上 下
35 / 61

ゼロティアとの交戦

しおりを挟む
 雷撃が走る。爆炎が上がる。穏やかであったエルフの国は一瞬にして、地獄絵図と化していた。

「うわあああああああああああああああああああああ!」
「きゃあああああああああああああああああああああ!」
「いやあああああああああああああああああああああ!」

 どこもかしこも悲鳴があがっていた。

「弱い。弱すぎる。かつての私はこんな連中に怯えていたのか」

 強者となったゼロティアはエルフの民を蹂躙する。

「おい」
「ひっ、ひいっ!」

 魔人ネメシスはであるならば魔力による強制で喋らせる事があったが、専門の魔道士ではないゼロティアにはそこまでの事はできない。
 四天王に共通しているのは『Sランク以下の攻撃無効』のパッシブスキルのみだ。他には魔王の寵愛を受けた圧倒的強者である事くらいか。

「聞きたい事があるんだ。この国にある魔王の宝玉はどこにある?」
「エルフ城の地下宝物庫にあると聞いております。ひいっ! 殺さないで」
「ご苦労」
「ひぃっ!」

 ゼロティアは躊躇いなくエルフ兵の首を落とした。ゴロリとエルフ兵の首が転がる。

「きゃあああああああああああああああああああ!」

 近くにいた女性の悲鳴が響く。

「黙ってろ。貴様も殺されたいのか?」
「ひ、ひいっ! いや、殺さないで」

 逃げる事すらできずにエルフの女性はその場にへたれ込んだ。

「地下宝物庫か……」

 ゼロティアはそこを目指す為行動を始めた。

「そこまでです!」
「誰だ?」
「正義の味方! ラブリーラビット! 推参!」

 エルク達が姿を現す。

「ラブリーラビットだと? 私を馬鹿にしているのか!」
「リーネ、それ前のパーティー名」
「間違えました! ゴールデンラビットです!」
「いい加減ラビットから離れようね。リーネ。今そういう状況じゃないのよ」
「はい! 『黄金の原石』です! 今は私達は原石ですけど、いっつか光り輝く宝石になるんです!」
「……どうも絞まりませんね。この子達といると」

 エルクは溜息を吐いた。

「前の魔人と同じくらい強そうです」
「残念だけど今回も出番なさそう」
「私も回復魔法くらいでしか役に立てそうにないです」

 三人娘は述べる。

「悔しいけどまた先生頼みになりそう」
「そうですね。私達は先生の応援隊です! がんばれ! がんばれ先生! ファイト! ファイト! 先生! 愛してます! 早く私と結婚してくださーい!」
「後半が応援でもなく、ただの願望になってる」
「……逆に力の抜ける応援ですねぇ」

 エルクは溜息を吐かざるを得なかった。

「これ以上の悪行。見過ごせるはずもありません。この私がお相手します」
「ほう……勇ましいな。名を名乗れ」
「私の名はエルク。しがない錬金術師です」
「錬金術師? ……貴様があのネメシスが報告した錬金術師か。確かロンギヌスの槍を生成したという」
「あなたがあの魔人の仲間ですか。あの魔人も同じ程度には強い仲間がいると言っておりました。そしてその点が私達との違いだと」
「そうだ! 私の名はゼロティア! 四天王の一角。忌まわしきダークエルフだ!」
「ダークエルフ?」

 その時だった。たったったった、と駆け寄ってくる音がした。システィアだった。

「姉さん!」
「システィア……か」
「姉さん! 生きていたのですね! 姉さん!」
「そうか……あの時浴場で話していた家出した姉とはゼロティアさんの事だったのですね。合点がいきました」
「姉さん! なぜエルフの国に今になってきたのですか! あなたを冷遇した我々エルフの民に復讐にきたのですか!?」
「そうではない。私には魔王の宝玉を手に入れるという大義がある。エルフの国にきたのはその目的を遂行する為に過ぎない」
「魔王の宝玉……地下宝物庫にある。け、けど! なんでですか! なぜ姉さんがそんな事を! 姉さんは魔王の傀儡となったのですか!?」
「6歳の頃このエルフの国を出てから、死にそうになり飢えていたところを魔王様に拾われたのだ! そして魔王様は私に剣を教えてくれて、魔法も教えてくれた! そして私が一度たりとも受ける事もなかった愛を授けてくれたのだ! 言わば魔王様は私にとっては親のようなものだ! 魔王様の復活を願うのは子として当然の事!」
「……そんな事が。2000年前にあったのですね」

 システィアは悲しげな顔をする。

「邪魔をするな! システィア! 邪魔をするなら貴様とて容赦はしない! ライトニングストーム!」

 ゼロティアはより強力な雷魔法を放った。広範囲の雷撃がシスティアを襲う。

「きゃああああああああああああああああああああああああああ!」

 しかし雷撃はシスティアまでは届かない。

「エルク様……」

 エルクの盾。アイギスの盾によりその雷撃は断絶させる。

「ありがとうございます! エルク様!」
「礼には及びません。ですがどうやら姉妹とはいえ対話ができそうな相手ではないようです。ここは引いてください。システィア様」
「はい。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。姉さん……」
「なんだ?」
「もはや闘いを避ける事はできないのですね」
「当然だ。力がこの場の全てを支配する。力なきものの言葉など無力だ」
「そうですか……もはや私に出来る事などありません。エルク様、せめてご武運を祈らせてください」

 システィアはその場から逃げていった。

「それはそうと、それはアイギスの盾か」
「知っていますか?」
「ああ。2000年前にあった伝説の一品だからな。効果は確か『魔法の絶対無効化』だったか。そんなものまで創り出す事ができるのだな。ネメシスの言っていたこともあながち戯言ではなかった」
「そうですか……降参しますか? その方が私としては楽でありがたいんですが」
「そんなわけないだろうが」
 
 ゼロティアは剣を構える。アダマンタイトによる剣。ランクはSランク相当。

「雷よ!」

 天高く掲げた剣に雷撃が落ちる。剣は雷を帯びた。

「きゃっ!? なんですかあれは!」
「魔法剣のようです」
「魔法剣ですか?」
「ええ。魔法と剣のミックスです。彼女は魔法剣士のようです」
「そうだ。これは雷神剣だ。いくらアイギスの盾といえども物理攻撃までは防ぎようがないだろう! いくら貴様でも魔法も物理攻撃も同時に無効化できるはずがない!」

 ゼロティアの魔法はSランク相当。そして剣もSランク相当。その魔法剣は合わさって、『EX』(規格外)といったところだ。

「来ます! 先生!」
「わかってます。さがってなさい!」
「はあああああああああああああああああああああああああああ!」

 雷神剣による攻撃が襲いかかってくる。

「くっ!」

 アイギスの盾でも雷神剣を無効化できない。魔法でもあるが剣でもあるのだ。
 エルクは避けきれずに攻撃を喰らってしまう。

「先生!」

 斬り口から血が出た。

「ふっ。どうだ。我が雷神剣は」
「なんて事するんですか! 先生が怪我しちゃったじゃないですか! 許せません!」
「許せない? 貴様達に何ができるというんだ!」
「何も出来ません!」
「胸はって言うような事かな」
「くっくっく。面白い奴だな。この錬金術師を殺したら次はお前達の番だ」
「……させません」
「なんだ! まだやるというのか!」
「私の仲間には指一本触れさせませんよ」

 エルクの傷が瞬く間に治る。

「……なんだと! 傷が一瞬で治った? 貴様、一体何をした!?」
「オートポーション(自動回復)です。普通ポーションは飲まなければ発動しませんが、事前に飲んだポーションが発動するようになっています。時差式のポーションです」
「くっ! なんだとっ! 貴様! 化け物かっ!」
「化け物ではありません。ただの錬金術師です」

 ゼロティアが行動を悩んでいた時だった。脳内に声が聞こえてきた。

「そうムキになる事もありませんわよ」

 吸血鬼カーミラの声が聞こえてきた。テレパシーである。

「カーミラか。今一体どこに」
「今私はエルフの国の宝物庫にいます。ついいましがた魔王様の宝玉を破壊したところです。クックックック!」

 カーミラは語る。カーミラは吸血鬼である。その身を蝙蝠に変えたり、影をつたって移動したりと変幻自在なのである。

「そうか……すまないな、手を煩わせた」
「いえ。あなたの行動が良い囮となったのであります。おかげでスムーズに事が進みましたよ」
「どうする? 二人でこいつを叩くか?」
「無理は禁物です。相手の底も知れないのに戦うのは愚行というもの。目的は達成されたのです。撤退するのが良いでしょう」
「そうだな。その通りだ」
「……どうしたのですか?」
「何でも無い。私は撤退する」
「ほう。なぜですか?」
「仲間が目的を達成してくれた。だからもはやこの国にいる意味もない」
「に、逃げるんですか! 卑怯者! 逃がしません!」
「出でよ! 雷竜!」
 
 ゼロティアは召喚魔法で雷竜を召喚した。巨大な竜が姿を現す。

「それでは、また会おうぞ。錬金術師、確かエルクと言ったか」
「あまり会いたくもないですが、そうもいかないでしょうねぇ」
「次はこうはいかないぞ」

 ゼロティアは雷竜に乗って空高く飛んでいった。

「行っちゃいました」
「先生に恐れをなして逃げ出しちゃったんです」
「けど相変わらず私達見てただけだよねぇ」
「はい! その通りです!」

 三人は嘆いた。こうしてエルフの国の窮地は脱したのである。だが、魔王の宝玉が失われたのは確かだ。世界の危機はより深まっていく事となる。
しおりを挟む

処理中です...