怠惰な悪役貴族は変わらず怠惰に過ごしたい。死亡フラグを回避する為に【闇魔法】を極めてたら正ヒロインに好意を持たれたのだが。

つくも/九十九弐式

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第17話 またまた正ヒロインを助けてしまう

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『退学してこの場を去れ』

 アリシアがその言葉を発した時、周囲に静寂が走った。フィオナは黙り込む。その言葉の意味を理解するのに時間がかかったのかもしれない。

「ど、どうしてアリシアさん――あなたの言う事を聞かなければならないのですか?」

「何? 高貴な貴族の出自である、この私の言う事を平民を聞けないというのかしら?」

「あなたが貴族だったとしても、それだけで従う理由など私にはありません。私の入学は理事長だって認めている事なのです。アリシアさんが貴族だったとしても、私に退学を強要する権利はないはずです」

「そうね。それは平民のあなたの言う通りだわ。だから、私はこうして丁寧にあなたに『お願い』してあげてるんじゃない」

『お願い』先ほどの会話のどこにその要素があったというのか。高圧的に退学を強要しようとしているようにしか思えない。だが、アリシアからすればその態度でも『お願い』をしているつもりなのだろう。

 あまりに世間一般とズレているが。箱入りの令嬢であれば少々、どころか大分認知がズレている事ではあるが、アリシアからすればその『強要』行為が『お願い』であるという認識を冗談ではなく、本気で思っているのかもしれない。

「そもそも、なぜただの一介の庶民でしかないあなたが、この貴族や王族が集う栄えある魔法学園『ユグドラシル』にこだわるのです? 人にはそれぞれに相応しい場というものが存在します」

 アリシアは尊大な態度で語る。いつも尊大ではあるが。

「フィオナ・オラトリア。一介の庶民でしかないあなたは他の庶民達が通うような学校にでも通えば良いのではないですか?」

「わ、私の家は皆様の家のように、裕福なわけではありません」

「あら。そうなの。可哀想だこと。ごめんなさい、貧しい家に生まれた経験がないもので。あなたの気持ちが微塵も理解できないわ」
 
 微塵も同情している素振りすら見せずに、アリシアは冷たく言い放つ。

「ですが、私には特別な魔法の才能があるらしくて。この学園の入学金や学費も免除して頂けるのです。それに、私には、難病の妹がいて治療費も工面して頂ける事になっているのです」

「ふーん……それで?」
 
 興味なさそうにアリシアは続ける。全く、この女には人の心がないのか。相手は平民とはいえ、多少は同情しても良さそうな事情である。貴族ではあるが民を守るという自覚が欠如している。むしろ平民を同じ人間ではなく、家畜か何かだと思い込んでいる。

 よくいる思い上がった典型的な貴族的思考である。これは別にアリシアが特別おかしいというわけではなく、むしろ多数派な思考であった。

 リオンがスピーチで言っていたように貴族は民を守るというのはあくまでも理想論でしなく、現実的では極めて少数派の思考なのである。

 民は自分達に尽くす家畜。言葉にこそ出さないものの、そう思っている貴族は実に多かった。アリシアもその一人というだけの事だ。

「それに、私の光魔法は今より上達させていけば、妹の難病を治す事も可能かもしれないらしいんです」

 基本的にこの世界では治癒魔法や回復魔法などの便利な回復手段は存在しない。死者を蘇らす事は不可能に近い事ではあるし。
 
 ポーションや薬草などはあるがそれはあくまで回復能力を助ける程度のもの。飲んだり使ったら簡単にHPが回復するような、便利なシステムにはなっていなかった。基本的には自らの回復能力で治癒していかなければならない。

 その為、大怪我をした場合など復帰にしばらくかかるし。当たり所が悪ければ死ぬ事だってありうる。

 大病を治す事は簡単な事ではない。その為、医者も存在するが医者とて万能ではなく、治せる病は限られている。

 つまりは治癒魔法だとか回復魔法のような事が出来るのだとしたら、この世界ではとても価値(バリュー)がある事であると言えた。蘇生魔法なんて使えたらそれこそ神のように崇められるであろう。

 死んだ人間を生き返らせるという願望を持った人間は多いが、その望みが叶った事など一度として聞いた事はない。太古の時代ならいざ知らず、少なくとも現代では――だ。

「ふーん。……で? つまり、私の言う通りにこの学園を自らの意思で、退学し、大人しくこの場を去るつもりはないと。フィオナ・オラトリア。庶民であるあなたは高貴なる貴族であるこの私に逆らうとおっしゃるのですか?」

「そ、そうです。その通りです。アリシアさん。あなたの事を聞く理由は私にはありませんっ! 私にも譲れない理由があるのですっ!」

 お互いの利害は一致していない。主張のベクトルは正反対であり、決して交わらない。だとするのならば、後は衝突するのみである。

「そう、なら。少々、あなたには痛み目を見て貰う必要があるようね」

 アリシアはフィオナを睨む。不穏な空気が殺伐とした空気に変わった。

 物陰からその様子を伺っていた俺は苛立っていた。何をやっているんだ。あの完璧チートイケメン野郎は。貴様の未来の花嫁がピンチなのだぞ。俺の姉のせいではあるが……。

 リオン・フォン・リアネスティール。貴様のようなむかつくチートイケメン野郎はタイミングというのも弁えているはずであろう。自分の未来の花嫁がピンチの時に、颯爽と現れる。

 それが完璧チートイケメン主人公に課せられている義務というものであろう。しかし、俺は待てど暮らせど、一向に奴がこの場に現れる気がしない。

 全く、何をしてしまったというのか。まさか俺があの時、フィオナを助けるという余計な事をしてしまったから。運命(シナリオ)がねじ曲がってしまったとでも言うのか。

 風が吹いた。基本となる四大属性の全ての魔法を高水準で使いこなせるアリシアが、風の精霊に働きかけているのだろう。

「『ウィンド・カッター』」

 アリシアはフィオナに対して躊躇いもなく、攻撃をしてくるのであった。かまいたちのような風の刃物がフィオナに襲い掛かる。そもそもの生徒同士の闘争は校則により規制されている。勿論、例外はあるが。例外は学園が許可した場合である。

 この場での闘争など学園が許可しているはずもないので、当然のように校則違反だ。違反者にはそれなりの罰則規定が設けられている。

 だが、そんな事はアリシアはお構いなしである。大方、自分の身分の高さから、何でも権力で揉み消せると勘違いしているのだろう。
 
 だが、当然のようにその揉み消せる範囲は有限なのだと、彼女は知るべきである。

「ちっ!」
  
 いつまで経ってもリオンが現れない事に痺れを切らした、俺はその場に姿を現す。

「アーサーさんっ!」
「愚弟っ! どうしてここにっ!」

 二人は叫び、目を大きく見開く。俺は舌打ちをして、闇魔法を手早く発動する。

「『シャドウウォール』!」

 闇属性の障壁(ウォール)で、アリシアの風魔法『ウィンド・カッター』を消失させる。

「……どういうつもりよ。愚弟。なぜそこの庶民の女を庇うの。あなたも貴族の一員。この庶民の女がこの学園にいるのが相応しくない事くらい理解できるはず。それなのに、なぜ、私の邪魔をするの?」

「それについては俺も言いたい事がある。学園内での他生徒との闘争行為は校則違反じゃないのか! 校則違反者にはそれ相応のペナルティが課せられるはずだ! まさかそんな事も考えずに実力行使に出たわけではあるまいな!」

「それは勿論、私の背後にある巨大な権力で何かあっても揉み消すつもりですわ!」

 その背後の権力というのは理事長である叔母——カレンの力であろう。だが、カレンがアリシアの方を持つとは思えない。立場としては極めて中立に近いだろう。父と母の権力もあるが、それでも限度がある。

 多少の落ち度であれば金で解決できなくもないが。今回の場合はその多少の限度を遥かに逸脱した行為だ。

 いくら貴族の令嬢であるアリシアと言えども、そう簡単に揉み消せるとは思えない。

「なんですの? 愚弟。この私とやりますの? あなたと矛を交えるのは実に数年振りですわね。今、闘ったら、どうなるでしょうね。くっくっく。おっほっほっほ! おっほっほっほっほっほっほっほ!」

 いつものように、アリシアは高笑いをした。いかにも『悪役令嬢』っぽい笑い方だ。とても様になっている。

「くっ……」

 このままアリシアと闘うしかないというのか。しかし、それはこの学園の校則における校則違反になりかねない行為だ。どちらから仕掛けたに関わらず、喧嘩両成敗という事で俺まで処罰されかねない。

 こんな姉弟喧嘩で処罰されるのは割に合わない事であった。

 そうだ。俺にはある考えが思い浮かんだ。この場を切り抜けられる秘策だ。

 それは姉弟だからこそできる、とっておきの作戦だった。
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