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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜
ニトイについて。
夜中———2時を過ぎた頃。
ふと、目が覚めた。
今ここで起きておかないといけない———それこそ、今起きなければ死んでしまうかのような、そんなヘンな義務感に囚われながら。
ふと、横に目をやると。
そこには、まるで石造のように微塵たりとも動くことのなく、床に足をつけてただ月光を享受するアテナの姿があった。
「…………起きてんのか?」
「そも、そも……機神、は……ねない」
ああ、そう、と心の中で納得しつつ、起きかけの身体を揺り動かして、なんとかアテナの隣に移動する。
「…………なに」
「なに……って何だよ、なんか冷たいな……」
「……………………アテナ、は……機械、だから……機械の、生き方、しか……してこな、かった。喋り方も含めて…………だから薄情だと思われても…………仕方が、ないの」
「そっ、か……そうだったな、一応お前は機神だったな」
そう言うと、アテナは少しばかり微笑みかける。
その小さくも可愛らしい横顔が、紺碧の月になびく。
「…………アイスクリーム」
「はい?」
唐突の一言。
しかし、俺は今の一言だけで、コイツが今から何を言い出すかを理解してしまった。
「アイスクリーム、買って、こい……!」
「なんで命令形なんだよ?!」
「アテナ、アイスクリームが、ないと、たたかえない~……」
「ヘンな嘘ついたって無駄だぞ、第一こんな夜中にアイスクリームとか売ってるわけないだろ……?」
「売ってる」
「どこに———」
「…………公園、に、ある」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「……って事で、出してほしい」
「———なんだと?」
白の要件を聞き届けた見張り番のイデアは———そのアホくさい理由に顔を歪める。
「……貴様、自分が『鍵』で、ゴルゴダ機関全てから狙われていると気付いていないのか?」
「大丈夫だ兄さん、俺は今までもゴルゴダ機関にいたんだ、多分———おそらく、もしかしたら大丈夫」
「………………チッ、……もういい、貴様らだけで勝手にしろ!」
「珍しく……物分かりがいいな……」
「……貴様にはそれを言うだけの資格と、実力があるからこそだ。……『贖罪』のためにも、楽しむのなら今のうちにしておけ」
「兄さん、まさかサナから色々聞いたんじゃ……?」
「うるさい、行くなら早くいけ!……邪魔だ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
そうして、アテナに手を連れられ向かった先は、公園だった。
……しかし、街頭の照らす灯りの下、特別光っていた『ソレ』は———。
「……無人……販売機……だと……っ!」
四角い長方形をした、ボックス状の販売機であった。
「…………そら……みろ、アテナ、が……正し、かった」
「はいはい正しいよ……ったく、なんで俺のパスで買わなきゃならないんだよ……」
「買って、くれるの……?」
「断れるなら先に言ってくれ!…………そんな顔を見ちゃったら……買うしかないだろ、お前意外と泣き虫なんだから、すぐに泣かれるのも御免被りたいところなんだよっ!」
……と、そばにあったベンチにアテナが座り込む。
そして堂々とベンチに鎮座したアテナは、足を組んで一言、命令を。
「……われに菓子をさずけよ……味は『チョコバナナwith唐辛子』味だ……さあ、はやくよこすがいいーっ」
……これが機神ですか。
「何なんだそのヘッタクソな真似は———」
「はようせよ下郎、われが買えと言っているのだ、さもなくばその首をたちきるぞ」
「……はいはい、チョコバナナwith唐辛子味ね……って何だよそりゃ?!」
「はようせい」
「なんでそこまで流暢で傲慢なんだよ、そもそもこんなの美味しいのかよ?!」
「おいしい……けど、お口にひろがる……あまさと、唐辛子風味の、トッピングの……しげき、が、いい味を……醸し出して、いる」
「……急にその話し方に戻すのはやめてくれない?」
そう言いつつも、パス硬貨を挿入口より中に入れ、販売機のボタンに手をかけ、中より待望のチョコバナナwith唐辛子味アイスクリームが出でる。
「そらよ、これなんだろ、お前が食べたいの」
「………………あーん、して」
「………………はい?!」
よくもまあそんな、万年の笑みを浮かべてそんなことが言えたもんだ。
「するかよ?!」
「おね……がい」
「無理だ」
「…………?」
「無、理、だ!」
「うぅ……」
今にも泣き出しそうなその顔を見つめた時、自然とその腕は動いていた。
———が。
「…………あ、あ~ん」
「………」
その伸ばした腕とは正反対に、俺の身体そのものは仰け反っていた。
「…………する気、ない……でしょ」
「あったりまえだ、そんな恥ずかしいことやってられるか!…………そらよ、やるから食べるなら勝手に食べてくれ!」
「あーん、してほしかった…………のに」
俺が手渡したアイスを、アテナはそのまま舌を出し、ペロペロと少しづつ舐め始める。
……なんだか、こーいう細かな動作が、アテナには似合う感じがする。
「なあ、アテナ。……結局、お前は何がしたいんだ?……それが、俺はじっくり聞きたいんだ」
「…………はひほ……ひはいは……?」
「アイスを頬張りながら話さないでくれ、せめて口から出して喋ってくれ……つーか何でアイスを頬張る気になるんだよ」
「…………なに……って、白、が、好き……だから」
またそれか、と呆れながらも。
やっぱりそうなのか、と安堵もしながら。
———というか、なんで俺が好きだからアイスを頬張るだなんて考えになるんだよ一体!!
「———なあ、俺たち……って、どういう関係なんだろうな」
ふと、疑問が浮かんだ。
それは、自らの存在について問うような、それほどまでに重大なことであった。
「俺は、お前の……アテナにとっての、何なんだ?……彼氏か、それとも友達か?……ボーイフレンド……だったりするのか……?」
ベンチに腰をかけ、アテナのすぐ横へと迫る。
「………………多分……彼、氏……だと、思う。……なんで、そんなこと……聞くの?」
「本当に、俺がお前と対等であるか、知りたかった。……俺は人間、そしてお前は機神。
そこには生まれつきの壁があって、生まれつきの格差があって、それでも俺は、お前と———真に一緒にいてもいいのかな、と。……そう、疑問に思っただけなんだ」
「…………しろ、は、アテナの……唯一の、彼氏だから、たいとう。……ずっと、これからも、永遠に…………対等、だよ?」
「そっか、それはありがたい。……その方が、こっちの気だって楽だしな」
「それ、と、宗呪羅が言ってた。『そこに行為など関係ない。距離も、時間も、意味を成さない、どれだけその運命の人を愛するか、だ』……だとか」
なぜか一瞬、アテナの声が男らしくなった気がする。
「いきなり流暢になるのは頼むから控えてくれ、たまに笑いそうになるから」
「…………だから、アテナ、は……今から、生きていく…………なかで、精一杯のアイを、しろ、に……捧げる」
「———愛ってのはさ、そーいう……捧げるとか、一方的なモノじゃないと、俺は思うんだ」
話が終わったと認識し、静まり返った場にて、また1つ言葉を重ねる。
「……愛、俺の考える愛ってのは———一緒に育んでいくモノだと思うんだ。ただ一方的に尽くす、尽くされるだけじゃない。
相互補完……それがおそらく、ヒトの本来の在り方だし、俺の人生はいつだって……誰かと一緒だったから」
「なんか……今の、しろ……大人びてる。…………しろらしく、ない」
「そうか、俺らしくない……か……」
「…………気を、つけて。……白には、まだ……獣が潜んでる。…………いつそれがでるかは……分からない、けど」
「んなこと気にしてられっかよ。……俺は、ただ今のこの時を楽しむだけだ。……必死で生きて、自由に生きる。………………それが俺の贖罪……なんだ」
「……それ、は、ほんとうに……じゆう?」
その言葉に、一瞬ハッとする。
今の自分の言葉は、本当に自分の存在と矛盾してはいないのか。
それは誰がどう見ても『自由』と言える代物か?……と。
結局は、囚われているだけじゃないのか。
楽しく生きること、幸福を享受すること。それはきっと、間違いじゃないのだろう。
だがそれは『自由』か?
結局はそう、『楽しく生かされているだけではないのか?』と。
誰が聞いても疑問に思う言葉だった、故にアテナは、俺自身にその針のような言葉を、無自覚でぶつけてくる。
「……じゆう、じゃなくても、むかしに白が……何を、していても……白は、白の思うように……生きていてほしい。…………だから、アテナは……そのための手伝いを、するだけ」
「………………そっ、か、そうだよな、……お前には、話してなかったか、俺が過去に———何をしたか」
思い起こされるは、血肉這いずる文字通りの意味の殺風景。
鼻をつく血の臭い、目を刺す肉の形相。
どこまでも、罪と血と肉と十字架に塗れた心象風景。
もう記憶の底から引きずり出したくもなかった断片をかき集め、もう一度この悲劇を———俺の初めての罪を話そうとしたのだが———。
「…………言いたくない、なら、言わなくても……いいんだよ……?」
少しばかり横から顔を出したその天使に、思わずとも心が熱くなる。
「……そうだな、俺だって……これについては思い出したくなかった。…………もう、2度と」
「…………それでも、今は……は、白が決めるべき……人生、だから。
アテナがいたって、誰が……何を言ったって、白自身が……決めたこと、が、その人生の……全て。
…………アテナにとっても……それが全て、だから」
誰が何を言おうと、これは俺の人生、か……
そういえばそんなこと、前にも———。
「……そうだった、アイツにも言われたんだった、そんなこと。……懐かしいな、恋しいな……あの頃が」
懐かしき思い出に浸り、暗黒の海、その中に1つそびえる提灯のような光へと手を伸ばす。
———ずっと、欲しかったモノで。
———あっけなくも、手放してしまったモノのようだった。
「…………アイス、食い終わったか?」
思い出に耽る時間も終わりを告げる。
ハッ、とした時にすぐにその言葉を発したが、実際にどのくらいの長い時間が経ったかは俺にも分からない。
「食べ終わった、おいしかった……けど、もう……かえる……?」
「そうだな、俺も早く寝ないといけないしな。……もう何時だかも分かりはしないが」
ふと顔を向けたアテナの頬には、アイスの欠片が1つ、2つ、ポツリと付いており。
……まあ気付いてないし、このままでも面白いかなあとも思いつつ、ベンチより立ち上がり帰路へと着く。
「…………白、あした……早起き、だからね……!」
「いやいやいや、こんな時間に起こしたのお前だろ……」
「あー、あー、きこえなーい」
「自分で墓穴を掘ってなお逃げ続ける気か……?」
そんなくだらない話を続けながらも、それでも時間は進む。
———こんなくだらない時間だって、いつかはきっとかけがえのないモノにでもなるのだろうか、と1人考え伏しながらも、拠点へと戻った俺は、すぐさま床に突っ伏した。
これが、もしこんな時間が、これで最後なのだとしたら———。
きっと、俺はそんな現実———受け入れられないだろう。
ふと、目が覚めた。
今ここで起きておかないといけない———それこそ、今起きなければ死んでしまうかのような、そんなヘンな義務感に囚われながら。
ふと、横に目をやると。
そこには、まるで石造のように微塵たりとも動くことのなく、床に足をつけてただ月光を享受するアテナの姿があった。
「…………起きてんのか?」
「そも、そも……機神、は……ねない」
ああ、そう、と心の中で納得しつつ、起きかけの身体を揺り動かして、なんとかアテナの隣に移動する。
「…………なに」
「なに……って何だよ、なんか冷たいな……」
「……………………アテナ、は……機械、だから……機械の、生き方、しか……してこな、かった。喋り方も含めて…………だから薄情だと思われても…………仕方が、ないの」
「そっ、か……そうだったな、一応お前は機神だったな」
そう言うと、アテナは少しばかり微笑みかける。
その小さくも可愛らしい横顔が、紺碧の月になびく。
「…………アイスクリーム」
「はい?」
唐突の一言。
しかし、俺は今の一言だけで、コイツが今から何を言い出すかを理解してしまった。
「アイスクリーム、買って、こい……!」
「なんで命令形なんだよ?!」
「アテナ、アイスクリームが、ないと、たたかえない~……」
「ヘンな嘘ついたって無駄だぞ、第一こんな夜中にアイスクリームとか売ってるわけないだろ……?」
「売ってる」
「どこに———」
「…………公園、に、ある」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「……って事で、出してほしい」
「———なんだと?」
白の要件を聞き届けた見張り番のイデアは———そのアホくさい理由に顔を歪める。
「……貴様、自分が『鍵』で、ゴルゴダ機関全てから狙われていると気付いていないのか?」
「大丈夫だ兄さん、俺は今までもゴルゴダ機関にいたんだ、多分———おそらく、もしかしたら大丈夫」
「………………チッ、……もういい、貴様らだけで勝手にしろ!」
「珍しく……物分かりがいいな……」
「……貴様にはそれを言うだけの資格と、実力があるからこそだ。……『贖罪』のためにも、楽しむのなら今のうちにしておけ」
「兄さん、まさかサナから色々聞いたんじゃ……?」
「うるさい、行くなら早くいけ!……邪魔だ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
そうして、アテナに手を連れられ向かった先は、公園だった。
……しかし、街頭の照らす灯りの下、特別光っていた『ソレ』は———。
「……無人……販売機……だと……っ!」
四角い長方形をした、ボックス状の販売機であった。
「…………そら……みろ、アテナ、が……正し、かった」
「はいはい正しいよ……ったく、なんで俺のパスで買わなきゃならないんだよ……」
「買って、くれるの……?」
「断れるなら先に言ってくれ!…………そんな顔を見ちゃったら……買うしかないだろ、お前意外と泣き虫なんだから、すぐに泣かれるのも御免被りたいところなんだよっ!」
……と、そばにあったベンチにアテナが座り込む。
そして堂々とベンチに鎮座したアテナは、足を組んで一言、命令を。
「……われに菓子をさずけよ……味は『チョコバナナwith唐辛子』味だ……さあ、はやくよこすがいいーっ」
……これが機神ですか。
「何なんだそのヘッタクソな真似は———」
「はようせよ下郎、われが買えと言っているのだ、さもなくばその首をたちきるぞ」
「……はいはい、チョコバナナwith唐辛子味ね……って何だよそりゃ?!」
「はようせい」
「なんでそこまで流暢で傲慢なんだよ、そもそもこんなの美味しいのかよ?!」
「おいしい……けど、お口にひろがる……あまさと、唐辛子風味の、トッピングの……しげき、が、いい味を……醸し出して、いる」
「……急にその話し方に戻すのはやめてくれない?」
そう言いつつも、パス硬貨を挿入口より中に入れ、販売機のボタンに手をかけ、中より待望のチョコバナナwith唐辛子味アイスクリームが出でる。
「そらよ、これなんだろ、お前が食べたいの」
「………………あーん、して」
「………………はい?!」
よくもまあそんな、万年の笑みを浮かべてそんなことが言えたもんだ。
「するかよ?!」
「おね……がい」
「無理だ」
「…………?」
「無、理、だ!」
「うぅ……」
今にも泣き出しそうなその顔を見つめた時、自然とその腕は動いていた。
———が。
「…………あ、あ~ん」
「………」
その伸ばした腕とは正反対に、俺の身体そのものは仰け反っていた。
「…………する気、ない……でしょ」
「あったりまえだ、そんな恥ずかしいことやってられるか!…………そらよ、やるから食べるなら勝手に食べてくれ!」
「あーん、してほしかった…………のに」
俺が手渡したアイスを、アテナはそのまま舌を出し、ペロペロと少しづつ舐め始める。
……なんだか、こーいう細かな動作が、アテナには似合う感じがする。
「なあ、アテナ。……結局、お前は何がしたいんだ?……それが、俺はじっくり聞きたいんだ」
「…………はひほ……ひはいは……?」
「アイスを頬張りながら話さないでくれ、せめて口から出して喋ってくれ……つーか何でアイスを頬張る気になるんだよ」
「…………なに……って、白、が、好き……だから」
またそれか、と呆れながらも。
やっぱりそうなのか、と安堵もしながら。
———というか、なんで俺が好きだからアイスを頬張るだなんて考えになるんだよ一体!!
「———なあ、俺たち……って、どういう関係なんだろうな」
ふと、疑問が浮かんだ。
それは、自らの存在について問うような、それほどまでに重大なことであった。
「俺は、お前の……アテナにとっての、何なんだ?……彼氏か、それとも友達か?……ボーイフレンド……だったりするのか……?」
ベンチに腰をかけ、アテナのすぐ横へと迫る。
「………………多分……彼、氏……だと、思う。……なんで、そんなこと……聞くの?」
「本当に、俺がお前と対等であるか、知りたかった。……俺は人間、そしてお前は機神。
そこには生まれつきの壁があって、生まれつきの格差があって、それでも俺は、お前と———真に一緒にいてもいいのかな、と。……そう、疑問に思っただけなんだ」
「…………しろ、は、アテナの……唯一の、彼氏だから、たいとう。……ずっと、これからも、永遠に…………対等、だよ?」
「そっか、それはありがたい。……その方が、こっちの気だって楽だしな」
「それ、と、宗呪羅が言ってた。『そこに行為など関係ない。距離も、時間も、意味を成さない、どれだけその運命の人を愛するか、だ』……だとか」
なぜか一瞬、アテナの声が男らしくなった気がする。
「いきなり流暢になるのは頼むから控えてくれ、たまに笑いそうになるから」
「…………だから、アテナ、は……今から、生きていく…………なかで、精一杯のアイを、しろ、に……捧げる」
「———愛ってのはさ、そーいう……捧げるとか、一方的なモノじゃないと、俺は思うんだ」
話が終わったと認識し、静まり返った場にて、また1つ言葉を重ねる。
「……愛、俺の考える愛ってのは———一緒に育んでいくモノだと思うんだ。ただ一方的に尽くす、尽くされるだけじゃない。
相互補完……それがおそらく、ヒトの本来の在り方だし、俺の人生はいつだって……誰かと一緒だったから」
「なんか……今の、しろ……大人びてる。…………しろらしく、ない」
「そうか、俺らしくない……か……」
「…………気を、つけて。……白には、まだ……獣が潜んでる。…………いつそれがでるかは……分からない、けど」
「んなこと気にしてられっかよ。……俺は、ただ今のこの時を楽しむだけだ。……必死で生きて、自由に生きる。………………それが俺の贖罪……なんだ」
「……それ、は、ほんとうに……じゆう?」
その言葉に、一瞬ハッとする。
今の自分の言葉は、本当に自分の存在と矛盾してはいないのか。
それは誰がどう見ても『自由』と言える代物か?……と。
結局は、囚われているだけじゃないのか。
楽しく生きること、幸福を享受すること。それはきっと、間違いじゃないのだろう。
だがそれは『自由』か?
結局はそう、『楽しく生かされているだけではないのか?』と。
誰が聞いても疑問に思う言葉だった、故にアテナは、俺自身にその針のような言葉を、無自覚でぶつけてくる。
「……じゆう、じゃなくても、むかしに白が……何を、していても……白は、白の思うように……生きていてほしい。…………だから、アテナは……そのための手伝いを、するだけ」
「………………そっ、か、そうだよな、……お前には、話してなかったか、俺が過去に———何をしたか」
思い起こされるは、血肉這いずる文字通りの意味の殺風景。
鼻をつく血の臭い、目を刺す肉の形相。
どこまでも、罪と血と肉と十字架に塗れた心象風景。
もう記憶の底から引きずり出したくもなかった断片をかき集め、もう一度この悲劇を———俺の初めての罪を話そうとしたのだが———。
「…………言いたくない、なら、言わなくても……いいんだよ……?」
少しばかり横から顔を出したその天使に、思わずとも心が熱くなる。
「……そうだな、俺だって……これについては思い出したくなかった。…………もう、2度と」
「…………それでも、今は……は、白が決めるべき……人生、だから。
アテナがいたって、誰が……何を言ったって、白自身が……決めたこと、が、その人生の……全て。
…………アテナにとっても……それが全て、だから」
誰が何を言おうと、これは俺の人生、か……
そういえばそんなこと、前にも———。
「……そうだった、アイツにも言われたんだった、そんなこと。……懐かしいな、恋しいな……あの頃が」
懐かしき思い出に浸り、暗黒の海、その中に1つそびえる提灯のような光へと手を伸ばす。
———ずっと、欲しかったモノで。
———あっけなくも、手放してしまったモノのようだった。
「…………アイス、食い終わったか?」
思い出に耽る時間も終わりを告げる。
ハッ、とした時にすぐにその言葉を発したが、実際にどのくらいの長い時間が経ったかは俺にも分からない。
「食べ終わった、おいしかった……けど、もう……かえる……?」
「そうだな、俺も早く寝ないといけないしな。……もう何時だかも分かりはしないが」
ふと顔を向けたアテナの頬には、アイスの欠片が1つ、2つ、ポツリと付いており。
……まあ気付いてないし、このままでも面白いかなあとも思いつつ、ベンチより立ち上がり帰路へと着く。
「…………白、あした……早起き、だからね……!」
「いやいやいや、こんな時間に起こしたのお前だろ……」
「あー、あー、きこえなーい」
「自分で墓穴を掘ってなお逃げ続ける気か……?」
そんなくだらない話を続けながらも、それでも時間は進む。
———こんなくだらない時間だって、いつかはきっとかけがえのないモノにでもなるのだろうか、と1人考え伏しながらも、拠点へと戻った俺は、すぐさま床に突っ伏した。
これが、もしこんな時間が、これで最後なのだとしたら———。
きっと、俺はそんな現実———受け入れられないだろう。
感想 203
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