Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

文字の大きさ
129 / 256
断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

懐かしき出会い

しおりを挟む
 そうして連れられた外の空は、もはや星が瞬くころとなっていた。
 時の流れは早いなあ、などと考え惚けていた俺は、さらに早い時の流れを実感することとなる。


「さて、ここで合ってる……わよね?」
「知らねえよ、自分の心に聞きやがれアホ魔術師」
「~~~~~~っっ」

 側から見ているだけでも明らかに仲が破綻しているそのコンビを横目に、俺はその少しばかり古ぼけたビルのドアを開ける。

 中は……暗い。
 奥まで続くその空間は、もはや誰もいなかったかのように散らかっており、生活の痕跡など何一つ見受けられない中。

 背後より、サナが一言、口走った。
「……開けゴマ!!」

 何を言ってるんだと振り向いた瞬間……一言目が発された2秒後、もう一度サナは叫ぶ。
「開け、コマ!!」


 ……と。突如部屋に明かりが灯る。そして、立てられた段ボールの隅から姿を見せたのは……イデアだった。


 なるほど、開けゴマも開けコマも、合言葉だったのか……
 ……いやいや、合言葉にしてはふざけすぎだろ。



 開いた先にまずいたのは———少し逆立った髪が特徴的で、古ぼけたローブを見に纏った……青年。


「兄……さん……?」

 ……そう。俺の———アレン・セイバーの兄、イデア・セイバーだった。

「……………よお、アレン。2年ぶりだな」

「は……? 2年……ぶり……?」

 口を開け唖然とした俺に、畳み掛けるようにイデアは説明する。

「貴様があの日……ゴルゴダ機関に……いや、そこの少女にさらわれ、消息を絶ってからはや2年……経ったんだ。なんだ、聞いてなかったのか?」

「…………アテナ、お前が俺を……さらったのか……?」

「うい」
「うい……じゃねえよ……元凶、お前じゃねえか……」

 まあでも、アテナが俺と出会うためには仕方なかったのか…と、不服ながらも納得し、その事象を自分の中で片付けた頃。

「マスターーーーっ!!」

 どこか聞き覚えのある女の声は、猛スピードでこちらへと近づいてくる。

「わふっ」

 突如眼前に現れたその女に、俺は抱きつかれながら後ろに倒れ込んだ。


 ———そう、この声は。この呼び方は、アイツ———機巧天使意外ありえなかった。



「……なあ、コック。会えて嬉しくは……あるんだろうし、俺もそうなんだけど……いきなり抱きつくのは……ヤバくないか……?」

「いいえヤバくありません! 私はマスターが帰ってこられたことが嬉しいのです~!!」

 まあ、特にこの場においては。三角関係……修羅場に発展しそうなこの場において、そんな求愛行動は文字通り死を意味する可能性も……

「………月天使徒殲滅制圧最終———」
「やめろアテナこの場を吹き飛ばす気か?!」

「そちらの少女は……機神セカンドデウスでございますか!

 何とも非常に珍しく、私の探究心をくすぐる存在ではありますが……なぜ攻撃体制に移行しておられるのでしょう……?」




「……でェ? 俺はもう行っていいのか?」

 段ボールで作られた玉座……のようなものに、偉そうにもふんぞり返ったクラッシャーが質問する。

「ええ。明日は9時集合だから、そこら辺覚えててね」

 聞き流すかのように、返事もせずクラッシャーは出口へと足を進め、その後フツーに外に出ていった、が。



「………なあ、どうやったらあんなヤツと協力なんて……できたんだ……?」

 ……と、俺の心には疑問が残った。


「アイツは……クラッシャーは、1人でこのオリュンポスに乗り込み、自らの力の無さを嘆いたそうなの。

 ……それで、不服だけど私たちに、エターナルの完全阻止を求めてきた。

 私たちの出した条件が、白。貴方を連れて来させることよ。……正直、機神まで付いてくるとは思っちゃいなかったけど」


「あい」

 サナがポン、とアテナの頭を撫でるように手を置くと、アテナも共鳴するかの様に反応する。



「…………で、気になったんだが……センはどこだ?」

 そう、俺たちの仲間の中でも……センだけが、この空間にいないのである。
 ……明らかな疑問、不可解な点であったが、その疑問は驚愕となって返された。

「セン様……でしたら、妻の出産がどう……とかで、忙しいんじゃないですかね……?」


「ほへ~妻か~ってつまあ?!」

 あまりにも自然すぎるコックの発音と、その内容の乖離の激しさに困惑する。



「ちょちょちょ、ちょっと待ったコック?! 妻……センの妻……って誰だよ……? そもそもアイツ何歳だ、何歳で妻作ってんだあ?!」

「セン様の妻は……くいな、とか言う下等生b……獣人の少女、ですね……確か……イデアさんが結婚式の写真を大事にとっておられたかと……」

 しれっと実にさりげなく、下等生物とか言おうとした事には触れないでおいて。

「……兄さん、が……持ってんのか……?」

 すると、腕を組んでいたイデアが、スッと2本の指で写真をこちらに投げ渡す。



 そこには、仲睦まじそうに座っている……あの試合、魔武道大会で見かけた獣人の少女と、センの姿が。

 その後ろでニコニコしてるのは……兄さん……?!

「……なあ兄さん、そんなにセンと仲良かったか……?」
「黙れ、それ以上口を開くな。貴様の命が惜しければな……」

 遮るようにして兄さんは威嚇の言葉を放つが……それはもうセンと仲が良いと言ってるようなもんじゃないか。

 ……と。

「…………さ! 明日も早いしみんなもう寝るわよ……イデアはこの後も当番だけど……」



「なあサナ、明日も早い……って、明日何かするのか?」

「え、言ってなかった? 明日……ゴルゴダ機関の総本部、アルファポイントに攻め込むのよ」


「やはりアルファポイントか……いつ出発する?」
「イデア」
「行くのは明日よ」




「……で、明日9時から、アルファポイントの……ここの入り口から攻め込む訳」

 一息付いた後、そう言ってサナが指を指したのは、円状に広がるオリュンポスの地図の、北西側。


 俺たちの現在地を指した赤いピン……が、オリュンポスの東部にあるから……オリュンポスの全長を考えても、かなり歩かないといけないな……

 だからこそ、早く寝なきゃいけないのか、と理解し、寝床につこ……うともしたが、寝床……どこだ?



「な、なあ、俺たちはどこで寝るんだ、一体……?」
「女性陣は発泡スチロール入り段ボールの中。






 男は……のよ」




「ですよね~」

 そう言えば、宿で過ごしてた時もそんな感じだったな……

 ……だなんて思いながらも、既に床で寝る事に慣れてしまっていた俺は、床に倒れ伏した瞬間、戦いの疲れからかそのまま寝てしまった。
しおりを挟む
感想 203

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...