思が強いわけではない。ただ流されていただけなのだ。

「ふぅ……」

 俺はほっと、胸を撫で下ろす。これにて何とか、一件落着といったところか。いくら何でも、余程の機会がない限りはこれでアリシアはフィオナに対する直接的な加害行為はしてはこなくなる可能性が高い。

 しかし、一難は去ったものの、俺は背後から輝きのようなオーラを感じる。俺は恐る恐る背後を振り返る。

 そこには目を蘭々と輝かせているフィオナの姿があった。やばい。こいつは何かを勘違いしている。俺の事を自分の事をまたもや助けてくれた英雄(ヒーロー)的な存在だと思っているに違いない。

 そして、その勘違いは決して間違いではない。事実として俺はフィオナを今回も助けた。助けたが、問題なのはそこではない。本来、彼女を助けて好感度を上げるのは俺ではなかったのである。助けたのが俺だという事がそもそもの問題だったのだ。

「ありがとうございます! アーサーさん! ま、またもや私を助けて頂き、なんとお礼の言葉を述べたら良いのか……」

 情熱的に俺の手を握りつつ、フィオナは感謝の言葉を伝えてくる。

「気にするな。俺の姉の不始末だ。弟の俺が対処するのは当然の事だ」

「と、当然の事ではありません。アーサーさんが助けてくれなければ私の命はなかったかもしれません。アーサーさんは私の命の恩人です」

 目を輝かせて情熱的に語ってくる。まずい。こいつは勘違いをしている。俺の好感度が上がりすぎている。この好感度は本来、あの、むかつくイケメンチート野郎が稼ぐ為のイベントだったはずなのだ。

「ち、違うのだ。フィオナ。これは違うのだ」

「何が、どう違うのです?」

「これはだな。本来、お前を助けるのは俺の役割ではないのだ。あのむかつくイケメンチート野郎が助けるはずなのだ」

「『むかつくイケメンチート野郎』? ってリオン第二王子の事ですか?」

「そうだ。それでお前とリオンの奴は将来、結婚する間柄なんだ」

「平民の私と王族のリオン王子がです?」

「そうなのだ。そういう運命(シナリオ)なんだよ。それを俺様は邪魔してしまったのだ」

「何を言っているんですか? 冗談はやめてください。そんな事、あるわけないじゃないですか。私とリオン王子では立場が違いすぎますよ」

 フィオナは笑い飛ばす。まさしく、夢物語のような事で信じられないのであろう。

 まずい。もしかしたら、最初にフィオナを助けた事で運命(シナリオ)が書き換えられたのかもしれない。書き換えられた運命(シナリオ)を修正する必要性がありそうではあった。

 今から修正できるとは限らないが、やってみるより他になかった。

「もうすぐ晩飯の時間になる。今日のところは寮に戻ろう」

「……は、はい。そうですね。戻りましょうか」

 こうして俺達は寮に戻り、晩飯を食った。それからしばらくして、俺は自室に戻ったのである。
                  ◇
「やあ、アーサー君。遅かったね」

 寮の自室に戻るとそこにはルームメイトであるリオンの姿があった。

「はぁ……」

 俺は深く溜息を吐いた。

「何やってたんだよ? お前は」

「話の脈絡が見えないんだけど、なんでそんな不機嫌そうに聞かれなきゃなのかな? どこで何をしていようが、僕の勝手だと思うんだけど」

 ……それはまあ、そうである。まあいい。こいつらには運命(シナリオ)の事など知りもしないのだから、別に何ら非があるわけではない。

「入学式が終わってから女子生徒が山のように押しかけて来てね。サインをするのが大変だった。中には求婚してくる子もいて。その場を切り抜けて見つからないするようにするのが大変だったんだよ。見つかったら騒ぎになるからね」

 どこぞのアイドルかと思うような対応だった。だが、無理もない。こいつは完璧チートイケメンだ。家柄だって王族なのだ。女子から見ればそのような相手だとしか思えないだろう。

「それで? それがどうしたの?」

「別に何でもない」

 全く、こいつは未来の花嫁がピンチだったと言うのに。そんな事も知らずに呑気にも。だがもういい。過去を悔やんでも仕方ない事だ。

「今度の日曜日暇か?」

「特に予定はないけど」

「だったらどこかに遊びに行かないか?」

「急にどうしたんだい? 学友と仲を深めたいのかい?」

「……まあ、そんなところだ。それと、ひとつ、聞いてもいいか?」

「なんだい? ひとつと言わず何個でも聞いていいよ」

「その遊びに一人の女子を連れて行きたいのだが、構わないか?」

「いいけど、なんで? どうして三人で遊びに行くの?」

「何でもいいだろ……そんなの」

「女の子って誰? もしかしてアーサー君、気になっている女子でも出来たの?」

「ち、違う! そ、そうではない! 気にはなっているがお前が考えているような意味ではない! 断じてないからなっ! 言っておくけど」

「……あー。はいはい。わかったよ。行けばいいんでしょ。行けば」

 ともかく、フィオナとリオンの二人を引き合わせれば何とか運命(シナリオ)が書き換えられて上手くいく。俺は、そう思っていたのだ。


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