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番外編

地獄《ソフィア side》

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 ────それから、休む間もなく地獄の日々が始まった。

 まず、朝は日の出と共に起床し、真冬であろうと水浴びをしないといけない。
冷たい水に最低でも五分浸かり、身を清めなければ頬をぶたれる。

 次に食事。
修道院での食事は基本的にパンと水だけで、たまに野菜スープが出るくらいだ。
無論、残せば罰を与えられる。

 そして、掃除とお祈り。
修道院で生活する上で最も大切な仕事がこの二つ。
 掃除は当番制で毎日やる訳じゃないが、割り当てられた場所をしっかり掃除しなければ、殴られる。
もちろん、塵一つだって許して貰えない。
 お祈りは毎日六時間。朝昼晩に二時間ずつだ。
少しでもお祈りのポーズを崩せば鞭で打たれ、気を抜けば蹴り飛ばされる。
少しのミスだって、許されない。

 だから、お祈りの時間が一番嫌いだ。
まあ、口には絶対出さないけれど……。そんなことを言おうものなら、どんな目に遭うか分からないもの。


 この修道院に来てから、まだ一ヶ月も経っていないが、私の心は既に折れかかっていた。
毎日暴力に怯えながら暮らす日々に、体よりも先に心が参ってしまったのだ。

 最初こそ、この状況を何とかしようと頑張ったが、全て不発に終わった。
優れた容姿を利用して媚びを売っても、同性だからか全く相手にされず……家の権力も使い物にならない。
何度か逃げ出そうと思ったものの、全く知らない土地で一人彷徨う度胸がなく……いつも、未遂で終わっている。


 私が祭壇の前で願うのはただ一つ……一刻も早く、ここから抜け出すこと。

 富も名声もいらない……イケメンと結婚出来なくたっていい!
だから、早くここから出して……!私を解放して!

 ギュッと手を握り締め、私は強くそう願った。
────と、ここで後ろから思い切り蹴り飛ばされる。

「っ……!!」

「お祈りに余計な雑念を混ぜないで下さい。神に失礼です」

 修道女見習いの私達を監視・管理する修道女は無機質な瞳で私を見下ろした。
その冷ややかな眼差しは少しだけ、ニックに似ている。
でも、暴力を振るってくる分、彼女の方がずっと怖かった。

 ここの人達はみんな感情が死んでいて、とても恐ろしい……。

 私はジンジンと痛む背中を押さえながら、無言で起き上がる。
そして、背中の治療もされないまま、お祈りを再開した。

 たった一つの願いを神に祈ることすら出来ないなんて……頭が狂ってしまいそう。
これなら、花嫁修業をしていた方がずっとマシだわ。

 嗚呼、もし時間を巻き戻すことが出来るなら……今度は絶対に浮気なんてしないのに。

 ジェフの優しさに甘えていた過去の自分を思い浮かべ、深く後悔する。
失ってから気づくジェフの愛情と優しさに、私は静かに涙を流した。
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