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シャロン 8 さらけ出す 4

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 待っているわけではない。
 けれども、殿下が寝室に来るまでの時間は落ち着かない。
 彼は毎晩当然のようにシャロンの寝室に足を運ぶ。客室と繋がっているわけでもないし、むしろ一番遠いと言っても間違いではないほど離れた部屋だと言うのに、毎晩足を運ぶのだ。
「シェリー、疲れたー」
 部屋に入って早々シャロンの胸に顔を埋める。こういうとき、頭を撫でなければ、撫でるまでぐいぐいと頭を押しつけられることに気がついてからはそっと撫でてあげることにしている。
「お前はずっと厨房に籠もりっぱなしだし……パイ職人にでもなるつもりか?」
「そうですね。カラミティー侯爵家が没落したときは兄妹でお店を開こうかと」
 平民に生まれていたらパイ職人になったのだろうか。いや、きっとパイだけでは生活していけない。
「お前もようやく冗談を口に出来るようになったか……と思ったが、本気で言っているな?」
 呆れたような顔でシャロンの頬を抓る。
「俺の妻だ。そんなことになるはずがないだろう。それに、もしもの時は俺と店を開きたいくらい言ってくれ」
「殿下もお店を開きたいのですか?」
 だったらそのときは誘わないと。
 抓られた頬が痛いと指先で撫でながら考えていると体がぐらりと倒れる。押し倒されたのだと気づくのに少し時間がかかった。
「シェリー、名前で呼べと言っているだろう?」
 拗ねた様な表情。
 こどもの頃から変わらない。
 殿下はいつもシャロンに対して感情を隠そうとはしないのだ。
「……ジャスティン、さま……」
 まだ慣れない。名前を呼ぶだけで緊張してしまう。
「顔。また人形みたいな顔になってるぞ。表情を隠そうとするな」
 不満そうに頬を突く。
「……緊張してしまって……」
 未だに見つめられると落ち着かない。顔に熱が集まってしまう。
「お前……本当に俺のことが好きだな。そんなにこの顔が好みか?」
 からかうような声。
 けれどもシャロンは否定できない。
 幼い頃からずっと見惚れてしまっている。
 とても好きな顔立ちだからこそ、不快そうな表情を向けられると不安になってしまう。
「……はい……とても」
 正直に答えれば、僅かに動揺したようすを見せた。
「……お前……へんなところだけ素直になるな……言った俺が恥ずかしい……」
 彼は赤面し、それから不貞腐れたように「仕置きだ」とシャロンの唇を指で撫でた。
 指先が与える刺激が脊髄まで走る。
 キャンディの効果で食事は出来るのに、どうしてこれは治まってくれないのだろう。
「本当に、あのキャンディ、効果があるのか? 触れただけでこれとか……前より凄くなってる」
 じっと向けられる視線で心臓が破裂しそうなほど激しくなる鼓動。
「ジャスティン様は……いじわる、です」
 ずっと悩んでいたはしたない口。
 受け入れられたのは恥ずかしい気持ちと共に嬉しさもある。けれどもこんな風にからかわれると羞恥の心に抗えなくなる。
 とっさに手で口を覆おうとしたが間に合わず、手を掴まれ、そのまま顎を引かれ唇を貪られる。
 酷い。
 シャロンが恥ずかしがっているのを知ってわざとやっている。
 乱暴に口の中に入り込んだ舌に捕まりシャロンの脳は融けてしまいそうだ。
 酷い。
 酷い。
 罵り言葉さえ浮かばないのに、ただ酷いと繰り返してしまう。
 こんな風にされて、シャロンの理性が保てると思っているのだろうか。
 腹の奥がもぞもぞとれている。
 もっと。
 もっと欲しい。
 繋がれた鎖が切れたような勢いで殿下の首に腕を回し、彼の舌に吸い付く。
 口の中がほんのりミートパイの味がするような気がする。
「……はぁ……シェリー……お前……急にがっつくな」
 苦しそうに息を整えながら苦情を言うくせに、彼の手はシャロンの寝衣をまさぐろうとしている。
「ジャスティンさま……シェリー……もっと、したい……」
 待てない、と彼の上に乗り唇を啄みはじめれば動揺したように体を逃がそうとした。
「んっ……ジャスティンさまぁ……にがさない……からっ……」
 先に火を点けたのはあなたの方。
 舌を絡めれば意識が飛びそうな程の強い感覚と共に、腹の奥がじんじんと更なる刺激を求めているようだ。
「んっ……はぁ……すきっ……もっとっ……」
 もっと欲しい。
 もっと。ぜんぶ。
 必死に彼の口を貪り続ければ、体を持ち上げられたようで、世界が逆転する。
「……シェリー……あんまり調子に乗るなよ? 俺の方が、好きだし……逃がさないはこっちの台詞だ」
 するすると、胸元のリボンが解かれる。
 たったそれだけなのに、シャロンの奧はキュンと期待してしまっているようだった。
「今夜は、楽になんてさせてやらないからな」
 まるでいじめっ子の表情を見せたかと思うと、シャロンの首筋に噛みつく。
「いっ……」
 甘噛みなんてかわいいものではない。くっきりと歯形が残るほど強く噛みつかれた。
「お前、酷くされた方が興奮するだろう?」
 にやりと笑う姿が恨めしい。
 けれども、シャロンはそれを否定できない。
「ひゃい……たくさん……いじめてください……」
 彼にならたくさん酷いこともされたい。
 どうかしている。自分でも理解出来るはずなのに、シャロンは止められない。
 先に火を点けたのは彼だ。けれども、たっぷりと油を注いでしまった。
 そうしてシャロンは夜が明けてしばらくするまで啼かされ続けることになった。
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