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第四十八話 久しぶりの、一人歩き
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第四十八話 久しぶりの、一人歩き
「ふん、ふふ~ん」
鴨の親子が来た!って事で、田んぼの横に小屋を作成します。
本来の合鴨農法なら、合鴨が逃げないように田んぼや小屋を囲ったりする。
だが、モニュナさん達は快くここにいてくれるらしいので、小屋だけ作る事にした。
「モニュナさ~ん」
「グァ」
「こんな感じでどう?」
モニュナさんが小屋の中へ入り、寝る場所や水飲み場をチェック。
戻って来た彼女が、翼を広げて〇を作った。
気に入ってくれたらしい。
「それにしても、ちょっと手が足りなくなったかな」
ジローやアヌリが手伝ってくれていたので、畑も広げた。だけど、今は私と猫達とクロだけ。
「う~ん・・・調子に乗って、茶畑とか作っちゃったからなぁ。っと、そう言えば、ナキさんの事、すっかり忘れてた!」
ダンジョンドタバタのせいですっかり忘れてた!
「謝りに行かないと!菓子折り・・・は流石にホームセンターには売ってないし!饅頭?クッキー?」
何が良いかな?
布の職人なら糸の詰め合わせとか?
分からないから、色々持って行くか。
*
「えっと~・・・これは、どういう事かな?」
ナキさんの家にやって来たのは良いが、目の前は混沌としていた。
床に倒れ伏すナキさんと、テーブルでお茶をすする・・・小っちゃい、お婆さん?
「確かクレスは、食べ物があればって言ってたな。ナキさん?おにぎりだけど、食べる?」
口元に持って行った途端、飛び起きて食べ始めた。
「大丈夫、かな」
やれやれ、お茶でも入れるか。
水筒に入れておいた温かいお茶を湯飲みに注ぐ。
「そこな娘」
「ふぇ!?」
びっくりしたぁ。
「ん」
お婆さんが、自分が持っていたカップを差し出した。
お茶が欲しいのか。カップにクリーンをかけて、お茶を入れてあげた。
「はい、どうぞ。熱いから気を付けてね。ナキさんも、どうぞ。おにぎりもまだありますから」
「ふ~、すみません。ありがとうございます」
おにぎりを一つ食べ終えたナキさんがテーブルまでやって来た。
おかずもあった方が良いよね。
「ふぁ!!」
「わぁ、びっくりしたぁ」
突然お婆さんが目を見開いて叫んだ。
心臓飛び出るかと思った!
「この香・・・」
「あ、分かります?これ、うちで採れた新茶なんですよぉ」
やっぱり土が良いのか、今までで一番美味しくなった。
ああ、帰ったら茶摘みの続きをしなきゃな。樹の高さがあるから、猫達には届かない。
ジロー達がいたら、手伝ってもらえたのに・・・って、ちょっと腹立って来た。
だって、ジロー達がいたから畑も茶畑も広げて、田んぼも広く作ったんだよ!
なのに、島を出て行っちゃうし!せめて、広げる前に出てけよ!っとと、いかん。
「娘、お主何者じゃ?」
「へ?」
ただの猫・・・じゃないんだよね、今は。人型だし。
「この茶からは、僅かに世界樹の気配がする。そして、お主自身からも」
え、マジ?このお婆ちゃん分かるの!?
今まで気付いた人いないのに!人?いや、エルフか。よく見ると、耳が長い。
「それに、お主からは変わった魔力を感じる」
なんてこったい。
どの世界でも、お年寄りの勘って凄いなぁ。お祖母ちゃんの天気予報は、テレビよりも正確だったし。
どうしたもんか・・・。
「は~、美味しかったぁ。いや~、すみませんでした。どうも夢中になると、寝食を忘れるみたいで。気が付くと、三日くらい経っている事が多くて・・・って、どうかしたんですか?」
「ナキさん!この前は大変失礼しました。これ、お詫びの品です!それではこ」
さっさと立ち去ろう!そうしよう!と、思ったのだけれどね。
「えっと・・・どちら様でしたっけ?」
そこから!?
「この前、クレスと一緒に来た・・・」
「?」
覚えてないんかぁい!
でも、覚えてないなら良いや。
「えっと、まぁ、そういう事で!じゃあ」
じりじりと扉に向かい、鍵を刺す。
「失礼します!」
逃げる様に島に帰って来た。実際、逃げて来たんだけど。
「ふぅ~・・・」
「おかえりなさいませ、ヒナ様」
「あ、セバス。ただいまぁ」
安堵のため息をついていると、セバスが出迎えてくれた。
「そちらの方は、お客様でしょうか」
「え?」
セバスが私の背中を指した。見てみると、さっきのお婆さんが背中にしがみ付いていた。
「うわぁぁぁぁ!?」
何のホラー映画だ!全然気付かなかったんですけど!?
「ちょ、取って!セバス!」
「承知いたしました」
セバスがお婆さんを抱えて引っ張るが、両手でシャツを掴むお婆さん。
本当にお年寄りか?と思う程、握力が凄い。
「待った、待った!それ以上やるとシャツが破れる!」
うぅ、伸びた。
でも、いや~んな状態は回避できた。
「世界樹」
「はぁ~・・・分かりましたよ」
どうしても放してくれないので、そのままの状態で茶畑へ行く事になった。
記憶消す?いや、エルフのお年寄りだ。かなりの年齢だよね?そんな人(エルフ)に記憶関係の魔法使って、変な影響が出ると怖い。
セバスと三人で茶畑までやって来ると、やっと手を離してくれた。
「これは・・・」
「お茶の樹です」
「世界樹ではあるが、気配が弱い・・・」
まぁ、お茶用に品種改良したからねぇ。
「気が済んだでしょう?さぁ、ナキさんの所へ送りますから」
「・・・嫌じゃ。儂はここに住む!」
「はぁ!?」
おいおいおい、何言い出した!
「儂の一族は代々世界樹を守っておったんじゃ。世界樹が姿を消し、そのお役目も途絶えてしもうたが・・・」
「でも、お茶だよ?世界樹本体じゃないし。ほら、行きましょう?」
「い~や~じゃ~!」
どうしよう・・・。
ちょっと脅かしてみようか?あの姿なら、魔獣と間違えて気絶してくれるかも?その内にナキさんの所へ送って・・・でも、そのまま逝っちゃったら・・・。
背中に張り付いてくるような人だし、大丈夫だろう!
「セバス」
「はい」
何も言っていないのに、ダンジョンの時のカーテン更衣室を出してくれた。
流石、執事!
着ていた物を全部脱ぎ、猫の姿へと戻る。これ、何とかならないかなぁ。一々面倒なんだよね。
猫用の服を着て、いざ!
「ガ、ガオー。魔獣ですよぉ。逃げないと、た~べちゃ~うぞ~・・・」
は、恥ずかしい!
「レ」
「れ?」
「レリシア様!」
誰!?
「レリシア・・・確か、始祖の名前だったかと」
ああ、始祖の名前ね。名前?そりゃ名前があるよね。アヌリが「始祖様」って呼んでたから、伝わってないのかと思った。
「ですが、今でもその名を知る者は殆どいないかと」
まぁ、かなりの高齢っぽいし、知っていてもおかしくないかも?
「あぁ、再びお会いできる日が来ようとは・・・うぅ・・・」
な、泣いたぁ!どうしよう!
「う~あ~、な、泣かないでぇ」
年よりの涙に弱いのよ!
お婆さんをそっと抱き上げて背中を撫でた。
お祖母ちゃんの姿を思い出して、胸が締め付けられた。
私の両親が亡くなった時、小さな身体を更に小さくして、声も出せないくらいに泣いていた祖母の姿を今でも覚えている。
「ほ、ほ~ら、猫さんですよぉ~」
お婆さんの背中を撫でていた手で、自分の頬を引っ張ったり、押したりした。
う、これじゃあ子供をあやしているみたいだな。
「ふ、ふふふ、レリシア様ったら」
一瞬、お婆さんの姿が小さな子供に見えた。
「ノナは・・・ノナはもう、お傍を離れたく・・・ありません・・・」
「・・・寝ちゃった」
泣き疲れたのか、お婆さんは私の腕の中で眠ってしまった。
「あんな顔見たら、帰れ、とは言えなくなってしまった・・・」
一瞬、寝ている間にナキさんの所へ連れて行こうと思ったけど・・・しょうがないので、そのまま家に向かって歩き出した。
エルフが去って、またエルフ・・・やれやれだねぇ。
「ふん、ふふ~ん」
鴨の親子が来た!って事で、田んぼの横に小屋を作成します。
本来の合鴨農法なら、合鴨が逃げないように田んぼや小屋を囲ったりする。
だが、モニュナさん達は快くここにいてくれるらしいので、小屋だけ作る事にした。
「モニュナさ~ん」
「グァ」
「こんな感じでどう?」
モニュナさんが小屋の中へ入り、寝る場所や水飲み場をチェック。
戻って来た彼女が、翼を広げて〇を作った。
気に入ってくれたらしい。
「それにしても、ちょっと手が足りなくなったかな」
ジローやアヌリが手伝ってくれていたので、畑も広げた。だけど、今は私と猫達とクロだけ。
「う~ん・・・調子に乗って、茶畑とか作っちゃったからなぁ。っと、そう言えば、ナキさんの事、すっかり忘れてた!」
ダンジョンドタバタのせいですっかり忘れてた!
「謝りに行かないと!菓子折り・・・は流石にホームセンターには売ってないし!饅頭?クッキー?」
何が良いかな?
布の職人なら糸の詰め合わせとか?
分からないから、色々持って行くか。
*
「えっと~・・・これは、どういう事かな?」
ナキさんの家にやって来たのは良いが、目の前は混沌としていた。
床に倒れ伏すナキさんと、テーブルでお茶をすする・・・小っちゃい、お婆さん?
「確かクレスは、食べ物があればって言ってたな。ナキさん?おにぎりだけど、食べる?」
口元に持って行った途端、飛び起きて食べ始めた。
「大丈夫、かな」
やれやれ、お茶でも入れるか。
水筒に入れておいた温かいお茶を湯飲みに注ぐ。
「そこな娘」
「ふぇ!?」
びっくりしたぁ。
「ん」
お婆さんが、自分が持っていたカップを差し出した。
お茶が欲しいのか。カップにクリーンをかけて、お茶を入れてあげた。
「はい、どうぞ。熱いから気を付けてね。ナキさんも、どうぞ。おにぎりもまだありますから」
「ふ~、すみません。ありがとうございます」
おにぎりを一つ食べ終えたナキさんがテーブルまでやって来た。
おかずもあった方が良いよね。
「ふぁ!!」
「わぁ、びっくりしたぁ」
突然お婆さんが目を見開いて叫んだ。
心臓飛び出るかと思った!
「この香・・・」
「あ、分かります?これ、うちで採れた新茶なんですよぉ」
やっぱり土が良いのか、今までで一番美味しくなった。
ああ、帰ったら茶摘みの続きをしなきゃな。樹の高さがあるから、猫達には届かない。
ジロー達がいたら、手伝ってもらえたのに・・・って、ちょっと腹立って来た。
だって、ジロー達がいたから畑も茶畑も広げて、田んぼも広く作ったんだよ!
なのに、島を出て行っちゃうし!せめて、広げる前に出てけよ!っとと、いかん。
「娘、お主何者じゃ?」
「へ?」
ただの猫・・・じゃないんだよね、今は。人型だし。
「この茶からは、僅かに世界樹の気配がする。そして、お主自身からも」
え、マジ?このお婆ちゃん分かるの!?
今まで気付いた人いないのに!人?いや、エルフか。よく見ると、耳が長い。
「それに、お主からは変わった魔力を感じる」
なんてこったい。
どの世界でも、お年寄りの勘って凄いなぁ。お祖母ちゃんの天気予報は、テレビよりも正確だったし。
どうしたもんか・・・。
「は~、美味しかったぁ。いや~、すみませんでした。どうも夢中になると、寝食を忘れるみたいで。気が付くと、三日くらい経っている事が多くて・・・って、どうかしたんですか?」
「ナキさん!この前は大変失礼しました。これ、お詫びの品です!それではこ」
さっさと立ち去ろう!そうしよう!と、思ったのだけれどね。
「えっと・・・どちら様でしたっけ?」
そこから!?
「この前、クレスと一緒に来た・・・」
「?」
覚えてないんかぁい!
でも、覚えてないなら良いや。
「えっと、まぁ、そういう事で!じゃあ」
じりじりと扉に向かい、鍵を刺す。
「失礼します!」
逃げる様に島に帰って来た。実際、逃げて来たんだけど。
「ふぅ~・・・」
「おかえりなさいませ、ヒナ様」
「あ、セバス。ただいまぁ」
安堵のため息をついていると、セバスが出迎えてくれた。
「そちらの方は、お客様でしょうか」
「え?」
セバスが私の背中を指した。見てみると、さっきのお婆さんが背中にしがみ付いていた。
「うわぁぁぁぁ!?」
何のホラー映画だ!全然気付かなかったんですけど!?
「ちょ、取って!セバス!」
「承知いたしました」
セバスがお婆さんを抱えて引っ張るが、両手でシャツを掴むお婆さん。
本当にお年寄りか?と思う程、握力が凄い。
「待った、待った!それ以上やるとシャツが破れる!」
うぅ、伸びた。
でも、いや~んな状態は回避できた。
「世界樹」
「はぁ~・・・分かりましたよ」
どうしても放してくれないので、そのままの状態で茶畑へ行く事になった。
記憶消す?いや、エルフのお年寄りだ。かなりの年齢だよね?そんな人(エルフ)に記憶関係の魔法使って、変な影響が出ると怖い。
セバスと三人で茶畑までやって来ると、やっと手を離してくれた。
「これは・・・」
「お茶の樹です」
「世界樹ではあるが、気配が弱い・・・」
まぁ、お茶用に品種改良したからねぇ。
「気が済んだでしょう?さぁ、ナキさんの所へ送りますから」
「・・・嫌じゃ。儂はここに住む!」
「はぁ!?」
おいおいおい、何言い出した!
「儂の一族は代々世界樹を守っておったんじゃ。世界樹が姿を消し、そのお役目も途絶えてしもうたが・・・」
「でも、お茶だよ?世界樹本体じゃないし。ほら、行きましょう?」
「い~や~じゃ~!」
どうしよう・・・。
ちょっと脅かしてみようか?あの姿なら、魔獣と間違えて気絶してくれるかも?その内にナキさんの所へ送って・・・でも、そのまま逝っちゃったら・・・。
背中に張り付いてくるような人だし、大丈夫だろう!
「セバス」
「はい」
何も言っていないのに、ダンジョンの時のカーテン更衣室を出してくれた。
流石、執事!
着ていた物を全部脱ぎ、猫の姿へと戻る。これ、何とかならないかなぁ。一々面倒なんだよね。
猫用の服を着て、いざ!
「ガ、ガオー。魔獣ですよぉ。逃げないと、た~べちゃ~うぞ~・・・」
は、恥ずかしい!
「レ」
「れ?」
「レリシア様!」
誰!?
「レリシア・・・確か、始祖の名前だったかと」
ああ、始祖の名前ね。名前?そりゃ名前があるよね。アヌリが「始祖様」って呼んでたから、伝わってないのかと思った。
「ですが、今でもその名を知る者は殆どいないかと」
まぁ、かなりの高齢っぽいし、知っていてもおかしくないかも?
「あぁ、再びお会いできる日が来ようとは・・・うぅ・・・」
な、泣いたぁ!どうしよう!
「う~あ~、な、泣かないでぇ」
年よりの涙に弱いのよ!
お婆さんをそっと抱き上げて背中を撫でた。
お祖母ちゃんの姿を思い出して、胸が締め付けられた。
私の両親が亡くなった時、小さな身体を更に小さくして、声も出せないくらいに泣いていた祖母の姿を今でも覚えている。
「ほ、ほ~ら、猫さんですよぉ~」
お婆さんの背中を撫でていた手で、自分の頬を引っ張ったり、押したりした。
う、これじゃあ子供をあやしているみたいだな。
「ふ、ふふふ、レリシア様ったら」
一瞬、お婆さんの姿が小さな子供に見えた。
「ノナは・・・ノナはもう、お傍を離れたく・・・ありません・・・」
「・・・寝ちゃった」
泣き疲れたのか、お婆さんは私の腕の中で眠ってしまった。
「あんな顔見たら、帰れ、とは言えなくなってしまった・・・」
一瞬、寝ている間にナキさんの所へ連れて行こうと思ったけど・・・しょうがないので、そのまま家に向かって歩き出した。
エルフが去って、またエルフ・・・やれやれだねぇ。
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