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17.不審者
しおりを挟む『もうすぐグエナエル王子が帰ってくるはずだ』
『手順はわかってんだろうな』
『部屋に入ってきた王子を捕まえたら、裏門の馬車まで連れていく。従者はモンゼル様が足止めしてくれるはずだから……』
グエナエル王子が自分の部屋に入ろうとしたとき、中から声が聞こえてきた。知らない男が二人、小声で話しているようだけど、ポメラニアンのオレにはそんなことは関係ない。会話は丸聞こえだ。
「クゥンクゥン」
(ちょっと待って)
王子がドアを開ける前に、彼のズボンの裾を咥えて引っ張った。オレを見下ろした王子に向かって、ふるふると首を横に振る。言いたいことが伝わったようで、王子はドアノブに触れていた手をひっこめてくれた。
ええと……今の話だとこの近くにもう一人仲間が居るってことだよな?
どうやら、中に居る二人と外の協力者で王子を誘拐しようとしているらしい。
近くで不審な物音がしないか、オレは耳を澄ませた。
斜め前の部屋でなんかゴソゴソ音がするから、あそこかな?
ドニに顔を向けて合図をすると、オレは音のする部屋の扉をチョイチョイと前足で示す。
静かにドアに近寄ったドニが片手を短剣にかけてもう片方の手でドアを開くと、ゴンッと音がした。すぐ側に誰かがいて、勢いよくぶつかったみたいだ。
そんなことは気にせず、強引にドアを押し開けて部屋に入っていったドニにオレも続く。
「あいたたたたた……!!」
室内に入ると、ドアに弾き飛ばされたのか、でっぷりとしたタヌキみたいな男が床に転がっていた。
うーん、どこかで見たことがある気がするけど……
「モンゼル殿。何故こんなところに? ここは使用人の控室ですが……」
床に転がる男相手に、ドニが冷たい声で言った。
ああ、そうだ。思い出した! こいつは、以前、橋の建築事業から外されたことに対して文句を言いに来た事業資金横領商人だ!!
「ちょっと気を付け……あっ!! グエナエル様!! ど、どうもこんにちは……」
身体を起こしながらドニに対して文句を言おうとしていたモンゼルは、グエナエル王子の姿を見ると慌てて立ち上がった。
「ちょうど良かった。おまえに用事がある。今すぐ私の部屋に来てくれ」
「あ、いえ……あの、その……」
「急いでください」
有無を言わさないグエナエル王子の口調とドニに促されて、よたよたとモンゼルは廊下を歩いた。
そして、グエナエル王子の部屋の前まで来ると、ドニがドアを開けてモンゼルを部屋に放り込んだ。
『動くな!!』
『やった、捕まえたぞ!!』
『袋をかけて顔を隠せ!!』
『おまえら、なにをやっとるか――――っ!!』
『……あれれ!? もしかして、モンゼル様ぁ!?』
『なんでモンゼル様がこの部屋に?』
ドタバタと物音が聞こえたあと、中から言い争う声が聞こえてくる。
「侵入者だ!!」
グエナエル王子が叫ぶと、すぐに衛兵たちが駆けつけてくる足音がした。
『ヤバイ、窓から逃げろ!!』
『おい、オレを置いていくんじゃなぃっ!!』
中の会話が聞こえてきて、オレはドアに体当たりをした。
「キャン!! キャンキャンキャン!! グルルルルルルル……!!」
(おい!! ちょっと待て!! 逃がすかよ……!!)
全力で走って男たちより早く窓辺にたどり着くと、オレは唸りながら牙を見せた。
「ひぃぃぃ!! 魔物ぉ!!」
「た、助けてぇ……!!」
窓から逃げようとしていた男たちは、オレの姿を見て慌てて引き返す。今度は部屋の入口に向かったけれど、そちらには王子とドニが居る。しかもタイミング良く、衛兵たちも集まってきたところに三人は自ら突っ込んでいくことになった。
「こいつらを捕まえろ」
グエナエル王子の指示で、あっさりと三人は捕まった。
オレはそれを見届けると裏門に向かい、そこに居た御者と馬車もドニと衛兵に引き渡したのだった。
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