90 / 256
断章Ⅰ〜アローサル:ラークシャサ・ラージャー〜
瞬退
全く同時刻。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「あわ……あわわ……」
赤い服を見に纏った謎の男が、目を見開きその戦場を覗いていた。
「アッ! あなた方は……世界の救世主様!」
……と、突然その場を通りかかった白たちに声がかけられる。
********
「……お前、誰だ?」
「わ……わわ、私はこの大会の司会者を務めさせてもらってます……この大会は子供たちにも楽しみにされていたので、音声だけでも魔力通信でお届けしようとしたのですが、いざ来てみたらなんなんですかアレは?!」
「分かる訳ないだろ、こっちも今来たところなんだ……! とりあえず、戦わないなら下がってろ……!」
砂漠地帯にて。
横たわった巨人の石像の影からそっと覗いて見えたのは。
「……いた、アイツがその殺人鬼か……ってアレは……兄さん?!」
「嘘、イデアさんがやられてる……?!」
———俺もサナも唖然とする他なかった。
なんたって、既に俺たちに敵うヤツなんて———この世にはいないはず。
ましてやあのイデアだ、兄さんだ、最強を目指して特訓ばかりしていた兄さんが負けるって、一体どんな相手が……?!
「……サナ、絶対に気を抜くなよ。センとヤンスとくいなはここで待機だ。いいか、俺たちがやられても、絶対に外には出るな」
……しかしやるしかない、俺たちなら行けると信じて。
「白、後3秒で出るわよ」
1。
鞘から刀を抜く。
2。
杖に魔力を込める。
3。
後は作戦通りに。
……まあ、そこまで大層な作戦ではないのだが。
物陰から勢いよく飛び出したのは、無数に分裂した俺。
……否、全てサナの幻想顕現魔術によるコピーである。
「すりゃああああっ!」
「とりゃああああっ!」
「どすこーーーいっ!」
……変な掛け声が聞こえるのは気のせいだ。
無数の俺が、その刀でヴォレイに襲いかかる。
しかし、やはり覚醒したヴォレイにはそんなヤワなものじゃ通用しなかった。
……いや、俺たちはそれを読んでいた。
なぜなら、地に伏し倒れ込んだイデアと黒という、絶好の証明材料がいたからであり。
それが勝利への道筋となった。
この俺の前で隙を見せれば、それは敗北への道となる。
……そう、先程の無数の飛びかかった白、『全て』サナの魔術のコピーである。
……そう、『全て』。つまり本体は……
音もなく、その屈強な肉体を貫く。
「……ゴッ……」
勝ちだ。
確実に心臓を貫いた。
そのまま刀を捻り、横に振り抜き、ヤツの脇からその刀を突き出す。
心臓を貫かれ破裂した血が、断面を伝わり勢いよく噴き出す。
……そう、ヤツの心臓から脇の部分にかけてを斬ってみせた。
なぜそんな事ができたのか、なぜヤツの肉はそこまで斬りやすかったのか。
そんな、あまりにも分かりやすく、あまりにも気付きにくい違和感を俺は微塵も気に留めず、それで戦闘を終えようとしてしまった。
だからこそ、それが隙となり、俺の敗北への道となった。
倒れ込むヴォレイ。
誰もが終わった、と確信したその時であった。
「勝ったと思ったか……?」
「……っなっ?!」
立ち上がってきたヴォレイは、なんと先程の傷も癒えており。
「がっ……ああっ……!!」
白の胸ぐらを掴み、力強く持ち上げる。
「鍵、か……! そうか、貴様が……!」
「ああ、そうだよ、オールマイティ、って言うんだろ? それがどうした……!」
「ならばその命、このオレに……!」
「させるかっての!!」
杖を振りかざし、サナはここに魔力で編まれた魔法陣を描き出す。
「エクスプロ———」
「そうか、目障りな魔法使いがいたな」
既に敵は背後。既に手遅れ。
サナはその男の力強い打撃で地面に叩きつけられる。
「は……あっ……!」
編まれていた魔力術式も解け、絶対絶命。まさに最悪の状況下にて。
遠くで見ていたセン達が、何もしないはずもなく。
********
「……やめ、て……またアイの前から……また、アイから奪う……の……?」
圧倒的な力。どう勝つかも思い浮かばないその状況下、3人の怒りは煮えたぎる。
「……アイ、行く」
「っ待って……! だめだ、くいなが行っても勝てる相手じゃ……!」
「……嫌、なの。アイ、嫌なの……また、またアイツらに、大切な人、奪われるのは……!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「あわ……あわわ……」
赤い服を見に纏った謎の男が、目を見開きその戦場を覗いていた。
「アッ! あなた方は……世界の救世主様!」
……と、突然その場を通りかかった白たちに声がかけられる。
********
「……お前、誰だ?」
「わ……わわ、私はこの大会の司会者を務めさせてもらってます……この大会は子供たちにも楽しみにされていたので、音声だけでも魔力通信でお届けしようとしたのですが、いざ来てみたらなんなんですかアレは?!」
「分かる訳ないだろ、こっちも今来たところなんだ……! とりあえず、戦わないなら下がってろ……!」
砂漠地帯にて。
横たわった巨人の石像の影からそっと覗いて見えたのは。
「……いた、アイツがその殺人鬼か……ってアレは……兄さん?!」
「嘘、イデアさんがやられてる……?!」
———俺もサナも唖然とする他なかった。
なんたって、既に俺たちに敵うヤツなんて———この世にはいないはず。
ましてやあのイデアだ、兄さんだ、最強を目指して特訓ばかりしていた兄さんが負けるって、一体どんな相手が……?!
「……サナ、絶対に気を抜くなよ。センとヤンスとくいなはここで待機だ。いいか、俺たちがやられても、絶対に外には出るな」
……しかしやるしかない、俺たちなら行けると信じて。
「白、後3秒で出るわよ」
1。
鞘から刀を抜く。
2。
杖に魔力を込める。
3。
後は作戦通りに。
……まあ、そこまで大層な作戦ではないのだが。
物陰から勢いよく飛び出したのは、無数に分裂した俺。
……否、全てサナの幻想顕現魔術によるコピーである。
「すりゃああああっ!」
「とりゃああああっ!」
「どすこーーーいっ!」
……変な掛け声が聞こえるのは気のせいだ。
無数の俺が、その刀でヴォレイに襲いかかる。
しかし、やはり覚醒したヴォレイにはそんなヤワなものじゃ通用しなかった。
……いや、俺たちはそれを読んでいた。
なぜなら、地に伏し倒れ込んだイデアと黒という、絶好の証明材料がいたからであり。
それが勝利への道筋となった。
この俺の前で隙を見せれば、それは敗北への道となる。
……そう、先程の無数の飛びかかった白、『全て』サナの魔術のコピーである。
……そう、『全て』。つまり本体は……
音もなく、その屈強な肉体を貫く。
「……ゴッ……」
勝ちだ。
確実に心臓を貫いた。
そのまま刀を捻り、横に振り抜き、ヤツの脇からその刀を突き出す。
心臓を貫かれ破裂した血が、断面を伝わり勢いよく噴き出す。
……そう、ヤツの心臓から脇の部分にかけてを斬ってみせた。
なぜそんな事ができたのか、なぜヤツの肉はそこまで斬りやすかったのか。
そんな、あまりにも分かりやすく、あまりにも気付きにくい違和感を俺は微塵も気に留めず、それで戦闘を終えようとしてしまった。
だからこそ、それが隙となり、俺の敗北への道となった。
倒れ込むヴォレイ。
誰もが終わった、と確信したその時であった。
「勝ったと思ったか……?」
「……っなっ?!」
立ち上がってきたヴォレイは、なんと先程の傷も癒えており。
「がっ……ああっ……!!」
白の胸ぐらを掴み、力強く持ち上げる。
「鍵、か……! そうか、貴様が……!」
「ああ、そうだよ、オールマイティ、って言うんだろ? それがどうした……!」
「ならばその命、このオレに……!」
「させるかっての!!」
杖を振りかざし、サナはここに魔力で編まれた魔法陣を描き出す。
「エクスプロ———」
「そうか、目障りな魔法使いがいたな」
既に敵は背後。既に手遅れ。
サナはその男の力強い打撃で地面に叩きつけられる。
「は……あっ……!」
編まれていた魔力術式も解け、絶対絶命。まさに最悪の状況下にて。
遠くで見ていたセン達が、何もしないはずもなく。
********
「……やめ、て……またアイの前から……また、アイから奪う……の……?」
圧倒的な力。どう勝つかも思い浮かばないその状況下、3人の怒りは煮えたぎる。
「……アイ、行く」
「っ待って……! だめだ、くいなが行っても勝てる相手じゃ……!」
「……嫌、なの。アイ、嫌なの……また、またアイツらに、大切な人、奪われるのは……!!」
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
絶交した幼馴染と大学の合コンで再会した。
孤独な蛇
恋愛
中学生の浅野春樹は上級生と喧嘩騒動を起こしたことがあった。
その上、目つきが悪く地毛は茶髪のため不良少年のような扱いを受けて学校では孤立していた。
そんな中、幼馴染の深瀬志穂だけは春樹のことをいつも気遣ってくれていた。
同じ高校に行こうと声を掛けてくれる志穂の言葉に応えたい一心で受験勉強にも力を入れていた。
春樹にとって、学校で孤立していることは問題ではなかった。
昔から志穂が近くにいてくれるから……。
しかし、3年生なってから志穂の態度がよそよそしくなってきた。
登下校も別々になり、学校で話しかけてくることも無くなった。
志穂の心が自分から離れていってしまっている気がした春樹は焦っていた。
彼女と話がしたい。笑った顔が見たい。
志穂と一緒に帰ろうと、彼女が部活動を行っている体育館へ向かったのだが……。
そこで春樹が耳にしたのは、自分の悪口を言って部活の友達と楽しそうにしている志穂の声だった。
その瞬間、春樹の中で志穂に対する想いや信頼は……消滅した。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。