27 / 36
第27話 義弟ヘイトとの思わぬ再会2
しおりを挟む
朝が来た。日の光が眩しかった。その時の俺はまさか、まもなく魔王軍が侵攻してくる事など思ってもみなかった。
「はぁ……起きた。今日も一日頑張ろうか」
「はい……そうですね」
「ええ! 今日も一日頑張りましょう!」
朝、三人で起床する。こうしていつもと変わらない一日が始まると思った。
「今日はどうしましょうか?」
リノアが聞いた。
「水の貯蔵量が減ってきたし……皆で泉に行って、水汲みでもしてこようか」
「そうですね!」
「そうしましょう!」
こうして俺達は泉へと水汲みに向かったのである。そこで俺が再び、思いもせぬ再会を果たすとは夢にも思っていない事であった。
◇
「ふんふふふーん♪」
リノアは鼻歌を鳴らす。
「随分、機嫌が良いな、リノア」
「ええ……だって、お風呂に入れるようになったんですから。生活環境が大幅に改善されました。これは大きな進歩です」
「そうだなぁ……風呂に入れるようになったのは大きいなぁ」
今までの事を振り返ると、生きていくのでやっとだった。雨露凌げる住居すらなかったのです。そして食糧も確保できなかった。飲み水さえも。そういった基礎的な生活環境が整ったから、風呂に入るといった衛生環境も整えていく余裕ができたというわけだ。
生活の土台が出来て、多少なり余裕が持てるようになってきた。これは実に好ましい事だし、良い事である。
外堀を作り、敵から身を守る手段を持ち、そして今度は大砲まで得る事ができた。大砲の威力は強力であり、もし魔王軍が攻め込んで来たとしても十二分に迎撃する事ができるだろう。
これにより俺達の生活は前よりも大分安定してきたし、心の余裕を持てるようになってきた。
全てが順調に回り始めているような、そんな感覚を持てるようになってきた。
――と、その矢先であった。
「……誰かいます、グラン様」
リノアが警戒を露わにした。
「もしかしたら、魔王軍の斥候(スパイ)かもしれません」
リディアはそう言った。二人とも、警戒心を露わにしている。無理もない。ここは北の辺境という危険な大地でもあるし、魔王軍とはつい先日、矛先を交えたばかりだ。
「……いや、どうやら違うようだ」
俺は気づく。その人物は魔王軍の斥候(スパイ)などではない……だが、だからと言って、とても味方とも思えないような人物であった。
――その人物とは何を隠そう。俺の義弟であるヘイトだったのである。
「へっ……なんだ。ヘボ兄貴。てめー、生きてやがったのか? 全く、しぶとい野郎だぜ」
ヘイトはいつも通り、俺を見下し、馬鹿にしたような台詞を吐きつけてきた。
「あ、あなたは……」
「ど、どちら様ですか!?」
リノアは身構える。リノアは会った事があるからだ。あの時、人間の国であるアークライトに行った時に、リノアはヘイトと顔を合わせている。勿論、その時の印象は最悪ではあるが……。
「……ヘイトって言って、俺の義弟(おとうと)だ」
「義弟(おとうと)さんですか……」
「兄弟って言っても……とても友好的な関係じゃないけどな。何しに、こんなところに来ているんだ? ヘイト。あの時の決着をつけに、ここまで来たのか?」
俺は【建築(ビルド)】スキルを発動し、『ビルドハンマー』を手にとった。以前の俺の『ビルドハンマー』は木製だった。だが、今はスキルが進化し、ミスリル製になっている。今の俺なら、前よりもある程度やれるはずだ。
「けっ……てめぇみてぇな雑魚追っかけ回す程、俺も暇じゃねぇんだよ。今日は別件で来たんだ。別件で。俺様にはもっと重要な使命って奴があるからな。ロズベルグ家の世継ぎとしての使命が……てめーみてーな追い出された無能とは違って、お気楽な気持ちじゃいられねぇんだよ」
「……俺を追いまわしに来たわけじゃないだと? だったら何をしに、この北の辺境まで来たって言うんだ。こんな危険で不毛な大地に、わざわざ……」
「親父に命令されてな……これから魔王軍が俺達の国——アークライトに侵略してくるって情報を掴んだのさ。それで世継ぎの俺が侵略を未然に防ぐように、言いつけられたんだよ」
「ま、魔王軍!?」
俺は驚いた。だが、よく考えれば驚く程の事でもない事に気づく。リノアのエルフの国……そして、リディアのドワーフの国は攻め滅ぼされた。攻め落とす対象が減ってくれば、必然的に対象は狭まり、人間の国——アークライトに攻め入ってくるという可能性が上がってくる。
現実として、魔王軍はアークライトに攻め入ってくる段階に来たというだけだ。
「……だ、大丈夫なのか!? ヘイト。魔王軍って事は大量に数がいるんだぞ。それなのに、お前は一人きりじゃないか」
「へっ……群れを成すのは弱い奴だけだ。俺様のような、最強の剣士にとっては、中途半端な味方なんてのは邪魔なだけなんだよ。魔王軍程度……俺様一人でお釣りがくらぁ」
これから魔王軍と対峙するというのに、ヘイトは顔色一つ変えなかった。それだけの絶対的な自信があるという事だろう。
「……そうか。だといいけどな」
「おいでなさったようだぜ! 馬鹿兄貴! それからエルフ女とドワーフ女! 隅っこの方で震えて待ってやがれ! そしてこのヘイト様の雄姿を! 伝説をその目に刻みこむんだ」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
!
大量の魔王軍が進撃してくる。無数の足音が地響きのように響き渡ってきた。視認できるようになってきた。間違いない。大量の魔王軍の姿がそこにはあった。
恐ろしい光景を目の前にしても、ヘイトの余裕の表情は揺るがなかった。
「行くぜ! おらあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
ヘイトは背中から、大剣を抜いた。大振りの剣だ。大きい剣は破壊力がある分、重くて扱いづらい。スピードが鈍るのが普通の事だ。だが、ヘイトはその剣をまるで短剣か何かのように、軽々しく扱っていた。あれほどの大剣を装備しているにも関わらず、全くスピードが落ちている様子がない。
ヘイトは風のような速さで、魔王軍に向かっていくのであった。ヘイトと魔王軍との戦いが始まる。
「はぁ……起きた。今日も一日頑張ろうか」
「はい……そうですね」
「ええ! 今日も一日頑張りましょう!」
朝、三人で起床する。こうしていつもと変わらない一日が始まると思った。
「今日はどうしましょうか?」
リノアが聞いた。
「水の貯蔵量が減ってきたし……皆で泉に行って、水汲みでもしてこようか」
「そうですね!」
「そうしましょう!」
こうして俺達は泉へと水汲みに向かったのである。そこで俺が再び、思いもせぬ再会を果たすとは夢にも思っていない事であった。
◇
「ふんふふふーん♪」
リノアは鼻歌を鳴らす。
「随分、機嫌が良いな、リノア」
「ええ……だって、お風呂に入れるようになったんですから。生活環境が大幅に改善されました。これは大きな進歩です」
「そうだなぁ……風呂に入れるようになったのは大きいなぁ」
今までの事を振り返ると、生きていくのでやっとだった。雨露凌げる住居すらなかったのです。そして食糧も確保できなかった。飲み水さえも。そういった基礎的な生活環境が整ったから、風呂に入るといった衛生環境も整えていく余裕ができたというわけだ。
生活の土台が出来て、多少なり余裕が持てるようになってきた。これは実に好ましい事だし、良い事である。
外堀を作り、敵から身を守る手段を持ち、そして今度は大砲まで得る事ができた。大砲の威力は強力であり、もし魔王軍が攻め込んで来たとしても十二分に迎撃する事ができるだろう。
これにより俺達の生活は前よりも大分安定してきたし、心の余裕を持てるようになってきた。
全てが順調に回り始めているような、そんな感覚を持てるようになってきた。
――と、その矢先であった。
「……誰かいます、グラン様」
リノアが警戒を露わにした。
「もしかしたら、魔王軍の斥候(スパイ)かもしれません」
リディアはそう言った。二人とも、警戒心を露わにしている。無理もない。ここは北の辺境という危険な大地でもあるし、魔王軍とはつい先日、矛先を交えたばかりだ。
「……いや、どうやら違うようだ」
俺は気づく。その人物は魔王軍の斥候(スパイ)などではない……だが、だからと言って、とても味方とも思えないような人物であった。
――その人物とは何を隠そう。俺の義弟であるヘイトだったのである。
「へっ……なんだ。ヘボ兄貴。てめー、生きてやがったのか? 全く、しぶとい野郎だぜ」
ヘイトはいつも通り、俺を見下し、馬鹿にしたような台詞を吐きつけてきた。
「あ、あなたは……」
「ど、どちら様ですか!?」
リノアは身構える。リノアは会った事があるからだ。あの時、人間の国であるアークライトに行った時に、リノアはヘイトと顔を合わせている。勿論、その時の印象は最悪ではあるが……。
「……ヘイトって言って、俺の義弟(おとうと)だ」
「義弟(おとうと)さんですか……」
「兄弟って言っても……とても友好的な関係じゃないけどな。何しに、こんなところに来ているんだ? ヘイト。あの時の決着をつけに、ここまで来たのか?」
俺は【建築(ビルド)】スキルを発動し、『ビルドハンマー』を手にとった。以前の俺の『ビルドハンマー』は木製だった。だが、今はスキルが進化し、ミスリル製になっている。今の俺なら、前よりもある程度やれるはずだ。
「けっ……てめぇみてぇな雑魚追っかけ回す程、俺も暇じゃねぇんだよ。今日は別件で来たんだ。別件で。俺様にはもっと重要な使命って奴があるからな。ロズベルグ家の世継ぎとしての使命が……てめーみてーな追い出された無能とは違って、お気楽な気持ちじゃいられねぇんだよ」
「……俺を追いまわしに来たわけじゃないだと? だったら何をしに、この北の辺境まで来たって言うんだ。こんな危険で不毛な大地に、わざわざ……」
「親父に命令されてな……これから魔王軍が俺達の国——アークライトに侵略してくるって情報を掴んだのさ。それで世継ぎの俺が侵略を未然に防ぐように、言いつけられたんだよ」
「ま、魔王軍!?」
俺は驚いた。だが、よく考えれば驚く程の事でもない事に気づく。リノアのエルフの国……そして、リディアのドワーフの国は攻め滅ぼされた。攻め落とす対象が減ってくれば、必然的に対象は狭まり、人間の国——アークライトに攻め入ってくるという可能性が上がってくる。
現実として、魔王軍はアークライトに攻め入ってくる段階に来たというだけだ。
「……だ、大丈夫なのか!? ヘイト。魔王軍って事は大量に数がいるんだぞ。それなのに、お前は一人きりじゃないか」
「へっ……群れを成すのは弱い奴だけだ。俺様のような、最強の剣士にとっては、中途半端な味方なんてのは邪魔なだけなんだよ。魔王軍程度……俺様一人でお釣りがくらぁ」
これから魔王軍と対峙するというのに、ヘイトは顔色一つ変えなかった。それだけの絶対的な自信があるという事だろう。
「……そうか。だといいけどな」
「おいでなさったようだぜ! 馬鹿兄貴! それからエルフ女とドワーフ女! 隅っこの方で震えて待ってやがれ! そしてこのヘイト様の雄姿を! 伝説をその目に刻みこむんだ」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
!
大量の魔王軍が進撃してくる。無数の足音が地響きのように響き渡ってきた。視認できるようになってきた。間違いない。大量の魔王軍の姿がそこにはあった。
恐ろしい光景を目の前にしても、ヘイトの余裕の表情は揺るがなかった。
「行くぜ! おらあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
ヘイトは背中から、大剣を抜いた。大振りの剣だ。大きい剣は破壊力がある分、重くて扱いづらい。スピードが鈍るのが普通の事だ。だが、ヘイトはその剣をまるで短剣か何かのように、軽々しく扱っていた。あれほどの大剣を装備しているにも関わらず、全くスピードが落ちている様子がない。
ヘイトは風のような速さで、魔王軍に向かっていくのであった。ヘイトと魔王軍との戦いが始まる。
12
あなたにおすすめの小説
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!
にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。
そう、ノエールは転生者だったのだ。
そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる