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6.身罷り往く彼と再会を
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遠い遠い、昔の話。
この村の中にある大きな木のそばで、また彼に会いたいと願った。
この木は昔から願いを繋ぐ木だと伝えられてきた。しかし現実とは薄情なもので、何も願いが叶ったことなどなかった。
遠い国の戦争は激化していると聞いた。どうやら最近徴兵が増えたのもそれが原因らしい。戦況は詳しく報道されないが、それくらいのことは皆も察しがつく。
比較的この村は畑が多く食料に困ることは少なかった。しかし街では食糧不足で餓死者が多く出たらしい。
だがそれでも村の男の人たちは多く国のために出ていき、帰ってこない人も少なくなかった。そして再度会いたい彼もその一人だった。心優しかった彼は帰ってきたら世帯を持とうと言ってくれた。必ず帰ってくると、言ってくれた。泣くことが許されるわけもなく笑って見送るしかなかった。
それももう八年も前の話。
随分と余裕がなくなり窶れた村にはもう出て行った人を思い返すことも少なくなった。年に一度願いを繋ぐ木にお供えをする行事も今となってはもう執り行うことすらない。それどころか、数千年続けてきたこの文化を口に出すことすらタブーに置かれた始末だ。
「なぜ貴方は帰ってこないのでしょう…」
薄情な願いを繋ぐ木にただ一人身を寄せた。最近はこうして用事がある時間以外はこの木のそばで過ごす時間が増えた。彼が帰ってくることを願うと、同時に彼が戻らない人になっているのかもしれないと考えてしまった。…内心どこか分かっていたのかもしれない。しかし考えることはやめられなかった。
願っても願っても何も変わらない現実に行き先のない怒りを覚え、それは自然と願いを繋ぐ木に向いた。そして同時にこの木についても疑問が浮かんでいった。
「長らく我が国を貶めんとした敵国は、我が軍の奇襲によりなす術もなく八方へ逃げ散ることになった。我ら神風は少しの損害も出さず勝利を収めた」
村で唯一のラヂオがそう勝利を放送した。放送を聴いていた村の人たちは皆微笑を浮かべる。それはおそらく安堵だったのだろう。もしかすればこの前の徴兵で国のために他国へ移った人が帰ってくるかもしれない。そんな願いが多々あったのだと思う。
同日の夜、願いを繋ぐ木は花をつけた。
その圧巻な様子は夜のうちに村の人たちに知れ渡りほとんどの人が見に集まった。
願いを繋ぐ木は葉はついても花が咲くことはなかったからだ。
人々は願いが繋がったのでは、と口にした。
「お、おい!あいつらだ!男たちが帰ってきた!」
なんとこの前の徴兵で出て行った男たちが帰ってきたのである。皆多少なりと負傷をしているが、見えない顔は少なかった。
「やっぱり、こういうことだったのですね」
「千代…」
八年前ぶりに顔を合わせた彼はあれから何も変わらないどころか、傷が少しもない。
「暮らしましょう。二人で。いつまでも」
「良いのか。村の者たちは」
村のことを考えられるほど、私に余裕はなかった。
願いを繋ぐ木はまたこれまでのように葉をつけ、青々と茂っている。
「時期戦争も終わるでしょう。そうしたら村も平和になります。私たちは関係ありません」
これから長い時間が二人を待っている。時間の流れにも、社会情勢にも、揉まれず幸せに余生を暮らすのだ。
願いを繋ぐ木はずっと、願いを繋ぐ瞬間を待っていた。あとはそれに私が呼応すれば済む話だったのだが、言い伝えはあったものの村全体にそんな知識はなく、発動する条件か誰もわからなかった。この条件は、おそらく誰も知らない方がいい。
身罷り往く彼と再会を果たした私は、これからずっと、幸せに暮らすのだろう。
そう考えた時には既に、私たちは天に登り始めていた。
この村の中にある大きな木のそばで、また彼に会いたいと願った。
この木は昔から願いを繋ぐ木だと伝えられてきた。しかし現実とは薄情なもので、何も願いが叶ったことなどなかった。
遠い国の戦争は激化していると聞いた。どうやら最近徴兵が増えたのもそれが原因らしい。戦況は詳しく報道されないが、それくらいのことは皆も察しがつく。
比較的この村は畑が多く食料に困ることは少なかった。しかし街では食糧不足で餓死者が多く出たらしい。
だがそれでも村の男の人たちは多く国のために出ていき、帰ってこない人も少なくなかった。そして再度会いたい彼もその一人だった。心優しかった彼は帰ってきたら世帯を持とうと言ってくれた。必ず帰ってくると、言ってくれた。泣くことが許されるわけもなく笑って見送るしかなかった。
それももう八年も前の話。
随分と余裕がなくなり窶れた村にはもう出て行った人を思い返すことも少なくなった。年に一度願いを繋ぐ木にお供えをする行事も今となってはもう執り行うことすらない。それどころか、数千年続けてきたこの文化を口に出すことすらタブーに置かれた始末だ。
「なぜ貴方は帰ってこないのでしょう…」
薄情な願いを繋ぐ木にただ一人身を寄せた。最近はこうして用事がある時間以外はこの木のそばで過ごす時間が増えた。彼が帰ってくることを願うと、同時に彼が戻らない人になっているのかもしれないと考えてしまった。…内心どこか分かっていたのかもしれない。しかし考えることはやめられなかった。
願っても願っても何も変わらない現実に行き先のない怒りを覚え、それは自然と願いを繋ぐ木に向いた。そして同時にこの木についても疑問が浮かんでいった。
「長らく我が国を貶めんとした敵国は、我が軍の奇襲によりなす術もなく八方へ逃げ散ることになった。我ら神風は少しの損害も出さず勝利を収めた」
村で唯一のラヂオがそう勝利を放送した。放送を聴いていた村の人たちは皆微笑を浮かべる。それはおそらく安堵だったのだろう。もしかすればこの前の徴兵で国のために他国へ移った人が帰ってくるかもしれない。そんな願いが多々あったのだと思う。
同日の夜、願いを繋ぐ木は花をつけた。
その圧巻な様子は夜のうちに村の人たちに知れ渡りほとんどの人が見に集まった。
願いを繋ぐ木は葉はついても花が咲くことはなかったからだ。
人々は願いが繋がったのでは、と口にした。
「お、おい!あいつらだ!男たちが帰ってきた!」
なんとこの前の徴兵で出て行った男たちが帰ってきたのである。皆多少なりと負傷をしているが、見えない顔は少なかった。
「やっぱり、こういうことだったのですね」
「千代…」
八年前ぶりに顔を合わせた彼はあれから何も変わらないどころか、傷が少しもない。
「暮らしましょう。二人で。いつまでも」
「良いのか。村の者たちは」
村のことを考えられるほど、私に余裕はなかった。
願いを繋ぐ木はまたこれまでのように葉をつけ、青々と茂っている。
「時期戦争も終わるでしょう。そうしたら村も平和になります。私たちは関係ありません」
これから長い時間が二人を待っている。時間の流れにも、社会情勢にも、揉まれず幸せに余生を暮らすのだ。
願いを繋ぐ木はずっと、願いを繋ぐ瞬間を待っていた。あとはそれに私が呼応すれば済む話だったのだが、言い伝えはあったものの村全体にそんな知識はなく、発動する条件か誰もわからなかった。この条件は、おそらく誰も知らない方がいい。
身罷り往く彼と再会を果たした私は、これからずっと、幸せに暮らすのだろう。
そう考えた時には既に、私たちは天に登り始めていた。
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