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第197死 バージョンⅡ

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「雪女ちゃん今日こそは一発殴らせてもらうううう、ってねええええ!!!」

「お前たちは戦い慣れていない、だから無駄に弱い」

「DODOのトップ探索者はァァァ滅茶めちゃ死のダンジョンで戦って来たんですけどおおおお」

 白マントが翳した右手は距離を詰めてきたおばみんごとを強く引っ張る。

「パワーの一味違うテンションふぁいぶでMAXの美少女踏ん張り状態なら効かないよ!」

 テンションを4から5に上げた。ここ数日の修行で大きくパワーアップしたおばみんのスキル【テンション】。ビリビリとジャスト・ミントグリーン色の触覚は逆立ち風を切り荒ぶっている。

 テンション5の変身制限時間は1分。デメリットは大きいが大きくチカラを解放した状態では白マントの引力を大幅にカットし無視出来る事が分かっている。栄子のチンキスブレードからヒントを得た、強力なスキル持ちの格上相手に通用するオーバー未惇のDODOトップ探索者としての意地。

 迎え撃つ光速の白いビームをブン殴り、散らす。鮮やかにパワーで勝った荒々しい雷拳が処理していく。

「お前はすべてが遅い」

「電光石火のミトンがぁ!」

 敵との距離を中距離まで詰めて、紅い眼光が狙い撃つ──両手のミトンを射出した。
 
 マントを翻し、向かってきた緑の拳を悠々と避ける。

 ターゲットを捕捉し複雑に絡まる2つの緑の軌跡がとてつもなく素速い身のこなしの雪女を追い込んでいく。

 オーバー未惇の触覚がミトンを操りついに両の拳がひらひらと舞い踊った白いマントにぶち当たる。

「よっしゃーー!!」

 

 ──びりびりと白く。

 ──纏った白い雷膜を突き破れずにいた回転する両拳は。

 ──回転力を失い、放たれた白い光のネットに絡め取られて戻る事も出来ず白光し爆散。

「げぇっ!? ナニそのびりっとシールド!?」

 ビリビリと白と緑のオーラが混じりあってかつ独立したそれぞれの色味がマーブル状に美しく循環している。

「戻れ! 復活! ミトンちゃん!」

「だから弱い」

 驚いている時間が無駄であるとおばみんは気付いたが遅かった。白い閃光と緑の弾丸の遠距離射撃を防ぎきれず、復活させたミトンの出力を上げたガードの上からもろとも美しい吹雪のような弾幕の威力に弾き飛ばされた。


 突き抜ける、収束する10のエメラルドの閃光と共に。

 ひと段落の隙を突いて斬りかかる──出力を刃のように研ぎ澄ませた強烈なチンキスブレードが歪む雷シールドを破った。──弾けて飴粒のように宙に失せていくエネルギー。

 白マントはなおも黄色いスニーカーをグリッドな地に鳴らし、二の刃で襲い掛かったそれに──構えた白刃。

 目にも止まらぬ速さで幾度もぶつかり合い、

 「チンキス」

 「スゥキス」

 以前よりも重い、栄子はこれまで幾度も白マントと刃を合わせる度に相手の出力が上がっているのを感じていた。

 出力を上げ鍔迫り合い、対峙する、月のように美しいクールな両者の顔。

 そしてまた黒く染め上がって伸びていく黒髪──天へと逆立っていく。


 黒く染まり雷撃。吸い付く刃と至近距離から黒雷が放たれるコンボの予感に、既に栄子は大きく後ろへと刃に込めたチカラを爆発させ離れた。

 なんとか仕切り直し避けた黒雷、だが甘くは無い見越して連続して放たれるソレを──左の虚空を黒包丁は斬る、すると右に黄スニーカーと長身が滑るように移動していく。

 荒々しい黒雷の連撃はスケーターが氷上のリンクを踊るようにグリッド空間を滑る栄子にすべて回避されていった。

 チカラを一瞬に爆発させ刃と共に踊るこれが栄子の見つけたリアルにも通じる最適な妥協解であった。

 そしてまたひと段落。

 激しい戦闘後のインターバルが訪れた。白マントは射撃を止め。


「おまえはおそい──おまえは小手先」


 黒髪ロングは生成りのショートヘアへと戻り。すっかり観戦モードのオーバー未惇と、栄枯。それぞれを指差しそう言った。


 栄子は汗だくでべたつく髪をかき上げ、言う。

「小手先であなたの攻撃をクリアしました。そろそろ教えてくださいバージョンⅡを」

「戦いにそんなものなどない、最初から殺せ」

「あるはずですよ」

「あったとしてもお前には、無理だ、才能が無い」

「ええ、知っています」




 発動したスキル【ナースシップ】。発熱するアタマと、射抜かれた白と緑のヒットマークに湿布は貼られていく。

 ぺたりとそこそこの勢いの平手で最後にデコへと貼り付けた。

「ったーー!? ナニすんのさね!!」

「しらねぇよ……なんで俺までヤバイ戦いに巻き込まれてんだよ」

「ヒーラーだからね! 雑魚モブでもレベルは関係なしだよん。さんきゅっコウタきゅっ」

「うざいから変な顔すんな」

 べた座り、タコのように唇を窄めていたおばみんを苦い顔で一瞥。

「ツンデレも愛嬌だわね」

「もう治してやらねぇわお前」

「あっ、拗ねた」

「……はぁ」

「甲賀流忍者的にもやばすぎて、目が追いつかない……さっぱり……」

「だいじょぶだいじょぶ、観戦モブと修行はセットなのよ。主人公とそのライバルの活躍を見守ってて忍者ちゃん! できればもっとお色気エロくのいち衣装で」

「お、お色気!? ……」

「お前いっつもエイコより先にやられて俺がシップ貼る作業してんだけど……」

「あ、それ禁止だから。ちゃんとパワーアップしてるからガチで、クソ雑魚お荷物ヒーラーは黙ってヒールしてなさい! そしてできれば褒めて伸ばそうおばみんちゃん、うん」

「要求おおすぎだろ……」

 ガヤガヤと──集ったおばみん、孝太、甲賀流忍者見習いあやか、の観戦組は栄子と白マントの戦いをおばみんを治療しながら見守っている。




「おまえは、弱いなりにできている」

 沈黙をおいた白マントはべた座るおばみんを指差す。ピクリと黒髪にとけ込み萎えていたアイスグリーン色の触覚が反応し勃った。

「わたし!? まじ!?」

「俺だろ」

「……」

「な、なんか言えよ」

「状況考えてね」

「死ねッ」

 ミトンが出来ている、という事は自分は全く出来ていない。

 またとおく向き合った星色の瞳に、

「そのミトンのような制限の仕方を教えてくださいというのです」

「そのチカラは制限じゃない」

「?」

 クエスチョンマークを浮かべ切る前に、白い弾丸が長身を襲った。

 素速い三射に慌てて反応、チンキスブレードの出力を虚空を斬り爆発させて右横に逃れる。

 流れる身体に──追いついた白刃が──パッと驚いた時には振り下ろされていた。

 鍔迫り合いはもう幾度も。

 寸前で受け止めた黒い刃が、いつものように出力を上げて白いスキルの圧に対抗。

 刃は激しく空間を歪み合わさり──


 吸っていく。いつも以上に激しく吸われていく分。

 放出していく。対抗して放出しないといけない。

「お前はできない」

 再び黒く染まり髪が伸びていく。床に垂れかかるほどの長髪が。

 コレはいつも以上にきつい……。栄子の懸命な表情ににじむ汗。それを近く見据える表情の変わらない強者の真っ直ぐな瞳。

「チカラ比べなのでしょうか!」

「そうはならない、お前では無理だ」

 圧されていく刃と折れ曲がって地に膝を着いていく長身。より深く黒く染まりどこまでも白マントを覆うほどの髪は異様に見てくれ妖のように伸びていく。

 お前では無理だ、そう言う女はどこまでも栄子のチカラを吸い続ける、激しく自分の中のエネルギー残量が失せていくのが分かる──だけど分からないのはこの溢れて漏れ出るチカラの在処。

 出力しなければ死ぬ、このまま迎えるシミュレーションした死にどうせ死ぬと……抗わないのは彼女じゃない。



 彼女は吐い信者丘梨栄枯。



「ならばあなたの言う限界を吐き出します!!!」



 放出するチカラ。彼女の吸われ導かれて対抗するように放出する死電子、ソレの成す異様なプレッシャーが空間を更に歪ませていく。

 身体はもうとっくの限界を超えている、だからこそ。

 ジリ貧を超えてどうにかアレンジ! 吸われれば出る、吸った分が出る。拮抗する互いのチカラを利用して技を成し出力する。



 丘梨栄枯と白マントを囲う黒い風繭が辺りを乱雑に抉った。激しく、成した幾つもの三日月がグリッド空間の果てまで斬り裂いていく。



 騒然とし唖然。止んだ黒い嵐にパラリと落ちていく白マントの長髪。



「ナ、ななな、丘梨……?」

「っぶねぇ……!? んだよこれ……」

「師匠より……ヤバイ? ……」


 轟音とチカラと技の跡を残して──見えてきた2人。前に出し、横倒しのブラックな包丁の柄を握る右手に左手を添えて、息を荒げ肩で呼吸を整えていく。


「────お前はまともな出口を持たない、だから弱い、吸収したチカラは使わないとまともな放出をできず安定しない」

「……火加減分かりました」

「加減などいらない、何も分かっていないチカラを使う事を止めもしない。己の限界を知らない奴には」

「ええ、べらぼぅに伝わりましたよ。技と出力」

 白い歯を見せて微笑むのは、限界を超えた本人的にはバージョンⅡのつもりである。技とコツを手に入れた闘争とエンターテイんメントの塊の丘梨栄枯であって栄子。


 今度の彼女は一味違う。

 そんな乱れた黒髪の白ジャージを見つめた、似ているようで全く違う輝きを持つ星色の瞳は。


「来い、邪道で未熟な戦士」


 やはり表情は変えない。おもむろに突き刺し示した白刃は、栄子を挑発した。

 バラリと切れ味鋭くカットされた黒のショートヘアは、ブラックな包丁で挑む彼女の刃を受け止めた。
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