棘バラの口付け

おかだ。

文字の大きさ
49 / 70
past2(シーヴァ)

episode49

しおりを挟む
「・・・ん、」

「っわ!」

色素の薄い睫毛が震え、重たく閉じられていたシーヴァの瞼がまたたく。

「・・・・・え。あ、さっきのメイド」

視界いっぱいにそばかすだらけの少女の顔が映る。

驚いた様子のメアリは、胸に手を当ててふぅと安堵の吐息を漏らした。

「「・・・さっきのメイド」じゃないですよっ!シーヴァ様、良かった・・・!急に気を失って!」

乱反射する天井に目を細め腕を上げると、裸だったはずなのにしっかりと衣服を着ている。

シーヴァが周囲を見渡すと、大袈裟なことにもメアリ以外の侍従数名に白衣を着た医師まで控えていた。

「ベッド・・・。お前が運んだの?そんな訳ないか。お前、チビだもんね」

ヘラヘラと笑うシーヴァにむくれ顔をみせることもなく、メアリが奥に控えた男に目配せをした。

「?」

そいつメアリの兄のダビです。シーヴァ様。妹が御無礼を」

奥に控えていた男の侍従達の一人が前に出ると、深深とお辞儀をした。

頬のそばかすと活発そうな日に焼けた小麦色の肌。

「へぇ、確かに似てるね。西からの移民かな?」

「っ凄い!私達の出身がわかるんですか?」

感心するように声を弾ますメアリは無邪気にシーヴァに期待の顔を向ける。

まるで兄に甘え縋る妹だ。

「こらっ!失礼だろ、メアリ!」

「いいよ。この子メアリはほんの少し気に入ってるんだ。間抜けな所が面白い」

「っな!?酷い!」

目の前で百面相をするメアリにくすくすと笑みがこぼれる。

「・・・ッ」

「なに?」

「・・・!ああ、いえ!・・・パーティ迄お時間が押していたので、お着替えさせて頂きました」

赤茶色のダビの瞳が柔らかく微笑む。

シーヴァが暫く首を傾げベッドに腰かけたままダビを見上げていたが、興味を失った視線は堅苦しく着飾られた自らの服に落とされていた。

「・・・この服嫌いだよ。動きずらいし、真っ黒」

ピッチリと体のラインにそった黒の上下に、同じく黒地に銀の糸で刺繍されたベスト。

棘バラをあしらったイヤーカフまでご丁寧に耳元で輝いている。

「ダメですよ、外しちゃ。国王様が是非この服を、と。今日の為に見繕われたんです。・・・それにとても、お似合いですから」

「・・・・」

仕上げとばかりに首に掛けられたシルバーのネックレスを忌々しげに摘む。

「お葬式の間違いじゃないの?」

「まあまあ、そんなこと仰らず」

「そうですよ!シーヴァ様カッコイイ!」

メアリの無邪気な声にシーヴァの眉間のシワが少し伸びる。

朗らかな笑みを浮かべるダビと無邪気に瞳を輝かせるメアリを交互に見つめ、シーヴァが自慢げにフフンと鼻を鳴らした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

処理中です...