Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

遊園地デート!

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「…………おい、大丈夫だったかツバ……サ………」

 勢いよく開いたドアの先には———3番隊の面子が。
 ……まあ、いいところを邪魔してくるのはいつもコイツらで。

 

「あー、んっ、んっんっ、ツバサ、そーいう事は家でやろうな、魔法使いを脱せて嬉しいのかもしれんが、そゆことは家かラブホですべきだと、俺は思うぞ」

「やめてくれディル!! ただ抱きつかれてただけだっつーのっ!!」





「ツバサさんとニトイちゃんのカップリング……めちゃくちゃ需要あるじゃないっすか……!」

「レイラちゃんが興奮してるとこ悪いけど、私は正直ガッカリだわ……ツバサちゃんなら私とやっていけると思ったのに……」

 なあ、カーオとレイラに関しては本当に何を言っているんだ……?!

「……ノーコメントで行こうと思うけど、いいよな!」





 ただ、その3番隊メンバーの中にも隊長はおらず。
 やはりどこか、それは猛烈な違和感を味わわせるようなものだった。



「……でよ、見たかツバサ? ニトイさ、めちゃくちゃすごかったんだぜ?!」

「……具体的には、何を……したんだ?」

「お前を守るために変異体を一瞬で消し飛ばしたんだよ! とんでもない化け物だよな、アイ……っ……?」






「…………違う、ニトイは化け物なんかじゃない……!」

 ディルの口を塞ぎ、そのままいっしょに床に倒れ込む。

「な、なんだよ急に! ただの比喩だっての……」

「……それでも、ダメなんだ、今のニトイを……まるで人間じゃない、みたいに言うのは……!」

 ———この俺が、現在進行形で迷っていることなのだから。
 だから、その答えを———誰かに決めてほしくなかった。

「……あ———いや……すまん、ディル。……つい、カッと———」


「何か……あったのか、お前ら?」

 冷たい、灰色の鉄の廊下にて。
 先程起きたことを打ち明ける決心を、俺はようやく心に刻んだ。





「え?! ニトイちゃんについて何か分かったんすか?!」

「……レイラとカーオは、少し……離れててくれ、ニトイと話しててもいいから」

 ひょこっと顔を出してきたレイラだったが、カーオと一緒に少しばかり離れててもらうことにした。
 ……何たって、バレたら相当ヤバそうな話だし。


「…………ニトイちゃーん! なんかしようぜーーっ!」
「あいっ!」

「なんかしようぜ」って一体何する気だよ。……そんな呼びかけをやる人なんて初めて見た。







「…………それで、何があったか、だったな。教えてくれ、ツバサ」

「ニトイは…………人間じゃなかった」


「…………そいつは、ショックだった、かもな。人間じゃない……って事は、ソウルレスだったりして……」


「機械、だった」






 そう発した瞬間。
 ディルは意外そうな顔をして。
 その後、少し微笑みながら、こう呟いた。

「そうか、機械……だったか。まあ、俺も一応見はしたわけだが…………ツバサ、それは俺達だけの秘密だ、いいな?」

「えっ、一体どういう……」

 そうしてディルの顔に視線を寄せたとき。



 ディルは何か、全てを、自分を構成する何もかもを失ったかのような、あまりにも悲壮感の漂う表情をしていた。

 ……なぜそうなったのか、俺には全く分からずじまいだったが、次の一言に、俺は震え上がった。



「…………カレンさんは……生きてない、か。……ツバサ、今日はもう、ニトイと一緒に家に帰れ。明日からの出勤もとりあえず無しだ。

 とにかく、ニトイに関しては……気をつけろ」

 




◇◇◇◇◇◇◇◇

「……ツバサ、また……どうか、した?」

 月明かりと、蛍光灯の光が雑に照らされるコンクリートの道にて。

 俺は1人、苦悩していた。



 ディルの最後の言葉。

『生きてない、か』

 ……やっぱり、俺だった。
 俺の身勝手な行動のせいで。
 俺がニトイをしっかり見てなかったせいで。

 あの人は、死んだ。
 殺されたんだ、何者かに。

 俺が、殺したんだ。
 俺が不甲斐なかったばかりに。
 俺が、俺がカレンさんを殺したんだ、と。後悔が身をすり潰す。

 どこか既視感のある感覚。
 それでも、現実は変わらず、俺がカレンさんを殺した、だなんて結果が無慈悲に迫り来る。

 ……ああ、もう嫌だ。
 なぜか、どうしてか分からないけど、自分は昔から、元からこういう人間だった、と錯覚する。

 (別に使命なんてないけど)全てを投げ出したくて。
 (果たすべき約束なんてないけど)ずっと、全てを破り続けてきた気がして。
 (作りたい世界なんてないけど)昔からの夢を投げ出したくて。

 全てを捨てて眠ってしまいたい、と、そう思いながらも。
 その足は無言のまま、家へと進み続けていた。




◆◆◆◆◆◆◆◆

 朝。
 時間は……4時44分。

「……さいっあくだ、不吉、だな」

 起きたのは玄関先。どうやら、帰った時にいつの間にか眠ってしまっていたらしい。

「……ツバサ、おは……よう」

 リビングの床に正座して座っているニトイは、だがしかし無機質な雰囲気を醸し出しており。
 明らかに寝てはいないことから、どう考えても機械、ということが証明された……と思うが。


「ニトイ、今日は……あそこには行かないからな」
「じゅんれー、した、かった」

 やっぱりその表情をみると。
 やはりどうしても、機械的だとは思えなくて。

「……ニトイね、おねーさん……カレン、さんから、遊園地……って言葉、知った」

「遊園地……?」
「……そう、デートにでも……連れて行きなさい、って」

「で……デート?!」

 おいおい、俺達はそんな馴れ初めのカップルじゃないんだぞって……


 …………そうだった、散々イチャイチャしていたところを見せつけていたのは誰だ……

 俺だ!





「……んっ、んっんっ、んんっ、じ……じゃあ……行くか、遊園地?……今日、休み、だもんな……?」

「行く……の?! やった……! ゆうえんちっ、ゆうえんちっ!」

 子供のようにはしゃぐニトイを眺めながら。
「何をすべきか」という目的を模索する思考すら、既に停止していた。




◇◇◇◇◇◇◇◇

 
 そうして訪れた遊園地。
 俺の住んでる西区に一番近いのが、エルバーランドとかいう遊園地だった。

 観覧車、ジェットコースター、お化け屋敷、なんかめちゃくちゃ涼しい部屋に入れるヤツ、そしてゴーカート……などなど。

 ほぼ全ての、あらゆるアトラクションが詰まった、夢のような場所だった。


 フリーチケットを5000パスで購入し。
 数百人が並ぶ長蛇の列にて、この炎天下の中並び続ける。

 俺自身は身が溶けきってしまいそうなほどその暑さに苦しめられていたのだが、ニトイは全然苦しんでいる様子はなさそうだった。

 ……意外と無機質的な側面も、役に立つ時があるんだなと感心もしながら、同時に気味が悪いとも考えていた。

「さて、ようやく……入れるな」

 並び始めて3時間。
 並ぶ用に、と持ってきた天然水入りの鉄製ボトルも既に空っぽの状況下にて、ようやく俺たちは遊園地へ入ることを許された。


「……現時刻は……11時か」

 緑の錆切った時計柱を眺め、その上に位置する時計の針を見つめる。

「………あれ、11じ……って、読むの……?」

「時間の概念まで知らなかったのか、お前?」

「……1日は、24時間、ってことは……しってる」

「……で、とりあえずどこに行きたい、とかあるか? 一応買ったチケットはフリーだから、回数制限なくどこでも行けるんだが……」

「ジェットコースター!」

 ……いかにも人間らしい、健気な声でニトイはそう提案した。

 不覚にも、そのニトイに愛着が湧く。
 もう既に、ニトイは人間ではないからにして、軽蔑の念も混ざっているのだが。…………ダメ、だろ。


「……じゃあ……一番人気なやつ、行くか」
「うい!」

 ……ジェットコースター。
 馴染みがあるはずなのに、不思議と初めて見たような気がする。


 レールの上に乗せられたトロッコのような乗り物に乗り込み、その乗り物が動く様を楽しむ、という何が楽しいのか全く分からないアトラクションだった。

「うぉおおおあああああっ!!」
「たーーのしーーー!!」

 乗り物が直下へと降る瞬間、一瞬意識が途切れかける。


 ……なんだこの乗り物は?!
 なぜ、ニトイはこの様を楽しめる?!
 分からない、全くこの面白さが分からない……なぜだ?!

 どうしてこれを、こんなものが人気があったりするんだ?!

 乗り物がゆっくりと、動作を停止させる。
「ツバサ、ジェットコースター……たのしかった……!」

 目をキラキラさせて輝いているニトイを横目に。
 俺は口からキラキラしたものを吐き出しそうになっている途中であった。

「うっ……な、なあニトイ……これのどこが楽しい……んだ……?」

「はくりょくあるところー」

「分からん……多分俺には一生、この魅力が分からない……!!」

「つぎ……ゴーカート、のりたい……!」
「ハイハイ、ゴーカートね……ああ……疲れるなあ……」

 少しばかりため息を吐きながらも。
 これもニトイのためか、と少々躍起になる。


「…………なあ、ニトイ、お前はご飯食べなくていいのかもしれないが……俺は一応人間なんだぞ……?」

「つぎはあの、ずっと……くるくる回ってる、でっかいやつにのりたい」

「待ってくれ、なあちょっと待ってくれ、ちょっと休ませてくれ、俺だって体力が限……界……で……?」

 頭から何やら形容しがたい痛みが流れ込む。
 視界が徐々に黒く染まってゆく。
 頭が、捩じ切れるような感覚がして。
 文字通りクラクラする。

「ツバ……サ…………?」
「…………あ……ふっ」
「ツバサ……? ツバサ、ツバサ!」

 自らを呼ぶ声がする。
 身近な人のようで。


 もう誰かすら分からなくて。
 そんな中でも、意識は闇に飲まれてゆく。
 …………意識が途切れる寸前、悪寒がした。
 絶対にここで、途切れてはいけない、と。

 明らかに何か、この後何かよからぬことが起きそうな悪寒が巻き起こったのだ。
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