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悪魔との契約

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「くそっ! なんなんだよっ! ちくしょうっ!」

 冒険者ギルドを出た紅蓮獅王リーダーであるアレルヤは怒り狂っていた。近くにあったゴミ箱を蹴飛ばす。

「ちょっと、やめなさいよ。見苦しい。他の皆に示しがつかないわ」

 そう、イザベラはアレルヤを諫める。

「ちくしょう! お前がもっと早くクラインの存在価値に気づいていればこうならなかったんだ!」

 アレルヤはイザベラを責めた。

「なっ、何よそれは! 私のせいだっていうの! そもそもクラインをクビにしてもっと安く使えるサポーターを入れようって言ったのはあなたの意見だったじゃないの!」

 イザベラは反論する。

「ちっ……もう限界だな」
「そうね……このパーティーももう」

 ボブソンも押し黙っていた。今まで順調にきていた分、一度でも躓くとパーティーの崩壊は早かった。
 その時だった。

「力が欲しいか?」
「なっ、誰だ?」

 一人の男が現れる。黒ずくめの男だ。怪しい男だった。

「力が欲しいかと聞いている。かつてのお前達を陵駕するような力、絶対的で圧倒的な力を」
「力? ……勿論、欲しいが」
 
 アレルヤは答える。

「ば、馬鹿! 何普通に答えているのよ。あれはきっと良くない存在よ!」

 イザベラは忠告するが時既に遅かった。さっきの問答で契約は成立していたのだ。

「……そうか。ならば受け取れ。力を」
「なっ、何っ? うっ、うわあああああああああああああああああああああ!」

 アレルヤは黒い闇の光に飲まれていった。

 冒険者パーティーでの出来事だった。白銀竜王の前に、漆黒竜王のメンバーが現れる。

「……な、なんですか? あなた達は」
 
 シアは身構える。

「そう身構えなくていいのよ。私達はあなた達の活躍ぶりを称賛しにきたのよ」

 そう、ロザミアは言う。

「先日はすまなかったな。お前達の力を侮っていた。お前達はパーティー名に竜王を名乗るだけの事はある。俺達もうかうかしていられないと思ってな」と、アルタイルは言った。
「ええ。そういう事よ。あなた達と肩を並べて戦う日も近いと思ってね」
「そうですか。そう言って貰えて嬉しいです」

 シアは笑みを浮かべる。

「今のところこの王国にはSランクパーティーは私達漆黒竜王しかいない。けど、あなた達ならきっとSランクにあがれると思っているわ」
「ああ。お前達ならきっと俺達がいる領域にあがってこれるさ」
「もしそうなったら、お祝いしましょうね。ちゅっ」
 
 ロザミアは投げキスをした。悪い気分ではなかった。王国最強と目されているSランクパーティーが自分達を評価しているのだ。
 結果を出せば周囲の評価は自然と変わる。思っていた通りの結果となった。

「ありがとうございます。これもクラインさんのおかげです」シアは言う。
「そんな事ない。皆の力のおかげだよ」
「そんな事ないですよ。クラインさんがいなかったら、私たちはポンコツ扱いのままでした。Fランクパーティーのまま、日々除け者にされて、惨めな生活をしていたに決まっています」
「ああ。その通りだな」と、セシルは言う。
「けど、私達は怖くもあるんです。だってクラインさんがいなくなったら私達、前と同じで元通りになっちゃうじゃないですか」

 シアは言う。それもそうかもしれないが。確かにそうなる可能性も高い。

「安心しろよ。俺はどこにもいったりしない」
「本当ですか?」
「ああ」
「ありがとうございます。私達もクラインさんから離れられません」

 シアは笑顔で言う。抱きついてきた。柔らかい感触が腕に走る。ないものと思っていたが存外に見た目よりはあるようだった。

「や、やめろ。シア。皆、見ているぞ」

 クラインは慌てた。

 そんな時の事だった。冒険者ギルドが慌ただしくなる。冒険者数名が会話をしていた。

「し、知ってるか? 最近あのBランクに落ちた『紅蓮獅王』の連中」
「なんだ? Cランクまで落ちたっていうのか? くっくっく」
「い、いや。逆なんだよ。速攻でAランクに戻ったかと思うと、立て続けにAランクのクエストもクリアしていって、すぐにでもSランクに戻りそうなんだよ」
「……なんだと。一体、何があったんだ」
「さ、さあ。元々はSランクの冒険者パーティーだったし、実力は本物だったんじゃないか? それで調子を取り戻してきたと。今までは本調子じゃなかったんじゃないか?」
「それにしたって急だよな。いきなりって感じでびっくりするぜ」

 冒険者達は会話をしていた。

「クラインさん……」

 シアは不安げに声をかけてくる。おかしい。クラインのスキル『精霊王の加護』がなければ紅蓮獅王の連中は本来持っている力しか発揮できないはずだ。
 連中の実力はBランク冒険者パーティーが相応。いくら戦闘経験によりレベルアップするにしても急すぎる。可能性としてあるのは新規加入メンバーが優秀だった可能性がある。
 クラインのようなチートスキルを持ったメンバーの加入。それくらいだ。

「くっくっく。どうした? クライン。神妙な面しやがって」
「アレルヤ……」

 クライン達の前に、アレルヤ率いる紅蓮獅王の連中が現れた。先ほどの推察は外れていたようだ。かつてのパーティーメンバーの三人。それから見知らぬサポーターが一人。そのサポーターがチートスキルの持ち主なのかと思ったが、そうではないだろう。クラインの入れ替わりで雇われた新参のはずだ。つまり前々からクエストに参加している。だから彼がチートなスキルを持っているかというと、可能性としては低そうだった。

「どうして、こんな急に」
「いやー。俺達力の使い方が急にわかってきちゃってさ。目覚めたんだよね。本来の力にさ。だからお前を無理に引き戻す必要はなくなっちまったんだわ」

 アレルヤは余裕のある笑みを浮かべる。それは本来のアレルヤがする表情だった。

「そういう事なの。まあ、先にSランクに昇格するのは私達の方よ。ふふふっ」

 イザベラもまた余裕のある笑みを浮かべた。雰囲気が明らかに変わっていた。強くなって余裕を取り戻したという事か。だがそれだけではないような気がした。クラインは何となく察する。何かあると。

「じゃあね。また会いましょう。ふふふっ」イザベラは笑みを浮かべる。
「じゃあな。また遊ぼうぜ」と、アレルヤは背を向けて手を振った。
「一体、何があったんでしょうか?」シアは疑問符を浮かべる。
「さあな……。俺にもわからない。だが、何となくあいつらの様子はおかしい。きっと何かがある」

 クレインは訝しんでいた。そして、その様子は後日、的中する事となる。
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