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Past4(ローランド)
episode52
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眉間にきつく皺を寄せ、クラクラと揺れる視界に必死に縋りつく。
「はぁっ、はぁ、うっ・・・くそ」
心臓の鼓動が早い。
痛い程に心臓が脈打つ度に、身体が熱く苦しくなる。
肌に触れる衝撃だけで電流が身体を駈ける。
「・・・え?!あ、あの、陛下?大丈夫ですか」
ズルズルと壁沿いに崩れ落ちたローランドの肩に女の冷たく柔らかな手のひらが触れ、驚いて振り向いた赤い瞳がゆっくりと視線を上に向けた。
目元を赤く腫らした娘は先程寝室で共寝を拒んだローランドの妃、クラリサだ。
「・・・閨には近付くなとっ!何故、こんな所に!」
強い口調でそう詰問するローランドの口の端からは溢れた唾液がポタポタと床に落ち、あまりの異様さに動揺するクラリサをまるで獲物でも狙うようにその真っ赤な瞳に捉え睨みつけていた。
「へい・・・、ローランド様っ。どうされたんですか、こんなっ・・・」
胸を押えて背を丸めるローランドは苦しげに荒い息を吐きクラリサを睨みつけるばかりで、一切返事をしようとしない。
「わ、私っ、誰か人を呼んできますっ!」
長く続く廊下を見つめると、クラリサが覚悟を決めドレスの裾を掴む。
ヒールの靴を脱いで素足を床に付ける。
「・・・貴方、一体何をしているの?クラリサ」
突然背後で聴こえた冷めた女の声に娘の肩が跳ね上がった。
「っ!あぁ、お義母様!!・・・陛下が!ローランド様が!」
ローランドの母オリヴィアの冷えた赤い瞳が、床に伏す息子と靴を脱いだ状態で突っ立つクラリサを順に捉える。
「クラリサ、貴方殿方の介抱も出来ないの?この状況は一体どういう事?」
「えっ、私は・・・」
「ローランドを寝室へ。慎重に運びなさい」
クラリサの返答を待たずに背後に控えていた侍従へ鋭くオリヴィアが命じると、まだあどけない顔つきの娘を険しい顔でじっと見つめる。
ローランドとクラリサが共寝をするはずだった寝室とは別の部屋へと運ばれて行った男を、娘が呆然と為す術なく見送る。
「早く靴を履きなさいみっともない。それでも時期国王の妃ですか」
「す、すみません。助けを呼ぼうと必死で・・・」
「全く。折角気乗りしないあの子の手助けをとマイヤー卿とナリル医師にお手伝い頂いたのに、ご好意が無駄になったわ」
「?お手伝い?」
シュンと首を下げていたクラリサが顔を上げる。
「わかってるでしょ?貴方の使命はローランドと交わり子を産むこと。婚約の際の唯一絶対の条件よ。私の遠縁である貴方ならばと婚儀の相手に貴方を選んだの。もしローランドが子を残せなかったら・・・!」
「あの、お話が・・・」
「ローランドの食事に気付かれないよう媚薬を盛ったの。だけどダメね。基準の倍はクスリを混ぜたのに、貴方には見向きもしなかったそうじゃない」
全てを理解したクラリサの顔が真っ赤に染る。
貴族たちを含めた公での大勢の食卓で、息子の食事にクスリを盛っていたのだ。
厳しい毒味の検査がされ食事が運ばれてくるため、まさか本人も疑いはしなかっただろう。
実の母の所業とは思えない発言に驚きを隠せないクラリサを他所に、オリヴィアが情けないとため息を漏らした。
「今回は見逃してあげましょう。でも、次はあの子を誘惑してでも子種を貰いなさい。貴方にとって子供を作るのが唯一のお仕事なんですから」
おおよそ子を持つ親が言うセリフでは無いが、王族となればこれが普通なのだろう。
「・・・ッはい、お義母様」
クラリサがゆっくりと首を縦に振った。
「はぁっ、はぁ、うっ・・・くそ」
心臓の鼓動が早い。
痛い程に心臓が脈打つ度に、身体が熱く苦しくなる。
肌に触れる衝撃だけで電流が身体を駈ける。
「・・・え?!あ、あの、陛下?大丈夫ですか」
ズルズルと壁沿いに崩れ落ちたローランドの肩に女の冷たく柔らかな手のひらが触れ、驚いて振り向いた赤い瞳がゆっくりと視線を上に向けた。
目元を赤く腫らした娘は先程寝室で共寝を拒んだローランドの妃、クラリサだ。
「・・・閨には近付くなとっ!何故、こんな所に!」
強い口調でそう詰問するローランドの口の端からは溢れた唾液がポタポタと床に落ち、あまりの異様さに動揺するクラリサをまるで獲物でも狙うようにその真っ赤な瞳に捉え睨みつけていた。
「へい・・・、ローランド様っ。どうされたんですか、こんなっ・・・」
胸を押えて背を丸めるローランドは苦しげに荒い息を吐きクラリサを睨みつけるばかりで、一切返事をしようとしない。
「わ、私っ、誰か人を呼んできますっ!」
長く続く廊下を見つめると、クラリサが覚悟を決めドレスの裾を掴む。
ヒールの靴を脱いで素足を床に付ける。
「・・・貴方、一体何をしているの?クラリサ」
突然背後で聴こえた冷めた女の声に娘の肩が跳ね上がった。
「っ!あぁ、お義母様!!・・・陛下が!ローランド様が!」
ローランドの母オリヴィアの冷えた赤い瞳が、床に伏す息子と靴を脱いだ状態で突っ立つクラリサを順に捉える。
「クラリサ、貴方殿方の介抱も出来ないの?この状況は一体どういう事?」
「えっ、私は・・・」
「ローランドを寝室へ。慎重に運びなさい」
クラリサの返答を待たずに背後に控えていた侍従へ鋭くオリヴィアが命じると、まだあどけない顔つきの娘を険しい顔でじっと見つめる。
ローランドとクラリサが共寝をするはずだった寝室とは別の部屋へと運ばれて行った男を、娘が呆然と為す術なく見送る。
「早く靴を履きなさいみっともない。それでも時期国王の妃ですか」
「す、すみません。助けを呼ぼうと必死で・・・」
「全く。折角気乗りしないあの子の手助けをとマイヤー卿とナリル医師にお手伝い頂いたのに、ご好意が無駄になったわ」
「?お手伝い?」
シュンと首を下げていたクラリサが顔を上げる。
「わかってるでしょ?貴方の使命はローランドと交わり子を産むこと。婚約の際の唯一絶対の条件よ。私の遠縁である貴方ならばと婚儀の相手に貴方を選んだの。もしローランドが子を残せなかったら・・・!」
「あの、お話が・・・」
「ローランドの食事に気付かれないよう媚薬を盛ったの。だけどダメね。基準の倍はクスリを混ぜたのに、貴方には見向きもしなかったそうじゃない」
全てを理解したクラリサの顔が真っ赤に染る。
貴族たちを含めた公での大勢の食卓で、息子の食事にクスリを盛っていたのだ。
厳しい毒味の検査がされ食事が運ばれてくるため、まさか本人も疑いはしなかっただろう。
実の母の所業とは思えない発言に驚きを隠せないクラリサを他所に、オリヴィアが情けないとため息を漏らした。
「今回は見逃してあげましょう。でも、次はあの子を誘惑してでも子種を貰いなさい。貴方にとって子供を作るのが唯一のお仕事なんですから」
おおよそ子を持つ親が言うセリフでは無いが、王族となればこれが普通なのだろう。
「・・・ッはい、お義母様」
クラリサがゆっくりと首を縦に振った。
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