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第二章

逃げない《ルーナ side》①

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「いいから、とにかく逃げるんだ!走れ!」

 怒号とも悲鳴とも捉えられる声色でそう叫び、アッシュはこちらに強い風を放った。
まるで、背中を押すように。

「ちょ、ちょっと待って!逃げるなら、アッシュや□□□も一緒に……!」

「ダメだ!」

「なっ……!?どうして!?」

 エルフのアッシュはさておき、□□□は普通の人間の子供。
怪物外敵に対応出来るような強さは、持ち合わせていない。
今ここで一緒に逃げるべきだろう。
『置いていくなんて、有り得ない!』と考える私の前で、アッシュはギシッと奥歯を噛み締めた。

「落ち着いて、聞いてくれ。あの怪物を作り出したのは────□□□なんだ」

「!?」

 ハッと息を呑む私は、動揺のあまり腰を抜かしそうになる。
でも、こんなところでアッシュが嘘をつく筈ないので疑う余地はなかった。
それによく考えてみれば────□□□が一番怪物の近くに居るのに、怪我を負うどころか攻撃の対象として見られている様子もない。
これこそが、アッシュの発言を裏付ける証拠だった。

 じゃあ、□□□はさっき私を攻撃しようとしたってこと……?
い、いや待って。ただ、手を伸ばしただけで害するつもりはなかったんじゃ……。

 まだ親子の絆というものを信じたくて、私は淡い希望を抱く。
でも────□□□の死んだような……心底失望したような目を見て、『そうじゃない』と悟った。
『あの子は本気で私のことを襲う気なんだ……』と青ざめる中、アッシュは風の刃を複数顕現させる。

「ルーナ、あいつはもうお前の知っている□□□じゃない……!僕がそうさせてしまった!」

「!!」

「その尻拭いとして、僕はここに残る!だから、君だけでも逃げるんだ!今、街の方に大貴族の騎士団が来ているらしいから、そこまで行けば……!」

 助かる道を必死に示し、アッシュは風の刃を放つ。
が、□□□の身へ届くことはなく……怪物によって、防がれた。
『やはり、まずは怪物の方から片付けないとダメか』と呟くアッシュの前で、突如怪物の数は増える。

 い、一体どこから……?いや、それよりもこれは……明らかにアッシュの方が劣勢。

 先程より大きくなった戦力差を前に、私も参戦するべきか迷う。
でも、自分一人の力なんてたかが知れているため、私は別の役割をこなすことにした。

「アッシュ、ここからは立ち去るけど────私は逃げないからね」
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