可愛いだけの義妹に聖女の地位と婚約者を奪われました～元婚約者が土下座で復縁を迫ってきますが、今更元には戻れません～

３話

「なんて可愛いんだ。アリーシャ」

　それは聖女アリエルを追い出した皇太子ダニエルに起こった出来事である。

　ダニエルは王城で気ままな生活を送っていた。

「ダニエル様」

　アリエルの義妹。アリーシャはダニエルに猫のようにすり寄ってくる。まさしく猫のようだ。猫は可愛い。愛らしい動物である。

　だが同時に猫には高い知能など存在しないのだ。愛玩動物というものはそういうものである。猫はさほど頭がよくなく、特別何か役に立つわけではない。

　だが猫は格別に可愛い。それが猫の存在意義でもある。

　アリーシャは確かに可愛いが、彼女は猫のような女なのである。ダニエルはそんな事を考えてはいなかったのだ。

　そういえば聖女であるアリエルを追い出した事で王国を覆っていた結界が解かれたのだ。

「ところでアリーシャ、君は結界を張れるのかい？」

　ダニエルは聞いた。

「そんなもの張れませんわ。ダニエル様」

「そっかーーーー！　張れないのかーーーーーーーーーー！」

「はい！　張れませんわーーーーーーーーーー！」

「なーんだ……」

　って、ちょっとまずくないか。

「アリーシャは聖女の修行をしていたんじゃないのか？」

「していませんわ。あんな厳しい修行、私は一日でやめてしまいましたもの。以降はあの義姉様が聖女としての修行をしていたんですの。あの女は飽きもせずに毎日あんな苦しい修行をずっとしていたんですのよ」

「なんだ。そっか……」

　まあ、なんとかなるさ。ダニエルはそう緩く考えていた。結界が張られていなくても、きっと何とかなる。そう思っていた。
　
　しかし当然のようにそうは問屋が卸さなかったのだ。

「ダニエル様！」

「な、なんだ！　騒々しい！」

　ダニエルがいる部屋に使用人が飛び込んできた。

「け、結界が張られていない事で！　大勢の盗賊が王国で略奪行為を始めました！」

「な、なんだとぉ！」

　こうして聖女アリエルがいなくなった事で王国にトラブルが発生するようになったのである。