120 / 256
断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜
ゴンドラにて。
「……こ……こは……」
目覚めたのは……ゴンドラの……中……?
「ええええええっ?!」
起きてすぐ見えたのは、上空数十メートルから見下げた夜景。
ビルの照らす夜の街は、それはそれは幻想的で……人工的なものだが、瞬くビルの光が星空のようで綺麗だった。……が。
「…………何、で、俺……ここにいるんだ……?」
と。何をどう考えても答えの出なさそうな疑問が思い浮かぶ。
「……これ、ニトイの……わがまま」
「……お前か、ニトイ」
まあ、この置かれた状況、ニトイと俺が1つのゴンドラの中にいる、という状況から察するに、おそらくコイツが俺を無理矢理乗せたのだろう。
「いや、どうやって俺を乗せたんだよ、係員とかに止められなかった……のか?」
「止められた……けど、操ったから、問題、ナシ……!」
グッ、と親指を立てるニトイ。…………しかし。
「操った……? だってえ……?」
聞き捨てならない単語。
「操った……一体何を」
「……暗示、かけた」
「ッおいおいおいおい!! な、何だよ暗示って?!」
「ニトイのめいれいに……従うようにする暗示」
「~~~~~っっ……! ば……馬っっ鹿野郎……!」
なるほど、ようやく分かった。
俺があの時、転校生扱いになってた理由が。
……コイツ、あたかも俺を転校生だと思わせるようにみんなに暗示をかけやがったんだ……!
「……そうか、お前が、俺の学校生活を壊し……あれ……?」
そうだ、俺は今まで学校に行っていた、と思っていたんだ。
……だがしかし、しかしだ。よく考えてみると、だ。
そもそも、俺は学校に行っていなかった…………
友達も……誰がいたか思い出せない。
小学校、中学校の思い出、テストの点数、旅行の記憶、全部思い出せない。
……って事、は、俺はそれまで、ニトイと出会うまでに……何をしていた?
……全て、思い出せないのだ。
何か、パズルの1ピースのみが抜け落ちたように些細な、しかして絶対的な喪失感に駆られながら。
それ以上踏み込んではいけないと理性では分かりながらも、俺の脳内は考察を深め続けていた。
「…………き、れい……だね……夜景」
突然、少女的な声と口調で話し始めたニトイの方を向くと。
ほんの少しばかり、ささやかな笑みを浮かべながら佇む天使が、そこにいた。
……俺にとって、もはやニトイは、人間にもロボットにも見えていなかった。
俺と会うため……?
俺に愛してもらうため……に、暗示を用いて皆の意思をねじ曲げた、ヤンデレの極地を突き詰めた(?)———得体の知れない何か……にしか、見えなかった。
だからこそ、今の俺を形作るありとあらゆる細胞はただ、この生命体に「畏怖」の感情を示していた。
「……ニトイ、お前は……今度は何をするつもり……なんだ。
また誰かの意思を……ねじ曲げるつもりか……? そうして、そうやってお前は何がしたいんだよ……結局お前は何なんだよ!」
「……!」
ニトイは少しばかりその背を縮め、怯えた表情をする。
———お前が、その表情をするのか……!
「今度はどうする?! ディルの……ディルの意思でも曲げてみせるか、それともなんだ、みんなの意思を曲げて、俺を王にでもしようってのか? それとも……俺自身を……破滅させる気か……?」
右手を家の方向に伸ばす。いつでも飛んでくる神威を受け取れるようにだ。
「……それに、結局お前は何なんだよ! 私は機械です、とか言ったって、最初は同級生のフリしてたし、途中まで少女のフリをして……!
……よく考えたら…………なんなんだよ、機械のお前が、一体俺に何の用だよっ!
結局お前は、この数日間、俺の下で何をしてたんだよ、なあ、答えてくれよ……!」
ニトイの肩を左手で掴み、床に押さえつける。
「……なあ、頼むから……これがただの、俺を堕落させるためだけに作った夢だってんなら……さっさと覚まさせてくれ……もう俺は、自分の存在に……葛藤したくないんだよ……!!」
「……ぅ……」
返答は、なかった。
あっちがソレを、悪いことだと自覚していたからであろうか。
「頼む……俺は、俺は誰なんだよ……教えて———くれ…………っ!」
「ぁ……ぅ………………ご……め……ん…………ごめん……なさい…………っ!」
「何で……謝るんだよ、なあ……一体、お前は何を———」
「……全部……きっと、わた、しの……わがまま、だから……
あんじ、なんて……ズルして、でも……それでも、わたし、は、私は———っ!」
「うわあああっ!」
ニトイから両手を伸ばされ、その身体を引き寄せられ。
狭いゴンドラの中、俺たちは———抱き合ってしまった。
「ニト……イ……?」
「ズル、してでも。何を、してでも私は……っ、ツバサが———、ツバサが、欲しいの……っ!
わたしは、ツバサを……アイ、したい、ツバサにアイされたい、アイを……知りたい、アイが……欲しい、の……だから、だから———、
ニトイ、には……ツバサ以外……何、も、いらない!……ほんとに、何も、いらないもん!」
何も……いら、ない……?
俺以外、何も———だって?
「何で……何でなんだ、何でどうしてそこまで……俺が好きなんだよ。
いや、悪い気はしないというか……むしろ、俺にとっちゃ嬉しい……以外の何物でもないんだ、でも……」
「なら……ダメ、なの?
私を、アイして……ほしいの。アイが、欲しいの。
……理由……なんて、どうでも……いい、好きなら———好きで、それで……ダメなの、ツバサ…………っ!」
「……ダメ……か……ってぇ、言われると———ぅん……ダメ、じゃないっていうかだな、その……
———ああ、そうだ。分からないんだよ、お前のことが。
何もかもわかっちゃいないんだ、お前の正体も、その生い立ちも。……そりゃあ、ただの機械が抱きしめたいとか、言うわけ……ない、もん、な……
何を信じればいいのか、分からないんだよ。
今のこの日常だって、お前が暗示をかけた結果なのかもしれない。今の俺だって、本当は———偽者なのかもしれない、って。
そう思うと、怖いんだ。俺は怖い。自分も、その周りも、実のところ本物の人生を、俺は生きてこれていなかったって、そうなるのは———怖いんだよ。
だから、ソレを引き起こすお前は、怖くて怖くて仕方がない。………………だから、いまだにソレを……越えられずにいるんだ。……ごめん」
ニトイの顔が、だんだんと緩んでいく。涙を流しながら、彼女は必死に訴え続けていた。
「っああ……俺は…………俺は、俺はどっちなんだよ、結局コイツを好きなのか嫌いなのか……っううっ!」
……そう、か。
馬鹿は俺だった。
本当にコイツは、ニトイは、俺に愛してもらいたかった、ただそれだけの理由で、俺の側にいたのだと、ようやく気が付いた。
だったら、後は俺の気持ちだけなんだ。コイツと一緒にいることを、俺が望むかどうか。
「俺…………は…………」
好きなのか?
俺はコイツのことが、好きなんだろうか?
その気持ちは、本当なのか?
俺がコイツに対して向ける、この好きだって感情は。
今コイツを見ただけで胸が跳ねて、心拍数が高まって、身体中の血が、コイツのことを欲しているこの感情は———違うのか。
選ぶべきだ———人生を。
コイツと———ニトイと共に、これからを歩むのか。
信用できないコイツを———ここで殺すのか。
自分の気持ちに、ウソはつきたくない。でも……やっぱり、信用はできない。
どれだけ抱きつかれようと、どれだけアイを囁かれようと。ニトイから腹の内を聞いていない限りは、俺は判断に迷ってしまうんだ。
そうだ、そうだ好きだ。俺はニトイのことが好きなんだ。……だから、こそ。
「ニ……ニトイ、俺は……
俺は、お前のことが……し、信…………用…………っ」
「ツバサ———、」
もう、迷って。
迷って、迷って。自分の感じた恋の感情にも、申し訳ないとウソをついて。
でも、ソレはダメだと感じて。
そうして、もう何も決められなくなった時。
コエが、聞こえたんだ。
『———だから、迷え、葛藤しろ、選択しろ。お前の人生は、お前が決めるんだ。いいな?』
『何を迷っているんだ。貴様ならば、こういう時———信じるはずだろう、相手のことを! なあ、そうだろう、███!』
『俺の……人生は、俺が。
他の誰でもない。█でもなく、████でもなく、███でもない……俺が、決める……んだ。
俺が———雪斬、ツバサが』
ならば。俺ならば、選ぶ答えは一つだ。
信じるものは———俺自身の答えと、そして———!
「ニトイ、俺は…………お前を信じてみようと思う。……いいや、信じさせてくれ、お前のことを。
お前がなんなのかわからない。俺自身の正体だって、俺の思う俺とは———違うかもしれない。
……でも、俺が今思っている———お前が………………な、気持ちぐらいは……信じて、みたいんだ。
だから……俺を、信じさせてくれ。きっと俺は、お前に———恋をしていると言うことを。
そばにいさせてくれ、お前のそばに。お前のそばに相応しいのは———きっと、俺なんだ……っいいや、お前のそばにいてもいいようなヤツになってみせる!
お前のことをアイしてやれるような———そんなヤツにっ!」
「わた、しの……そば…………うん!
ツバサが、ツバサ、だけ……が、私の、そばに……相応しいの……分かってる、ね、ツバサ!」
「……ああ! そばにいてやるよ、いつまでも、お前と一緒に———!」
「……うん! さようなら、まで、ずっと……だよ!」
さようなら———まで…………あ、ああ、そうだな。
死ぬまで……一緒にいたいんだ。
だから俺は、コイツのことが———。
その次の言葉が、どうしても口に出せない。
———と。
「ん……!」
突然、俺の口元に押し当てられる唇。
……甘い、ほろ苦い、味がする。
無意識に目を瞑っていたが、恐る恐る目を開けてみる、と。
押し当てられた唇の柔らかい感触がする。
正直、俺の頭はパンク寸前だった。
ニトイの伸ばした手は、俺の頬を引き寄せ。
……そして、唇と唇を、心と心を重ねてしまった。
「……は……あ……」
濃密な時間は、数時間のようで、はたまた数瞬のような、今まで味わったことのない感覚と共に過ぎ去っていった。
「ニト……イ……?」
「ずっと……こう、したかった。でも、これが……ニトイの、表現できるアイの、形……だから」
涙を流し、その綺麗な頬を濡らしながら。
震えた声で、ニトイはそう告げた。
「お前……の、アイ……か。
……ごめん、ニトイ。きっと俺からそうすることは———多分、恥ずかしくってまだ……できない。
でも———俺も! 俺もお前みたいに、自分自身のアイを……自分の方法で伝えられるようになる。なってみせる! ソレがきっと、お前のそばにいられるヤツ……だろうからな!」
「いっしょに……っ、いっしょに、がんばろうね! ツバサ!」
その、どこまでも吸い込まれていきそうな。
そういう点で言うと、本当に星空みたいな、そして太陽みたいな笑顔に。
そこだったんだな、きっと。
本当はあの朝、その笑顔を一目見た時から、ニトイに伝えたいとは思っていた。……いいや、本当はそれより遥か昔から、ずっと俺は、そう言いたかったような、そんな気がして。
それでも、俺はニトイの好意を無下にした。それだけは、今の俺にも分かる。
ずっと、一途だったんだ、多分。
どんな手を使っても、どんなことをしてでも、俺に愛してほしかった、それがニトイという人間…………だった。
……ならば、ならば俺はこのニトイを「機械」や、「怪物」としてではなく、一度「人間」として、「彼女」として見るべきかもしれない。……いや、見るべきなのだろう。
だったら、今取るべき行動はなんだろうか。
俺はニトイに、何を伝えるべきか。
この愛のゆりかごが、地に落ちる前に。
そもそも、今の俺はニトイをどう思っている?
「彼女」として、しっかりと見たニトイは……どう映る?
……少し無機質的なとこもあったけど。
覚えたての言葉はすぐ真似するし。
俺の前で、とても女の子がしてはいけない行動を始めたりするし。
何度か急にいちゃつこうとしてきて、結局それを見られたり。
突然愛を求めたり。
突然抱きつかれたり。
そして……実はめちゃくちゃ強かったり。
……だけど、正直な話、普通に考えると、ニトイはもうどこまでも可愛くて。
そして、きっと———本当の気持ちは、好きと言う一言で表せるはずなんだ。
そっ、と。
涙に震え、今にも崩れそうなニトイの肩に手を寄せる。
女の子に「好き」だとか言うだなんて、やっぱり俺にはできやしない、そんなストレートに想いを伝えることは。
……だから間接的で、一番効果がある伝え方を、俺は選んだ。
「ツバサ…………抱きつい……て……?」
「…………ニトイ。……もう言わなくても、分かるだろ。俺は、お前のことが———」
言いかけた瞬間、やはり喉元にて言葉は詰まる。
……だが、それでも。それでも、想いはきっと伝わった。
「…………俺は……っ!」
「……ニト、イ、ね……ツバサが喜ぶ、と思って……動いて、きた。……でも、でも、ツバサ、は、ニトイがいて、喜んで、くれる……?」
「ああ…………っ、そのために……お前の横に、俺はいるんだろ…………!
……と言うか、俺だって……お前のことを喜ばせてみせる……! 俺はお前のその……笑顔が欲しいんだ!……お前に、笑って、ほしいんだ……だからっ!」
「うん……お願い、ツバサ!
もっと、もっと、もっともっと私のこと……アイして、くれる?」
「っ…………ああ。
愛してみせるさ、お前の全てっ!」
目覚めたのは……ゴンドラの……中……?
「ええええええっ?!」
起きてすぐ見えたのは、上空数十メートルから見下げた夜景。
ビルの照らす夜の街は、それはそれは幻想的で……人工的なものだが、瞬くビルの光が星空のようで綺麗だった。……が。
「…………何、で、俺……ここにいるんだ……?」
と。何をどう考えても答えの出なさそうな疑問が思い浮かぶ。
「……これ、ニトイの……わがまま」
「……お前か、ニトイ」
まあ、この置かれた状況、ニトイと俺が1つのゴンドラの中にいる、という状況から察するに、おそらくコイツが俺を無理矢理乗せたのだろう。
「いや、どうやって俺を乗せたんだよ、係員とかに止められなかった……のか?」
「止められた……けど、操ったから、問題、ナシ……!」
グッ、と親指を立てるニトイ。…………しかし。
「操った……? だってえ……?」
聞き捨てならない単語。
「操った……一体何を」
「……暗示、かけた」
「ッおいおいおいおい!! な、何だよ暗示って?!」
「ニトイのめいれいに……従うようにする暗示」
「~~~~~っっ……! ば……馬っっ鹿野郎……!」
なるほど、ようやく分かった。
俺があの時、転校生扱いになってた理由が。
……コイツ、あたかも俺を転校生だと思わせるようにみんなに暗示をかけやがったんだ……!
「……そうか、お前が、俺の学校生活を壊し……あれ……?」
そうだ、俺は今まで学校に行っていた、と思っていたんだ。
……だがしかし、しかしだ。よく考えてみると、だ。
そもそも、俺は学校に行っていなかった…………
友達も……誰がいたか思い出せない。
小学校、中学校の思い出、テストの点数、旅行の記憶、全部思い出せない。
……って事、は、俺はそれまで、ニトイと出会うまでに……何をしていた?
……全て、思い出せないのだ。
何か、パズルの1ピースのみが抜け落ちたように些細な、しかして絶対的な喪失感に駆られながら。
それ以上踏み込んではいけないと理性では分かりながらも、俺の脳内は考察を深め続けていた。
「…………き、れい……だね……夜景」
突然、少女的な声と口調で話し始めたニトイの方を向くと。
ほんの少しばかり、ささやかな笑みを浮かべながら佇む天使が、そこにいた。
……俺にとって、もはやニトイは、人間にもロボットにも見えていなかった。
俺と会うため……?
俺に愛してもらうため……に、暗示を用いて皆の意思をねじ曲げた、ヤンデレの極地を突き詰めた(?)———得体の知れない何か……にしか、見えなかった。
だからこそ、今の俺を形作るありとあらゆる細胞はただ、この生命体に「畏怖」の感情を示していた。
「……ニトイ、お前は……今度は何をするつもり……なんだ。
また誰かの意思を……ねじ曲げるつもりか……? そうして、そうやってお前は何がしたいんだよ……結局お前は何なんだよ!」
「……!」
ニトイは少しばかりその背を縮め、怯えた表情をする。
———お前が、その表情をするのか……!
「今度はどうする?! ディルの……ディルの意思でも曲げてみせるか、それともなんだ、みんなの意思を曲げて、俺を王にでもしようってのか? それとも……俺自身を……破滅させる気か……?」
右手を家の方向に伸ばす。いつでも飛んでくる神威を受け取れるようにだ。
「……それに、結局お前は何なんだよ! 私は機械です、とか言ったって、最初は同級生のフリしてたし、途中まで少女のフリをして……!
……よく考えたら…………なんなんだよ、機械のお前が、一体俺に何の用だよっ!
結局お前は、この数日間、俺の下で何をしてたんだよ、なあ、答えてくれよ……!」
ニトイの肩を左手で掴み、床に押さえつける。
「……なあ、頼むから……これがただの、俺を堕落させるためだけに作った夢だってんなら……さっさと覚まさせてくれ……もう俺は、自分の存在に……葛藤したくないんだよ……!!」
「……ぅ……」
返答は、なかった。
あっちがソレを、悪いことだと自覚していたからであろうか。
「頼む……俺は、俺は誰なんだよ……教えて———くれ…………っ!」
「ぁ……ぅ………………ご……め……ん…………ごめん……なさい…………っ!」
「何で……謝るんだよ、なあ……一体、お前は何を———」
「……全部……きっと、わた、しの……わがまま、だから……
あんじ、なんて……ズルして、でも……それでも、わたし、は、私は———っ!」
「うわあああっ!」
ニトイから両手を伸ばされ、その身体を引き寄せられ。
狭いゴンドラの中、俺たちは———抱き合ってしまった。
「ニト……イ……?」
「ズル、してでも。何を、してでも私は……っ、ツバサが———、ツバサが、欲しいの……っ!
わたしは、ツバサを……アイ、したい、ツバサにアイされたい、アイを……知りたい、アイが……欲しい、の……だから、だから———、
ニトイ、には……ツバサ以外……何、も、いらない!……ほんとに、何も、いらないもん!」
何も……いら、ない……?
俺以外、何も———だって?
「何で……何でなんだ、何でどうしてそこまで……俺が好きなんだよ。
いや、悪い気はしないというか……むしろ、俺にとっちゃ嬉しい……以外の何物でもないんだ、でも……」
「なら……ダメ、なの?
私を、アイして……ほしいの。アイが、欲しいの。
……理由……なんて、どうでも……いい、好きなら———好きで、それで……ダメなの、ツバサ…………っ!」
「……ダメ……か……ってぇ、言われると———ぅん……ダメ、じゃないっていうかだな、その……
———ああ、そうだ。分からないんだよ、お前のことが。
何もかもわかっちゃいないんだ、お前の正体も、その生い立ちも。……そりゃあ、ただの機械が抱きしめたいとか、言うわけ……ない、もん、な……
何を信じればいいのか、分からないんだよ。
今のこの日常だって、お前が暗示をかけた結果なのかもしれない。今の俺だって、本当は———偽者なのかもしれない、って。
そう思うと、怖いんだ。俺は怖い。自分も、その周りも、実のところ本物の人生を、俺は生きてこれていなかったって、そうなるのは———怖いんだよ。
だから、ソレを引き起こすお前は、怖くて怖くて仕方がない。………………だから、いまだにソレを……越えられずにいるんだ。……ごめん」
ニトイの顔が、だんだんと緩んでいく。涙を流しながら、彼女は必死に訴え続けていた。
「っああ……俺は…………俺は、俺はどっちなんだよ、結局コイツを好きなのか嫌いなのか……っううっ!」
……そう、か。
馬鹿は俺だった。
本当にコイツは、ニトイは、俺に愛してもらいたかった、ただそれだけの理由で、俺の側にいたのだと、ようやく気が付いた。
だったら、後は俺の気持ちだけなんだ。コイツと一緒にいることを、俺が望むかどうか。
「俺…………は…………」
好きなのか?
俺はコイツのことが、好きなんだろうか?
その気持ちは、本当なのか?
俺がコイツに対して向ける、この好きだって感情は。
今コイツを見ただけで胸が跳ねて、心拍数が高まって、身体中の血が、コイツのことを欲しているこの感情は———違うのか。
選ぶべきだ———人生を。
コイツと———ニトイと共に、これからを歩むのか。
信用できないコイツを———ここで殺すのか。
自分の気持ちに、ウソはつきたくない。でも……やっぱり、信用はできない。
どれだけ抱きつかれようと、どれだけアイを囁かれようと。ニトイから腹の内を聞いていない限りは、俺は判断に迷ってしまうんだ。
そうだ、そうだ好きだ。俺はニトイのことが好きなんだ。……だから、こそ。
「ニ……ニトイ、俺は……
俺は、お前のことが……し、信…………用…………っ」
「ツバサ———、」
もう、迷って。
迷って、迷って。自分の感じた恋の感情にも、申し訳ないとウソをついて。
でも、ソレはダメだと感じて。
そうして、もう何も決められなくなった時。
コエが、聞こえたんだ。
『———だから、迷え、葛藤しろ、選択しろ。お前の人生は、お前が決めるんだ。いいな?』
『何を迷っているんだ。貴様ならば、こういう時———信じるはずだろう、相手のことを! なあ、そうだろう、███!』
『俺の……人生は、俺が。
他の誰でもない。█でもなく、████でもなく、███でもない……俺が、決める……んだ。
俺が———雪斬、ツバサが』
ならば。俺ならば、選ぶ答えは一つだ。
信じるものは———俺自身の答えと、そして———!
「ニトイ、俺は…………お前を信じてみようと思う。……いいや、信じさせてくれ、お前のことを。
お前がなんなのかわからない。俺自身の正体だって、俺の思う俺とは———違うかもしれない。
……でも、俺が今思っている———お前が………………な、気持ちぐらいは……信じて、みたいんだ。
だから……俺を、信じさせてくれ。きっと俺は、お前に———恋をしていると言うことを。
そばにいさせてくれ、お前のそばに。お前のそばに相応しいのは———きっと、俺なんだ……っいいや、お前のそばにいてもいいようなヤツになってみせる!
お前のことをアイしてやれるような———そんなヤツにっ!」
「わた、しの……そば…………うん!
ツバサが、ツバサ、だけ……が、私の、そばに……相応しいの……分かってる、ね、ツバサ!」
「……ああ! そばにいてやるよ、いつまでも、お前と一緒に———!」
「……うん! さようなら、まで、ずっと……だよ!」
さようなら———まで…………あ、ああ、そうだな。
死ぬまで……一緒にいたいんだ。
だから俺は、コイツのことが———。
その次の言葉が、どうしても口に出せない。
———と。
「ん……!」
突然、俺の口元に押し当てられる唇。
……甘い、ほろ苦い、味がする。
無意識に目を瞑っていたが、恐る恐る目を開けてみる、と。
押し当てられた唇の柔らかい感触がする。
正直、俺の頭はパンク寸前だった。
ニトイの伸ばした手は、俺の頬を引き寄せ。
……そして、唇と唇を、心と心を重ねてしまった。
「……は……あ……」
濃密な時間は、数時間のようで、はたまた数瞬のような、今まで味わったことのない感覚と共に過ぎ去っていった。
「ニト……イ……?」
「ずっと……こう、したかった。でも、これが……ニトイの、表現できるアイの、形……だから」
涙を流し、その綺麗な頬を濡らしながら。
震えた声で、ニトイはそう告げた。
「お前……の、アイ……か。
……ごめん、ニトイ。きっと俺からそうすることは———多分、恥ずかしくってまだ……できない。
でも———俺も! 俺もお前みたいに、自分自身のアイを……自分の方法で伝えられるようになる。なってみせる! ソレがきっと、お前のそばにいられるヤツ……だろうからな!」
「いっしょに……っ、いっしょに、がんばろうね! ツバサ!」
その、どこまでも吸い込まれていきそうな。
そういう点で言うと、本当に星空みたいな、そして太陽みたいな笑顔に。
そこだったんだな、きっと。
本当はあの朝、その笑顔を一目見た時から、ニトイに伝えたいとは思っていた。……いいや、本当はそれより遥か昔から、ずっと俺は、そう言いたかったような、そんな気がして。
それでも、俺はニトイの好意を無下にした。それだけは、今の俺にも分かる。
ずっと、一途だったんだ、多分。
どんな手を使っても、どんなことをしてでも、俺に愛してほしかった、それがニトイという人間…………だった。
……ならば、ならば俺はこのニトイを「機械」や、「怪物」としてではなく、一度「人間」として、「彼女」として見るべきかもしれない。……いや、見るべきなのだろう。
だったら、今取るべき行動はなんだろうか。
俺はニトイに、何を伝えるべきか。
この愛のゆりかごが、地に落ちる前に。
そもそも、今の俺はニトイをどう思っている?
「彼女」として、しっかりと見たニトイは……どう映る?
……少し無機質的なとこもあったけど。
覚えたての言葉はすぐ真似するし。
俺の前で、とても女の子がしてはいけない行動を始めたりするし。
何度か急にいちゃつこうとしてきて、結局それを見られたり。
突然愛を求めたり。
突然抱きつかれたり。
そして……実はめちゃくちゃ強かったり。
……だけど、正直な話、普通に考えると、ニトイはもうどこまでも可愛くて。
そして、きっと———本当の気持ちは、好きと言う一言で表せるはずなんだ。
そっ、と。
涙に震え、今にも崩れそうなニトイの肩に手を寄せる。
女の子に「好き」だとか言うだなんて、やっぱり俺にはできやしない、そんなストレートに想いを伝えることは。
……だから間接的で、一番効果がある伝え方を、俺は選んだ。
「ツバサ…………抱きつい……て……?」
「…………ニトイ。……もう言わなくても、分かるだろ。俺は、お前のことが———」
言いかけた瞬間、やはり喉元にて言葉は詰まる。
……だが、それでも。それでも、想いはきっと伝わった。
「…………俺は……っ!」
「……ニト、イ、ね……ツバサが喜ぶ、と思って……動いて、きた。……でも、でも、ツバサ、は、ニトイがいて、喜んで、くれる……?」
「ああ…………っ、そのために……お前の横に、俺はいるんだろ…………!
……と言うか、俺だって……お前のことを喜ばせてみせる……! 俺はお前のその……笑顔が欲しいんだ!……お前に、笑って、ほしいんだ……だからっ!」
「うん……お願い、ツバサ!
もっと、もっと、もっともっと私のこと……アイして、くれる?」
「っ…………ああ。
愛してみせるさ、お前の全てっ!」
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
絶交した幼馴染と大学の合コンで再会した。
孤独な蛇
恋愛
中学生の浅野春樹は上級生と喧嘩騒動を起こしたことがあった。
その上、目つきが悪く地毛は茶髪のため不良少年のような扱いを受けて学校では孤立していた。
そんな中、幼馴染の深瀬志穂だけは春樹のことをいつも気遣ってくれていた。
同じ高校に行こうと声を掛けてくれる志穂の言葉に応えたい一心で受験勉強にも力を入れていた。
春樹にとって、学校で孤立していることは問題ではなかった。
昔から志穂が近くにいてくれるから……。
しかし、3年生なってから志穂の態度がよそよそしくなってきた。
登下校も別々になり、学校で話しかけてくることも無くなった。
志穂の心が自分から離れていってしまっている気がした春樹は焦っていた。
彼女と話がしたい。笑った顔が見たい。
志穂と一緒に帰ろうと、彼女が部活動を行っている体育館へ向かったのだが……。
そこで春樹が耳にしたのは、自分の悪口を言って部活の友達と楽しそうにしている志穂の声だった。
その瞬間、春樹の中で志穂に対する想いや信頼は……消滅した。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。