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第16話 魔王軍兵団との闘い

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「ドワーフ国の姫リディアよ。そこの家に隠れているのはわかっている。我は魔王軍四天王直属第一兵団隊長の魔人クレイモアである! 大人しく投降すれば命だけは助けてやろう!」

 魔人のうちの一人。ごつい魔人だ。強力な力を感じる。他の兵士達よりも明らかに強そうだ。人間とは違い、魔族などは純粋に強い奴がリーダーになる傾向がある。その為、隊長であるあの魔人、クレイモアがこの中では一番強そうではあった。

「なぜ、君が狙われるんだ? ……エルフの姫だからっていうのはあると思うけど、何か貴重なアイテムでも持っているのか?」

「それは恐らく、私が授かっているスキルにあると思います」

「スキル?」

 ドワーフもまた、人間のようにスキルを授かっているのか。

「ええ……ドワーフは鍛冶に長けている種族で、それに関わるスキルを授かる事が多いのですが、私の授かっているスキル『神域の鍛冶』は通常の鍛冶スキルよりも、より希少でより強力な装備や装飾品を作り出す事ができるのです……ですから、魔王軍の連中は私を欲しているのだと思います」

 リディアは苦々しく告げる。

「というよりも……魔王軍の連中がドワーフの国に攻め入ってきたのも、私と、私が持つスキル『神域の鍛冶』が欲しかったからに他なりません。その為に私達のドワーフの国の平穏は脅かされ、滅ぼされてしまったのです」

「そうか……君が持っているスキルを魔王軍は狙っているんだな」

 それだけ強力なスキルを彼女は持っているのだろう。であるならば彼女を魔王軍に渡すのは危険だ。彼女が利用され、そのスキル『神域の鍛冶』により強力な武器や兵器が作られ、悪用されてしまうかもしれない。

 絶対に彼女を魔王軍に渡すわけにはいかなかった。それだけは避けなければならなかった。

「大人しく投降しろ、ドワーフ国の姫リディアよ……そうすれば命だけは助けてやるよ。何、その際はちょっと気持ちよくなるだけでいい……ぐっぐっぐ! はっはっはっはっはっは!」

「そうそう、俺達も気持ちよくさせて貰うけどな」

「はは! あんな小さな身体で耐えられるかな!」

「貴重なスキルを持ってるんだ! 壊れないように、丁寧に扱えよっ。クックック」

 魔王軍の兵士達はゲスな言葉を連発する。なんて酷い連中だ。ますます、リディアを渡すわけにはいかなくなった。

「ふざけるな! お前達にリディアを渡すわけがないだろっ!」

「そうです! そうです!」

 俺達は言い放つ。

「ふん……なんだ? 脆弱で愚かな人間がその家の中にいるのか! やれ!」

「はっ!」

 魔人クレイモアの命令で、手下の兵士達が攻撃を始める。

 無数の矢が降り注いできた。しかし、ミスリル製の家はその程度の攻撃ではビクともしない。

「くっ! なんだとっ!」

「クレイモア隊長! どうやらあの家はミスリル鋼で出来ているみたいです!」

「くっ! 人間如きが! 浅知恵を働かせおって! 魔道兵団よ! 魔法攻撃を放て!」

 兵士達にもいくつか役割があるようだった。先ほどの弓を放ったのは弓兵。そしてこれから魔法攻撃を放つのは魔法使いで構成された、魔道兵団というわけだった。魔導士風の魔族達が、魔法攻撃を放つ。

 炎や雷が襲う。しかし、ミスリル鋼の家はその攻撃に見事に耐えきった。

「ぬ、ぬうぅ! なんだと!」

「ミスリルは物理攻撃だけではなく、魔法攻撃にも強いんです! なかなか効きませんよ!」

「だったら直接攻め入って、リディアを連れ出してこい!」

「た、隊長! この家の周り、深い堀になってますぜ!」

「し、しかもそこには棘が置かれています! 落ちたら無事ではすみません!」

「何とかせよ! まず誰かが落ちるんだ! 死んでも構わん! 死体の山を山積みにして、外堀を登るんだ!」

 魔族とはいえ、余りに酷い命令に俺は絶句した。

「え、ええっ! そ、それはあんまりじゃ!」

「うるさい! いいから堀に飛び込め!」

「う、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 魔人クレイモアは部下を掘りに投げ込んだ。

 グサッ!

 棘に刺さり、部下の魔族が絶命する。

「ふう……よし! 何人か下敷きになって、その死体の上を登っていけ!」

「「「ええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」」」

 兵士達から不平不満が漏れてくる。当然だ。死ねと言っているようなものだ。自衛の為に作った外堀ではあるが、罪悪感で胸が締め付けられそうになる。酷い命令をしているのはあの魔人クレイモアではあるが。

「上官の命令に背くのは即極刑だぞ! 我らの命が魔王様の為に役立てられる事を光栄に思い、死ぬがいい! クックックック! アッハッハッハッハッハッハッハッハ!」

 魔人クレイモアの哄笑が響き渡る。

 こうして幾人もの兵士の犠牲に末に、魔族達がミスリルの家に攻め入ろうとしてきた。

「リノア、構う事はない、やっちまえ!」

 黙って、外堀を登るのを見ている俺達ではない。攻勢に出る機会(チャンス)だ。俺達は外に出た。

「は、はい! グラン様!」

 リノアは魔法を放った。

「風刃魔法(ウィンドカッター)!」

 リノアの放った風の刃により、外堀を登ろうとしていた兵士達は切り刻まれ、再び奈落の底へと落ちていく。

「「「「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」」」」

 グサッ! グサッ! グサッ!

 無防備な状態で風刃魔法(ウィンドカッター)を身に受けたのだ。避けられるはずもない。平地の状態とは違うのだ。登ろうともがいていた兵士達も敢え無く返り討ちになってしまう。

「なんだと! 小生意気な! 先ほどの女はエルフか! そうか、エルフの姫をこの前の攻略で取り逃がしたな! 生き残りがいたというわけか!」
 
魔人クレイモアは絶句していた。予想外の出来事の連続に、流石に戸惑ったのであろう。

「隊長! 兵士が大分やられましたぜ!」

「それにこれ以上の攻略でどれくらい犠牲者を出すか、わかったもんではありません!」

「隊長の上司の四天王——モルガン様が大変お怒りになるのではないでしょうか!」

「う、ううむ……確かに何の策もなく、突撃を続けるのは人員の消耗が激しいか」

「そ、そうですよ……もっと準備をしてから攻め入った方がいいんじゃないですかねぇ」

「それもそうだな……ふっ。リディアよ。今回のところは見逃してやろう」

 どう考えても八方塞がりで逃げ帰るだけなのだが、それを認めるのはプライドが許さないのだろう。

 魔人クレイモアはあくまでも見逃すという体裁は崩さずに、兵を引き上げていくのであった。

「それではまた会おうではないか! 次こそは必ずリディアよ! お前を手に入れてやる……ついでにあのエルフの姫もいただいてしまおう。ぐっふっふっ!」

「あいつは旨そうだぜ。ぐっへっへ!」

「あのエルフの女なら、存分にヤっちまっても構わないですよね。隊長」

「くっ!」

 魔族の兵士達はリノアに対して、卑猥な視線を集中させてくる。リノアは生理的に嫌悪感を抱き、その身をぶるっと震わせた。

「良いだろう……だがお楽しみは後に取っておくのだ。一旦は帰還しようではないか」

「へいっ!」

 大勢の仲間達が犠牲になった事など、ケロっと忘れたかのようにして、魔王軍の兵団は引き返していった。

「ふぅ……何とかなったか」
 
 魔王軍の兵団が引き上げていく光景を見て、俺達は胸を撫で下ろした。

「……酷い。仲間をこんなに平然と見捨てるなんて。わかっていた事ですが魔王軍の連中なんて、血も涙もないんですね」

 リノアは嘆いていた。

「魔王軍に血も涙もない事なんて今更だ、リノア。あいつ等にとって、仲間は仲間じゃないんだ。駒なんだよ。必要とあれば平気で投げ捨てるんだ。それが魔王軍、って連中なんだよ」

「そうですね……連中の酷さは私もまた、身をもって知っています」

「それにしても、リディアが向こうの手に渡らなくて本当に良かったよ」

「は、はい……ありがとうございます。皆様」

 リディアは深々と頭を下げる。

「とりあえず、立ち話もなんだ。中で少し休もう。水と簡単な食事くらいなら出せる」

「グラン様……外堀にある魔族兵達の死体ですが……どうしましょうか?」

 リノアが聞いてきた。外堀には大勢の死体が積み重なっているのである。

「このまま放っておくと腐敗臭がして嫌だから、後で炎魔法(フレイム)で火葬にしておこうか」

「は、はい……そうですね。なんだか可哀想ですが、自業自得ですよね」

「連中はそれだけの事をしてきたんだ。別にリノアが気に病む必要はないよ。そんな事気にしてたら、この先やっていけないよ」

「グラン様にそう言われると、気が落ち着きます」

 俺達はとりあえずミスリルの家の中に入った。




 
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