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第203死 それぞれの休日❹

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▼ファッションパレードエリア▼

 洒落た七色のグラデーション模様の石畳、その大通りを独自のファッションをキメたマネキン達が暴れ回っている。

 今よりもっと良い服をと襲い掛かって来るその白い手を──叩き砕き金属バットは顔面を捉えた。

 スイングしマネキンの頭から頭へと狙い撃ち。見事一振りで2体を倒し、その倒れた者の服がマネキンたちに集られ剥ぎ取られ────。

 こちらを睨むのっぺらぼうたちに、やれやれと、若い女は茶と赤のファンシーカラーな頭をかき乱した。

「外までこの無敵のマネキンたちはァ、どうする香ィ!!」


 背のリュックから取り出し手に持った杖で鳩尾を突いた。スキル、キョーシャルの効果でぶっ飛んでいった五体が、マネキン集団を貫きドミノ倒しのように倒れていく。

「ふぅ──スパホが何故か使えない以上ドッツの助けが来るまでやり切るしかないわ、マネキンに私たちの攻撃が通用しない事もないから」

「とにかく生き残った人達はしゃしゃっと地下シェルターに避難させなさい水井露、塔子。ハイサカイにはドッツの作った手動でも開く災害時のシェルターがあるはずよ。夏海と私で主な敵はヤルわ」

 リーダーの香の指示に従う水井露と葬儀屋。生き残ったアウトドアショップ本社の社員たちも手伝い生き残った人々の地下シェルターへの避難を優先していく。

 水井露と葬儀屋が避難民をマネキンモンスターから護衛し、敵のメイン集団は夏海と香が抑える。

 焦燥感に溢れた現場でいたって冷静に、カジュアルシャツの上からかっぱらった黒スーツを纏い少し派手色なネクタイを締め直した。

 葬儀屋はより多くの生命を助けるために、急ぐ人々をなるべくその雰囲気と長身の佇まいで落ち着かせて頭の中で人数をカウントしまだ空いている地下へと────。

 ガラガラと石畳の上にローラーブーツのコマを走らせて水井露が帰って来た。

「あっちにもシェルターあったよ、葬儀屋」

「そうですか、ここもそろそろ満員なので──案内お願いできますか水井露さん」

「ん、わかった」

「それにしても外でスキルとカードは使えなかったはずですが……何があったのでしょうか?」

「街が死のダンジョンなのかもじゃん……? ラッキー、アンラッキー?」

「街が死のダンジョン……」

 元いた街の景色は荒廃しつつある。ファッションストリートこの場で、今は人間より高価に着飾るマネキンたちの数の方が多い。








▼ヤングホビーエリア▼

 ここはハイサカイにおける若者文化の集まるエリア。アニメのコスプレに、今流行りのアメカジなどのファッション。リーズナブルな焼肉店や、クレープ屋やスムージー、ケーキバイキングにパンケーキ屋。街中でダンスの練習をする若者も多い。


 白昼のストリートでダンスの練習よりも────騒がしい。


 この異常事態に暴れ回るのは突如湧いてきたモンスターだけではない、お揃いのブランドのダメージジーンズを履いたイカした若者集団がそこかしこで────ナイフ、メリケンサック、ゴルフバット、金属バット、チェーンソーなどを振り回している。

 もはや状況はカオス、だがオークやウルフにボックススライム、死のダンジョンで見たことのあるモンスター達はその数を着実に減らしつつあった。この若者集団にとっては自身の生命の危機というよりはお祭りイベント気分なのである。

 避難する人々にもお構いなしに好き勝手げらげらと仲間内で笑いながら暴れ回っている。

「おっさん邪魔ァァ!!!」
「女の子たちはこっちこっちぃ!!」
「おっさんは自力でねぇあはははは」
「てかここ死のダンジョンじゃね、スパホ死んどる」
「パンピー死んでるよ」
「こいつもモンスターか?」
「殺しゃわかるだろ」
「終焉だ、終焉がやって来たんだ世界の!!」
「よぉーし、俺らの終焉みせてやろうぜええええ」


「「「終焉、終焉、終焉、終焉」」」


 イカれた集団のイカれた掛け声。取り囲まれた真っ白い男は、大きく息を吸い──吐き出した。



 街路一面は凍り。

 吐く白い息。

 氷像のアートが17。


 探索者パーティー、シューエンの世界のメンバー17人。──戦闘不能。

 白い男は氷像のアタマを砕き、口内へと含み貪る。

 そして発狂しながらクレイジーに走り回った。

 モンスター、ヒト、お構いなし。目についたモノはとりあえず壊す。あり得ないチカラで街を店を生命を白い息を漏らしながら破壊していく。


「あぁん? んだおまえ?」

 へなへなと中腰で呼吸をしている。樹木の断面、年輪のようにグルグルとした狂った黄色い目をしている。

 鉢合わせた黒スーツの女に向けて大口を開けて──とてつもない冷気を放つブレスで一気に凍らせた。

 また出来ていく氷像の人間アートを叩き壊し冷たいエネルギーを口内に含もうと──

 しかし、しっかりと瞬きもせずに見据えていた氷の外殻が消えていた。

「──殺すぞ。【ブツ】ッ!!」

 白い男と黒髪のショートの目が合う──右ストレートが白い頬を捉えて──パンケーキ屋の店内まで一直線彼方へぶっ飛んでいった。

 狂った男は予期せぬとてつもないダメージをその身に受けたと推測される。

 よろよろと起き上がり。粉塵の中を──またへなへなな中腰で荒れる街路へと出てきた。メープルシロップとバターで口元は汚れ、犬のように舌を下にべろりと出しっぱなし、新たに見つけた標的をまたその眼で。

「──あぁん? ナニ睨んでんだよ」



「【パワーブレイク】ッ!!」

 不意に現れて叩き斬った。真横からの一閃がまた男を吹き飛ばしていった。

 素速い、青と金模様の重厚な鎧。地に突き刺さった重いだんびら剣を抜き。肩へと担ぎ構え直した。

「騎士道精神に則り堺に侵入した敵兵は私が倒させてもらう」

 青い兜に阻まれ表情は伺えない。ゴツくて強いフルアーマーなナイトの登場。

「おめぇなんだぁ?」

「……」

「なんか言えよ鉄塊男」

「拳は使うな」

「はぁ?」

 おだぶつりかなえとアッパーナイトは、雑談もほどほどに────まだまだやる気のある中腰のイカれた白い男の方を見つめた。








 大阪府堺市。突如現れた謎の大き過ぎる半球に、報道陣が集まってきた。中で何が起こっているのかも彼らは知らない──恐れを知らず。

 白いヘリとドローンが堺市の上空を飛び、撮影を開始していく。

「────堺市に突如現れたとてつもなく大きな虹色のシャボン玉のような……これはなんでしょうか!!!」

 現場からの生実況報道をつづける、続々と集まってきた各局メディア。

 より臨場感のある実況を、報道のプロとしてそれは当たり前だ。じりじりと可能な範囲まで近付いた──

 見誤ったのか、半球に引き寄せられるように制御不能────ドローンとヘリはビリビリと荒れる電光に、中へと。

 騒然となる現場に、その事故の瞬間をしっかりと地上からカメラは映し捉えていたのは当然のことであり。

 彼らに逃げるという選択肢は未だ無い──より一層の突如に、そのエネルギーを得た巨大シャボン玉の見せ物が歪み膨らむまでは。
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