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第一章

野外研修③

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「ぁ……えっと、私はベアトリス・レーツェル・バレンシュタインと言います。今日は精霊に会いたくて、ここまで来ました。良ければ、その……姿を見せてくれませんか?」

 『失礼のないように』と気をつけながら、話し掛けると────例の枝にピンク色のキツネが現れる。
小型犬サイズのソレはフサフサの尻尾を揺らして、枝から舞い降りた。
かと思えば、こちらまで歩いてくる。

「ほう。これが精霊か。思ったより、可愛らしい見た目だね」

「つーか、こんなにあっさり接触を許すなんて意外だな。公爵様を連れてきたからか?」

 警戒心皆無の精霊を前に、ルカは『やっぱ、選ばれし者は違うな~』と零す。
────と、ここで精霊が私の足に頭を擦り付けてきた。
まるで、好意を表すかのように。

「す、姿を見せてくれてありがとうございます。その……凄く嬉しいです」

 足に当たるフワフワした感触に頬を緩めつつ、私は『ここから先、どうしよう?』と悩む。
いきなり契約の話を出していいものか、分からなくて……。
『雑談しようにも、話題が……』と困っていると、精霊が前足で私の膝を叩いた。
かと思えば、二本足で立ったままこちらを見上げる。

「これはどういう反応かしら……?」

「抱っこしてほしいんじゃないですか?多分」

 横から顔を覗かせてきたイージス卿は、『ほら、抱っこしやすいよう前足を広げているし』と述べる。

 だ、抱っこ……?私が?精霊を?
それって、失礼にならない?というか、何でこんなに好意的なの?

 『お父様が居るにしても、これは……』と疑問に思いつつも、私は一先ず膝を折った。
すると、精霊は嬉々として抱きついてくる。

「い、イージス卿の言う通りだったわね」

 ご機嫌で頬擦りしてくる精霊に、私は目を白黒させた。
『精霊って、案外甘えん坊なのかしら?』と考えながら精霊の体に手を添え、立ち上がる。

「凄い懐いているね。人馴れしているのかな?」

 興味深いといった様子でこちらを見つめ、グランツ殿下は手を伸ばす。
恐らく、精霊の頭を撫でようとしたのだろう。
これだけ好意的なら大丈夫だ、と判断して。
でも────

「おっと、私は好かれていないようだ」

 ────険しい顔付きで精霊に威嚇され、グランツ殿下は慌てて手を引っ込めた。
『残念』と零す彼の横で、父は精霊をつまみ上げる。
その途端、精霊は低く唸るものの……グランツ殿下の時のように、牙を剥き出しにして怒ることはなかった。
ただ、好意的な態度とは程遠い。

 あ、あら……?精霊はお父様を慕っていたんじゃないの?
だから、娘の私にも好意的に接してくれたんじゃ……?
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