宿命の番

竹輪

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「泣き叫ぶと面倒だ。あれをつけよう」

「じゃあ、拘束するぞ」

 濃紺のジャケットの竜種の男が魔法で私の身体を拘束し、猿轡を付けた。天井にあった鎖をカラカラ音をさせて下すと手錠をかけてそこへ引っ掛けた。そのまま私の両手を上げる形でつるすように固定してから魔法が解除された。動けるようになってもかろうじてつま先が床についている私に自由は無かった。

「ふうむ。どれどれ」

「ムグッ」

 いきなりグッと胸をわしづかみにされる。こんな非道なことが許されるなんておかしい。けれど竜種たちは私の事などお構いなしに服を脱がしにかかった。

「あまり乱暴にするなよ。痕などついたらややこしいからな」

「吸い付くような肌だな」

「んーっ! んーっ!」

 臙脂色の服の男に前ボタンをすべて外されて素肌がさらされる。今度は濃紺の服の男の手が伸びてきて乳首を引っ張られた。

「むぐっ」

「シミ一つない。理想的な裸体だ」

「感度も良さそうだし、これは楽しめそうだ」

「感度などどうでもいい。子さえできればいいのです。くだらない」

 歳のいった竜種の女が一番この場で偉いのか吐き捨てるように言った。今まで男性に性的な目で見られたり、酷い目にあったことはあったが、同じ女性がこんなことをしているのが私には信じられなかった。この人たちはずっとこんなことをして種を守ろうとしてきたというのか。

 スカートが落とされてショーツに手をかけられた。本気で私の身体を細部まで検分するつもりなのだ。

 嫌だ。

 ガイ。

 助けて。

「ジッとしてろ!」

 身体をよじって抵抗していると外が騒がしくなった。

 ドンドン……

 ドンドン……

「うるさいわね。見てきなさい」

 竜種の女性に言われると男二人が部屋を出て行く。隙間から声が聞こえた。

「貴族院全員を招集してください。このままでは城で魔獣落ちが出ます!」

 ――魔獣落ち?  

 聞きなれない言葉を聞いて不思議に思う。たくさんの竜種を集めるくらいの事が起きているという事だろうか。

「セフィーラ様、大変です!」

 男たちが蒼白な顔をして戻ってきた。とても慌てた様子だった。コソコソと話をした後に私の鎖を緩めてから三人は部屋を出て行ってしまった。緩められたとはいえ、手錠に鎖を繋がれたまま、ほとんど裸の状態で私はその部屋に残されてしまった。

 それから、半日ほど経ったと思うのに誰も戻ってこなかった。夜になったのか冷えてくる体を丸めて寒さを我慢していた。私を母体とするならきっと殺しはしない筈だ。そう思って待っていたが一向に誰も来ない。まさか、忘れられたのでは……と寒さに足をすり合わせているとやっと誰かが部屋にやってきた。

 真っ暗になった部屋に入ってきたのはランプを持った人物で、私が予想していなかった人だった。その冷たい手が私の猿轡を外してくれた。

「お義母様……」

 光を照らされた時は誰だか分からなかったけれど、ランプを机に置いたのでその姿が浮かび上がった。それはいつも黒いドレスを纏っている義母だった。

「二度と入って来たくなどなかったわ。こんな部屋」

 義母はそんなこと言って眉をひそめていた。

「ここで、貴族に生まれた女性は闇の授業といって色々と性技を仕込まれるのよ。ほら、その小さな張り型から慣らして最後にはそっちの大きな張り型まで膣を広げるのよ。子供をたくさん産むためには沢山の男性を喜ばせることが出来ないといけないと言ってね」

「……」

「私がこの部屋に入ったのは初潮があった十四歳のときよ。毎日が地獄だったわ」

「拒むことは出来なかったのですか?」

「それが当然のことだと言われていたし、私以外の貴族の女性も皆同じような環境だった。今思えば巷の娼婦より酷い環境よ。子供を産むまで何人もの男の精を受けるの。けれど竜種の私には一つだけそれから抜け出せる方法があった。それが『運命の番』。見つかれば生涯一人だけ愛し、愛されるだけでいいのだから。早く十八歳になりたかったわ。毎日、そう願ってた。でも、十八を過ぎても私に『運命の番』は現れなかった」

 義母は話をしながら私の手錠の鍵を探し当てて、手錠を外してくれた。まさか義母が助けてくれるなんて思っても見なかった。慌てて服を寄せ集めて整えると義母が『みっともない』と私にストールをかけてくれた。

「ガイを産んだら夫であるアルカに愛されて、そしてこんな生活が終わると思っていたわ。けれど産んだら産んだでまた次を望まれる。始めの数年はそれでも幸せだった。でも三年経ってアルカと次の子供が出来ないと貴族院が判断したらまた他の男が宛がわれた。月替わりで他の男の精を受けている妻を愛せる夫なんていないわ。私は貴族院に断わりをいれてくれないアルカを『力のない中位種』と責め立ててたし結局はアルカは私の元を去っていった」

 壮絶な義母の話に言葉も出なかった。この恐ろしい部屋で少女時代を過ごし、成人したら夫を次々と宛がわれて行くだなんて考えられない世界だった。

「お義母様は私を逃そうとして『離婚』しろとおっしゃってたのですか?」

「はっ。おめでたい人ね。そんなわけがないでしょう? 何も知らないで上位種に守られてのうのうと生きている下位種なんて大嫌いだわ。ガイに愛されて幸せそうにしている貴方を見ていると虫唾が走る」

「では、どうして助けに……」

「……ガイが」

「ガイが?」

「ガイが魔獣落ちしてしまうからよ」

 苦虫を嚙み潰したような顔をして義母はそう言った。
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