Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

文字の大きさ
135 / 256
断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

崩壊領域

「多重幻覚境界面……現実侵食、縮小開始……!」

 星々を映し出す宙さえも、足をつけた地でさえもその領域世界の前には、ただただ飲まれゆくのみ。

「……何、コレ」

 頭に血が昇っていた少女も、その異常事態には思わずその動きを止める。

「説明する必要はない。……貴様はここで、確実に葬らなければならなくなりそうだ…………っ?!」

 言いかけたところで、今までに味わったことのない……まるで「最悪」を体現したかのような存在が近寄ってくる……そんな悪寒が、俺の背骨を伝う。


「………………レイラ……は、カーオの応急処置。……任せた」

「イチゴ………たい……ちょう……」



 そうか、コイツは……唐突に現れたこの女が、この部隊の隊長……!
 そうだ、通りで嫌な予感がすると思ったわけだ……



 広がりつつあった魔術領域は、魔術領域維持の魔力の節約のために収縮してゆく、が。

 俺は未だに、目の前に立った、フードのもう1人の女に対する、畏怖の感情を拭いきれていなかった。
 ……と。

「……暑いから、……フードは脱がせてもらう…………」

 その女がフードを脱ぎ捨てた瞬間。



 既に俺の背後は取られていた。

 同時に、音を立ててヒビ割れ、完全に崩壊しゆく魔術領域。コイツ相手に、領域は通じないってことか……!

「……っ?!」

 すかさず刀を背後に回し、その極限の速さで繰り出された斬撃を受け止める。
 あまりにも早すぎた。あのアレンにも匹敵するほど。

 


 ……だが、『アレンに匹敵』する程度では、この俺は倒せない。

 一時後退し、女の武器を確認しておくと……使い捨ての十字剣……のようなものだった。

「…………ふ」

 刀を構え、棒立ちの状態から、腰も落とさずに戦う体制へと突入する。


 そして。
 ノーモーションの一閃。

 極限まで無駄な動きを省き、相手に全くの隙を見せず、いつ、どのタイミングで、そしてどこに攻撃するかすら見分けることのできない『完璧残刀』。

 確実に決まる技だった。……むしろ、今の俺の動きには寸分の狂いはなかったからこそ、この技が決まっていないとおかしい……のだが。


「……」

 女は、未だそこに立ち続けていた。

 その光景を半ば信じられない俺は、もう一度技の発動に踏み切る……が。

 吹き抜けた風と共に、女の血が飛び散る……はずだったが。

 
 完全に、避けられた。
 まるでその動きを読まれているかの如く。
 寸分の迷いもない動作で、女は俺の動きを避けてみせた。

 ……ならば。
 女は、最初の一撃以降攻めて来る気配がないため。

 その事実から予測される事象が、俺の中で先程中断された技の再開を可能にした。

『ホロウ・ミラーディメンジョン』

 避けられる? 何度やっても、まるで見切られているかのように?

 ……ならば、物量で押し通す。
 ヴォレイにも見せた、あの技のお披露目だ。

「奇跡ってものは、自分の手で起こしてみせるものだ……っ!!!!」

「…………魔術領域か……中々の、使い手だ……」


 収縮された現実と対照的に、どこまでも拡大した俺の『世界』の、俺の位置に全く並行になるように、その空中に複製された『銃』が並べられる。


 そう、描き出すは弾幕。

 避けられるのならば、避けさせなければいいじゃないかと考案した、最強の物理攻撃。


「……………流石にコレは……免れようのない……」

 ……だが、躊躇はしない。
 ここで確実に殺さなければと、速くなる一方の鼓動を秘めた胸が囁いている。


 弾幕が海嘯を描き出した瞬間、女の姿は既にそこから消えており。
 避ける事を諦めた女は、ようやく攻めに走った。

「……っ……!!」

 振りかざされた十字剣を刀で受け止める。……が、いかんせんどこか締まりがない。

 まるで、何か最悪の切り札を隠してる……かのような、どこか不完全燃焼気味のその攻撃を奇妙に思った瞬間。


 その空間自体に、亀裂が走る。
 ……まさか、まさかだが……いつの間にか……


 俺の魔力領域が上書きされていた…………??


 ……違う、コレは……上書きじゃない。
 俺の魔力領域が……その存在ごと……抹消されていっている……?

 ……だが、どうしてだ? 魔力切れ……ではない、ならば、この女の神技能力。

 それがこの領域崩壊の鍵、という訳か……!




********



 ゴルゴダ機関にて分かった、イチゴの能力……神技は、2つ。

 ……普通の人間ならば、神技を2つも持つことなどあるはずもない……のだが、私は特例だったらしい。

 1つは……先読み。
 神力を消費し、敵の行動を———を先読みできる能力。

 もう1つは……『崩壊領域』。

 神力制御装置となっているフードを脱ぐ事で、自動的に発生する領域。

 私の半径500mに存在するものは何であれ、確実に『崩壊』へと向かう、という能力。特に、神力や魔力で編まれた領域には、特攻とも呼べるものまで付いている。

 それに例外はない。ヒトの細胞も、大気中の魔素や神力も、機神の神核でさえも。

 例えなんであれ、私の周りにいたものは、時間経過にてその存在規模が収縮し、確実にその存在が『崩壊』する。

 存在の完全崩壊までは、僅か1時間しか要さない。逆に言えば、私の周りにいたものは、僅か1時間でその存在が抹消される、ということだ。


 この領域から出た直後に、対象の『崩壊』の進行度はリセットされる。だが、1時間継続してこの領域に入っていた場合は……消えるのだ。

 この男がこの領域に入っていた時間は……30分。


 もう少しで、その右手から徐々に崩れ去って行く。

 まるで浜に形作られた黄土の城のように、少し手を加えるだけで、全てが砂と化し崩れ落ちるような……そんな状態に。

 だからせめてそれまで、この場を保たせて……そして、あの化け物を……殺す。


 もとより、私にはそれしかできなかった。
 このいわくつきの力をどこで活用するか……?

 ここ以外、あり得るわけがない……!




********


「何が……起こって……いる、俺様の魔術領域が……世界を維持できなくなった……?」
「……」

「どこまでも時間稼ぎをする気か、ずっとそうして守ってばかりで……っ!!」

 イデアは再度詰め寄り、刀を2、3回振りきるが、やはりそれらは全て回避されている。

 ……なぜ。
 思い浮かんだのは、全て疑問だった。

 なぜ、魔術領域は崩壊した?
 なぜ、ヤツは攻めてこない?
 なぜ、攻撃は全て避けられる?
 なぜ、攻撃は全て、例外なく避けられ———例外、なく?




 違う。
 そこにはたった一つだけだが、それらの法則———とも呼べるようなものから外れた例外が存在した。
 

 それは、先程範囲攻撃を繰り出そうとイメージを巡らせた刹那。
 女は避けるどころか、おそらく———攻撃の中断を狙いとして、こちらへと詰め寄ってきた。

 ……ここまでの事実から割り出せる敵の特徴としては、

 ・刀などの近接攻撃は全て避けられる。
 ・範囲攻撃———広範囲に渡る攻撃には、攻撃の中断を主として反撃するしかない。
 ・攻めの姿勢を見せない。

 の、おおよそ3つ。
 ……考えろ、考えろ、イデア。

 考えを巡らせ、今の状況を鋭く鑑た時の『最適解』を導き出せ。
  


 ……そうだ、敵は攻めの姿勢を見せないんだ、

 なぜなのかは分からないが、敵が行っているのは間違いなくだ。


 そう、おそらく敵は、俺の刀の斬撃を全て回避できる。
 刀や刃物に対する概念的加護が敵に付与されているのか……? とも考えたが、それに関しては断定できる証拠などない。

 だが、不可解な現象が一つだけあった。

 それは、魔術領域展開時の敵の行動だ。


 敵の算段は、時間を稼いで、体力もしくは魔力切れから決着に持っていくこと———と、そう仮定したとしよう。

 ……ならば、なぜ敵はその攻撃ののか?

 別に、魔力及び神力が尽きないのなら、障壁を作って守るだけでよかったはずだ、魔術領域を作っているのだから、何もしなくてもこちらの魔力は減る一方であるというのに。

 なのに、なのになぜ、敵は魔術領域の維持ではなく、攻撃の中断を図ったのか……?



 ……攻撃の中断が為された後、魔術領域はひとりでに瓦解していった。
 俺の魔力切れ……でもない、ならばなぜ、魔術領域は瓦解したのか。


 ……いいや、敵が魔術領域の瓦解を知っていて、あの場でその場凌ぎの攻撃の中断を選んだのだとしたら……?


「やはり時間稼ぎだろうが……ただのソレじゃない事は……明白か……!!!!」
感想 203

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

絶交した幼馴染と大学の合コンで再会した。

孤独な蛇
恋愛
中学生の浅野春樹は上級生と喧嘩騒動を起こしたことがあった。 その上、目つきが悪く地毛は茶髪のため不良少年のような扱いを受けて学校では孤立していた。 そんな中、幼馴染の深瀬志穂だけは春樹のことをいつも気遣ってくれていた。 同じ高校に行こうと声を掛けてくれる志穂の言葉に応えたい一心で受験勉強にも力を入れていた。 春樹にとって、学校で孤立していることは問題ではなかった。 昔から志穂が近くにいてくれるから……。 しかし、3年生なってから志穂の態度がよそよそしくなってきた。 登下校も別々になり、学校で話しかけてくることも無くなった。 志穂の心が自分から離れていってしまっている気がした春樹は焦っていた。 彼女と話がしたい。笑った顔が見たい。 志穂と一緒に帰ろうと、彼女が部活動を行っている体育館へ向かったのだが……。 そこで春樹が耳にしたのは、自分の悪口を言って部活の友達と楽しそうにしている志穂の声だった。 その瞬間、春樹の中で志穂に対する想いや信頼は……消滅した。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。