私に成り代わって嫁ごうとした妹ですが、即行で婚約者にバレました

あーもんど

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第一章

羞恥②

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「そうだ、ヴィンセント小公爵とセシリア嬢の馴れ初めを聞いてもいか?ここは両家の親睦を深める場でもあるが、二人の結婚を祝福する場でもあるからな」

 『是非聞かせてほしい』と申し出るロジャー皇帝陛下に、私を除くエーデル公爵家の面々は頬を引き攣らせた。
分かりやすく挙動不審になる彼らの前で、ヴィンセントはニッコリと微笑む。

「『馴れ初め』というのは、婚約に至った経緯や理由のことでしょうか?それでしたら、仲を取り持ってくださった陛下が一番よくご存知かと思いますが」

「いや、私が知りたいのは出会ったキッカケや親しくなった経緯だ」

「なるほど」

 人のいい笑みを浮かべて頷くヴィンセントは、ナプキンで口元を拭う。
と同時に、隣へ視線を向けた。

「僕の口から話すのは、ちょっと恥ずかしいな……セシリア、良ければ君から話してくれないかい?」

「えっ……?それは……えっと……」

 知りようのない思い出話を求められ、セシリアたるアイリスは俯いた。
長い髪のせいで表情は見えないが……小刻みに震えているため、困り切っていることは分かる。

 さすがのアイリスも、不味い状況であることは理解しているみたいね。

 先程まで元気に料理を食べていたとは思えないほど縮こまる彼女に、私はスッと目を細めた。
『さて、どう出るか』と様子を窺う中、セシリアたるアイリスはそろそろと顔を上げる。

「ご、ごめんなさい……もう昔のことで、その……忘れ……」

「────つい数ヶ月前にも話したことだから、覚えているよね?セシリアはとても優秀で、記憶力抜群なんだから」

 『忘れたとは言わせない』とばかりに、ヴィンセントは追撃を施した。
徹底的に逃げ道を塞いでいく彼に、セシリアたるアイリスは何も言えなくなる。
半分涙目になる彼女を前に、父と継母は堪らず身を乗り出した。

「確かにセシリアは賢い子だが、誰にだって失敗はある。大切な思い出をうっかり忘れてしまうことだって、あるだろう」

「それなのに、あんな言い方……あんまりですわ。もう少しセシリアに優しくしてくださいませ。じゃないと、我々も安心して娘を嫁に出せません」

 不快感を露わにしながらヴィンセントを非難し、両親は何とかこの話題を終わらせようとする。
長引けば、確実にこっちが不利になるから。

 『じゃあ、他の思い出話でも』なんて言われたら、一巻の終わりだものね。
しばらく離れて暮らしていたアイリスやお継母様はもちろん、頻繁に家を空けていたお父様だって私の過去をあまり知らないから。
『忘れました』という言い訳を使い続けるにしろ、知っている風を装うにしろ限界がある。

「それはそれは……大変失礼しました。僕にとっては掛け替えのない思い出でしたので、忘れられたと聞いてガッカリしてしまったのです」
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