Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

文字の大きさ
136 / 256
断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

停戦/見参

しおりを挟む
*◇*◇*◇*◇

 一方、その頃。
 白はというと、ある可能性を懸念していた。


 ……それは、イデアやサナたちと、3番隊のメンバーが交戦しているんじゃないか、という可能性で。
 もしそうなった場合……確実に、どちらかは死ぬだろう。


 それは、ダメだ。

 もう1度喪失を経験すれば……きっと、白自身は、
 そんな気がして、無性に抗いたくなると。

「……アテナ、3番隊を……ディルたちを、探すぞ」

「白、なんか、ちょっと……怖い」

「———怖い、か。……ごめんな、そんな風に接するつもりはなかったんだ、だけど……」

「しかた、ない、のは……分かってる」
「……ありがとう。……行くか」



*◇*◇*◇*◇


 その頃、イデアと女———イチゴは未だに熾烈な争いを繰り広げ続けていた。


「……チッ、どこまでも……ラチがあかないっ!!!!」

 振られ続ける神速を、その全てを女は回避する。
 何度やろうとも、結果は同じ———


「…………っ……」

「ようやく……避けられずに当てる事ができたぜ……!」
 
 その刀は、女の右肩に擦れ、そこから赤黒い液体が滲み出す。



 ……そう、ようやく攻撃が当たったのだ。
 ようやく当たったと、脳が歓喜に打ち震えた瞬間、身体に違和感が生じる。


「……灰、色……?」

 ふとして自身の左手に目を落とすと、そこには灰色に変色した左手が。
 同時に左手を動かそうともするが———反応がない。

 どう言う事だ、左手が俺の脳の命令を受け付けていないのか……?



「……降参、するのなら、今の、うち」
「…………!」


 降参、だと?
 降参、と、今確かにこの女は口にした、のか?

 のヤツらにもそんな、そんな慈悲深い事が言えたのかと困惑するが。

「貴方、じゃ……私、には……勝てない。このまま続けていれば、貴方の身体が……する」

「……ならば降参して、甘く死を待て。……と? そう言いたいのか、ゴルゴダ機関」

「貴方だって、死にたくは……ない、はず。殺しはしない、私たち第3が、なんとか……してみせる、だから、こんな戦いは終わりで……」


「降参すれば、いずれへと繋がるやもしれない、この件はそう言う問題だ。だからこそ俺たち救世主セイバーの一族が、ここにいるのだ」


「救世主……つまり、貴方が『鍵』……?」

「……俺は『鍵』なんぞじゃあない。俺をヤツと一緒にするな」

「そうか、神殿国の…………しかし何、で、鍵が……じゃあ、やはりツバサは、あの子を………………!

 …………ん、そう……ならば、降参するつもりは……」

「ない。貴様らがどれだけ情けをかけようと、俺の行手を阻むと言うのなら……俺は殺す」



「………………行手を阻まない、と言ったら?」

「貴様らにそんな利口な事はできやしないとは思うが…………もしそうなるのなら、戦いはしない。どっかの人斬りとは違うのでな」







「……レイラ、フードを寄越して!」

 と、女は大声で口にする。



「……おい、何をする気だ」

「……停戦。貴方が、戦わずに……この先に向かうと言うのなら、私は、邪魔を……しない。……むしろ、を瓦解へ追い込むと、言うのなら……協力する」

「何を言っている、ゴルゴダ機関はエターナルの要、貴様らの悲願こそ、エターナルなんじゃなかったのか」



「そうっすよ隊長、何を言ってるんすか!……コイツは、コイツは、私たちの仲間を傷付けて…………!」

 憤慨する少女をよそに、その女……『隊長』だとか呼ばれていた女は話を続ける。



「……大丈夫……レイラ、カーオはまだ……息がある。……それに、こんな無益な戦いを……続けて、何になると言うんだ……?」


「でもコイツは、外から攻めてきた部外者で……復讐の……ゴルゴダ機関への復讐のために攻めてきたかもって……!」

「そう……じゃない事が分かった、ならばもう、いいでしょ? 私たち……第3の結成理由を、忘れた……?」


「…………っ」

 少女は不服そうに唇を噛みしめ、握り拳を作りこちらを睨みつける。




 裏切る……つもりはないか、仲間をわざわざ説得してまで裏切る必要は……おそらくないだろう。

 女がフードを羽織った瞬間、身体にまとわりついていた妙な違和感が、晴れるように一斉に拭われる。

「……なあ、なぜだ?……貴様らは、貴様らはプロジェクト:エターナルの遂行の為———俺をゼウスの神核へと近づけさせない為に戦っていたんじゃないのか?」

「私たちは、ただだけ。貴方たちが、私たちへの……私怨で……ここを襲撃したと思い込んでいた。

 ……先のヴォレイの件、そしてギル……カーネイジの件も、あって……か、私たちは、西大陸の報復———無差別的な破壊行為を危惧していた。

 ……ただ、エターナルを瓦解させる、為だけに……攻めてきた、となれば……話は、別」


「……ふん、貴様らの内情など知ったこっちゃないが、どうやら戦う必要はないらしい———っ?!」

 安堵したのも束の間、場を襲ったのは———どこか、まるで嗅いだことのあるような臭いと、どこか既視感のある魔気だった。

 ……違う、これは。……だ、魔王軍幹部、それ相応の……瘴気……!!







「…………始末しないのですか、その者は部外者、のはずでしたが」





「どこに行ったかと思えば……まさか東大陸に逃げ込んでいたとはな……ダークナイト!」

 そう、既視感のある魔気———その正体は、かの魔王軍幹部、ダークナイトのものであった。

 しかし———その肝心の顔は、黒き仮面で覆われており、隙間より、白い美しき頭髪がその姿を覗かせている。





 ……そうだ、コイツは死んだはずだ。

 そうは伝え聞いていたが、あの時———センと話しているダークナイトを目にした時から、必ずどこかで生きていると、その存在を危惧していたが……まさかここで出てくるとはな…………!


「ダークナイト……ではありません。その名は、遥か昔に捨て去った名。

 今の名は———。ゴルゴダ機関、その総帥を務める、刹那、ですとも」



「総帥、だと……?……貴様、まさかこちらにも精通していたか……何が目的だ、告げろ!」

「目的……もちろん、我が計画エターナルの完全遂行の邪魔となる存在の、抹殺です。

 魔王———アベルと遊ばせている間は、まだ始末するには早いか、と思い見過ごしていましたが、ここまで来られては———殺すしかありませんとも」


「そうか、やはり俺を殺すと来たか……!」

「ええ……特に貴方には、エターナルのプランB———呪神の借りもあるので」

「1年前のも……貴様が仕組んでいたか……!」

 1年前。
 魔王が打破された直後の、世界を覆った呪術式のカミ。
 それすらも、コイツが組み上げた、と言う訳か……!!!!



「無駄話は止しましょう、それでは———さようなら」
しおりを挟む
感想 203

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...