奪われたはずの婚約者に激しく求められています?

ROSE

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ジャスティン 6 夢ではない 2

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 カラミティー侯爵家への報告は予想外にあっさり終わってしまい、ジャスティンは拍子抜けした。
 てっきりアレクシスに半殺しにされるかと身構えていたのだ。
 しかし、シャロンが先にアレクシスに礼を告げればかわいい妹が納得していることに怒ることは出来なかったのだろう。軽く睨まれる程度で済んだ。
 が、まだ一緒に暮らせる部屋が整っていない。
 しばらく通い婚になりそうだ。
 けれどもそれがよかった点もある。
 シャロンには見せられない面倒ごとを先に片付けてしまうことにした。

 不本意ではあるがスティーブンをシャロンの護衛に置き、ジェフリーを連れてドラウドと面会する。
 以前よりは少し話せるようになったらしい。
 事前調査報告によるとクラウド夫人やテンペスト侯爵家との繋がりはほぼないに等しい。
 つまり、八つ当たりで拷問してしまった可能性が高い。
「……金を積んで国外追放というのはなしか?」
 思わずジェフリーに訊ねる。
 シャロンはこの医者を信頼しているようだった。あることないこと吹き込まれては困る。今回の場合はほぼ「あること」なのだから余計に問題だ。
「ドラウド先生うちの弟とも交流あるからたぶんシャロンに筒抜けなると思うけど、殿下がそれでいいならそうしたら?」
 あきれ顔で返答が来た。
 なんとか謝罪しなくて済む方法はないかと考えてしまう。
 そもそもジャスティンはあそこまでやれとは言っていない。
「治療費はこちらで持つ。不審な行動を取っていたあいつにも非があるとは思わないか?」
「殿下が勝手に先生がシャロンに言い寄ってるって勘違いしただけでしょ? 先生とばっちりだよ」
 ジェフリーの言葉になにも反論できなくなってしまう。
 少し気まずいまま、ドラウドが居る部屋に入る。
「……調子はどうだ?」
「先日よりはかなりよくなりました」
 車椅子に固定されたドラウドは、視線を合わせないようにかやや俯いている。
「……一応疑わしい点は……処方薬以外見当たらないことが判明した」
 スティーブンがどう調査したのかは知らないが、彼の報告によるとシャロンに処方されていた薬は他の人間が使えばほぼ毒だ。神経を麻痺させる成分が含まれており、こんな物を使って食事をすればうっかり口の中を噛んで大惨事になってしまいそうだ。
「シャロンに処方していた薬は有害ではないのか?」
 スティーブンの報告によると【別件】で使用されていたことがあるらしい。
「量次第では有害になります」
 ドラウドは話すだけでも体が痛むのか、苦しそうな表情で答える。
 まだ顔や体が変色している。治るまでにはしばらく掛かりそうだ。
「そんな物を俺のシャロンに使っていたのか?」
「ですから、量次第なのです。シャロン様の場合は、唇に薄く塗り、染み込ませた布を舌の上にしばらく置いて馴染ませるようにして使用します」
 説明する間も、ドラウドは苦痛に耐えているようだ。
 ざまあみろ。
 思わずそんな考えが浮かぶ。
 子供染みた考えだとは理解している。それでもシャロンの手に触れていた事実は消えないのだから多少は許されるはずだ。
「シャロンのあれは病気ではないのだろう?」
 ただ人よりも口の中が感じやすいだけだ。そのために危険な薬を使うべきではないだろう。
「本人にとっては重大な問題なのです。背を伸ばすために足を折ったり、理想の体型になるために体の中に詰め物をすることと同じです。彼女も自分の理想の為に多少の危険を厭わなかっただけです」
 理想の自分。
 そんな言葉で片付けられてしまう程度の悩みとでも言うのだろうか。
 ジャスティンは苛立つ。
 シャロンにとっては深刻な悩みだ。あの口のせいで、他人と食事が出来ない。それが貴族令嬢にとってどれだけ致命的なことか。
 茶会に参加出来ないと言うことは、それだけで情報戦が圧倒的に不利になる。
 シャロンは同世代の貴族令嬢の中でも浮いた存在だろう。
 ジャスティンにとってはかわいいシャロンの一部。個性と思える悩みだが、シャロン本人にとっては深刻すぎる。
 毒と知って処方薬を使用していたのかはわからない。
 ただ……シャロンが王子の婚約者であると知って毒を処方していたとなればそれは重罪だ。
「一度二度の使用であればさほど問題にはならない物かもしれない。だが、シャロンは長年お前の処方薬を使っていたのだろう? つまり、シャロンに毒が蓄積されている可能性だってあるわけだ。俺の婚約者に長年毒を盛り続けた。本来であれば……死罪だ」
 そうだ。このまま処刑する方法だってある。
 けれどもそんなことをすればシャロンが気に病むだろう。
 それに、ただの八つ当たりで拷問してしまったことは多少後ろめたい。
「ドラウド、お前は怪我が治り次第国外追放だ。二度と我が国の領土に足を踏み入れることは許さん」
 金を積まずに、シャロンに筒抜けになっても問題ない程度の理由で国外追放出来る。
 ジャスティンは満足した。が、ジェフリーの視線が冷たいように感じられた。
「……本気で言ってる?」
「シャロンに毒を与え続けていたんだぞ?」
「薬だって過ぎれば毒だよ」
 ジェフリーは溜息を吐く。それでもジャスティンの結論を覆そうとはしないようだった。
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