Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

文字の大きさ
92 / 256
断章Ⅰ〜アローサル:ラークシャサ・ラージャー〜

羅刹天・爆発!!


「だから僕には……ひっ!!」

 真横から風が吹き荒れ、粉々になった砂埃がこちらに吹き寄せる。


「いいか、イメージしろ、勝ち誇った自分を。そして出し尽くせ、最高の最善を。放て、お前の全てを…‥!

 自分を信じろ、自分の力を信じろ。例え通用しないとしても、自分を信じる事を……諦めるな……そして、ヤツを、絶対に許すな…………!!」


 ———信じろ……?
 今まで、何の役にも立たなかった自分の力を———信じろだって……?

 僕1人で、やり遂げてみせろって?
 僕1人で、この化け物に勝ってみせろ……って?

 なんで……なんでそんな、無理だと分かっていることを押し付けてくるんだよ……!

「イデアさん……イデアさん! イデアさん!!」

 話し終えた途端、イデアさんは意識を失う。
 ———本当に傍迷惑だ。……僕に全てを丸投げして……逃げて……!



「最期の別れは済んだか。ならば貴様も、だ」


「がっ……ああっ!!」

 その言葉は、僕に向けられたものではなく。


「っ、くいなーーーっ!!」

 紛れもなく、その足元で倒れ伏していた少女くいなに向けられたものだった。



「そして、貴様も終わりだ……!」

 次にヴォレイが視線を傾けたのは。



「……あっ…………でヤンスね」

 僕の親友……だった。



「やめろーーーーーっ!!!!」


 瞬間、その場が弾け飛ぶ。
 完全に場が砂埃に包まれ、誰の姿も見えなくなる。


「……ふ、ふはは、はははははは!

 キサマのその、絶望に、苦痛に歪んだ顔が見たかった! 非力なガキめ、苦しませず殺してやろう……んふはははははは!!」



 ……死んだ。

 僕のせいで、僕に力がなくて、くいなも、ヤンスも、白さんも、サナさんも、あの人も、イデアさんも、全員……死ぬ……


 ……死ぬ、のか……?
 こんなところで?
 そんな理由で?

『自分を信じる事を、諦めるな……!』

 イデアさんの、言葉だった。



 だからどうした、僕は非力なんだ、ヤツには勝てやしない。
 ましてや———この状況は、今までのそれとは違うんだ。


 時間さえ稼げば、あとは白さんがなんとかしてくれたり。
 こんな僕でも、ワンチャンスあるかないかの強力な武器を、この手に持ってるわけでもないのに。

 だから———無理なんだ。
 ここで僕がどれだけ頑張ったって、無駄なんだ。
 結局殺される。
 結局失う。

 僕は最後まで、何1つ守れず、死んでゆくんだ。

 白さんも、イデアさんも、みんなみんな、虫の息。







 もうダメだ、諦めよう———と、思考を停止した頭に投げ込まれたのが、いつかの誰か白さんの発言だった。

『漢には、必ずやらなくちゃならない時があるんだ。

 例え負けると知っていても、無理だと分かっていても、それでもやらなくちゃならない時があるんだよ』




 やって、みようか……?
 希望などない。勝機など、微塵もない。

 力もない、知力もない、魔力もない。
 期待に添える勇気も、根性も、気力も、何1つ残っちゃいない。

 くだらない、本当にくだらない、無謀な勇気だった。
 それでも僕は、自分の今の気持ちを抑えることすらできはしない。





 それでも僕は———、もし再起する理由に足るものがあると言うのなら———、



 僕は、僕の親友を殺した、お前が許せない……!




 血を欲す、闇の獣が蠢く。




「……させない」


 


 舞い散る砂嵐より、吹き荒れる怒りの声。
「……もう、絶対に。やらせない」

 震え上がる涙。
 煮えたぎる怒り。

 空を裂く暴風は、猛々しい怒りを以て彼方へと吹き荒れヴォレイに打ち付けられる。

 怒りの悲しみと哀れみと、そんな混沌のうねりの中で、心の獣は瞼を開く。


「そしてお前を、絶対に、許さない……!!」




「変わった……! 神気反応も、全て変質……なんだコレは、まさかこんなに楽しめそうなヤツが残っていたとは……!」



 の血は、たった今、目覚めた。




 
 羅刹天・セン。
 ついに、爆発。


********


 砂嵐が吹き去った後、見えたのは最強の勇者の姿。
 その額に1本の大きなを宿した、怒りの獣。

「うおぉああああああああっ!!!!」

「そうか、来るがいい! このオレも、久しぶりだ! こんなに燃え上がったのは!!」



「ゔぉっ……ああ……っ、ぶえぇ……へ、ふふ、……ん……!」

 獣、そのものだった。
 以前のセンの面影は一切なく。
 喋り方も、もはや

 血を、そして肉を欲する猛犬のように。孤高を貫く狼のように、少年はただそこに在る。


 その瞳さえも、血に濡れたかの如く、紅く染まっていたのだから。



 センにむけて、距離を詰め始めるヴォレイ。

 だが、もう既に手遅れだった。
 もう勝負は決していた。




「……な……に……??」

 ヴォレイのその強靭な巨体が、一瞬のうちに粉々に砕け散る。
 その肉片の数、約30個。———微塵切りだ。





 刀もなく、剣もなく、
 だがしかし、額に生えてきた1本のツノを用いた訳でもなく。

 センはその素手だけで、覚えたての手刀だけで、その強靭な肉体を切り裂いてみせた。


 意識が高まる。
 精神が昂揚する。
 かつてない、強大すぎる怒りと、かつてない楽しさ。

 センはこの時、人生において最大の快楽を貪っていた。
 

「……な、この、このオレが……まさか、こんなに早く全身再生を使うとは……!」


 先程切り裂いた肉片の数十個の断面が、赤く光り再度形成される。


「……んぶ……っ、…………その、程度か……何度来た、って無駄、だ……僕には、……勝てないっ!!」

 怒りの獣の咆哮に、ヴォレイはなすすべなく完全敗北を受け入れるしかなかった。

「何、だと……おっ!!」


 センは見据えていた。

 この先の未来を。
 この勝負の結末を。

 切り裂かれたヤツの頭の肉片より、少しだけ見える赤い球体。

 そう、アレが、ヤツの再生できる

 アレを潰せば、ヤツは消え去る……!


「許さん、許さんぞ……貴様なんかにこのオレが、負けるはずないんだ! 貴様のようなガキに……!」

 その男には、もはやかつての神父としての落ち着いた性格が消えていた。
 元々神父だったかも怪しいが。



 落ち着きをなくし、冷静を欠き、ひたすら力のみで僕を殺さんと襲いかかってくる。
 だけど、結局無駄だ。

「貴様のような、ガキに負けるなど……許さん……断じて許さぁぁぁぁぁぁんっ!!」

 飛んでくる拳。
 全て、センは棒立ちで———その強靭と化した身体で受け止める。

 まるで鉄壁の如く、微動だにしない。

「何だと……?!」
「……もう、キサマの弱点は分かっている」

 向かってくる敵に、センは優しくそっと手を差し伸べる。
 ……そう、血に塗れた手を。



 瞬間崩壊。
 その指が、ヤツの拳に触れた時点で、「解体」は終わっていた。

 飛び散る血飛沫。

 センの顔に、頭に、べっとりとその返り血が染み付く。




 ……だからなんだと、センはヴォレイを許さない。
 いたぶって、いたぶって、徹底的にいたぶって、最終的に———一方的になぶり殺すつもりだった。

 なんたってこの男には、それくらいの罰が必要なのだから。

「ぶ……ぶああ……っ、はあ、はあっ……」

「何度でも再生しろ。何度でもいたぶってやるから」

 再生した瞬間切り刻み、また再生した瞬間に崩壊する。



 間違っても、球体は壊さないように、慎重に、慎重に。
 生き地獄だ。しかし、この男には———これくらいの苦痛が必要だと。

「負けるわけが……このオレが、負けるわけが…ないんだ……こんな……西大陸の……下等生物共に……!」
感想 203

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

絶交した幼馴染と大学の合コンで再会した。

孤独な蛇
恋愛
中学生の浅野春樹は上級生と喧嘩騒動を起こしたことがあった。 その上、目つきが悪く地毛は茶髪のため不良少年のような扱いを受けて学校では孤立していた。 そんな中、幼馴染の深瀬志穂だけは春樹のことをいつも気遣ってくれていた。 同じ高校に行こうと声を掛けてくれる志穂の言葉に応えたい一心で受験勉強にも力を入れていた。 春樹にとって、学校で孤立していることは問題ではなかった。 昔から志穂が近くにいてくれるから……。 しかし、3年生なってから志穂の態度がよそよそしくなってきた。 登下校も別々になり、学校で話しかけてくることも無くなった。 志穂の心が自分から離れていってしまっている気がした春樹は焦っていた。 彼女と話がしたい。笑った顔が見たい。 志穂と一緒に帰ろうと、彼女が部活動を行っている体育館へ向かったのだが……。 そこで春樹が耳にしたのは、自分の悪口を言って部活の友達と楽しそうにしている志穂の声だった。 その瞬間、春樹の中で志穂に対する想いや信頼は……消滅した。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。