Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

ココロ

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 何が起こったのか、全くもって分からない。
 カーオたちの方を見つめたと思っていたら、その後ろにて明らかにいつもとは違うニトイが立ち尽くしていて。


 その次の瞬間、辺りは白い光に包まれ。
 その後、俺が目を覚まし、初めに見たものは、






「おあああああああああっ!!」
「……ツバサ、おきて……くれた……!」

 明らかに病院……のような白い天井をした、ある部屋のベッドにて。

 自身の腰の部分に横からもたれかかるニトイの、天使のような顔だった。

「……ニトイ……だよな……?」
「ツバサ……!!」


 泣いている……のか?
 いや、泣くのは普通……なのだろうが、なぜかとても不自然で、おかしいような気がして…………





『月天使徒殲滅制圧用最終兵器機構、限定~……』


 確かに、あの時のニトイはそんなことを口にしていた。
 ……それに、あの時の白い翼。
 とても有機的とは言えないような……代物だったが。


 ……違うな、多分、ニトイが俺を助けてくれたんだ。
 だから言うべきことはそんなことじゃなくて。


「…………ありがとう、ニトイ。お前のおかげで助かった」



「……ニトイ、役に……たった……?」

「ああ、たったさ。もう主役級さ」

「……やっ、た……! ツバサ、に……ほめられた……!! よっし……!」

 小さく舞い上がり、小柄ながら握られたその拳は、もはやかわいい以外の言葉が思いつかないぐらい。

 ……この世の全てのかわいいを詰め込んだポーズだった。

 正直もう考えるだけで脳がオーバーヒートしそうになるほどの。





 ……ふと、窓の外を見上げると。
 茜色に染まりきった西の空が。

「夕方……か、ディル達は帰ってきて……って、結局あのロストはどうしたんだよ?!」
「……ニトイ……が、やっつけた!」

 ……つまり、あの翼は本物だった、ってわけ……なのか?
 それは———信じたくもなかったが、やはり現実……だったのか?

「なあ、ニトイ。お前ってもしかして……機械……なのか?」




「………………」
「ニトイ……?」

 ニトイにしては珍しく俯き、まるで何も視界に入っていないかのような、虚無の瞳がそこにはあって。


「……………ニトイ、は……ニトイは……機械、だよ」

 ———機械仕掛けの人形にしては珍しく……涙をグッと堪えながら、ニトイはそう……細々と呟く。

 帰ってきた答えは、予想通りというか……予想外というか、矛盾しているが、あまりにも意外な答えだった。

 それもそうだ、こんな感情的な機械などいるはずがない。

 それも、感情を持った機械なんて……
 …………機神……?

「……も1つ聞くぞ……ニトイ、お前って………機神、なのか……?」


「ニトイの……記憶データには……そんな、データは……ない」

「そっ……か、そう、だよな、お前に感情なんて、なかったんだ……よな」

「…………」



 なんだろうか、そんなこと、思っちゃいけないってのに、無性に裏切られた気持ちになる。

「この子は普通の女の子だ」
「記憶もないし、識別番号もおかしいし、喋り方機械的だけど、それでも普通なんだ」と。


 今まで否定し続けてきたそれが、全て土台ごと崩れ落ちる。

 俺が今まで「普通の女の子」として接し続けてきたニトイは、その実ただの機械人形で。
 全て、何もかもただのプログラムに基づいた行動であって、彼女の感情ではないと。

 だからなのか。
 今までの、コイツを取り巻く不可解な事象は、コイツそのものの特性に由来していたのか。


 ……これ以上深く詮索するつもりもないが———、


 正直、多分どこかでって思ってたんだろうな、ここまで衝撃を受ける、ってことは。一緒にいるうちに俺は、どこまでコイツに移入していたんだろうか。

 ———その気持ちを、今まで見せていなかっただけで、きっと俺はずっと好きだったんだろう。

 衝撃的な出来事———あまりなかったが、俺は前に———失って初めて、そこにいてくれることがどれだけ嬉しいかって気づいたんだ。



 ……でも、結局俺には、アイツにやれる「愛」なんざなかった。

 なぜならば、隣の彼女がただの機械だと判明した瞬間、その恋は途切れたのだから。

 結局俺には、愛なんてなくって。
 結局俺は、彼女を愛しきれていなか……


「…………抱きしめ、たい……の」



「……は……?」
「……ツバサ、何か、に……迷ってる。だから、だからニトイが……抱きしめて………治す」

「ニトイ、迷いってのは…抱きしめるだけで治る病じゃないんだ、だからもう、ほっといて……」

 後ろからその身を包み込んだのは。


 紛れもない、ヒトの暖かさだった。


「…………ニト……イ?」
「………………」



 …………肩に押し寄せられたその顔を直視した瞬間、電撃が走った。

 ……そうだ、俺が好きだったのは「ニトイという女の子」でもなければ、
「ニトイというロボット」でもなく、

 俺が好きだったのは、俺が守りたかったのは、俺が欲しかったのは。



「…………そうだ、った……俺が欲しかったのは…………」

「迷い、吹き飛んだ……? とんでけーって、して、いった……?」

「…………その顔を見れば……いやでも飛んでくさ……」

 ———そんなことあるはずもない、と脳が否定しかけたが。
 でも、特別な感情を———持ってしまったと言うのなら。

「…………よかっ、た」

 目に涙を浮かべるニトイのその顔は。
 だがしかし笑顔に、喜劇に満ち溢れていた。


 それでもいいのか。
 これでもいいのか。
 愛することになる人が、人じゃなくてもいいのかと。
 

 それでも俺の心は、やはりと言うか何というか、未だにそんな———目の前の彼女への畏怖……のような、どこか不快な感情を拭い切れてはいなかった。





 それと。

 これじゃダメだ。
 はきっと、██の想いを蔑ろにするだろうから、それだけはダメだと。

 心の奥底……歯と歯の谷間に挟まった食べ物のように、深く挟まって取れないような妙な違和感が、その頭を刺激する。
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