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第一章

我慢しなくていい②

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「バーカ。『大丈夫』って言っているやつが、一番大丈夫じゃねぇーんだよ。いいから、さっさと寝とけ」

 『ガキはもう寝る時間だ』と言い放ち、ルカはヒラヒラと手を振る。
その途端、眠気が襲ってきた。
『これ……魔法?』と思いつつ目を閉じ、私は父に思い切り寄り掛かる。
そして、気づいた時には────自室のベッドの上に居た。

 あ、あれ?さっきまで皇城に居たのに、いつの間に……?

 ちょっとうたた寝した程度の認識だったため、私はキョロキョロと辺りを見回す。
『どのくらい、眠っていたのかしら?』と疑問に思っていると、横で何かが動いた。

「ベアトリス様、『今日はゆっくりしていていい』って公爵が言っていたわ。だから、もう少し眠っていて」

 私の手に前足を置き、バハルは『まだ疲れが取れていないでしょう?』と述べる。
金色こんじきに輝く瞳を前に、私は小さく笑った。

「心配してくれて、ありがとう。でも、もう本当に大丈夫よ。それより、私どのくらい寝ていた?」

「正確な数字は分からないけど……ザッと十時間くらいかしら」

「じゅ、十時間……結構眠ったわね。でも、おかげですっかり元気になったわ」

 身体的疲労がほとんどないことを話し、私はニッコリと微笑む。
『平気だよ』ということを伝えたくて。
でも、バハルの表情はなかなか晴れなかった。

「ベアトリス様、お願いだから無理しないで」

「えっ?だから、私は……」

また・・失うことになったら、耐えられないの」

 絞り出すような小さな声で嘆き、バハルはポロポロと涙を零した。
否が応でも伝わってくる悲鳴と懇願に、私は目を剥く。
『そういえば、前にもそんなことを言っていたような……』と思い返し、そっと眉尻を下げた。

「もしかして、他の四季を司りし天の恵みに何か……」

「いいえ、違うわ。四季を司りし天の恵みは今のところ、ベアトリス様だけだもの」

「えっ?じゃあ……」

 ようやく別の可能性に行き着き、私は思わず固まった。
ゆらゆらと瞳を揺らす私の前で、バハルは小さく笑う。

「あのね、ベアトリス様。私達季節の管理者は一度────貴方を失っているの」
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