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第14話 外堀を作る
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「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
ミスリルの家まで逃げ帰った俺達は一応の落ち着きを取り戻した。急いで帰ってきた為か、俺達は息を切らしていた。
やはり家に帰ると安心感があるものだ。ましてや台風でもビクともしない頑丈な家ともなると、更なる安心感を得る事ができた。
「あまりグラン様の弟君を悪くは言いたくないのですが……お世辞にも善人とは思えない方でした」
流石のリノアでもフォローのしようがない程、義弟であるヘイトはろくでもない奴だった。
「無理もない……あいつはあんな奴だったけど、昔はあんなに酷くなかったんだ。いや、本性はああだったかもしれないが、義理の息子という事で肩身が狭かったんだ。それで抑圧されていたんだろうな。けど、俺が追い出され、ロズベルグ家の正当な世継ぎとなった事で、本性が出たんだ……」
「恐ろしいものですね……人の本性というのは。あれではもう人間とは呼べません。まるで獣(けだもの)ではありませんか……」
「我が弟の事ながら、返す言葉もないよ……。それにしてもあいつは言ってたな。魔王を倒して英雄になるって。俺達には魔王を倒すなんて大それた事はできない。自分達の生活で居間のところ一杯一杯なんだからな。住居と衣類、それから食糧を手に入れてやっと落ち着けるようになってきたところさ」
ヘイトと遭遇した事で追加の食糧を得る事も、調度品を得る事もできなかったが、それでも服を買えて良かった。生活ぶりは初期の頃よりも大分向上してきた感じがあった。
「けど、魔王と、魔王が率いる魔王軍とは無関係ではいられない。リノアの住んでいたエルフの国に攻め入り、焼き払ってきたのは魔王軍の仕業なんだろう?」
「は、はい……その通りです。私達のエルフの国に攻め入ってきたのは魔王軍の仕業でした」
「このミスリルの家は頑丈だけど、それでも自然災害に耐えうるってだけだ。外敵からの侵攻を防げる程のモノじゃない。もっと充実させていかないと……自衛手段を」
「……自衛手段ですか」
「その為には俺達の力だけではダメだ。誰か他の人の力も必要になってくる」
俺の建築スキルだけでは出来る事は限られていた。俺の力だけでは魔王軍の侵攻を防ぐのは困難であった。
だが、それよりも前にもっとやらなければならない事があったのだ。ここにいもしない第三者の力を夢想し、頼るのは現実的な事ではない。今、俺達は出来る事をやるより他にないんだ。
「だけどその前に俺達は俺達で出来る事をやるより他にない」
「自分達で出来る事……?」
「この北の辺境に魔王軍が攻め込んでくる可能性は低い……がゼロではない。魔王軍は順調にその勢力を広げていると聞いている。例えば、この北の辺境は人間の国アークライトに辿り着く為の通過点になっているんだ。通りがかった時に、俺達の住まいが襲撃される可能性は十分にあるんだ……それにこの北の辺境には危険なモンスターがいくつも生息している、そういう連中から身を守る為にも、備えは必要なんだ」
「危険な外敵から身を守る備え……ですか。ですが、具体的には何をするんでしょうか?」
「外堀を作ろう……深い外堀を。そして橋をかけるんだ。緊急時には橋を撤去して、引きこもればいい。このミスリルの家は高い防御力を誇る。矢や魔法を放ってきても長い時間耐えうるだろう」
「はぁ……」
「攻略が困難だと思えば、逃げ帰っていくかもしれない。何にせよ俺達の生活はより安全なものになるはずだ」
「で、でもどうやって外堀を作るんですか?」
「これを使うまでさ。『ビルドスコップ』」
俺は【建築(ビルド)】スキル、『ビルドスコップ』を作り出した。ただの変哲もないスコップに見える。
「……この『ビルドスコップ』はただのスコップにしか見えないけど、普通のスコップじゃないんだ。使用者である俺に力を授け、通常の10倍くらいの採掘能力を得る事ができる……外堀なんて、あっと言う間に作れてしまうよ」
「すごい! グラン様はそんな事まで出来るんですか!」
リノアは目を輝かせていた。
「外堀を作るのはいいが……それだけだと、落ちたモンスターが這い上がってくるかもしれないよな……手痛いダメージを与えてやろう。そうだ、ミスリル鋼だ。ミスリル鋼の余りで、地面に棘の罠を設置してやろうか。そうすれば、もはや這い上がろうとする体力すらなくなる事だろう」
俺達はこうして外堀を作る事を決めた。
作業は三日三晩続いた。俺は『ビルドスコップ』で外回りの土を掘り、堀を作り出す。
キンコンカンコン! キンコンカンコン! キンコンカンコン! キンコンカンコン! キンコンカンコン! キンコンカンコン! キンコンカンコン!
キンコンカンコン! キンコンカンコン! キンコンカンコン! キンコンカンコン!
俺は【建築(ビルド)】スキルを活用し、外堀を作った。そして堀の底には棘の罠を……さらには家に立てこもれるように、木の橋を作った。
「完成だ!」
「凄い! できましたね!」
「……ああ。これが俺達の新しい住まいだ。気を付けてくれよ……外堀に落ちたら、ダダでは済まないから」
「ええ……気を付けます」
リノアは外堀を覗いてゾッとしていた。その深さは実に5メートル程あった。そしてその底にはミスリル鋼で出来た無数の棘の罠。落ちたら無事では済まない。
「家まではこの橋で渡るんだ」
家の玄関口には橋が掛けられている。木材を使用して作った、木の橋だ。立てこもりをする際にはこの木の橋を撤去して、家の中に入るのである。
「とりあえずはこれで完成だ。ふぁぁ……頑張って作ったから疲れたなー」
「そうですね。グラン様は大変頑張っていました。家に入って眠りましょうか」
「ああ、そうしようか」
こうして外堀を作った俺達は家の中に入った。そして、この外堀ではあるが、意外に早く役に立つ事になるのだ。
――そう、意外にも早く、魔王軍が襲撃してくる事になったのだ。
ミスリルの家まで逃げ帰った俺達は一応の落ち着きを取り戻した。急いで帰ってきた為か、俺達は息を切らしていた。
やはり家に帰ると安心感があるものだ。ましてや台風でもビクともしない頑丈な家ともなると、更なる安心感を得る事ができた。
「あまりグラン様の弟君を悪くは言いたくないのですが……お世辞にも善人とは思えない方でした」
流石のリノアでもフォローのしようがない程、義弟であるヘイトはろくでもない奴だった。
「無理もない……あいつはあんな奴だったけど、昔はあんなに酷くなかったんだ。いや、本性はああだったかもしれないが、義理の息子という事で肩身が狭かったんだ。それで抑圧されていたんだろうな。けど、俺が追い出され、ロズベルグ家の正当な世継ぎとなった事で、本性が出たんだ……」
「恐ろしいものですね……人の本性というのは。あれではもう人間とは呼べません。まるで獣(けだもの)ではありませんか……」
「我が弟の事ながら、返す言葉もないよ……。それにしてもあいつは言ってたな。魔王を倒して英雄になるって。俺達には魔王を倒すなんて大それた事はできない。自分達の生活で居間のところ一杯一杯なんだからな。住居と衣類、それから食糧を手に入れてやっと落ち着けるようになってきたところさ」
ヘイトと遭遇した事で追加の食糧を得る事も、調度品を得る事もできなかったが、それでも服を買えて良かった。生活ぶりは初期の頃よりも大分向上してきた感じがあった。
「けど、魔王と、魔王が率いる魔王軍とは無関係ではいられない。リノアの住んでいたエルフの国に攻め入り、焼き払ってきたのは魔王軍の仕業なんだろう?」
「は、はい……その通りです。私達のエルフの国に攻め入ってきたのは魔王軍の仕業でした」
「このミスリルの家は頑丈だけど、それでも自然災害に耐えうるってだけだ。外敵からの侵攻を防げる程のモノじゃない。もっと充実させていかないと……自衛手段を」
「……自衛手段ですか」
「その為には俺達の力だけではダメだ。誰か他の人の力も必要になってくる」
俺の建築スキルだけでは出来る事は限られていた。俺の力だけでは魔王軍の侵攻を防ぐのは困難であった。
だが、それよりも前にもっとやらなければならない事があったのだ。ここにいもしない第三者の力を夢想し、頼るのは現実的な事ではない。今、俺達は出来る事をやるより他にないんだ。
「だけどその前に俺達は俺達で出来る事をやるより他にない」
「自分達で出来る事……?」
「この北の辺境に魔王軍が攻め込んでくる可能性は低い……がゼロではない。魔王軍は順調にその勢力を広げていると聞いている。例えば、この北の辺境は人間の国アークライトに辿り着く為の通過点になっているんだ。通りがかった時に、俺達の住まいが襲撃される可能性は十分にあるんだ……それにこの北の辺境には危険なモンスターがいくつも生息している、そういう連中から身を守る為にも、備えは必要なんだ」
「危険な外敵から身を守る備え……ですか。ですが、具体的には何をするんでしょうか?」
「外堀を作ろう……深い外堀を。そして橋をかけるんだ。緊急時には橋を撤去して、引きこもればいい。このミスリルの家は高い防御力を誇る。矢や魔法を放ってきても長い時間耐えうるだろう」
「はぁ……」
「攻略が困難だと思えば、逃げ帰っていくかもしれない。何にせよ俺達の生活はより安全なものになるはずだ」
「で、でもどうやって外堀を作るんですか?」
「これを使うまでさ。『ビルドスコップ』」
俺は【建築(ビルド)】スキル、『ビルドスコップ』を作り出した。ただの変哲もないスコップに見える。
「……この『ビルドスコップ』はただのスコップにしか見えないけど、普通のスコップじゃないんだ。使用者である俺に力を授け、通常の10倍くらいの採掘能力を得る事ができる……外堀なんて、あっと言う間に作れてしまうよ」
「すごい! グラン様はそんな事まで出来るんですか!」
リノアは目を輝かせていた。
「外堀を作るのはいいが……それだけだと、落ちたモンスターが這い上がってくるかもしれないよな……手痛いダメージを与えてやろう。そうだ、ミスリル鋼だ。ミスリル鋼の余りで、地面に棘の罠を設置してやろうか。そうすれば、もはや這い上がろうとする体力すらなくなる事だろう」
俺達はこうして外堀を作る事を決めた。
作業は三日三晩続いた。俺は『ビルドスコップ』で外回りの土を掘り、堀を作り出す。
キンコンカンコン! キンコンカンコン! キンコンカンコン! キンコンカンコン! キンコンカンコン! キンコンカンコン! キンコンカンコン!
キンコンカンコン! キンコンカンコン! キンコンカンコン! キンコンカンコン!
俺は【建築(ビルド)】スキルを活用し、外堀を作った。そして堀の底には棘の罠を……さらには家に立てこもれるように、木の橋を作った。
「完成だ!」
「凄い! できましたね!」
「……ああ。これが俺達の新しい住まいだ。気を付けてくれよ……外堀に落ちたら、ダダでは済まないから」
「ええ……気を付けます」
リノアは外堀を覗いてゾッとしていた。その深さは実に5メートル程あった。そしてその底にはミスリル鋼で出来た無数の棘の罠。落ちたら無事では済まない。
「家まではこの橋で渡るんだ」
家の玄関口には橋が掛けられている。木材を使用して作った、木の橋だ。立てこもりをする際にはこの木の橋を撤去して、家の中に入るのである。
「とりあえずはこれで完成だ。ふぁぁ……頑張って作ったから疲れたなー」
「そうですね。グラン様は大変頑張っていました。家に入って眠りましょうか」
「ああ、そうしようか」
こうして外堀を作った俺達は家の中に入った。そして、この外堀ではあるが、意外に早く役に立つ事になるのだ。
――そう、意外にも早く、魔王軍が襲撃してくる事になったのだ。
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