愛されない皇女は生贄として、死ぬ運命でした

あーもんど

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裏庭

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◇◆◇◆

 その後、和気あいあいとした雰囲気で朝食を終えた私はマーサと共に裏庭へ向かう。
生贄の役割を果たすため太ろうと努力した結果、食べ過ぎたので運動がてら散歩へ繰り出したのだ。
『昼食までにお腹を空かせておかないと』と考えながら、建物を出る。
外は相変わらず真っ暗で、マーサの持ってきた燭台がないと前も見えなかった。

「小さな奥様、足元に気をつけてくださいね」

「うん」

 マーサに手を引かれるまま前へ進む私は、キョロキョロと辺りを見回す。
光源が少ないので見える範囲は限られているが、それでも外の様子を眺めるのは楽しかった。

 今までこんな風に外出したことはなかったから、なんだか新鮮だな。
地下牢から出た後も、基本室内で過ごしていたから。
お散歩とか、庭の鑑賞とかやったことがなかった。

 期待に胸を膨らませる私は、僅かに頬を緩める。
好奇心に満ちた瞳で前を見据える中、マーサは一度足を止めた。

「小さな奥様、こちらが裏庭になります」

 そう言って、マーサは手に持った燭台を前に向ける。
刹那────光の粒のようなものが、あちこちから姿を現した。
淡い光を宿すソレらは、拳くらいの大きさでトマトのように丸い。
色はそれぞれ違うものの、キラキラしていて綺麗だった。

「マーサ、あれ何?」

 キラキラ光る粒を指さす私は、『虫かな?』と頭を捻る。
すると、マーサはクスリと笑みを漏らしながら腰を屈めた。

「あれは────精霊ですよ」

「精霊って?」

「四大元素を司る種族のことです。火・水・土・風いずれかの属性を持って生まれ、自然の管理を行っています。周りから、厄災と呼ばれるほど強い種族ですが……あの子達のように幼い精霊は、まだ未熟です。なので、人前に姿を現すことは滅多にないんですよ。少なくとも、人の形を取れるようになるまでは」

 光の粒の正体を細かく説明するマーサに、私は『ふ~ん』と相槌を打つ。

「じゃあ、あの子達もいつか私やマーサみたいに大きくなるの?」

「ふふふっ。そうですよ。まあ、それまでかなり時間が掛かりますけどね。精霊の成長は、とてもゆっくりなので」

 『奥様の成長に追いつくまであと何百年掛かるか……』と零すマーサは、ふと前方へ目を向ける。
つられて私も前を向くと、不自然な動きをする精霊達が目に入った。
とある場所に集まり、互いに身を寄せあう彼らは何故か一生懸命で……目が離せない。
『一体、何をしているんだろう?』と疑問に思う中、彼らは突然身動きを止めた。

「うふふっ。どうやら────奥様のことを歓迎しているようですね」

 精霊達の言葉を代弁するマーサは、『かなり好かれていますね』と零す。
どうやら、精霊達が密集して花の形を成すのは珍しいことらしい。
精霊という種族をさっき初めて知った私には、いまいち凄さが分からないが……。

 でも、歓迎してくれるのは素直に嬉しいな。

 胸の奥に温かい感情が湧き起こり、私はほんの少しだけ目を細めた。

「マーサ、精霊って人間の言葉分かる?」

「ええ、分かりますよ。話すのは、まだ難しいですが……」

 『人の形にならないと、口がないですし』と説明するマーサに、私はもう一つ質問を投げ掛ける。

「じゃあ、挨拶して来てもいい?」

「もちろんです。きっと、あの子達も喜びますわ」

 『是非お願いします』と後押しするマーサは屈めていた腰を伸ばし、一歩前へ進む。
彼女に手を引かれるまま、私も裏庭へ足を踏み入れた。

 驚かせないように気をつけないと。精霊の子供はなかなか人前に姿を現さないみたいだから。

 『少なからず警戒心を持っている筈』と考えながら、私は口を開く。

「こんにちは。私はティターニア・ルーチェ・ノワール。昨日から、ここでお世話になっているの」

 未だに慣れない自分のフルネームを口にし、私は精霊達の反応を窺う。
────が、光の粒である彼らに顔がないため、表情を確認出来なかった。
『喜んでいるのか、嫌がっているのか分からないな』と思いつつ、私は言葉を続ける。

「今日は裏庭を見に来たんだけど、お邪魔してもいい?嫌なら、帰るから安心し……えっ?」

 話の途中で素っ頓狂な声を上げた私は、目の前に広がる光景に戸惑う。
何故なら────先程まで大人しかった精霊達が一斉に動き出し、裏庭の出口を塞いでいるから。
まるで、『帰さない』とでも言うように。

「あらあら……ふふっ」

 精霊達の奇行を目の当たりにしても笑みを絶やさないマーサは、ちょっと楽しそうだった。
『困った子達ね』と頬を緩める彼女の傍で、緑色の精霊が何かを吐き出す。
と言っても、口がないため光の中から物を生み出しているようにしか見えないが……。

「この子達はどうしても、奥様に帰って欲しくないようですね。こんな貢ぎ物までして……本当に健気なんだから」

 半ば呆れたように肩を竦めるマーサは、ロウソクの火を消した。
かと思えば、燭台を地面に置き、精霊の吐き出したものを持ち上げる。
精霊達の発する光を頼りに、私もマーサの手元を覗き込んだ。

 これは────。

「────花?」

 思ったことをそのまま口に出し、私はコテリと首を傾げる。
すると、マーサは笑って頷いた。

「ええ。これはスピリットフロルと言って、土の属性を持つ精霊のみが生成出来ます」

「そうなんだ。凄く綺麗だね」

 花弁が虹色がかっているスピリットフロルを見つめ、私は素直に称賛した。
『茎は普通の緑色なんだな』と観察する中、マーサはスピリットフロルを私の髪に差す。
そして、彼女はスッと目を細めた。

「ふふふっ。大変お似合いです、小さな奥様」

 『白い肌と髪によく映えますね』と褒めるマーサは、私の頭を優しく撫でる。
可愛くて堪らないとでも言うように、何度も何度も。
柔らかな手の感触と体温に身を委ねる私は、スピリットフロルへ手を伸ばした。

「ありがとう。でも、これ貰ってもいいのかな?」

 ────生贄の私なんかが。

 スピリットフロルの茎に手を掛ける私は、『明らかに不釣り合いじゃないか』と心配する。
『もっと相応しい持ち主が居る筈だ』と考える私を前に、マーサは穏やかに微笑んだ。

「これは精霊から、奥様へのプレゼントです。受け取る権利があるのは、奥様だけですよ。だから、貰ってあげてください。じゃないと、精霊が悲しみます」

 『せっかくのプレゼントを突き返されたようなものですから』と説明し、私を説得する。
マーサの言い分に理解を示す私は、『遠慮する方が失礼だな』と判断した。

「分かった。有り難く受け取っておく」

「ええ、是非そうしてあげてください」

 『本人も喜びます』と明るい声で言うマーサに一つ頷き、私は緑色の精霊と向かい合った。

「プレゼント、ありがとう。大切にするね」

 遅ばせながらきちんとお礼を言い、私はペコリと頭を下げる。
すると、緑色の精霊は嬉しそうに私の周りをグルグルと回った。
────と、ここで他の精霊達が妙な動きを見せる。

「あらあら、この子達ったらこぞってプレゼントを用意して……奥様に振り向いてもらおうと、必死だわ」

 赤い石やら透明の葉っぱやら吐き出す精霊達の姿に、マーサはクスクスと笑みを漏らした。

「よっぽど、奥様のことが気に入ったみたいですね。たった一人の関心を買うためだけに、ここまで貢ぐのは異例ですから」

 『世界初かもしれません』と解説しながら、マーサはプレゼントの山を数える。
────が、秒単位でどんどん増えていくため、結局『後にしよう』ということになった。
『部屋に入り切るかしら?』と悩むマーサを他所に、私はプレゼントに埋もれていく。
『そういえば、誰かにプレゼントを貰うのは初めてだな』と思いながら。
────その後、精霊達のプレゼント合戦は昼過ぎまで続き、食事のため一旦中止となった。
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