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それから2週間の出来事

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 それから2週間の出来事である。
 まず、パーティー名、無名(仮)改め『白銀竜王』と正式に命名されたクライン達四人によるFランク冒険者パーティーはEランク昇格クエストである。
 それは王国地下水路に巣くう、ビッグラットという、巨大鼠型のモンスターを討伐するクエストだった。

「はああああああああああああああああああああ!」

 強大な攻撃力を持つ戦士、セシルは剣で攻撃を振るった。

「ピギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 ビッグラットは断末魔をあげて果てた。

「やった! これでEランク昇格だ!」

 クラインは喜ぶ。この時は所詮、最下層のFランクの冒険者パーティーがEランクの冒険者パーティーへと昇格したというだけで、当然のように騒がれる事はなかった。
 だが、時間が刻一刻と過ぎていく度に、皆が『白銀竜王』に対する評価を徐々にではあるが改めていく事になる。
 Eランクとなった白銀竜王は順調にその階段をあがっていく。連日のようにクエストをクリアして行き、そしてBランクへと駆け上がっていった。
 そして、それはAランクへの昇格クエストでの出来事だった。
 ノーチラス山脈に生息すると言われる、地竜(アースドラゴン)がその昇格クエストのターゲットだった。
 だが、この地竜(アースドラゴン)は図体に見合わず中々臆病というか、慎重なところがあり、その姿を見せない。そしてその山脈はとてつもなく険しい場所にあるという事で、そもそも遭遇する事自体がなかなかに困難であった。
 そんな中、クライン率いる「白銀竜王」には盗賊(シーフ)であるリアラの存在があった。 彼女は数多くのスキルを所有している。そのスキルは実際のところ、リアラの技成功率が異様な程低いという、欠点のせいで完全な死にスキルとなっていた。
 だが、クラインの保有しているスキル『精霊王の加護』には様々なバフ(補助強化)効果があり、その中には『技成功率UP大』が存在していた。
 この効果の恩恵のおかげで、リアラの死んでいたスキルが完全に蘇る事になる。
 リアラの地図化(マッピングスキル)で、この山脈の地形が手に取るように読み取る事ができた。そして、索敵スキルである。索敵スキルにより、地図上に地竜(アースドラゴン)の姿が丸裸になったのだ。

「いた! この山の頂上」
 
 リアラは言う。

「……すごい。リアラさんのスキルが使えるスキルになっている」と、シア。
「ああ。いつも失敗してたからスキルを持っている事自体を忘れていた」と、セシル。
「うるさい! ……まあ、これも全てはクラインさんの補助(バフ)効果があるからだ。私も偉そうな事は言えない。これは私だけの力ではないからだ」と、リアラは言う。
「ともかく、山の頂上へ向かいましょう」
  
 四人は山の頂上へと向かう。

 そして、ついにはその地竜(アースドラゴン)が姿を現す。
 獰猛そうな緑色の竜だ。巨大な体躯をしている。圧倒的に強そうなオーラを地竜(アースドラゴン)は放っていた。

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 地竜(アースドラゴン)は『白銀竜王』を敵と見止めると、地響きがするような咆哮を放った。

「せっかく会ったレアモンスターだ! 盗む(スティール)!」

 盗賊(シーフ)であるリアラの本領発揮であった。クラインに対して使用した時は発揮されなかった盗む(スティール)のスキルだ。
 本来は圧倒的な低確率でしか盗めない為使えない死にスキルと化していたが、クラインの精霊魔法による補助効果により今では有能スキルになっている。
 難なくアイテムを盗む事に成功した。
 アイテムボックスに、竜晶石の標記が記載される。これはレアアイテムであり、主に換金だったり、レアな武器の素材に使用されるもので滅多にドロップしない貴重なアイテムであった。

「やった! 盗めた!」

 リアラは歓喜する。盗める事自体が珍しかった上に、こんなレアアイテムを盗める機会など今までなかったのである。故に喜びも一塩であっただろう。

「もういいですか! 倒しますよ!」

 シアは言った。そして、得意の敵味方関係なく滅殺させる自爆技。大規模な爆裂魔法を放つ。

「エクスプロージョン(大爆発)!」

 大爆発が起こり、地竜(アースドラゴン)はその爆発に飲まれていった。
 本来、その爆発に巻き込まれるはずのシア達ではあったが、クラインの精霊魔法による効果により、バリアのようなものが張られ、その命は護られる。
 本来の自爆技がただの強力な必殺魔法となっていたのである。

「はぁ……何とかなりました」

 シアは胸をなで下ろす。

「やったな。これで私達のパーティーもAランクのパーティーに昇格だ」

 セシルはそう言って喜ぶ。

「ああ。おめでたいな」

 リアラは瞳にうっすらと涙を浮かべていた。

「これもクラインさんのおかげです。ありがとうございます」シアはそう言う。
「いや。皆の力だよ。俺達はパーティーなんだから」
「全く、つくづく謙虚なお人だな」セシルはそう言う。
「クラインがいなければ私達は何もできない。だからこの功績も全てクラインのおかげのようなもの」
 リアラは言う。
「ははっ……そう言われると照れるな。そろそろ山を降りようか」
「私、脱出(エスケープ)のスキルを持っている。ダンジョンとかから元いた街に戻れるスキル」リアラは言う。
「そうか。じゃあ、それを使って帰ろうか」
「うん」

 こうしてリアラのスキルにより、四人はノーチラス山脈から元いた王国へと戻っていった。
「……す、凄い。本当に2週間でAランクにまで到達したんですか」
 
 冒険者ギルドに戻った時、受付嬢は目を丸くしていた。実績を出したのだ。かつてのように嘲ったような態度は微塵も取る気配がなかった。

「え、ええ。たまたまです」

 クラインは言った。

「たまたまなんて。そんなたまたまでAランクの冒険者パーティーになる事はできません。皆様の力が本物だからですよ」

 そう、受付嬢は言う。

「それと、これは地竜(アースドラゴン)から盗んできたアイテム」
「ま、まあ。竜晶石ですね。滅多に取れないレアアイテム。後で鑑定に出しておきますが、きっと本物でしょう。皆さん、凄いですね。この短期間でAランクの冒険者パーティーになったパーティーを他に見ません。きっと最短記録です」

 受付嬢は目を丸くしていた。

「つっ……」

 その時だった。万年Cランクの中堅冒険者であるトーマスと目があった。彼はバツの悪そうな顔をしていた。

「どうした? 俺達に何か用か?」

 クラインは尋ねる。

「い、いえ。何でもありません。お、俺はクエストに出るんで失礼します」

 何も言えなかったようだ。冒険者ギルドではランクは全てと言っても過言ではない。格上相手に言える事などない。もはやクライン達はAランクの冒険者パーティーなのだ。

「……ざまぁみろ。良い気味だ」

 と、リアラは言う。

「リアラ。嘲るな。私達も見下されてきただろう。見下せる立場になったからと言って他人を見下すな。それは良くない事だ。私達は誰よりも見下される立場を経験してきただろう。だからこそ人の痛みをわからなければならない。そうじゃないのか?」

 セシルは言う。

「それはそうだけど……」

 リアラは渋々押し黙る。そう。何も言わなくていい。ただただ結果を出し続ければ周囲の評価は変わっていく、それだけの事だった。

 そんな時だった。かつてクラインが所属していた紅蓮獅王の連中が冒険者ギルドに戻ってきた。その顔面は蒼白状態で、パーティーの雰囲気はお通夜状態であった。
 何となく雰囲気でダメだったという事をクラインは察した。

「おい。聞いたかよ。紅蓮獅王の連中、またAランクのクエストに失敗して、今回のクエスト失敗でついにBランクに降格したんだってよ」
「マジかよ。なんかしらねーけど。一度失敗してから一度も成功してねーじゃねーか」
「……これはもう、その強そうなパーティー名改名した方がいいんじゃねぇの?」
「ははっ。ちがいねぇな」

 冒険者達が嘲笑を浮かべる。

「ちっ、くそっ!」

 アレルヤは悪態を吐く。そして、Aランクパーティーへと昇格したクライン達を見て、くってかかってきた。

「……なんだよクライン。気持ちいいか? お前をクビにした途端、転げ落ちていく俺達を見て、大層気持ちいいだろうな?」
 
 アレルヤは詰め寄ってくる。

「ちょ、ちょっとやめなさいよ。アレルヤ。皆見てるのよ」

 イザベラは止めに入る。だがアレルヤは止まらなかった。相当鬱憤が溜まってるようだった。

「へへっ……いいよな。今じゃお前達のパーティーがAランクで俺達はBランク。完全に立場が逆転しちまったってわけだ。俺達の目が腐ってたせいで。くそっ。Sランクに上がったのは自分達が強くなったからだと傲っちまってた。だけど、それは間違いだったんだな。お前の力があったからだったんだ。俺達の力はこんなもんだったんだよ」

 アレルヤはそう言って嘆く。

「……アレルヤ」

 クラインは流石に可哀想になったのか、同情の目を向ける。

「くっ。やめろよっ。その同情したような目。俺達はまた絶対に這い上がってくる。本当の力をつけて。絶対にだ。今に見ていろよ」

 アレルヤは闘志を瞳に宿していた。そういう視線を向けられる方がまだ心が痛まなかった。 紅蓮獅王の連中は受付嬢に報告した後、冒険者ギルドを去って行く。

「今日はAランクに昇格したし、ぱーっと一杯やろうか」

 クラインはそう言った。

「賛成です! 早速酒場に行きましょう」
「あ、ああ。俺達一応、未成年だから酒以外な」
「だったら普通のレストランでいいでしょう」とリアラは言う。
「ああ。そうだな。レストランに行こうか」

 四人はAランクに昇格した祝勝会をする為、レストランに向かった。
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