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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜
塹壕
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「…………え、今の声って……センの声……だけど、喋ったのって……コイツか?……この鉄人形が、センの声で喋ったってのか?」
迫り来る猛攻を掻い潜り、ようやく俺とアテナが地下へと転がり込んだ後、その目に焼き付けたのは。
『……えっと、あ~……めんどくさいことになったなあ……』
かつての仲間の声で、なおかつ自身こそがセンだと豪語する、鉄の巨体であった。
「……アテナ、神力障壁の展開準備だ。……敵だという事もあり得る」
『え~と……まあ、いいか』
スピーカーのようなものから、その声が場に響き渡った瞬間、その巨体の上部———人体で言うところの胸に当たる部分に埋め込まれた灰色のコンテナが開き、中から1人の人影が降り立つ。
その人影に、今まさに戦闘準備を進めていた俺の目は釘付けにされる。まるでそれに吸い寄せられるように。
それほどまでに、その出会いは運命的なものだったのだろう。
「セン…………本当にお前……なのか」
「…………はい、お久しぶりです、白さん」
1年前———と言うより、俺が『ツバサ』に成り代わる前の記憶とは、いささか違う容姿だった。
もちろん、少しばかり伸びた背、所々で赤く染められた髪———それらはまあ、普通と言うべきものであったのだろうが———。
「……お前……そのツノ、どうした?」
その額に宿すは、たった1本にして、見るもの全てを魅了し恐怖に突き落とす、血の紅が奥まで染み込んだツノ。
まあ、普通の人間にあってたまるか———と言うか、誰がどう見ても、人間と他種族のハーフ……亜人の特徴に類似したものだったが。
「このツノ……ですか?……ああ、それなら……」
◆◆◆◆◆◆◆◆
……聞いた話によれば、なんでもセンは、元々日ノ國に伝わる『鬼』の一族だったらしく、あの鍛冶屋のじっちゃん……の本来の息子ではなかった、なんて事実が明かされたそうだ、俺のいなかった間に。
どうも俺がいない1年、世界が動き続けたらしい。
分断されるトランスフィールド、進行する『エターナル』、集結する国々、3つに分たれた世界情勢。
そして、どうもそれらは一触即発の状況で、この戦争はその節目となる……のだとか。
「……で、このエターナルを阻止しなければ———世界は、本当の終末へと向かう。と、黒さんが教えて———」
「なあ、お前の部隊……みんな戦闘体制を解いてるが、奇襲とかは気にしないのか?」
「……アパシー4、アパシー5は周辺の見張を頼む。……僕たちは、少し話がしたい」
センの指示が響き渡った瞬間、12機のサイドツー……だとか言う、鉄の巨体が群れを成し、地下通路を塞ぐように壁を形作る。
「ふう、これで……攻撃されても、ひとまずはサイドツーを盾にできるか…………見張り以外の全隊、作戦会議だ、サイドツーより降りてくれ」
的確に指示を出すセンの姿は、もはや前の弱々しさを感じさせないほどに勇ましいものであった。
「…………すごいな、この部隊はお前が率いて———」
「白さん、それよりもまずは作戦会議です、アレをぶっ壊すための」
ソラを覆う災厄、夜の象徴、夜明けを防ぐアポストロ、機神。
それをぶっ壊す……どうやって、とも思ったが、そう言えばそうだった。
「……アテナ」
「アテナ…………って、それも機神じゃないですか。……まさか、あの機神の名は———」
「違う、そこでずっと石をツンツンしてる女の子がソレだ」
センがふと目をやったそこには。
座り込んだまま、瓦礫と共に落ちてきた石を、ずっと触ったり指でつついたり転がしたりしている、ある少女———幼女の姿が。
「え…………アレ、が、アテナ……?」
「そう、アイツがアテナ。……俺は、いなくなったこの1年間、ずっとアイツと過ごしてきたんだ」
「……でも、何で……白さんだって、エターナル阻止の為に動いてるはずじゃあ……」
「アテナは…………俺の………………彼女、だからな、俺に着いてまわってくるんだ」
「??」
何を言っているか分からないと、あからさまに首を傾げたセンを見ながらも、畳み掛けるように話を続ける。
「………………し、ろ、今……彼女、って……!」
「おいおいアテナ、違うってのか?…………参ったなあ、抱きついたってのに、まだ彼女って認識を持ってなかったか……」
「抱きついたぁ?!」
「…………いや、お前は結婚したんだろ、くいな……だとか言う獣人とだっけか?……そんなお前が、いちいちそんなもので騒ぐものでもないだろ」
「い、いやあ……白さんにはそーいうの、なんかできなさそうだな~って、謎の認識が~……」
「できるわ!……俺だって年頃の男の子…………もうすぐ成人かもだが、そーいう心はあるんだよ!」
……次にセンが俺に向けたのは、軽蔑の眼差しだった。
まあ、言いたいことは———もちろん分かるが。
「……なら、ならばサナさんの……想いは…………」
「決着をつけたさ、折り合いだってつけた。……もう俺は、白じゃない。
……生まれ変わった『雪斬ツバサ』って名の他人だからな。だから———そっちを優先した、そうまでして、ようやく俺自身は納得することができた」
「………………そう、ですか。
もう、貴方は———白さん、では……ないと。だから……………………っ、戻しますか、話」
気まずそうに、センはその話題について聞いてしまったことを悔いながら、時間はそのまま過ぎてゆく。
「…………え、今の声って……センの声……だけど、喋ったのって……コイツか?……この鉄人形が、センの声で喋ったってのか?」
迫り来る猛攻を掻い潜り、ようやく俺とアテナが地下へと転がり込んだ後、その目に焼き付けたのは。
『……えっと、あ~……めんどくさいことになったなあ……』
かつての仲間の声で、なおかつ自身こそがセンだと豪語する、鉄の巨体であった。
「……アテナ、神力障壁の展開準備だ。……敵だという事もあり得る」
『え~と……まあ、いいか』
スピーカーのようなものから、その声が場に響き渡った瞬間、その巨体の上部———人体で言うところの胸に当たる部分に埋め込まれた灰色のコンテナが開き、中から1人の人影が降り立つ。
その人影に、今まさに戦闘準備を進めていた俺の目は釘付けにされる。まるでそれに吸い寄せられるように。
それほどまでに、その出会いは運命的なものだったのだろう。
「セン…………本当にお前……なのか」
「…………はい、お久しぶりです、白さん」
1年前———と言うより、俺が『ツバサ』に成り代わる前の記憶とは、いささか違う容姿だった。
もちろん、少しばかり伸びた背、所々で赤く染められた髪———それらはまあ、普通と言うべきものであったのだろうが———。
「……お前……そのツノ、どうした?」
その額に宿すは、たった1本にして、見るもの全てを魅了し恐怖に突き落とす、血の紅が奥まで染み込んだツノ。
まあ、普通の人間にあってたまるか———と言うか、誰がどう見ても、人間と他種族のハーフ……亜人の特徴に類似したものだったが。
「このツノ……ですか?……ああ、それなら……」
◆◆◆◆◆◆◆◆
……聞いた話によれば、なんでもセンは、元々日ノ國に伝わる『鬼』の一族だったらしく、あの鍛冶屋のじっちゃん……の本来の息子ではなかった、なんて事実が明かされたそうだ、俺のいなかった間に。
どうも俺がいない1年、世界が動き続けたらしい。
分断されるトランスフィールド、進行する『エターナル』、集結する国々、3つに分たれた世界情勢。
そして、どうもそれらは一触即発の状況で、この戦争はその節目となる……のだとか。
「……で、このエターナルを阻止しなければ———世界は、本当の終末へと向かう。と、黒さんが教えて———」
「なあ、お前の部隊……みんな戦闘体制を解いてるが、奇襲とかは気にしないのか?」
「……アパシー4、アパシー5は周辺の見張を頼む。……僕たちは、少し話がしたい」
センの指示が響き渡った瞬間、12機のサイドツー……だとか言う、鉄の巨体が群れを成し、地下通路を塞ぐように壁を形作る。
「ふう、これで……攻撃されても、ひとまずはサイドツーを盾にできるか…………見張り以外の全隊、作戦会議だ、サイドツーより降りてくれ」
的確に指示を出すセンの姿は、もはや前の弱々しさを感じさせないほどに勇ましいものであった。
「…………すごいな、この部隊はお前が率いて———」
「白さん、それよりもまずは作戦会議です、アレをぶっ壊すための」
ソラを覆う災厄、夜の象徴、夜明けを防ぐアポストロ、機神。
それをぶっ壊す……どうやって、とも思ったが、そう言えばそうだった。
「……アテナ」
「アテナ…………って、それも機神じゃないですか。……まさか、あの機神の名は———」
「違う、そこでずっと石をツンツンしてる女の子がソレだ」
センがふと目をやったそこには。
座り込んだまま、瓦礫と共に落ちてきた石を、ずっと触ったり指でつついたり転がしたりしている、ある少女———幼女の姿が。
「え…………アレ、が、アテナ……?」
「そう、アイツがアテナ。……俺は、いなくなったこの1年間、ずっとアイツと過ごしてきたんだ」
「……でも、何で……白さんだって、エターナル阻止の為に動いてるはずじゃあ……」
「アテナは…………俺の………………彼女、だからな、俺に着いてまわってくるんだ」
「??」
何を言っているか分からないと、あからさまに首を傾げたセンを見ながらも、畳み掛けるように話を続ける。
「………………し、ろ、今……彼女、って……!」
「おいおいアテナ、違うってのか?…………参ったなあ、抱きついたってのに、まだ彼女って認識を持ってなかったか……」
「抱きついたぁ?!」
「…………いや、お前は結婚したんだろ、くいな……だとか言う獣人とだっけか?……そんなお前が、いちいちそんなもので騒ぐものでもないだろ」
「い、いやあ……白さんにはそーいうの、なんかできなさそうだな~って、謎の認識が~……」
「できるわ!……俺だって年頃の男の子…………もうすぐ成人かもだが、そーいう心はあるんだよ!」
……次にセンが俺に向けたのは、軽蔑の眼差しだった。
まあ、言いたいことは———もちろん分かるが。
「……なら、ならばサナさんの……想いは…………」
「決着をつけたさ、折り合いだってつけた。……もう俺は、白じゃない。
……生まれ変わった『雪斬ツバサ』って名の他人だからな。だから———そっちを優先した、そうまでして、ようやく俺自身は納得することができた」
「………………そう、ですか。
もう、貴方は———白さん、では……ないと。だから……………………っ、戻しますか、話」
気まずそうに、センはその話題について聞いてしまったことを悔いながら、時間はそのまま過ぎてゆく。
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