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第二章

第66話『ネクロマンサー』

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 聖の闘気を纏ったベルゼの剣が死体を切り裂き、炎を纏うアスモの鞭が死体を焼き尽くす。結論から言おう。俺達の圧勝だった。
まあ、正確には『俺達の』ではなく、『ベルゼとアスモの』だが····。この二人が残りの敵を全て倒してくれたため、俺や他の魔王軍の出番はほとんど無かったのだ。
 いや、本当この二人の戦いぶりは凄まじかった。マモンのようにぶっ飛んだ戦い方はしないが、圧倒的力の差を見せつけるように死体を瞬殺したベルゼとアスモ。女の怖さを理解出来た気がするぜ····。

「さて、全員に治癒魔法をかけたし、本番戦と行きましょうか」

「そうだな。こうしている間にも勇者パーティーがこちらに向かって来ている。さっさと片付けた方が良いだろう」

「行こう行こうー!」

 そうだな。ベルゼの言う通り、朝日達がここに到着する前に片付けた方が良い。聖剣を持つ朝日をパンドラの箱に近づけちゃいけない。
 ハイテンションなマモンをスルーし、俺はベルゼの提案に力強く頷いた。
早く行こう。

「よしっ!パンドラの箱を奪還しに行くぞ!!」

「「「おー!!」」」

 ベルゼの宣言と共にアスモが火炎魔法で扉をぶち壊した。ドカンッ!と凄まじい爆発音と破壊音が鳴り響く。先程のマモンが引き起こした爆発ほどでは無いが、人一人簡単に殺せそうな大爆発だ。
 今回は扉周辺にトラップが仕掛けられている事を想定して、あえて扉を爆発した。が、その心配は必要なかったみたいだ。トラップが仕掛けられた痕跡が特にない。
 ベルゼは隠れるでもなく、堂々と真ん中を歩き、吹っ飛んだ扉の瓦礫を跨ぐ。周囲に気を配り、室内へと侵入したベルゼは厳しい顔つきで天井を睨んだ。

「─────────200年前からお前は成長しないな、ロイドよ。上に身を潜める癖は変わっていないみたいだな」

 200年前!?ロイド!?それって、まさか死霊使いネクロマンサーの····!?
 ベルゼの安い挑発に乗ったのか、天井から顔が仮面に覆われた男が降り立った。古めかしいローブに身を包んだ仮面男はベルゼを真っ直ぐに見据える。
 あれがロイド・サイラス····なのか?

「オトハ、マモン、私達も行くわよ!パンドラの箱の奪還には貴方達が必要不可欠なんだから!」

「あっ、ああ!」

「おっけー!行こう行こうー!」

 小声で指示を出したアスモに頷きながら、俺は促されるまま室内へ侵入した。仮面男と対面するベルゼを横目で捉えながら、俺は小さな背中を追いかける。
 作戦はこうだ。ベルゼとアスモ率いる先行隊がロイドを牽制し、その隙に俺とマモンがパンドラの箱を奪還する。
シンプル且つ何の捻りもない作戦だが、これが一番有効的だった。
 パンドラの箱の奪還に直接関わるのは俺とマモンだけ。少数精鋭とはまた違うが、余分な戦力は必要なかった。
敵の足止めさえしてくれれば、パンドラの箱の奪還に戦力は必要ないからな。必要なのはマモンの頭脳と俺の力だけ。
 俺は横目で仮面男の位置を把握しながら、マモンの背中を負った。

「よし!上手くパンドラの箱に近づけた!えーと···ここからが結界の領域で····結界陣は····」

 死霊使いネクロマンサーのロイドは先行隊に取り囲まれ、何も出来ないのかピクリとも動かない。そのおかげで邪魔が入ることなく、パンドラの箱に辿り着けたが····。半径1メートルの透明な壁に囲まれたパンドラの箱は月明かりを帯びて、キラキラと輝いていた。この透明な壁が聖女が作ったと言う絶対防壁結界らしい。触れてみた感じ、ただの硬い壁だな。攻撃を倍にして返すとか、そういう機能はないらしい。本当に防ぐだけって感じだ。
 これが絶対防壁か。

「結界陣、結界陣····あっ!あった!今から解析するから、オトハは僕の護衛をお願い!ベルゼ達の事だから、こっちに被害が来るような攻撃はしないと思うけど一応警戒しておいて!」

「了解」

 お目当てのものが見つかったらしいマモンは珍しく早口で捲し立てるように指示を飛ばした。円形に描かれた魔法陣には意味不明な単語がズラリと並んでいる。それを今から解析するらしい。
あれを今から解析するのか····すげぇな、マモン。俺なら、秒で諦めてるよ。
 俺は仮面男からマモンを庇うように前に立ち、短剣と拳銃をそれぞれ構えた。
 先行隊と未だに睨み合いを続ける仮面男は何をするでもなく、ただその場に突っ立っている。
 魔王軍が本気で動き出したことを知って、怯えているのか?
仮面で顔が隠れて、表情が読めないため何とも言えないが、ピクリとも動かない男に不信感が募る。まさか、突っ立ったまま気絶とかじゃないよな···?

「ロイド、来ないのか?200年前のお前はもっと好戦的だったぞ?」

「来ないなら、こっちから行くけど····それでも良いのかしら?」

「·······」

 化け物並みの強さを持つメスゴリラ二人に話し掛けられても、ロイドは微動だにしない。故意的に二人を無視しているのか、立ったまま気絶しているのか···それは仮面を取らなければ分からない。
 なんか····不気味な奴だな。

「チッ!会話が出来ぬなら、もういい!行くぞ!!」

 会話が一切成立しないロイドに痺れを切らし、ベルゼが飛び出した。それに他のメンバーが続く。
剣身に闘気を纏わせたベルゼはそれをロイド目掛けて大きく振りかぶった。

「お前の命運もここまでだ!散れ!!!」

 つり目がちな茶色の目を更につり上げ、ベルゼは躊躇いもなく、その剣を振り下ろした。風の力も借り、かなりの勢いで振り下ろされたベルゼの剣は完全にロイドを捉えている───────筈だった。

「──────────遅い」

「かはっ·····!?」

 さっきまでピクリとも動かなかった仮面の男はベルゼの斬撃を躱しただけでなく、腹に蹴りまで入れていた。
 目に····見えなかった····?ベルゼやマモンに鍛えられた俺が····?目で追えなかったのか·····?
いや、それよりもあいつ····ベルゼに蹴りを入れたか?
 あの脊髄反射の化け物に····蹴りを?
ベルゼは反射神経に長けており、頭で考えるよりも先に体が動くことが多い。その反射神経のおかげで危機を何度も救われたとベルゼ自身も語っていた。
 つまり──────────ロイドはベルゼの脊髄反射よりも早く蹴りを入れたと言うことになる。
 ベルゼは本能で何か感じ取ったのか、痛む腹を抱えてロイドから素早く距離を取った。
接近戦を好むベルゼを····引かせただと!?

「老いたな、ベルゼビュート。この程度の攻撃も躱せないとは····。昔のお前なら、余裕で躱していた筈だぞ?」

「っ····!!黙れ!!この外道がっ····!!」

「外道?それは心外だな。俺はただお前達が置いていった“もの”を拾っただけだ」

「私達は置いて行ってなどいない!!」

 外道?置いていく?拾う?一体なんの事だ?
 何の事か分からず、困惑する俺の前でロイドは仮面に手をかけた。独特なデザインが施されたそれを男はゆっくりと外す。
 俺の目に飛び込んできたのはフサフサのケモ耳を頭に付けた美形の男性だった。
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